量子とは何か?
物質の構造や性質、自然界の法則を追求する物理学では、「量子(りょうし)」という言葉が登場します。近年は、量子科学技術の進展が目覚ましく、量子を活用したさまざまなテクノロジーが開発されています。
そもそも、量子とは何を指すのでしょうか?
極めて小さな物質やエネルギーの単位
量子とは、極めて小さな物質やエネルギーの単位です。具体的には、以下のようなものが量子に該当します。
●原子
●原子を作る素粒子(電子・中性子・陽子)
●その他の素粒子
全ての物質は、目に見えない小さな粒の集まりです。物質を構成する基本的な要素は「原子」と呼ばれます。原子の中心には「原子核」があり、その周りを「電子」が取り囲む構造です。さらに原子核は、「中性子」と「陽子」という素粒子から成り立ちます。
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粒子と波の2種類の性質を持つ
量子は、「粒子」と「波」という相反する性質を持つのが特徴です。分割できない物質の最小単位であると同時に、波として互いに干渉し合います。
粒子と波動の二重性を示す有名な実験が「電子の二重スリットの実験」です。電子銃の先にスクリーンを置き、その間に、電子が通れる二つのスリット(切れ目)を作ります。
スクリーンをめがけて電子銃を打つと、スクリーンにはスリットを通り抜けた1個の電子につき1個の輝点が現れます。電子銃を撃ち続けて輝点数が増すごとに、スクリーンにはスリットのかたちに似た模様が投影されることになります(上図)。
ところが実際には、輝点数が増していくとスリットの数より多い縞々、つまり下図左のような「波の干渉模様」が現れます。電子が粒子の性質だけ持つなら干渉模様は現れないため、電子には波の性質もあることが分かるのです。
観察者の存在で結果が変わる?
上の実験で干渉波による縞々模様が得られれば「量子は実は波だった」と結論づけて終わるのですが、不思議なのは、この実験で得られる模様は、観察者(カメラや観測機械などの人間でないものも含める)が存在するか否かで結果が変わることです。
観察者の存在しない実験では干渉波模様だったのが、観測装置や観察する人がいる状態で行うと二本のスリット模様になるという結果が出ます。これは観察者の存在によってはじめて量子が波から粒になると考えることもでき、発見当初は物議をかもしました。
量子の世界は「量子力学」が支配する
目に見えている世界は、一般に古典物理学で説明がつきます。古典物理学とは、ニュートン力学や電磁気学をはじめとする物理学の理論体系です。これらは、「全ての出来事は原因から生じた結果の姿である」という因果律がベースとなっています。
ところが、量子力学の世界では、古典物理学の理論が通用しません。量子の不思議な現象を研究する学問は「量子力学」と呼ばれます。量子力学の理論が構築されたのは、20世紀前半です。ドイツの物理学者である「マックス・プランク」や「アルベルト・アインシュタイン」らによって量子の世界が認識されました。
量子力学が誕生してから半世紀以上が経ちますが、現在も量子の謎は多く残されています。謎が解明されれば、宇宙の始まりや生命の起源、物質の根源などに関する新たな理解が得られる可能性があります。
量子力学の不思議な特徴
量子の世界で生じる現象は、量子力学に基づいています。量子力学ならではの物理状態として、「量子重ね合わせ」や「量子もつれ」を紹介しましょう。
量子重ね合わせ
量子重ね合わせとは、「粒子はさまざまな状態が重なり合って存在している」「状態は、観測されるまで確定しない」という特徴を示すものです。
量子重ね合わせを説明する、有名な思考実験(頭の中で想像する実験)に「シュレーディンガーの猫」があります。まず、放射性物質の崩壊を検出すると毒薬が流れる仕掛けの箱を用意します。
放射性物質の崩壊が起こる(=毒ガスが放出される)確率は50パーセントですが、箱に1匹の猫を入れて1時間後にふたを開けた場合、果たして猫は生きているのでしょうか?
量子力学では、1時間たつまで生きた猫と死んだ猫は重ね合わせの状態で存在し、箱を開けて見た瞬間にはじめて状態が決定されると考えます。日常的には、生きた状態と死んだ状態が同時に存在するのはおかしいのですが、それが起こるのが量子力学の世界です。
これは、観察者のいない実験では「波」として振る舞った量子が、観察という行為によって「粒子」となった二重スリットの実験と同様、「観察者と現象」の問題として興味深い話です。
量子もつれ
量子もつれとは、「もつれた状態にある量子は、一方の状態によって、他方の状態が決まる」というものです。セットで存在する二つの量子の位置がいくら離れていても、両者は瞬時に連動を示します。
例えば、赤または青のボールを入れた二つの箱を用意し、離れた場所にいる人物Aと人物Bに送ると仮定しましょう。箱を開ける瞬間までは、赤と青のボールが重ね合わせの状態で存在しています。AまたはBが箱を開けて中を確かめた瞬間に、もう片方のボールの色が決まります。
上はわかりやすく色にたとえましたが、実際の量子のもつれは「スピン」というエネルギー量の方向性で認められる現象で、ひとつがA方向にスピンすると、もうひとつはB方向にスピンし、どちらかの方向を変えるともう一方も瞬時に(何光年も遠く離れていても)対になるように方向を変えるという不思議な現象です。
この量子もつれは「量子エンタングルメント」とも呼ばれます。
量子を応用した最新技術を紹介
量子の特徴を生かした技術は、「量子科学技術」と呼ばれます。近い将来、量子による新たな技術体系が発展し、暮らしが大きく変わるでしょう。
代表的な技術の一例として、「量子ビーム」「量子コンピューター」「量子暗号技術」を取り上げます。
量子ビーム
「ビーム」とは、細くて真っすぐな物質の流れのことです。量子をビーム状にしたものは、「量子ビーム」と呼ばれ、研究や産業で実用化されています。
医療現場では、病気の治療に量子ビームを生かす研究が進んでいます。量子ビームをがん細胞に当てれば、周辺臓器に影響をほとんど与えず治療できる可能性があるでしょう。
農業では、植物の細胞に量子ビームを当て、品種改良をする試みが始まっています。過酷な環境でも育つ品種が生まれれば、食料の安定供給につながります。また、量子ビームなら、人間の手では不可能な「ナノレベル」の加工も可能です。
量子コンピューター
量子コンピューターとは、「量子重ね合わせ」「量子もつれ」などを活用して並列計算を行う技術です。膨大な量の複雑な計算も、従来型のコンピューターより短時間で処理でき、多くの産業に革新的な変化をもたらすと期待されています。
コンピューターが扱うデータの最小単位は「ビット(bit)」と呼ばれます。従来のコンピューターには2進法が採用されており、情報を0または1のいずれかのビットに変換して処理を行ってきました。
量子コンピューターの単位である「量子ビット」は、0と1が重なり合って存在するため、より多くの情報を一括処理できます。
量子暗号通信
量子暗号通信は、「絶対に解読されない次世代の暗号技術」として知られています。
現在使われている暗号通信は、複雑な素数の組み合わせで作られ、解読に膨大な時間がかかることで安全性を高めています。しかし、量子コンピューターの高い計算能力を使えば、簡単に暗号を解読されかねません。
量子暗号通信では、暗号を解くための「暗号鍵」を使います。暗号鍵は、光の最小単位である光の粒(光子)に乗せて送られるのが特徴で、この技術は「量子鍵配送(QKD)」と呼ばれます。
量子暗号通信が安全な理由は、光子は誰かに観測されると状態が変化し、また複製も困難なためです。光子の変化によって盗み見られたことを察知できるため、攻撃されていない暗号鍵のみを使うことで情報を守ります。
今までの物理法則を超える量子を学ぼう
量子とは、物質を構成している最小の単位です。物質と波の両方の性質を持ち、量子重ね合わせや量子もつれといった不思議な振る舞いが特徴です。
まだ矛盾や疑問が多く残るものの、量子科学技術の研究と活用は着々と進んでいます。量子が持つポテンシャルは計り知れず、今後は産業界や社会に技術革新をもたらす可能性に高い期待が寄せられています。
量子の特徴とそれを表す実験、量子ビームや量子コンピューターが変えていく未来について、親子で話し合ってみるのもよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部