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芥川賞・直木賞の歴史と由来
「芥川賞」と「直木賞」は、毎年1月と7月に選考が行われ、受賞作が発表されます。1月は前年下半期発表の作品がノミネートの対象になり、7月は当年上半期発表の作品が対象です。ふたつの賞は同時発表も多いことから、両方の文学賞に興味を持つ人も多いのではないでしょうか? まずは、芥川賞・直木賞それぞれの歴史、由来を紹介します。
「芥川賞」は芥川龍之介の名を冠した文学賞
芥川賞は、「羅生門」や「蜘蛛の糸」の著者である芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ)の名を冠した文学賞として知られます。
芥川龍之介は1892年に東京で生まれ、大正から昭和初期にかけて活躍した文豪です。1927年に35歳で死去するまでに、数々の名作短編を残しています。
芥川賞は、1935年に菊池寛(きくち・かん)によって創設されました。文学賞の正式名称は「芥川龍之介賞」です。
「直木賞」は直木三十五の名を冠した文学賞
直木賞は、小説家・脚本家・映画監督として活躍した「直木三十五(なおき・さんじゅうご)」の名を冠した文学賞です。主な著作として、「南国太平記」が知られています。
直木賞は芥川賞と同時に、菊池寛によって「直木三十五賞」として創設された文学賞です。
直木三十五(1891~1934年)はペンネームです。本名は植村宗一で、「直木」は本名の「植村」の「植」を分解して付けたと言われています。
31歳のときには「直木三十一」の名称で活動を始め、年齢を重ねるごとに何度か名前の数字を増やして改名していました。ペンネームの改名は当時もあまりなく、特にほぼ毎年名前が変わる例は珍しかったようです。35歳以降はペンネームの改名を辞め、「直木三十五」で固定されています。
出典:直木三十五(ナオキサンジュウゴ)とは? 意味や使い方 – コトバンク
芥川賞・直木賞の違いとは
芥川賞と直木賞はどちらも有名な文学賞ですが、それぞれ選ばれる作品の傾向が異なります。どのような違いがあるのか、具体的に見ていきましょう。
芥川賞は新進作家の純文学から選ばれる
芥川賞は、主に新進作家によって執筆され、雑誌に掲載された純文学の短編または中編小説が対象です。
掲載される雑誌には同人誌を含みますが、「すばる」「新潮」「文學界」「文藝」「群像」といった文学作品を掲載している雑誌に掲載された作品が選ばれることが多くなっています。
カテゴリーが純文学と決められていることから、芸術性に重きを置く文学的な作品が多いことが特徴です。また、新進作家が主な対象となっているため、小説家としてデビューしてから年数の浅い作家が受賞する傾向があります。
受賞すると、懐中時計と副賞の現金100万円が贈られ、「文藝春秋」に作品が掲載されます。
直木賞は新進・中堅作家の大衆文学から選ばれる
直木賞の対象となる作品は、大衆文学です。主に、新進・中堅作家による単行本化した長編小説もしくは短編集から選ばれます。
対象となるカテゴリーが大衆文学であることから、エンターテインメント性の高い作品が多く受賞している傾向です。近年の傾向として、いくつかの作品を発表し、評価を得ている中堅作家の作品が選ばれることが多くなっています。
受賞すると懐中時計と副賞の現金100万円が贈られる点は芥川賞と同じですが、受賞作品が掲載される雑誌は「オール読物」です。
出典:そもそも芥川賞と直木賞ってどんな賞? 同日発表される権威ある文学賞の違いとは… : 読売新聞
芥川賞・直木賞の各選考方法と対象作品
芥川賞・直木賞が創設された頃は、文藝春秋が候補作の選考を担当していました。現在でも文藝春秋は選考に関わっていますが、現在の主催は公益財団法人 日本文学振興会です。
ノミネートの条件や、対象作品はどのように規定されているのでしょうか?
芥川賞にノミネートされる主な条件
芥川賞は公募ではなく選考型の文学賞です。文藝春秋の編集者が中心となり予備選考を行い、予備選考に残った作品の中から選考委員が選考を進めます。
候補としてノミネートされるには、純文学の形態で発表されていること以外にいくつかの条件があります。
年2回選考があるため、過去半年以内に発表されている作品が対象です。原稿枚数や発表の雑誌に細かい規定は設けられていませんが、短編または中編の形態であることなど、傾向はあるようです。
直木賞にノミネートされる主な条件
直木賞も、芥川賞と同様に年2回選考される文学賞です。文藝春秋の編集者が中心となり予備選考を行い、予備選考に残った作品の中から選考委員が選考を進めるところは、芥川賞と変わりません。
主催の日本文学振興会によると、直木賞は新進・中堅作家の単行本化された作品から選ばれるとされています。原稿枚数に規定は設けられていませんが、長編または短編集が対象です。
直木賞にノミネートされる条件は主催者の変更や時代によって変化がありますが、現状では大衆文学であることと単行本化されている点以外に細かい規定は定められていないようです。
出典:よくあるご質問|公益財団法人日本文学振興会
芥川賞・直木賞と文藝春秋 | 文藝春秋 RECRUIT SITE
芥川賞・直木賞を受賞した主な作品
芥川賞・直木賞は、1935年の創設から数多くの作品が受賞しています。2024年上半期の受賞作や、過去の主な受賞作を確認しましょう。きっと、興味のある作品が見つかるはずです。
参考:
芥川賞受賞者一覧|公益財団法人日本文学振興会
直木賞受賞者一覧|公益財団法人日本文学振興会
2024年上半期の受賞作
2024年上半期の芥川賞・直木賞の受賞作は、7月17日に発表されています。
芥川賞の受賞作は「サンショウウオの四十九日(朝比奈秋・著)」「バリ山行(松永K三蔵・著)」の2作です。
「サンショウウオの四十九日」は、結合双生児の姉妹を描いています。「バリ山行」は登山をテーマにした作品です。
直木賞は、「ツミデミック(一穂ミチ・著)」が受賞しました。「ツミデミック」は、コロナ禍初期を舞台とした短編集です。
サンショウウオの四十九日
バリ山行
ツミデミック
過去に受賞した有名作家や主な作品
芥川賞・直木賞は、多くの有名作家・作品が受賞しています。それぞれ、主な受賞作家や作品を紹介しましょう。
古くは、数々の歴史小説を発表した司馬遼太郎や、大河小説「青春の門」で知られる五木寛之が直木賞を受賞した経歴があります。
直木賞には、映像化作品が多数存在するのも特徴です。映画化された作品には、「容疑者Xの献身(東野圭吾・著)」「鉄道員(浅田次郎・著)」「ホテルローヤル(桜木紫乃・著)」などがあります。最近では、第160回受賞作の「宝島(真藤順丈・著)」が映画化され、2025年に公開予定です。
そのほかの映像化された直木賞受賞作として、テレビドラマ化された「下町ロケット(池井戸潤・著)」「ファーストラヴ(島本理生)」などがあります。
芥川賞は石原慎太郎・辻仁成・又吉直樹などが受賞しており、小説家としてだけでなく多方面で活躍を見せる人もいるようです。
容疑者Xの献身
宝島
下町ロケット
芥川賞・直木賞以外のよく知られる文学賞とは
芥川賞・直木賞以外にも、多くの文学賞があります。よく知られる文学賞の概要や、受賞作を確認しましょう。文学賞によって受賞する作品の傾向は異なるため、気になる作品を見つける一助となるはずです。
本屋大賞
本屋大賞は、書店員の有志によって2004年に創設された文学賞です。受賞作は、書店員の投票によって選ばれます。
全国の書店員が候補作を選び、投票で大賞を決めている点が特徴です。2024年には「成瀬は天下を取りにいく(宮島未奈・著)」が大賞を受賞しました。
2022年には、第166回直木賞の候補作としても注目を集めた、「同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬・著)」が大賞を受賞しています。
2017年には第156回直木賞受賞作の「蜜蜂と遠雷(恩田陸・著)」が大賞を受賞しており、直木賞との共通点も多い文学賞です。
出典:本屋大賞とは | 本屋大賞
第166回芥川賞・直木賞候補作決まる 直木賞候補には米澤穂信さんらの5作品 – 産経ニュース
ノーベル文学賞
ノーベル文学賞は、アルフレッド・ノーベルの遺言により創設されたノーベル賞6部門の一つです。1901年から始まり、歴史の長い世界的な文学賞として知られています。
作品単体ではなく、作者の業績・功績が評価の対象です。日本の作家では「雪国」「伊豆の踊子」の作者である川端康成、「万延元年のフットボール」などで知られる大江健三郎が受賞しています。
世界的に有名な小説家・詩人・劇作家などが数多く受賞しており、世界の文学に興味がある人はチェックしてみてもよいでしょう。
芥川賞・直木賞に関するQ&A
芥川賞と直木賞は、公募型の文学賞ではないため、規定や条件が詳しく設定されていません。気になる疑問を持っている人もいるのではないでしょうか?
年齢制限や、同時受賞した作家がいるのかなど、それぞれの文学賞に関する疑問と回答をQ&A方式で紹介します。
受賞に年齢制限はある?
芥川賞・直木賞どちらも、年齢制限は設けられていません。
芥川賞は新進作家を対象としているものの、作家としてのデビューが遅い人もいます。ただし、年齢を問わず多くの作品を発表し、中堅やベテラン作家として認められる場合は、芥川賞の候補から外れることも考えられるでしょう。
芥川賞の受賞作を見ると、第130回「蹴りたい背中」で受賞した綿矢りさは当時19歳です。第148回「abさんご」で受賞した黒田夏子は当時75歳で、受賞者の年齢は幅広くなっています。
直木賞の受賞作では、第148回「何者」で受賞した朝井リョウは当時23歳、 第102回「小伝抄」で受賞した星川清司は当時68歳です。直木賞は中堅作家の受賞が多いため年齢層も高くなっていますが、若くして受賞している人もいます。
出典:芥川賞作家になるには?歴史や受賞作品、候補になる条件を学ぼう | 自費出版の幻冬舎ルネッサンス
芥川賞・直木賞は両方受賞できる?
芥川賞と直木賞は、原則どちらかを受賞するともう一方の選考からは外れるようになっています。また、同じ文学賞を同一の作家が複数回受賞することもできないようです。
そのため、芥川賞と直木賞を両方受賞した作家や、複数回の受賞歴を持つ作家はいません。
また、芥川賞と直木賞は候補作のカテゴリが異なるため、同時ノミネートも考えにくいでしょう。ただし、過去には明確にカテゴリが分類されていなかったことから、芥川賞と直木賞に同時ノミネートされた作品もあります。例えば、松本清張の「或る「小倉日記」伝」は同年の直木賞候補に選出され、芥川賞を受賞した作品です。
出典:芥川賞と直木賞で同時候補となった人物を知りたい。同時期に同タイトルでノミネートされた人物の作品を対象… | レファレンス協同データベース
芥川賞・直木賞受賞作品をチェックしてみよう
芥川賞・直木賞は、歴史の長い文学賞です。1935年から現在まで、多くの名作が受賞しています。
それぞれ文学のカテゴリが異なり、受賞作品の傾向には違いがあります。純文学に興味があるなら芥川賞、エンターテインメント作品に興味があるなら直木賞をチェックしてみましょう。
どちらも文藝春秋の編集者や、作家として経験を積んだ選考委員が熟考を重ねて選んだ作品です。2024年7月に上半期の受賞作が発表されており、注目を集めています。
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構成・文/HugKum編集部