試験のための読解力と、普段の読解力は別
難関中学の入試は、実は“未来を見越した”選抜
― 中学受験では独特な読解力が求められるようにも感じます。普段の読解力とは違うのでしょうか?
善方先生:共通する部分もありますが、実際には違いもかなり大きいです。中学受験は、きつい言い方をすれば「将来、学力的に伸びる子を選びとる」ための試験です。つまり、6年後の大学受験で結果を出せそうな子を、今の時点で見つけておきたいという、学校側の強いニーズがある。そのため、特に難関校では、文章自体が非常に長く、背景知識のレベルが極端に高い問題が出題されます。
今年、中学受験の女子御三家に合格した生徒に東京大学の現代文を解かせてみたのですが、「いつものより簡単だった」と言っていたくらいです。それほど、中学受験の読解は高度化・複雑化しているんですね。

読書好き=読解力が高いわけではない
― そう聞くと、読書が好きな子は有利なのでは?と思ってしまいます。
善方先生:「読書好き=読解力が高い」とは必ずしも言えないんです。読書が好きなのはもちろんいいことです。でも、実際にたくさん本を読んでいても、読解問題になると歯が立たないという子も多いです。
たとえば、ただ字面を追って“なんとなく”読んでいる子は、「内容を理解する」というより、雰囲気で選んでしまう。私はこれを“AI読み”と呼んでいます。でも、それでは本当の意味での理解にはなりません。私自身、大学入試では国語の得点は非常に高かったのですが、よくよく振り返ると“AI読み”をしていたと思います。構造を理解していたわけではなく、問題を解く“勘”のようなもので確率論的に当てていたんですね。
点が取れる=読めているとは限らない
― 確かに、大人でも“読めているようで読めていない”ときがあるかもしれません。
善方先生:だからこそ、「読める」と「読めているつもり」の違いを明確にしないといけません。テストに強い読解力は、ある意味“技術”です。一方で、人生に必要な読解力は、“価値観”や“背景”まで理解して、相手と正しくコミュニケーションができる力。その両方に目を向けていくのが大切だと思います。
会話は読解力を伸ばす絶好のチャンス
1. 「語彙の穴」を一緒に見つけて埋めていく
― 夏休みは時間に余裕がある分、家庭でも読解力を育てる絶好の機会になりそうですね。どんなことから始めるとよいでしょうか?
善方先生:まずは「語彙を増やす」ことです。子どもが会話の中で言葉の意味を取り違えているように感じたら、その場で問いかけてみてください。わからなかったら一緒に辞書を引いて、意味を確認してメモに残す。これを積み重ねるだけでも、読解の基盤になる語彙力はどんどん増えていきます。

善方先生:中学入試直前期に、女子御三家に合格した生徒さんが「たちまち=ゆっくり」だと思っていたり、ある男子校に合格した生徒さんが「垢(あか)」の意味を知らず、「そんなもの出たことないですよ、僕」と言っていた例もあります。こうした語彙の抜けは、小学生には珍しくありません。
2.「それって誰?」主語をたどる習慣を
― 「そんな言葉も知らないの?」と驚く前に、一緒に調べることが大切ですね。2つめのポイントは?
善方先生:2つめは「主語を意識する」ことです。日本語は主語を省略しやすい言語なので、子どもの話を聞いていて「誰のことを言っているのかな?」と思ったら、「それって誰のこと?」と聞き返してみてください。主語を意識することは、読解の中でも非常に重要な視点です。
3. 「ふつうは、そうなりそう?」因果関係を問いかける
― 親自身も、会話の中で「誰のこと?」と立ち止まって確認する習慣が大事なんですね。最後のポイントは何でしょうか?
善方先生:3つめは「因果関係をとらえる」ことです。話の展開に飛躍を感じたら、そのことから「ふつうはそうなるかな?」と問い返してあげてください。この問いかけを繰り返せば、“なぜそうなるのか”という因果関係を考える力が育ちます。
― 「ふつうはどうなるかな?」と立ち止まって考える姿勢が、まさに“生き抜く力”につながるのですね。

善方先生:読解力を育てるには、「語彙」「主語」「因果関係」の3つを、親子で一緒に意識していくことがとても効果的です。夏休みというゆとりのある時間に、ぜひ取り組んでみてください。
読解力はテストの点を上げるためだけの力ではありません。家庭の中で言葉と丁寧に向き合う経験こそが、子どもの“伝える力・受け取る力”の土台になっていきます。特別な教材や環境は必要ありません。日々の会話こそが、いちばんの教材になるのです。
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お話を聞いたのは
早稲田大学法学部卒。法律の論理的読解と国語問題の構造的分析を結びつけた独自の指導法を確立し、1994年に日本初の中学受験国語専門塾「β(ベータ)国語教室」を文京区千駄木に開設。現在は都内5教室(千駄木・本駒込・南青山・白金高輪・お茶の水)とオンライン校を展開し、講師約20名、受講生約100名を指導。25年以上にわたり、開成・桜蔭・麻布など最難関中高から中堅校まで毎年驚異的な合格実績を誇る。著書に『全教科対応! 読める・わかる・解ける 超読解力』『全試験対応! わかる・書ける・受かる 超思考力』『超読解力ドリル』(かんき出版)、『マンガでわかる!読解力を10日で上げる方法』(あさ出版)などがある。
取材・文/黒澤真紀
