「不登校の子どもの約半数がHSC」というデータも。心療内科医から見た現代の不登校の問題、不登校の子どもを持つ親の戸惑いとは?【ライター 沢木ラクダ×心療内科医 明橋大二 対談・前編】

不登校の小中学生のなかには、HSC(ひといちばい敏感な子ども)という特性を持っている子どもが少なくないといわれています。実際にHSCのお子さんの不登校を経験されたノンフィクションライターの沢木ラクダさんは、著書『せんさいなぼくは小学生になれないの?』の中で、親の葛藤や試行錯誤の日々について綴っています。今回は長年不登校支援に取り組み、HSCの存在を日本にいち早く紹介してきた心療内科医・子育てカウンセラーの明橋大二先生と、不登校について、HSCについて対談していただきました。

入学後すぐに不登校になった息子は、HSC(ひといちばい敏感な子ども)だと気づいた

沢木ラクダ(以下、沢木):今日はよろしくお願いします。私は普段ノンフィクションの原稿を書いたり、絵本をつくったり、本の編集をしたりと、本づくりに関わる仕事をしています。妻はフルタイム勤務をしていて、共働きです。息子は現在小4ですが、小学校入学後3〜4週間ほどで学校に行かなくなるという経験をしました。その過程を最初はSNSに書き始めたのですが、それが連載になり、昨年『せんさいなぼくは小学生になれないの?』という書籍になりました。

子どもが不登校になる過程で明橋先生のHSC(Highly Sensitive Child=ひといちばい敏感な子ども)の記事や本に出会い、チェックリストを見ていくと、「人前で話すのが苦手」「服のタグがチクチクして嫌」「初めての場面でとても緊張する」など、まさにうちの子に当てはまる特徴がたくさんあって、「HSCの特性だったのか!」と腑に落ちたんです。そこから先生の本や専門書を読み込んで、我が子の心理の理解が一気に深まり、寄り添えるようになりました。私たち夫婦のように、先生の発信に助けられた保護者は、全国にたくさんいると思います。

明橋大二先生(以下、明橋):そう言っていただけると、とても励みになりますね。私も沢木さんの本を読ませていただきましたが、HSCのお子さんを持つ親御さんがとても共感できる内容だと思いました。沢木さんの文章はわかりやすくて読みやすく、一気に読んでしまいました。

沢木:ありがとうございます。明橋先生は、今年9月に『不登校からの回復の地図 子どもの気持ちがわからず、道に迷ったら』という書籍を出版されました。この本の出版の経緯を教えてください。

明橋:20〜30代で精神疾患を抱えている人の多くが子ども時代のいじめや虐待などのトラウマがあり、それがケアされないままに大人になっています。反対にいえば、子どもの頃にきちんとケアがされていれば、大人になってこんなに辛い思いをしなくてもよかったのではないかと思うのです。そんな思いから、22年ほど前に仲間とともにNPOを立ち上げ、「子どもの権利支援センター ほっとスマイル」という地域の子どもの居場所をつくりました。そこで子どもたちから学んだことや、回復のプロセス、後ほどお話しする「ポリヴェーガル理論」についてまとめたいと思い、この本が出来上がりました。

不登校の小中学生は35万人以上。低学年の不登校も増加している

沢木:最初のテーマとして、不登校についてお聞きしたいです。最近発表された文部科学省のデータでは、不登校の小中学生が35万人を超えました。この数を、先生はどう受け止めていらっしゃいますか。

明橋:不登校の数が増えること自体を、私は「悪いこと」とだけは見ていません。不登校への理解が広がり、「つらければ休んでもいい」という考えが以前よりは浸透してきました。法律の中にも「休養の必要性」が明記されていますし、その意味では前進だと思います。

とはいえ、それだけ「学校がつらい」と感じている子どもが多い、ということは現実です。子どもが苦しめば、当然親も苦しみます。そして何より問題なのは、「学校という環境そのものが、基本的に変わっていない」ことです。ですから「不登校が増えた=子どもや家庭の問題」ではなく、「今の学校というシステムが、多様な子どもに合っていない」という面を見ないといけないと思っています。

沢木:最近は低学年の不登校が増えているのも象徴的ですね。この10年で実に7倍です。現場で感じる変化はありますか。

明橋:明らかに低年齢化していますね。以前は不登校の居場所に来るのは中高生が中心でしたが、今は小学生ばかりです。中高生の多くは、ネットの世界を居場所にする傾向があるので、リアルな居場所に出てこないことも考えられます。一方で、小学生はまだスマホを持っていない子も多く、リアルな居場所が必要になります。

沢木:居場所の問題は切実です。うちの息子も入学早々に行きしぶりをはじめ、5月の連休明けには学校に通うことができなくなりました。共働きで忙しいのに、息子が学校に行かないという状況に、正直途方に暮れたのを覚えています。当時はほとんど仕事ができなくなり、子どもが落ち着いた今でも仕事量をセーブしています。二人ともフルタイムの固定勤務だったら、どちらかは辞めていたと思いますね。

明橋:不登校の低年齢化と同時に、とても大きな問題になっているのが「親の離職」です。中高生なら1人で留守番もできますし、親が仕事に行っている方が気楽、という子もいるでしょう。しかし小1の子どもを1人で家に置いておくわけにはいきません。とくにシングルマザーの場合、お母さんが働かないと生活が成り立ちません。ところが日本ではシングルマザーの貧困率が非常に高く、非正規雇用の方も多い。正社員なら介護休暇のように制度がありますが、非正規だと仕事を失ってしまうこともあります。そこから一気に生活保護になるというケースも現場では見てきました。不登校の子どもを持つ親の生活や仕事を支えるのは、本来は行政の仕事だと思っています。

沢木:行政の経済的な支援は、一部の自治体でやっとフリースクールの補助金が出るようになった程度……。困っている方は多いと思います。学校の対応も、時代とともに変わってきていますか?

明橋:昔のように「どんなことがあっても登校させる」というプレッシャーは、以前よりは減りました。その点はよい変化です。ただ、今は両極端です。「行かなくていい」となった途端、学校からの連絡はほとんどない、プリントも届かない、行事の日程も教えてもらえないというケースも増えています。それにより「学校から見放された」と感じている親子は少なくありません。情報を自分から取りにいけない家庭はどんどん孤立します。本来支えが必要な家庭ほど取り残されているというのも現状です。

沢木:「無理して登校しなくていい」という考えが広がる一方、保護者から動かないと学校は情報もくれないし、動いてもくれない、というのは自分のケースでも感じました。

不登校の子どもの「約半数がHSC」という調査結果も

沢木:先生はHSCの子どもと不登校の関係について、ずっと発信されていますよね。新著もその延長上にあると感じます。

明橋:HSCは、一言で言うと、感覚的にも人の気持ちにも敏感な子どものことをいいます。5人に1人の割合で存在すると言われ、障がいや病気ではなく、特性、持って生まれた性質です。今年の7月に、長野のフリースクール「一般社団法人信州親子塾」がHSCと不登校の関連を全国的に調査したところ、「不登校の子どもの約44%がHSC」という結果が出ました。ですから不登校に関して、HSCという気質をきちんと理解することが、とても重要だと分かってきました。やはり今の学校環境はHSCにとってはしんどい場面が多いのだと思います。

沢木:HSCは病気ではないから、診断名がつくわけでもない。そのため、「うちの子はHSCなのか、発達障害なのか」と悩む親御さんも多いと思います。先生はどのようにアドバイスされていますか。

明橋:HSCは「診断」するものではありません。ただし、「見立てる」ということはとても大切です。HSCの提唱者であるエレイン N.アーロン博士が作った23項目のチェックリストや、「DOES」という4つの特徴(深く考える・過剰に刺激を受けやすい・共感力が高く、感情の反応が強い・ささいな刺激を察知する)を参考にするのは、有効だと思います。ただ、どうしても保護者の主観も入ります。周囲から見ると明らかにASDなのに、「この子はHSCです」とおっしゃるケースや、HSCなのに「発達障害に違いない」と決めつけてしまうこともあります。私の場合は、ASD・ADHDなど確立された検査があるものは必要に応じて検査を受けてもらうというスタンスです。検査で発達障害の特性がはっきり出なければ、「HSCとして理解しましょう」とお伝えしています。

沢木:HSCは「診断」されるものではないですが、進学前後で発達検査を受けるケースもよく聞きます。学校環境と合わずに困っていたり、不安がある場合は、どんな医師に相談するとよいですか?

明橋:児童精神科医の中には、「HSCはASDのひとつだ」と考える医師、「HSCは病気ではないので診ません」と言う医師、「HSCとASDをきちんと区別して診る」医師の3タイプがいます。3つ目のタイプの医師が増えてくれるといいのですが、まだ多くないというのも現状です。小児科の先生の方がHSCをよく理解していることもありますね。困っているときは、HSCのことを知っていそうな先生やHSP・HSCについての本や記事を読んでいる先生を探して受診して、学校との環境調整に役立てる、というのも1つの方法だと思います。

沢木:HSCの感覚の敏感さについても、少し詳しくお聞きしたいです。例えば、うちの子は、「他人の気持ちを正確に察する」「食べ物の味の変化にすぐ気づく」、「車のにおいが苦手」、「服のタグや靴下の肌触りに敏感」など、元々の感受性の強さがあります。一方、不登校でしんどかった時期には、さらに感覚が敏感になったようにも感じました。元々の気質としての敏感さと、つらい経験によって強まる敏感さは、どう関係しているのでしょうか。

明橋:基本的に、HSCの「敏感さ」という気質そのものは変わりません。大人になって急に鈍感になるわけでも、もっと敏感になるわけでもない。敏感な人はずっと敏感です。ただ、「HSCだと分かってから敏感さが強くなった気がする」という親御さんは多いですね。これは敏感さが増したというより、周囲が理解してくれるようになって、子ども自身も「出していいんだ」と思えるようになった結果として、本来の姿が表に出てきた、と考えています。それまでは「言っても分かってもらえない」と無意識に我慢していたものが、安心して出せるようになった、ということですね。

HSCの子どもは、「洋服のタグが気になる」という場合も多い

沢木:なるほど。素を出しているのだ、と。

明橋:後ほど説明しますが、実は回復のプロセスなんです。一方で、HSCとは異なる「トラウマ的な経験からくる敏感さ」というものもあります。たとえば先生に怒鳴られた経験から、大人の怒鳴り声全般が怖くなるような場合です。これは軽いフラッシュバックのようなもので、PTSDに近い反応です。私は、トラウマからくる敏感さは「特定の不快なもの」に対して出るもので、HSCの敏感さは、「味・匂い・音・光・雰囲気」など、プラスもマイナスも含めて幅広く敏感という違いがあると考えています。また、HSCの子は、不快な刺激だけでなく、美しい景色や音楽、ちょっとした言葉にも深く感動し、幸せな気持ちになる敏感さも持っています。そこはトラウマとは決定的に違う点ですね。

沢木:よい環境にも敏感に反応するというHSCの大切な側面も忘れてはいけませんね。子どもの敏感さに振り回されたことも数えきれないほどありますが、素を出せるのは回復のプロセスとわかると受け止め方が違ってきますね。その先に、息子の場合、多少のことは気にしなくなる、という変化もありましたが、これは安心感によるものですか?

明橋:そういうことだと思います。

後編ではHSCの子に起こりやすい「凍りつき反応」や回復への道すじについても伺いました

プロフィール

沢木ラクダ ノンフィクションライター

異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、編集者、絵本作家。出版社勤務を経て独立。小さな出版社を仲間と営む。ラクダ似の本好き&酒呑み。子どもの小学校入学時に付き添いを行い、不登校になる過程を克明に綴った日記ドキュメント(「毎日新聞ソーシャルアクションラボコマロン編」連載)が反響を呼ぶ。

沢木ラクダ 小学館 1,760円(税込)

入学後3週間で小学校に行かなくなったHSC(ひといちばい敏感な子ども)のむすこと親の葛藤を綴る日記ドキュメント。夫婦が試行錯誤しながら情報収集した、専門家からのアドバイス、不登校支援制度なども掲載。

プロフィール

明橋大二 心療内科医・子育てカウンセラー

NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長も務める。一般社団法人HAT共同代表。児童相談所嘱託医。昭和34年大阪府生まれ。京都大学医学部卒業後、国立京都病院内科、名古屋大学医学部付属病院精神科、愛知県立城山病院を経て、真生会富山病院心療内科部長。心療内科医としての勤務やぱれっとが運営する子どもの居場所&保護者のカウンセリングスペース「ほっとスマイル」などでの活動を通して、30年以上不登校の子どもたちを支援している。シリーズ累計500万部を突破した『子育てハッピーアドバイス』(1万年堂出版)など著書多数。

明橋大二 青春出版社 1,694円(税込)

子どもたちの1割以上が不登校あるいは不登校傾向にある日本。30年以上不登校の子どもたちに関わり、その家族を支えてきた心療内科医が、「これだけは伝えたい」と思ったことを一冊にまとめた本。子どもたちに寄り添う中で見つけた「不登校の子と向き合うとき、いちばん大事なこと」をわかりやすく紹介する。

取材・文/平丸真梨子

編集部おすすめ

関連記事