アメリカ時代、英語でなく日本語に没頭し小説を書いた。作家辻堂ゆめさんの新著は「児童書と大人の本とをつなぐ謎とき物語」

ミステリー作家の辻堂ゆめさんの新著『ばんざい!ぼくらのフシギ島』は離島留学が舞台の児童文学。それぞれに辛さを抱えながらも、精一杯生きる子どもたちを温かく描いた”子どものための謎とき物語”で、小学生はもちろん大人が読んでも楽しめます。今回は、アメリカからの帰国子女であり、東大卒であり、3人のお子さんのママである辻堂ゆめさんに、本のこと、さらに幼少期から現在の子育てまでじっくりとお話を聞きました。

テーマの離島留学について「離れることがプラスに働くような親子関係や状況も少なからずあるのだろう

――本作は離島留学が大きなテーマです。このテーマを選んだのはご自身が憧れていた、もしくはお子さんに経験させたいなどなにか理由はありましたか?

辻堂さん 私自身は離島留学という制度について、大学生のときに後輩から「高校生の弟が離島留学をしている」と聞いて知ったので、自分が行ける時期には全く知りませんでした。

聞いた当時は「高校生になるとそういう選択肢があるんだ」と思っていたのですが、今回児童書を書くことになり、そのことを思い出して調べてみたら、小学生から受け入れている島や学校があることを初めて知りました。

――離島留学という制度についてはどう感じましたか?

辻堂さん 最低でも1年間ぐらいは小学生の子どもと離れ離れで過ごすので、親としては離島側の環境も気になりますし、すべての子ども、すべての親子に合う環境ではもしかしたらないかもしれないとは思いました。でも、離れることがプラスに働くような親子関係だったり、状況も少なからずあったりするのだろうと想像したところから、本作の構想は始まっています。

作家・辻堂ゆめさん

茨城・神奈川・アメリカで育ち、小学校に入る前から遊び程度で物語を執筆

――自然豊かな島での暮らしが細部までとてもリアルに描かれていました。辻堂さんご自身は、このような田舎か都会かどんな環境で育ちましたか?

辻堂さん 小学4年生まで茨城県の水戸市で暮らしていました。周辺は住宅街でしたが、近くに虫取りができる空き地があったり、畑のキャベツから虫をとってきたり、杉の木の下に秘密基地を掘ってみたりしました。本の舞台ほど大自然ではないですが、外遊びで自然に触れながら遊びを見つけていくことはやっていました

――小学4年生以降は違う場所に引っ越したのですか?

辻堂さん 父の茨城県での勤務が終わり、両親の出身地である神奈川県藤沢市に引っ越しました。中学一年生から高校一年生までは、父の仕事の都合でアメリカで過ごしています。

――先ほど外遊びのお話がありましたが、どんな遊びが好きでしたか? 本を読むことや文章を書くことは昔から好きだったのでしょうか。

辻堂さん 本を読む、文章を書くのは小学校に入る前から好きでしたが、外遊びばっかりしている活発な子で、周りも文学少女のようなイメージは全く抱いていないと思います。

――そうなんですね。それでも外で遊ばない日は、家の中では本を読んだり書いたり?

辻堂さん 雨の日や予定がなくて空いた時間は積極的に本を読んでた記憶があります。

物語は小学校に入る前から遊び程度で書いていました。家にあった習い事かなにかの冊子に不思議な絵が載っていて、それを見てお話を創作して応募するというものがあったんです。それを小学校低学年に毎回応募して、1度だけ入賞して名前が載ったのがすごくうれしかった記憶があります。

そうやって遊びの延長として文章を書いたり、国語の作文も好きでしたし、日記もすごく書いていた気がします。

――苦戦する子どもが多い、読書感想文もお好きでしたか?

辻堂さん それはなぜかあまり好きじゃなくて、今でも苦手意識があり、書評も苦手なんです。本を読むことは好きですが、読んだ本について自分が満足のいくように言語化するのはあんまり得意じゃないみたいです。

写真はイメージです

習い事はKUMON、ピアノ、体操教室

――東京大学のご出身とのことですが、塾には行っていましたか? どんな習い事をされていましたか?

辻堂さん 小学生のときはKUMON、ヤマハ音楽教室でピアノ、引っ越してから体操教室に行っていました。KUMONに通っていたので、ほかの塾へは通っていませんでした。

――中学受験はされていないのですか?

辻堂さん していないです。親も中学受験は考えていなくて、塾を検討したこともありませんでした。KUMONの先生に「受験しないんですか?」と言われて、親が慌てて模試を受けさせるってことはありましたが、歯が立たないね、ぐらいで終わっていたと思います。

小説を書き始めたのはアメリカ時代、日本語が恋しかったのも理由

――現在はミステリー作家として活躍されています。小説家を志すことにしたきっかけや影響を受けたことやものはありますか。

辻堂さん 特定の大きなきっかけはなく、幼稚園生のときに絵本を読んでいたら自分も書きたくなって、「絵本を書く人になりたい」と言ったのが始まりでした。小さい頃からお話を作ることに興味があったのは覚えています。

その趣味の延長線上で文章はずっと書いていて、小説を書くようになり、短編が書けるようになってきたのが中学生でした。

中学生のときはアメリカに住んでいたので、小説を書いたのは日本語への恋しさから書き始めたところもあったと思います。

きょうだい3人とも問答無用で現地校に入れられて、単語がわからず、友だちに話しかけられても何を言われてるのか全くわからない状態。思春期というか反抗期も重なり、ここにいるのは本意ではない、「日本にいたかったのに!」みたいな感じになっていましたね。英語での生活が大変だったゆえに、空いた自分の時間を“日本語に没頭したい”と。

そこで、日本語での読書もものすごくしていましたし、日本にいたときは見向きもしなかった日本のドラマも観たり、音楽を聴いたり、小説を書いたり。

向こうは車社会で自由に友だちと遊びに行くこともできず、家にいる時間が増えたことも大きかったと思います。その時期に日本にいたら、小説は書いていないかもしれません。

――そんな経緯があったのですね。ミステリーを書き始めた理由はありますか?

辻堂さん 高校1年生のときに湊かなえさんの『告白』というベストセラーを読んで、ものすごい衝撃を受けたことです。それで次に自分が書くならミステリーにしよう、と決めたところからミステリーの道に入っていきました。

中学で初めて書けた小説は、母にも読んでもらった

ーー小説家の道へ進むことはご両親はどう思われていましたか?

辻堂さん 私は小説家の夢に一本道で向かっていたわけではなく、趣味として書いていた原稿を新人賞に送っていました。送っているのは両親も当然知っていましたが、あくまで趣味の一環だととらえていたと思います。

大学で新人賞を取ったときには、選考が進んでいくなかで、両親もだんだん実感が湧いてきていたようです。ただ、まさか本当に取るとは私も両親も思ってなかったので、全員にとって青天の霹靂でしたが、小説家デビューが決まったときはすごく喜んでくれました。

――書き上げた小説は、ご両親に見せていましたか?

辻堂さん 中学で初めて書けたときはうれしかったので、母にも読んでもらったと思います。父はそこまで小説に興味があるタイプではなく、読みはしなかったんですが、私が書いたものを印刷してファイルに綴じてくれるなど、物理的な形でサポートしてくれていました。

6歳、4歳、1歳のお子さんたちは読み聞かせが大好きで、寝る前の習慣

――辻堂さんは3人のお子さんのお母さんでもありますね。お子さんは今何歳ですか?

辻堂さん 6歳、4歳、1歳です。一番上はこの春、小学校に入学します。

――お子さんたちは本は好きですか。

辻堂さん 3人とも読み聞かせが好きです。最初は寝かしつけ前の儀式のような感じで始めたのですが、今は寝る前の習慣として根付いていて、1人1冊持ってきた本を読んであげていて、親子の愛着の形成、育みになっています。

――文章が長めの本を持ってきても常に読んでいますか?

辻堂さん いえ、子どもたちがご飯をちゃんと食べて、寝る前にやることが早く終わったら「今日はどんな本でも読むよ」となります。

逆にすごく遅くなったら、「今日はめちゃくちゃ短いやつね」って。すると「中くらいは?」って交渉が入るんですけど、「じゃあ中くらいならOKかな」と言いながら、読んでいます。

――寝かしつけは辻堂さんでなく、旦那さんがされることもありますか?

辻堂さん 私がしていますが、うちは小さい頃からネントレをしていて、「おやすみ」と言って小さい電気だけつけてドアを閉めると、3人とも寝るので、寝かしつけという感じではないと思います。本を読んで、お布団に入って、電気が消えたら、そのまま寝るものだと思っているんです。

子どもがやりたい! と言ったことを、現実的な範囲で背中を押せる親になりたい

――ご自身の子ども時代のご経験から、今の子育てに何か生かしてることはありますか。

辻堂さん うちは図書館で本をいっぱい借りてくる家庭で、家に読んだことのない本が多くある状態でした。それは部分的にでもやりたいなと思って、今、子どもたちと図書館に行って、本人たちに好きな本を選ばせています。

写真はイメージです

あとは習い事ですね。自分が運動系と音楽系と勉強系をバランスよくやらせてもらったことで、音楽は全然合わないな、体操は好きだったな、結局は勉強が一番自分に合っていたなとか、習い事を通じて自分の適性が見つかった部分もあったと思うので、子どもにもちょっとずつバランスよく習わせようと思いますね。

――お子さんは今、どんな習い事をしていますか。

辻堂さん 上の子はスイミングとタブレット学習、ピアノをやっています。ピアノは本人からやりたいと言い出して始めましたが、楽しくやってますね。

――「やりたいと言ったことをやらせてもらった」「好きでやってることを応援してくれた」など、ご両親にされたことで今も覚えてて、お子さんたちに接するときにしてあげていることはありますか。

辻堂さん 両親がすべてを叶えてくれたわけではもちろんありませんが、自分がやりたいと言ったことに対して、習い事でも小説でも「じゃあ始めてみようか」って背中を押してくれたことはすごく記憶に残ってます。後から振り返ってもよかったなって。

逆にやりたいって言ったのにダメって言われたことは、今でも禍根が残っています(笑)。

小学3年生のときに父の趣味だったテニスを私もやりたいって言ったら、母はおそらく軽い気持ちで、「小学3年生から始めても遅い」とやらせてくれなかった。

自分でスポーツをやりたいなんて言ったのは初めてだったのに……。アメリカに引っ越してテニス部に入ったとき、1軍レベルのクラスには上がれなくて……小3で始めていればいけたんじゃないかとか思ったことも覚えているので、やりたいって言ったことは、お金の限界はあるにせよ、子どもの芽を摘むことにならないように気をつけていこうと。

ですが子どももオリンピックを観て「スケートをやりたい!」とか、そのときに思いついたことをポンポン言うので見極めも大事ですが、やりたいと言ったことを「じゃあ、やろう」って背中を押してもらえることが一番うれしいし、現実的な範囲で押せる親になりたいなと思いますね。

伏線回収の楽しさ、テーマの重たさも詰め込み、児童書と大人の本をつなぐ作品

――この本は大人でも面白く、親子で読むのもいいなと思いました。どんな方に読んでほしいなと思って書かれたんでしょうか。

辻堂さん 対象年齢としては、小学校高学年ぐらいという形でご依頼をいただいたんですが、小学校の高学年や中学生ぐらいになると、児童書から大人の本にどうやって移行すればいいのかわからなくて、そこで読書習慣がストップしちゃう子がものすごく多いと思うんです。

「ばんざい!ぼくらのフシギ島」

――そこに1つハードルがありますね。

辻堂さん はい。今回は子どもの本だと気負って書かなくてもいいと言っていただいたのもあって、児童書と大人の本をつなぐ、足がかりになる作品だといいなっていうのは思いました。

書く内容としては子ども向けと思わず、使う言葉もルビを振れば、パッとは意味がわからなくても文脈でわかればいいんじゃないかなぐらいのつもりです。

もちろん、極端に難しい表現は避けて、熟語ばかりが並ばないようにしていますが、小学生が絶対にわかる表現だけを使おう! ではなくって、ちょっと背伸びして、なんとなく雰囲気でわかってくれればいいかなと書きました。児童書ですが、大人の本への入り口として捉えてもらえるような本になればなと思っています。

――そのぐらいの年齢の子どもに薦めるにはどんな本がいいのか、悩んでいる親御さんも多いかもしれません。

辻堂さん そうなんですよね。国語力的には読める子でも内容的にちょっと早いものもありますしね。私自身も、親が中身を見ずに薦めてきた本が、読んでみると男女の話があって「え。どうしよう」と思った記憶もありますし。

そういう心配はなく健全だけど、大人向けのミステリーにある伏線回収の楽しさ、ある意味でのテーマの重たさも詰め込んだ本。親子で読んでいただけたら一番うれしいです。

――最後に、HugKum読者に向けてメッセージがあればお伺いしたいです。

辻堂さん 本を読むことって、親にとっては「本を読むと国語力が強い子に育つ」とか、勉強と関連づけて言われることがすごく多いと思いますし、だから読ませなきゃって考えになることが多いと思います。

でも、一作者であり一読者である身からすると、強制された読書だと、きっとつまらなくなってしまったり、自分のものとして捉えられなくなってしまったりすることがあると思うんです。

お子さんが好きそうだったら薦めてみて、好きじゃなさそうだったらどこかのタイミングで合う時期があるかもしれない。本を楽しいものとして捉えてもらえたらうれしいなっていう思いがあります。世間で言われているより気軽に本というものを捉えてもらえたら作者としてはうれしいです。

辻堂ゆめさんの新著

辻堂ゆめ 主婦の友社 1,430円(税込み)

人口わずか2000人の小さな島・夫志木島(ふしぎじま)には、毎年いろいろなところから“留学生”がやってくる。
小学6年生の星野涼(ほしの・りょう)も、その一人。
涼は、遅刻常習犯でサボり魔の“ワル”だ。生活を立て直すために、この島に送り出されたのだった。

新しい小学校は全校児童がわずか30人ちょっとの超少人数!
学校行事でやりたいことはみんなで決める。
誕生日の子がいれば給食にケーキが出るし、おなかの調子が悪い子は特別におかゆを作ってもらえる!
“今日はめんどうくさいから”と、先生が宿題を出さない日もある!?
都会とは違いすぎる毎日は驚くことばかり。

そんな中、留学生のまわりに小さな謎めいた出来事が起こり始めた。

体験学習、シーカヤックは泣いて拒否するけどカヌーならOKという女子。
毎晩ランドセルを背負ってこっそり部屋を抜け出す男子。
先生にとつぜんしょうゆをぶちまける女子。
そして……。

涼は親友の島の子・才津と、ひとつひとつの謎を解き明かしていく。

謎が解けるたび、“再生”していく子どもたち。
そして涼も、自分自身の「問題」に、真正面から向き合っていく。
誰にも言えずにいた悩みや苦しみに、この島は手を差し伸べてくれるーー。

『今日未明』で今もっとも注目を集める著者が、精一杯生きる子どもたちを温かく描いた「子どものための謎とき物語」です。

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お話を聞いたのは

辻堂ゆめさん 作家

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞作『いなくなった私へ』(宝島社)でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』(小学館)で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』(東京創元社)で第24回大藪春彦賞を受賞。他に『卒業タイムリミット』(双葉社)『答えは市役所3階に』(光文社)『今日未明』(徳間書店)など、人の心を緻密に描き、幅広い層の支持を得ている。

取材・文/長南真理恵

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