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お悩み「FIREしたいけれど、老後資金はいくらあれば安心?」
Q:夫婦で50歳までにFIREしたいです。結局、老後資金はどのくらいを目標にすれば安心できますか?

FIREと基本の「4%ルール」

FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった言葉で、「経済的な自立、早期リタイア」という意味です。いわゆる不労所得でまかなえる状態をつくり、若いうちに仕事から解放されたい、という考え方ですね。
お金の面でのFIREの目安として有名なのが、米国トリニティ大学の研究で知られる「4%ルール」です。年間支出額の25倍の資産を築き、その資産を運用しながら毎年4%程度を取り崩しても、30年間で資産が枯渇する可能性は低いというものです。理論上は、たとえば年間生活費が300万円なら、300万円×25で7500万円が一つの目安となります。
ただし、この研究は米国の過去の株式・債券市場のデータを用い、65歳で退職して95歳まで生きる30年間を前提に導かれた結果です。そのため、日本の投資環境や税制の下で同じ結果が得られるとは限りません。また、30代・40代でFIREを目指す場合は、研究が前提とした30年よりもはるかに長い50年以上の生活期間を想定する必要があります。副業収入のあるサイドFIREなのか、収入を完全に断つ完全FIREかによっても、必要な金額は変わってきます。
そこで、今回は「老後資金はいくら必要か」を真正面から考えてみましょう。早くリタイアしたいなら、より早く、より多く準備が必要になるだけのことです。FIREを目指す方にも、定年退職を考える方にも共通して使える、老後資金の見積もり方をお話ししたいと思います。
なぜ老後資金は「不安」になるのか
お金の不安にはいろいろありますが、老後資金と聞くと、ほかのお金よりも大きな不安を感じる方が多いのではないでしょうか。教育資金や住宅資金は、使う時期や必要額がおおよそ見えており、比較的計算もしやすいお金です。しかし老後資金だけは、「いつまで生きるかわからない」「いつ病気になるかわからない」など不確定要素が多く、必要な期間も金額も読みづらいのです。さらに、インフレによって将来のお金の価値も変わります。
だからこそ、わからないから何もしないのではなく、自分なりの前提で見積もることが大切です。私は、人生も資産運用も、ベストを求めて動けないままでいるより、ベターで動いたほうがいいと思っています。
まずは老後の費用を大まかに知る
自分のケースを考える前に、平均的なデータで全体像をつかんでおきましょう。
まず、年金収入について。2025年度のモデル世帯(夫が厚生年金に40年加入、妻が専業主婦)の年金受給額は、月額約23万円です。
次に支出です。生命保険文化センターの「2025年度生活保障に関する調査」によると、夫婦2人の老後生活に必要な最低日常生活費は、月額23万9000円。旅行や趣味を楽しむゆとりある老後生活費になると、月額39万1000円です。
では、実際の高齢夫婦はどのくらい使っているのでしょうか。参考までに、2024年のデータになりますが、総務省「全国家計構造調査」を見ると、無職の65歳以上夫婦のみ世帯の消費支出は、全国平均で月額約25万円。ただし都道府県別で見ると、東京都では約27万円だった一方、たとえば北海道では約23万円と、居住地によっても差が見られます。
こうしたデータを踏まえると、これらの消費支出に加えて税金や社会保険料、多少のゆとりを考慮し、夫婦2人の老後生活費は月30万円程度を1つの目安として考えてよさそうです。
自分の場合はどうなのか? 「概算」と「逆算」で見当をつける
ここまで平均的なデータを見てきましたが、本当に大事なのは「自分の場合はどうか」です。生活費も年金額も人それぞれですから、まずは大まかでよいので、自分なりの数字で計算してみましょう。
そのための2つのステップが、「概算」と「逆算」です。今回は、ひとつのモデルケースとして、こんなご夫婦を想像してみます。

ステップ 1:概算する
まず、前提となる次の3つの数字を仮に決めます。
1つ目は、「お金の寿命を延ばしたい年数」。人生のゴールの年齢、つまりお金が0円になってもよい年齢です。お金は貯めること自体が目的ではありません。せっかく築いた資産ですから、自分らしい人生を送りながら使い切るくらいの考え方がちょうどよいのではないかと思っています。
ここで知っておきたいのが、女性は65歳まで生きた人の4人に1人が95歳まで生きる、というデータ。これを参考に、65歳の時点で「95歳まではお金の寿命を持たせたい!」と考えるなら、年数は「30年」になります。
2つ目は、「リタイア時点で保有している金融資産の合計額」。退職の時点でいくら持っているか、ということです。今回のケースは、コツコツ貯めた3000万円としましょう。
3つ目が「毎年の取り崩し額」、つまり年金額と生活費の差額です。年金が月23万円、生活費が月30万円なら、差額は月7万円。年間にすると約80万円を取り崩していく計算になります。
では、この前提でいつまで資産が持つでしょうか。3000万円÷年80万円=37.5年。65歳からなら102歳まで持つ計算になりますので、「なんだ、意外と余裕があるのでは」と思うかもしれません。しかし、この計算はあくまで日常生活費だけを前提にしたものです。
老後に本当に必要なのはいくらか

老後資金を考えるときは、「日常生活費」だけでなく、その先に起こるイベントや介護も含めて考えてみる必要があります。老後を大きく2つの期間にわけて、もう少しリアルに見積もってみましょう。
まず65歳~85歳は、比較的元気に過ごせる時期です。「生活費の差額」年80万円に、「イベント費(海外旅行、リフォーム、子どもの結婚式援助など)」として年50万円を見込むと、年130万円。20年間で2600万円が必要です。
次に85歳~95歳は、介護費用も考慮しておきたい時期です。介護については本当にケースバイケースで見積もりが難しいのですが、一時的な費用が約50万円、在宅で月約5万円、公的な施設で月13~15万円程度ともいわれます。ここでは「生活費の差額」年80万円に「介護費用」年100万円を加え、年180万円と仮定してみます。10年間で1800万円が必要です。
65歳から95歳までの30年間を合計すると、4400万円。今、3000万円しかないとすると、単純計算では1400万円足りない、ということになります。
ステップ 2:逆算する
ただし、ステップ1で概算した4400万円を、65歳の時点で全額持っている必要はありません。ここで思い出していただきたいのが、連載第9回でお話しした「資産の山」の考え方です。

65歳~85歳の20年間は、まだ元気で運用も続けられる時期。「使いながら増やす」、つまり「資産の寿命延ばし期」と考えることができます。
では95歳をゴールとして、そこから逆に、資産の山の道筋をたどってみましょう。

95歳から85歳までは、年180万円×10年間で1800万円が必要です(グラフの①)。介護を受けながら運用を続けるのは現実的ではありませんので、この期間は完全に取り崩すだけと考えておきます。
ただし、この1800万円は「85歳の時点」で手元にあればよいお金です。65歳からの20年間で少しでも運用できるのであれば、話は変わってきます。20年後に1800万円にしたい場合、年3%で運用できるとすると、65歳時点で必要な金額は約1000万円になります。
同様に、85歳から65歳までの期間は、年130万円×20年間で2600万円が必要です(グラフの②)。この期間も、もし年3%で運用しながら毎年130万円ずつ取り崩すと仮定すると、65歳時点で必要な金額は2000万円弱になります。
つまり、20年間にわたって年3%程度で運用を続けられれば、お金の寿命を95歳まで延ばすために65歳時点で必要な金額の合計(グラフの③)は、約3000万円。このように見当をつけることができるのです(逆算早見表の赤枠参照)。
逆算早見表の部分は少し難しく感じるかもしれません。しかし大切なのは計算式そのものではなく、「将来必要なお金から逆算して今を考える」という発想です。今はネット上のシミュレーターや計算ツールもありますし、生成AIも活用できます。たとえば、「20年間、年3%で運用しながら毎年130万円ずつ取り崩すと仮定すると、現時点で必要な金額はいくらですか」などと聞けば、大まかな計算結果を示してくれます。
自分にとって必要な「利回り」を知る
このステップ2の逆算でいちばん大事なことは、自分に必要な利回りを知って、それを「運用の目標」として意識することです。
今回の例では、金融資産全体で年3%の利回りを目指す、ということになります。年10%、20%をコンスタントに稼ぐことは非常に難しいですが、分散投資をしっかり行えば、年3~4%程度の利回りは十分現実的な水準といえるでしょう。
目標が明確であれば、それ以上に高い利回りを無理に狙う必要がないので、リスクを抑えて効率的に目標を達成する資産配分を考えることができます。
老後資金準備のゴールは、他の誰かに勝つことではありません。自分の人生に必要なお金を準備することです。そのためには、「どれだけ増やせるか」よりも「何%あれば足りるのか」を知ることのほうが重要なのです。
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今すぐできるおすすめワンアクション「自分の収入・支出をざっくり把握しよう」
細かく家計簿をつけなくてもよいですが、毎月の収入と支出の合計ぐらいは、ざっくりと押さえておきたいところです。自分が毎月30万円使うのか、50万円使うのか、その把握は老後資金を考えるうえでの出発点になります。
そのうえで、今回のケースを参考に、自分なら老後にどれくらいのお金が必要になりそうかをイメージしてみてください。もし「自分は平均より使うタイプかもしれない」と気づいたら、そのぶんを上乗せして見積もってみましょう。そして、その金額が自分にとって現実的かどうかも、ぜひ一度考えてみてください。
老後資金の不安は、見えないから大きくなります。ベストではなくベターで構いません。一度、自分の数字で計算してみる。その一歩が、老後資金の「漠然とした不安」を「これから動かせる計画」へと変えてくれるはずです。
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プロフィール
2003年興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne )入社。外為マーケット経験を生かし、専門的な話をわかりやすく伝えることを第一に投資信託の普及に努め、20年に渡り営業員向け研修や一般投資家向けセミナーなどで講演。
個人の資産形成、ファイナンシャル・ウェルビーイングや金融経済教育の分野における啓発・普及活動を目的として、2023年10月にアセットマネジメントOne内に未来をはぐくむ研究所を設置、初代所長に。
アセットマネジメントOne未来をはぐくむ研究所のHPは>>こちら
※本記事は情報提供を目的とするものであり、投資家に対する投資勧誘を目的とするものではありません。
構成/古屋江美子 撮影/五十嵐美弥
