目次
「初めての婦人科」はいつ行けばいい?

――最近では「初潮を迎えたら婦人科へ」と言われることもありますが、初めての婦人科受診の時期について、稲葉先生はどのようにお考えですか。
稲葉先生:初潮を迎えたら婦人科へ行くのが習慣になっている国もあって、それは理想ではあります。ただ、日本では「そう言われても……」と戸惑う方も多いですよね。
何も困っていないのに、必ず婦人科に行かなければいけないというわけではありません。でも、生理痛がつらい、生理の量が多い、学校を休んでしまう、PMSで気持ちの浮き沈みが大きいなど、生理の症状で日常生活に困ることがあるなら、小学生や中学生でも症状を和らげる方法があります。
「生理だから仕方ない」と我慢せず、婦人科に相談していただきたいですね。
――困りごとがない場合は、無理に受診しなくてもいいのでしょうか。
稲葉先生:はい。特に困っていなければ、HPVワクチンの予防接種を受けるタイミングなどで婦人科を受診して、「婦人科ってこんなところなんだ」と知ってもらうだけでも十分だと思います。
――私自身、学生のころに初めて受診した婦人科が少し話しかけづらい雰囲気で……。最初に受診する病院選びも、とても大切なんですね。
稲葉先生:医師にもいろいろなタイプがいますから、最初に受診した婦人科が自分に合わなかったことで、トラウマになってしまうケースは残念ながら少なくありません。
そうなると、生理痛がつらくても婦人科を受診できなくなったり、その経験が影響して、子宮頸がん検診にも行きづらくなってしまったりすることがあるので、最初の受診は大切です。
――では、子どもの婦人科はどのように選べばよいのでしょうか。
稲葉先生:お母さんご自身が信頼しているかかりつけの婦人科があれば、まずはそこが安心だと思います。どんな先生なのか分かっていますし、お子さんも受診しやすいですよね。
もし決まった婦人科がなければ、お友達やママ友などのリアルな口コミを参考にするのがおすすめです。「娘を連れて行くならどこがいいかな」と聞いてみるのもいいですね。
実際に、お母さんが先に受診して、「ここなら安心して娘を連れて来られそう」と感じてから、お子さんを連れて来られるケースもありますよ。
実際に小中学生はどんな相談で婦人科を受診している?
――先生のクリニックでは、小中学生のお子さんはどのような相談で受診されることが多いのでしょうか。
稲葉先生:生理痛の相談は多いですね。ほかは、生理の量が多い、生理が来ない、逆に頻繁に来るといった生理不順や、PMS、おりものについてなど……本当にさまざまな相談があります。
――そうした悩みは、お子さん自身が「受診したい」と言って来られることが多いのでしょうか。
稲葉先生:ご本人が「しんどい」と話して受診されることもありますし、お母さんが「なんだかうちの子しんどそうだな」と様子を見て連れて来られることもあります。
思春期のお子さんは、自分の症状を「みんなこんなものなのかな」と思っていることも少なくありません。だから、つらそうな様子があれば、親御さんのほうから「一度相談してみようか」と声をかけてあげることは、とても大切だと思います。
生理のつらさを「我慢する」のではなく「軽くする」選択肢を

――保護者世代が持つ婦人科のイメージと、現在の婦人科診療との間には、どのようなギャップがあると感じますか。
稲葉先生:親御さん世代が若い頃は、まだ低用量ピルやミニピルを保険診療で処方することができませんでした。そのため、生理痛などの症状は「我慢するもの」というイメージを持っている方も少なくありません。
また、「子どもが婦人科を受診していい」「小中学生でも治療できる」ということをご存じない親御さんも、まだまだ多いと感じます。
――私自身も、「薬に頼るより、なるべく自然がいいのでは」と思っていました。そう感じている保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
稲葉先生:おっしゃる通りで、「薬はなるべく飲ませたくない」と言われることもあります。
でも、生理痛やPMS、過多月経などで毎月つらい思いをしているのであれば、「我慢する」のではなく、症状を軽くするという選択肢があることを知っていただきたいですね。
――生理痛の治療には、どのような方法があるのでしょうか。
稲葉先生:思春期のお子さんでは、低用量ピルやミニピルを使った治療が中心になります。
「ピルは体に負担がかかるのでは?」「長く飲み続けるのは心配」といったご質問もよくいただきますが、実は逆で、毎月つらい生理を我慢し続けるほうが、体への負担は大きいんです。
これらの薬を使うことで、生理痛を和らげるだけでなく、子宮内膜症のリスクを減らすことにもつながります。さらに、薬をやめた後の妊娠率についても悪影響はなく、むしろ良いという報告もあります。
もちろん、副作用が全くないわけではありません。ただ、症状には個人差がありますし、合わなければ別の薬に変更することもできます。我慢して飲み続けなければいけない薬ではありませんので、その点も安心していただきたいですね。
――私も学生のころ、こういう薬があったら使いたかったです。
稲葉先生: 本当にいい時代になったと思います。娘さんの相談で来られたお母さまが、「私も飲みたい」とおっしゃって、親子で同じ薬を服用されるなんていうケースもあるんですよ。
――料金的には、どうなんでしょうか。
稲葉先生:生理痛の治療であれば保険診療になります。薬によって値段に多少違いはありますが、1か月分の3割自己負担で、400円弱~2,000円程度です。保険診療ですので、子どもの医療補助がある自治体では自己負担なしとなります。
――では「このくらいの症状になったら一度相談してみよう」という受診の目安はありますか。
稲葉先生:ご本人が「しんどいな」「日常生活に支障があるな」と感じたら、受診していただいて構いません。
生理痛でいえば、市販の鎮痛剤で問題なく過ごせるのであれば、それでも大丈夫です。生理痛自体があることは異常ではありません。
「相当つらくないと受診しちゃいけないのかな」と受け取られてしまうことがあるのですが、そんなことはありません。これはすべての悩みに共通するのですが、本人が「しんどい」と感じたら、それは日常生活に支障があるということです。一度相談してみてください。
10代から「かかりつけ婦人科」を持つメリット
――10代のうちから「かかりつけ婦人科」を持つメリットというのはあるのでしょうか。
稲葉先生:「ここなら相談できそう」と思える先生と出会っておくだけでも、大きなメリットがあります。
最初は困りごとがなくても、高校生や大学生になってから生理痛やPMSの症状が重くなることもありますし、困ったときに「あの先生に相談してみよう」と思える場所があると安心ですよね。
それに、思春期になると親には相談しづらいことも増えてきます。例えば、避妊のことやデリケートゾーンの悩みなど、一人で抱え込まずに相談できる婦人科医がいることは、お子さんにとって大きな支えになると思います。
内診はある? 一人でも受診できる?気になる疑問をQ&Aで解決

Q1 婦人科に行くと、必ず内診がありますか?
稲葉先生:思春期のお子さんでは、生理痛や生理不順などの相談であれば、原則として内診は行いません。今はお腹の上から行うエコーで分かることも多いので、内診をしなくても診断できるケースはたくさんあります。
おりものの相談であっても、「おりものを診てみる?」とお子さん本人に確認します。「今日はやめておきたい」と言われたら、無理に検査を進めることはありません。
Q2 診察が怖いというお子さんには?
稲葉先生:不安を持っているお子さんはとても多いです。ただ、Q1でお答えした通り、原則として内診は行いませんし、診察するときにはお子さんが必要以上に緊張しないよう配慮しています。初めての受診が「怖かった」という経験にならないよう、一つひとつ確認しながら進めています。
Q3 子どもだけで受診することはできますか?
稲葉先生:これは医療機関によって方針が異なります。保護者の同伴をお願いしているクリニックもあれば、一人で受診できるクリニックもありますので、事前に確認していただくのがおすすめです。
私のクリニックでは、中高生がひとりで受診されることもあります。親御さんから「何かあったら先生に相談しなさいね」と送り出していただき、お子さんと一緒に相談しながら治療を進めるケースもあります。
Q4 婦人科を受診するところを見られるのが気になります。
稲葉先生:地方では特に「周りの目が気になる」という声を耳にします。
最近はオンライン診療を行っているクリニックもありますので、まずは人目が気にならないオンラインで相談してみるのも一つの方法です。オンライン診療であれば、地方にお住まいの方でも都内のクリニックの診療を受けることができます。
Q5 初めて受診するときに準備しておくとよいものはありますか?
稲葉先生:マイナ保険証や医療証は忘れずに持参しましょう。そのほか、生理周期や最後の生理がいつだったか、どんなことで困っているのかを分かる範囲で整理しておくと、診察がスムーズです。
修学旅行も受験もあきらめない!「生理日の移動」も相談できる

――ここまでは、生理痛やPMSなど、体の不調があるときの受診について伺ってきました。では、例えば修学旅行や受験、部活動の大会など、大切な予定と生理が重なりそうな場合も相談できるのでしょうか。
稲葉先生:もちろんできます。実際に、修学旅行や受験に合わせて生理日を移動したいというご相談は多いですよ。
――何歳くらいから相談できるのでしょうか。
稲葉先生:初潮が来ていれば、何歳でも、小学生でも大丈夫です。
――受診するタイミングは、どのくらい前がいいのでしょうか。
稲葉先生:直前ですとずらせないこともあります。早い方が薬の選択肢も広がるので、できれば予定日の1~2か月前くらいにご相談いただくのがおすすめです。ただ、「もう遅いかな」と思っても対応できる場合がありますので、まずは相談してみてください。
――費用は保険診療になりますか。
稲葉先生:生理日の移動は病気の治療ではないため、保険診療の対象とならず、自費診療になります。費用は医療機関によって異なりますが、5,000円程度が目安です。
――小中学生でも生理日の移動の相談ができるとは知りませんでした。
稲葉先生:学校生活はもちろん、プライベートも、生理に振り回されずに過ごせる選択肢を知っているだけで、お子さんのその先の人生のQOLは本当に大きく変わります。
大学生になってようやく一人で婦人科を受診できるようになった方や、社会人になって初めて受診された方もたくさんいらっしゃいます。もし、これまで我慢されてきたのであれば、その期間は本当にもったいない。
お子さん自身は、こうした選択肢があることを知らないことも少なくありません。だからこそ、ぜひ親御さんのほうから、こういった方法があるということ、そして婦人科受診のメリットを教えてあげてほしいなと思います。
こちらの記事もおすすめ
この記事を書いたのは
法学部卒業後、通信教育などを手がける教育業界の企業に勤務し、その後ライターとして、女性誌や複数のWeb媒体で、暮らしや子育てを中心としたライフスタイル分野で取材・執筆を行っている。2児の母で、子どもはすでに成人しており、中学受験や大学受験を経験。実体験をもとに、同世代の女性に寄り添えるような記事を心がけている。