「勉強しなさい!」で親子ゲンカになる前に。“勉強を好きになる子”の家庭の関わり方とは《教育の専門家・永島瑠美先生に訊く》

「うちの子は勉強が苦手」「声をかけるほど嫌がる」そんな悩みを持つ保護者の方に向けて。
勉強好きは才能ではなく、日々の経験や家庭の空気で育つもの。永島先生に、家庭でできる関わり方を伺いました。

勉強が好きな子は「日常生活の中で学んでいる」

「勉強が好きな子」と聞くと、机に向かうのが苦ではない子、成績が良い子を思い浮かべるかもしれません。しかし、勉強に前向きな子どもには、もっと根本的な共通点があります。

それは、わからないことを嫌がらず、結果だけでなく「考える過程」そのものを楽しめること。そして、「前はできなかったことができるようになった」と、自分の成長を感じられることです。

こうした子どもたちは、「勉強する時間」と「普段の生活」が切り離されていません。気になったことをすぐに調べたり、「なんでこうなるの?」と考えたり、遊びの中で数や言葉に自然と触れたりと、学ぶことが日常の延長線上にあります。

反対に、勉強に苦手意識がある子は、「勉強=やらされるもの」「苦しいもの」という印象を持っていることがあります。だからこそ大切なのは、まず机に向かわせることよりも、「知るって面白い」「考えるって楽しい」と感じられる体験を、日常の中に少しずつ増やしていくことなのかもしれません。

永島先生ご提供。

勉強嫌いの原因は「できなかった経験」の積み重ね

勉強が好きになるか、苦手意識を持つようになるか。その分かれ道には、これまでの「できた」「できなかった」の積み重ねがあります。

「できた」「わかった」「楽しかった」。そんな経験が積み重なると、子どもの中に「勉強は面白いもの」というイメージが育っていきます。

一方で、「わからない」「できない」が続いたり、今の力に合わない難しい課題や長すぎる学習時間が続いたりすると、勉強は苦しいものになりやすくなります。勉強そのものが嫌いなのではなく、うまくいかない経験の積み重ねが、苦手意識につながっていることも少なくありません。

だからこそ大切なのは、その子に合った内容で「できた」と感じられる経験を増やしていくことです。たとえば、学年で区切るのではなく、一人ひとりの理解度に合わせて学べる教材は、「わかる」「できる」を積み重ねやすく、自信にもつながりやすいでしょう。

「できた!」の経験が、勉強へのイメージを変える

子どもが勉強を好きになれるかどうかは、日々の経験の積み重ねだけでなく、「勉強」にどんなイメージを持っているかにも大きく左右されます。ここでいうイメージとは、子どもが「勉強」と聞いたときに思い浮かべる印象のことです。

「楽しそう」「やってみたい」と感じる子は自然と勉強に向かいやすくなりますが、「苦手」「どうせできない」と思っていると、どうしても足が遠のいてしまいます。そのイメージを変えるきっかけになるのが、「できた!」という小さな成功体験です。

たとえば、「昨日はできなかった問題が今日は解けた」、「前より少し早く終わった」、「自分で考えて答えにたどり着けた」そんな積み重ねが、「勉強って悪いものじゃないかも」という気持ちにつながっていきます。

だからこそ、保護者が最初から難しいことをする必要はありません。できたことを一緒に喜ぶ、うまくいった過程に目を向ける、少し頑張れば届く課題を用意する。そうした日々の関わりが、勉強への印象を少しずつやわらかくしていきます。

親の表情や声かけが、勉強の空気をつくる

子どもが「勉強って悪くないかも」と思えるようになるかどうかは、家庭でどんな雰囲気の中で学んでいるかにも左右されます

たとえば、勉強のたびに親の表情が険しくなったり、「早くして」「なんでできないの?」という言葉が増えたりすると、子どもは勉強そのものに緊張感や苦手意識を持ちやすくなります。反対に、できたことを一緒に喜んでもらえたり、「ここまで頑張ったね」と過程を見てもらえたりすると、勉強への印象は少しずつ変わっていきます。

大切なのは、特別な声かけをすることではありません。笑顔で話しかける、うまくいったところに目を向ける、すぐに正解や結果だけを求めない。そんな日々の小さな関わりが、子どもにとっての「勉強の空気」をつくっていきます。

「あなたのため」が、子どものやる気を奪うことも

子どもに勉強してほしい、困らないようにしてあげたい。「そう思うからこそ、つい口を出してしまう」これは、多くの保護者にとって思い当たることかもしれません。

「あなたのためを思って言っているのに、どうして伝わらないんだろう」

そんなもどかしさを感じた経験がある方も少なくないはずです。けれども、その“よかれと思って”の関わりが、かえって子どものやる気を削いでしまうことがあります。

たとえば、「勉強しなさい」と強く言う、点数や順位ばかり気にする、失敗しないよう先回りする、ご褒美や罰で行動をコントロールする。どれも珍しいことではありませんが、続くと子どもは「勉強は自分のためではなく、親に言われてやるもの」と感じやすくなります。

本来、子どもは失敗や試行錯誤を重ねながら、自分なりの学び方を身につけていくものです。だからこそ、「子どものため」と思うときほど、一度立ち止まりたいところ。今の声かけや関わり方が、本当に子どもの力につながっているかを見直すことが大切です。

テストの点が悪いときは「何も言わない」選択も

テストの点が悪かったとき、つい「次は頑張ろうね」「ここはちゃんと復習しよう」と声をかけたくなるものです。でも、親のほうがショックを受けていたり、前向きな言葉がうまく出てこなかったりするときは、無理に何か言わなくてもいいのかもしれません。そんなときは、「そうだったんだね」と結果を受け止めるだけでも十分です。

すぐに原因を探したり、改善策を伝えたりするのではなく、まずは子ども自身が「次はどうしようかな」と考える時間を持てるようにすることが大切です。

親が先回りして答えを出してしまうと、子どもは自分で振り返る機会を失いやすくなります。だからこそ、すぐに言葉を足すよりも、あえて待つ。「何も言わない」「まず受け止める」という関わり方が、結果的に子どもの主体性につながることもあります。

親は先生ではなく「勉強を楽しくする演出家」に

家庭学習では、つい「ここはこう解くんだよ」「なんで間違えたの?」と、親が教えることに力が入りがちです。もちろん、必要なサポートは大切ですが、いつも親が答えを教える側に回ってしまうと、子どもにとって勉強が「評価される時間」になりやすくなります。

そこで意識したいのが、親は「教える人」というより、「勉強を楽しくする演出家」になることです。大切なのは、完璧に教えることではなく、「今日はちょっと楽しくできたね」と思える時間をつくること。勉強を“やらせる時間”ではなく、親子で前向きに向き合える時間に変えていくことが、学びへのハードルを下げるきっかけになります。

勉強を楽しい時間に変えていくために、家庭で意識したいポイントは次の3つです。

1. 遊びと勉強の境界線をなくす
2. 熱中できる環境を整える
3. 親も一緒に勉強を盛り上げる

1. 遊びと勉強の境界線をなくす

「遊びと勉強の境界線をなくす」とは、勉強を「やらなければいけないもの」として切り分けるのではなく、遊びや日常の延長として学びに触れられる状態をつくることです。

たとえば、子どもの好きなものを入り口にしてクイズにしたり、ゲーム感覚で取り組んだりするだけでも、「もっと知りたい」「もう少しやってみたい」という気持ちは生まれやすくなります。勉強だけを特別なものにせず、生活や遊びと地続きにしていくイメージです。

一方で、ゲームやYouTubeなど、集中を途切れさせやすいものとの距離を見直すことも大切です。また、勉強をきっかけに親子ゲンカにならないよう、「指摘はしすぎない」「怖い顔で見ない」など、親自身が関わり方のルールを決めておくのもよいでしょう。

もちろん、子どもに楽をさせるという意味ではありません。勉強を“我慢の時間”にしすぎず、「学ぶって意外と面白いかも」と思える入り口を増やしていくことが大切です。

2. 熱中できる環境を整える

子どものやる気は、気持ちだけでなく「環境」に大きく左右されます。「勉強しなさい」と声をかける前に、まずは勉強を始めやすい環境になっているかを見直すことが大切です。

たとえば、勉強机をリビングなど目の届く場所に置く、生活リズムを整える、「まずは1ページだけ」「1分だけ」と小さく始めるなど、取りかかるハードルを下げる工夫があります。ゲームやYouTubeなどのデジタル機器も、使う時間を親子で話し合って決めておくとよいでしょう。

「頑張らせる」より先に、「始めやすい」「続けやすい」環境を整えること。それが、勉強への前向きな気持ちを育てる土台になります。

3. 親も一緒に勉強を盛り上げる

家庭学習では、親が「教えなきゃ」と頑張りすぎてしまうことがあります。でも、親の役割は、いつも正しく教えることだけではありません。勉強を少し楽しく感じられるように、雰囲気をつくることも大切です。

たとえば、クイズ形式にしてみる、タイマーを使ってゲーム感覚で取り組む、いつもと違う場所で勉強してみる。そんな小さな工夫でも、勉強の印象は変わります。特別な教材がなくても、「今日はどうしたら少し楽しくできるかな」と考えるだけで十分です。

大切なのは、完璧に教えることより、「今日は前より前向きに取り組めたね」と思える時間を増やしていくこと。親が少し視点を変えるだけで、勉強は“やらされるもの”から、親子で向き合える時間に変わっていきます。

算数好きな子は、正解より「考えること」を楽しんでいる

ここまで、子どもが勉強に前向きになる関わり方について見てきましたが、読者の関心が高い「算数」についても、気になる方は多いのではないでしょうか。

算数が好きな子に共通しているのは、正解を急ぐよりも、「どうしてこうなるんだろう」「別のやり方はあるかな」と、考えることそのものを楽しめることです。間違えることを過度に怖がらず、試行錯誤しながら取り組める子ほど、算数に前向きになりやすい傾向があります。

また、算数は机の上だけで育つものではありません。時計を見て時間を計算したり、買い物で割引を考えたり、料理で量をはかったりと、日常の中にも算数につながる場面はたくさんあります。そうした体験を通して、「数って身近なんだ」「考えるのって面白い」と感じられることが、算数への親しみにつながっていきます。

算数好きに必要なのは、「センス」より前向きなイメージ

「算数が得意になるには、やっぱりセンスが必要なのでは」と感じる保護者もいるかもしれません。もちろん得意・不得意の個人差はありますが、それ以上に大切なのが、子ども自身が算数にどんなイメージを持っているかです。

「なんだか面白そう」「もう少し考えてみたい」と思える子は、わからない問題に出合っても、すぐにあきらめずに向き合いやすくなります。反対に、「難しい」「どうせできない」という印象が強いと、それだけで算数から距離を置きやすくなってしまいます。

だからこそ大切なのは、正解したかどうかだけでなく、「自分で考えられた」「前よりわかるようになった」と感じられる経験を積み重ねること。そうした積み重ねが、「自分にもできそう」という前向きな気持ちを育て、算数に向かう力につながっていきます。

ゲームは悪者にせず、家庭でルールを決める

ここまで、勉強や算数に前向きになるための関わり方を見てきましたが、保護者の悩みとしてよく聞かれるのが、「ゲームや動画ばかりで勉強しない」という問題です。

ゲームには、試行錯誤したり、作戦を考えたりする面白さがあります。一方で、長時間続くと、読書や運動、家族との会話など、ほかの経験の時間が減ってしまうこともあります。

大切なのは、ゲームを一方的に悪者にするのではなく、家庭での付き合い方のルールを決めることです。たとえば、遊ぶ時間を決める、オンラインゲームの約束をつくる、「ゲーム機は親が貸しているもの」と共有するなど、親子でルールを確認しておくとよいでしょう。

ゲームを完全になくすことが目的ではありません。子どもの様子を見ながら、勉強や生活とのバランスを一緒に整えていくことが大切です。

「うちの子は勉強が苦手」と決めつけない

「うちの子は勉強が苦手だから」と感じることがあっても、それをそのまま子どもの“性質”として決めつけないことが大切です。子どもの学ぶ意欲は、体調や機嫌、そのときの課題の難しさ、親の声かけによっても変わります。

だからこそ意識したいのは、「この子は勉強が苦手かどうか」ではなく、「どうすれば、この子が少しでも楽しく学べるか」という視点です。課題を少しやさしくしてみる、声のかけ方を変えてみる、頑張りを一緒に喜ぶ。そんな小さな工夫の積み重ねが、子どもの「やってみようかな」という気持ちにつながっていきます。

永島先生ご提供。

子どもをよく見て、「あれ?」と思ったらすぐ変える

子どもが自ら学ぶ力を育てるうえで大切なのは、その子をよく観察することです。何を楽しんでいるのか、どこでつまずいているのか、勉強を苦しそうにしていないか。子どもの様子を丁寧に見ることで、その子に合った関わり方が見えてきます。

そして、「少し難しすぎるかも」「このやり方は合っていないかも」と感じたら、そのままにせず、教材や勉強時間、声かけの仕方を見直してみることも大切です。必要なら、親の関わり方を変えたり、「ごめんね」と謝ったり、学校や専門家に相談したりしてもかまいません。

親が少し関わり方を変えるだけで、子どもの学びやすさは変わります。できることから少しずつ整えていくことが、子どもの「学ぶって面白いかも」を育てる第一歩になるはずです。

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お話を聞いたのは

永島瑠美 ナガシマ教育研究所代表。中学受験ラボ代表。

一般社団法人勉強法アドバイザー機構代表理事。東京大学教育学部卒、教育学修士。学習塾・学童保育、発達支援教室を運営し、教育学の研究と現場での実践を両立。これまでに1,000人以上の子どもの指導、延べ2,000人以上の保護者から学習・受験・子育ての相談を受けてきた。4児の母。著書に『東大でとことん教育を学んでわかった!勉強にハマる子の育て方大全』(青春出版社)。

取材・文/RISU

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