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実は国内だけで200種類以上も! ヤドカリってどんな生き物?
知っていると思い込んでいるけれど実はよく知らない、カタツムリに似た存在
――ヤドカリは「貝殻を背負って歩く生き物」というイメージが定着しています。一方で、それ以上のことはあまり知られていないように感じます。実際のヤドカリは、どのような生き物なのでしょうか。
有馬さん:ヤドカリは、すごく有名なんですよね。子どもから大人まで、「絵に描いてみて」と言われたら、なんとなく描けるくらいには知られている。でも、「ヤドカリの種類をいくつ言える?」と聞くと、答えられる人はまずいません。すごく不思議な立ち位置の生き物なんです。みんな「ヤドカリ」という大きなくくりで知っていて、もう全部知ったつもりになっている。
――言われてみれば、そうかもしれません。ご著書を拝読して、ヤドカリが国内だけで200種類以上もいることに驚きました。
有馬さん:似たような生き物に、カタツムリがいます。カタツムリもみんな絵に描けるくらい知っていますが、「〇〇カタツムリ」という名前の生き物は一匹もいなくて、正式には「〇〇マイマイ」という名前です。何百と種類がいて、ひとつも名前が分からなくても、みんなカタツムリのことは知っている気でいます。
ただ、カタツムリは都会のコンクリート壁にもいるので実物を見る機会がありますが、ヤドカリは海沿いの人しか見たことがないはずです。内陸の人は実物を見たことがないかもしれないのに、日本中の人が知っている。親が詳しいから子どもに教えているというわけでもない。本当に不思議ですよね。
私も新種のヤドカリを数種類発見していますが、ヤドカリの世界は未知数なので、今後ヤドカリに興味を持ったお子さんが、これからでも新種を発見できる可能性は大いにありますよ。

エビでもカニでもない「異尾類」。タラバガニもその仲間!
――ヤドカリは、そもそも何の仲間なのでしょうか? エビやカニに近いイメージがあります。
有馬さん:多くの方がそう思っているのですが、ヤドカリはエビでもなければカニでもないんです。「異尾類(いびるい)」という、その中間のグループに分類されます。皆さんがいちばんよく知っている異尾類の仲間は、実はタラバガニなんですよ。
――えっ、タラバガニはカニじゃないんですか?
有馬さん:はい。今度見る機会があったら脚を数えてみてください。ハサミを入れても左右に4対ずつしかありません。カニなら5対ありますから。ヤドカリも、貝殻から出ている脚は3対だけですよね。
――本当ですね。他に特徴はありますか?
有馬さん:他の生き物の死骸、つまり貝殻を利用して生きているという点も、他の生き物にはない大きな特徴です。だから、ヤドカリの個体数は、元になる貝の数を絶対に超えることはありません。おなかがむき出しの状態では、すぐに他の生き物に食べられてしまいますから。
陸にいるのにエラ呼吸? オカヤドカリの不思議
――ヤドカリには、海の中だけでなく陸上で暮らすオカヤドカリもいますよね。

有馬さん:オカヤドカリはさらに不思議な生き物です。陸にいるのに、肺呼吸ではないんですよ。空気中の酸素をエラから取り込んで呼吸していると言われています。ですから、水に長く入っていると溺れて死んでしまいます。
でも、卵を産むときは海に入りますし、子どもは海の中で育ちます。幼生時代を海で過ごし、陸に上がってくるときにオカヤドカリになるんです。
陸上は水中に比べて圧倒的に貝殻の数が少ないので、オカヤドカリはもっと不自由です。だから、空き缶やペットボトルのキャップを背負っている個体が見られることもあります。
メスをハサミでつかんで引きずり回す!? 驚きの求愛行動
――ヤドカリの習性で、とくに面白いと感じるのはどんなところですか?
有馬さん:「交尾前ガーディング」と呼ばれる行動は、とてもユニークだと思います。これは、産卵を控えたメスを、オスが他のオスに取られないようにキープし続ける行動です。
これが種類によって様々で、とても面白いんです。ある種類は、オスがメスの入った貝殻をハサミでがっしりつかんで、引きずり回すように持ち歩きます。

――メスが嫌がったりすることはないんですか?
有馬さん:メスが嫌がっても、オスのほうが体が大きいことが多いので逃げられません。他にも、メスの貝殻の上に自分の貝殻を乗せてガードする種類や、メスの長い触角をずっとつかんでいる種類もいます。人間に例えると、髪の毛をつかんで連れ回しているようなものですね。
――人間に例えると物騒すぎますね(笑)。
有馬さん:甲殻類に見られる行動ではあるのですが、貝殻ごとメスを確保するというのはヤドカリならではの光景で、非常に興味深いと思います。
ヤドカリを見つけにいこう! おすすめの季節と場所は?
磯遊びでヤドカリを見つけるには?

――夏休みに磯遊びでヤドカリを見つけて、そのまま「飼いたい」というお子さんもいると思います。初心者でも飼育はしやすいのでしょうか。
有馬さん:オカヤドカリは飼育しやすいと思います。ただ、オカヤドカリの仲間は全て国の天然記念物に指定されているので、その点は注意が必要です。
――勝手に捕獲してはいけないんですよね。
有馬さん:はい。もともとは小笠原諸島のオカヤドカリが指定されたのですが、その後沖縄が返還された際に、そこに生息する種類も全て含まれることになりました。個人的に捕まえてきて飼育する分には恐らく問題ないと思いますが、販売目的で捕獲すると罰せられます。希少な種類もいるので、乱獲は絶対に避けるべきです。
――では、海のヤドカリはどうでしょう。
有馬さん:磯で捕まえられるヤドカリは、天然記念物ではないので持ち帰っても大丈夫です。潮が引いた後のタイドプール(潮だまり)のような劣悪な環境にも耐えられるので、非常に丈夫ですよ。ただ、飼育するには人工海水を用意して、塩分濃度を管理する必要があるので、オカヤドカリよりは少しハードルが上がります。

――ヤドカリを探すのにおすすめの場所や季節はありますか?
有馬さん:ヤドカリは一年中いますが、探しやすいのは春ですね。春は一年で最も潮の干満差が大きく、とくに大潮の日は昼間に大きく潮が引くので、磯遊びには最適です。場所は、砂浜よりも岩場のある磯がおすすめ。岩のくぼみにできたタイドプールをのぞいてみてください。取り残されたヤドカリがたくさん見つかるはずです。
磯遊びで気をつけること
――親子で磯にヤドカリを探しに行く際に、気をつけるべきことはありますか?
有馬さん:まず、安全装備は万全にしてください。磯は非常に滑りやすいので、フェルト底の滑らない靴は必須です。岩場で手をつくことも多いので、子どもは軍手などを着けたほうが安全です。

――服装以外に注意点はありますか?
有馬さん:タイドプールには、ヤドカリ以外にも様々な生き物がいます。中にはヒレに毒針を持つ魚や、ガンガゼのような危険なウニがいることもあります。また、岩に付着しているフジツボやカキの殻は鋭いので、手などを切らないように注意が必要です。
そして最も重要なのが、潮の満ち引きです。大潮の日は潮が引くのも速いですが、満ちてくるのもあっという間です。夢中になっているうちに帰り道がなくなってしまう危険もあります。必ず事前にインターネットなどで干潮・満潮の時刻を調べて、潮が満ち始める前には浜に戻るようにしてください。
ヤドカリを飼うには? 用意するものや注意点など
オカヤドカリと海のヤドカリで用意するものは変わる
――飼うときは、まずは何を用意したらいいですか?
有馬さん:水槽と砂、それと海のヤドカリであれば海水ですね。海水は人工海水のもとが売られているので、それを使うと簡単に作れます。金魚などの水槽に入れるようなエアレーションポンプも用意するといいと思います。
オカヤドカリの場合は海水は必要ないですが、砂は湿らせ、入っても溺れないくらいの器に常に水をいれておいてやるといいでしょう。砂に隠れる習性があるので、完全に体を隠せるくらいの深さまで砂を入れてください。
隠れられるものを用意してやると、ヤドカリが落ち着けるかもしれません。


貝殻はいつ替える? 餌は何を食べているの?
――ヤドカリといえば「引っ越し」ですが、どんなタイミングで貝殻を替えるのでしょうか。
有馬さん:気に入った貝殻が見つかれば、いつでも替えます。ただ、ヤドカリは貝殻に対するこだわりが非常に強いんです。水槽にいくつか貝殻を入れてあげても、なかなか替えないことがあります。それは、その貝殻が気に入らないからです。
海で観察していても、新しい貝殻を見つけると、ハサミや脚を使って入り口の大きさや中の様子を念入りに調べた上で、結局替えずにどこかへ行ってしまうこともよくあります。たくさん貝殻を置いてあげるといいですよ。

――面白いですよね。餌は何を食べているのでしょうか。
有馬さん:ヤドカリは基本的に雑食で、磯や海岸の「お掃除屋さん」です。打ち上がった動物の死骸などを食べて、自然をきれいにしてくれる大切な役割を担っています。
――家庭で飼育する場合、何をあげたらいいですか?
有馬さん:雑食なので割となんでも食べるのですが、金魚の餌のように「ヤドカリの餌」も販売されていますので、それをあげれば間違いないです。それと、オカヤドカリはポップコーンが大好きですね。
――確かに、ヤドカリ釣りの際は、ポップコーンで釣り上げました。
有馬さん:そうですよね。できたてのポップコーンを置いておくと、においにつられて出てくることもあるほど、本当に大好物のようです(笑)。ただ、塩分が多いのであげすぎはよくないかもしれませんね。煮干しなどもよく食べます。
海のヤドカリの場合は、魚用の乾燥エビ(クリル)などをあげるといいでしょう。水槽に生えたコケや、魚と一緒に飼っていれば魚のフンも食べてくれるので、水槽の掃除役としても活躍します。
――脱皮もしますよね。しばらく餌も水も減らないな…と思うと大体、脱皮しています。

有馬さん:そういうものです。数か月に1回くらい脱皮しますが、そのときは食欲が落ちますし、砂に潜っています。掘り起こしたりせず、そっとしておいてやりましょう。
親子で観察するなら? 静かで奥深いヤドカリの世界
――ヤドカリを飼育する上で、観察のポイントはありますか?
有馬さん:まず大前提として、ヤドカリは基本的に夜行性で、動きも活発ではありません。昼間は砂に潜ったり、物陰に隠れたりしていることが多いです。
――うちのオカヤドカリも、ほとんど姿が見えません。
有馬さん:そういうものなんです。だからこそ、「気長に待つ」ということが観察の最大のコツになります。夜になると、意外なほど活発に動き回っていますよ。
――朝、水槽の砂がボコボコになっていると、夜の間に大冒険をしたのかな~と思います。

有馬さん:そう思うと、愛おしくなりますよね。
水中で飼っていると、高いところに登りたがる習性が見られることもあります。水槽の隅をよじ登って、水面から出たところでポチャンと落ちる、なんてことを繰り返したり。何がしたいのか分かりませんが(笑)、見ていて飽きません。
複数で飼っていると、個体間の力関係のようなものが見えてくることもあり、小さな生き物の社会を垣間見ることができて面白いですよ。
――共食いはしないんですか?
有馬さん:死んでしまったら死骸を食べることはありますが、生きているうちは共食いしないです。貝殻があるので、万が一襲われそうになってもすぐに貝の中に逃げられますしね。
命の不思議さと向き合う、またとない機会に
――最後に、ヤドカリの観察や飼育を通して、子どもたちはどんなことを学べると思いますか?
有馬さん:ヤドカリは、エビでもカニでもなく、貝殻という全く別の生き物に合わせて自分の体を右に曲げるように進化してきた、本当に謎めいた生き物です。その姿を通して、生き物の多様性や進化の不思議さを感じてもらえると思います。
――命について考えるきっかけにもなりそうですね。
有馬さん:そうですね。ヤドカリは飼いやすいので、昆虫などと同じように、少し軽い気持ちで飼育を始められるかもしれません。だからこそ、死んでしまったときに「あ、死んじゃった」で終わらないよう、一つの命として向き合うことが大切です。夜中にガサガサ動く音を聞いたり、餌を食べる姿をじっと観察したりすることで、愛着が湧いてくるはずです。オカヤドカリは、上手に飼えば15年くらい生きると言われています。

――ヤドカリに興味を持った親子へ、メッセージをお願いします。
有馬さん:ヤドカリはとても魅力的な生き物です。もし磯で見つけたら、手に取るとすぐに貝殻に隠れてしまいますが、焦らず、せかさず、彼らが安心してお顔を出してくれるまで、気長に待ってあげてください。ゆっくりと待つ時間そのものを楽しむことで、小さな生き物が見せてくれる奥深い世界に、きっと夢中になると思います。
お話を聞いたのは
1975年5月18日生まれ。日本大学生物資源科学部時代にダイビングを始め、大手ダイビングショップにてアルバイトという名の丁稚開始。卒業後、伊豆大島へ渡り、修行後、NAUIインストラクターを取得。2011年「伊豆大島ダイビングセンター」を設立。その後、PADIインストラクターにクロスオーバー。
魚はもちろん、エビ・カニ・ヤドカリ・貝類等の生物の分類知識は豊富。広く深くをモットーに生物を日々勉強を重ねている。
NHK『ダーウィンが来た!』で伊豆大島のヤドカリを紹介した際には、約一か月かけて撮影に尽力。その他、各種メディアにて取材協力を行っている。
著書に『ネイチャーウォッチングガイドブック ヤドカリ』(2014年、誠文堂新光社)。
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