【算数障害】「がんばればいつかできる」とは限らない。算数障害の子は20以下の数に親しみ、「わかった!」を積み重ねよう

「算数が苦手すぎる」場合は、もしかしたら背景に「算数障害」があるのかもしれません。発達障害のひとつとして、小学校のクラスに1~2人はいるといわれる「算数障害」。計算がうまくできなかったり、算数の文章題がお手上げだったり……。保護者が頭を悩ませる以上に、本人がつらい思いをしているようです。早く気づいて適切に支援をすると、スムーズに学習できる可能性も高いとか。後編では、大学の研究者で、実際に算数障害のお子さんの臨床にも携わる山本ゆう先生に、算数障害の子の学習方法について聞きました。

前編はこちら

「うちの子、算数がすごく苦手」…もしかして【算数障害】かも?発達障害のひとつで、クラスに1~2人いる学習障害とは
発達障害の中の学習障害のひとつが「算数障害」 ――あまりなじみのない「算数障害」、これはいったいどういうものですか? 山本先生...

算数障害のある小学生には、「親は教えない」ほうがいい?

――小さな集合の数も1から数える、数字の大小がうまくつかめていない、指を使って計算している、筆算が理解できない、九九を覚えられない……。これだけで「算数障害」とは限らないといいますが、発達障害かも、と思うと保護者は心配です。このまま様子を見ていていいのか、親がしっかり算数を教えたらいいのか迷います。

山本先生 まずは、お子さんが算数に取り組む様子をしっかりと観察してください。宿題はひとりでできているか、答えを写してしまっていないか、3年、4年になっても指を折って計算していないか、どんな間違い方をしているか……。その観察が、算数障害かどうかのヒントになります。

勉強そのものをおうちでフォローしてあげるのはおすすめしません。

よく、算数が苦手なお子さんと宿題をいっしょにやって提出する保護者の方がいます。でも、親が教えてできた宿題を黙って出してしまうと、先生は「この子、できるんだ」と思ってしまう。なのに授業中はできないとなると、「家ではできるのに」「学校ではサボっているの?」と思われてしまうこともありますし、与えられた課題が教室内でできず、みんなの前で孤独感を感じ、よけいに傷つくことも考えられます。

保護者の皆さんががんばっていらっしゃることは素晴らしいですけれど、がんばる方向性を変えて、学校と連携していくようにしましょう。

算数を教えるのは、プロフェッショナルである学校の先生。なので、先生に子どもの様子や困っている内容などをお伝えすることが大事です。先生とよくコミュニケーションをとって、本人にふさわしい学習環境を整えてあげましょう。

通常の学級で難しければ「通級で学ぶ」ほうが本人も安心できるかも

先生の中には算数障害になじみがなく、「やればできますよ」「もう少しがんばれば……」とおっしゃる方も残念ながらいますが、その場合は、保護者の方の観察内容をより具体的に伝えて、その深刻さをわかってもらいます。担任の先生の理解があまり得られないと感じたら、学習支援の担当の先生やスクールカウンセラー、教頭・校長先生などに相談するという方法もあります。

――通常の学級では難しいとなったら、特別支援学級に行くということですか?

山本先生 フォローの内容と方法も先生方と相談します。通常の学級の中での支援だけではなく、通級による指導を利用するのがよい、という場合もあります。通級による指導とは、「通常の学級に在籍し、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする児童生徒に対して、障害に応じた特別の指導を行う指導形態」です。つまり、通常学級に在籍しながら、週1〜8時間(年間35~280時間)、別室で少人数や個別で支援の手厚い学習をする仕組みです。算数の授業は通級に行ったほうが本人も落ち着く場合も多いと思います。本人ともよく話し合ってください。

――通級指導教室に通うのなら、算数障害かどうかの検査を受けないといけないですよね?

山本先生 学校の先生や自治体は「医師の診断がいります」と言う場合もありますが、学習のつまずきがあり、認知能力のアンバランスがあって通常の算数の授業についていけないということが明らかなら、診断や検査は必須ではありません。

ただ、認知能力のアンバランスを理解して、その後の支援に活かすために、学校から「医療に相談してみたらいかがですか」と言われることもあります。そんなときには、どの病院に行ったらいいのかわからない場合は、これまで学校が連携してきた病院を教えてもらうことはできます。教育委員会に心理士がいて検査をしてくれるようなところもあります。

――子どもは、通常のクラスから通級に行ったり、病院などで検査を受けることで、ショックを受けたりしないでしょうか。

山本先生 ショックはあるかもしれません。しかし、これまでぜんぜんわからなかったことにもコンプレックスや悩みがあったと思います。「自分に合ったスタイルで学んだほうがいいんじゃないかな」って明るく言ってあげてください。「わかる」と思えるようになり、成果が出れば前向きになっていきます。私が実際に支援して、算数の理解が進んできた子は、最近、ほかの子をスカウトするようになりました。「あなたもできるようになるよ!」って応援したいんだと思います。

お風呂で数を数えたり、おやつを分けたりするのも「数を理解する」きっかけに

――未就学の場合や、もう少し大きい子でも、前編で説明いただいた「数処理」「数概念」(三角形の土台の部分)の理解がいまひとつと感じる子はいます。そういう子のために、生活のなかで何かできることはありますか?

山本先生 数の順番や量などを理解するためには、日常生活の中で数に触れるのがいいですよね。昔は小さな子でも小銭を持って駄菓子屋でほしいものをよく買いました。10円とか30円で何が買えるのかリアルに知ることができましたが、今は大人さえもお金自体を持たずに生活する人も多く、実感しにくいですね。

でも、お金を扱わなくても、一緒にお風呂に入ったときに、お風呂でお湯につかりながら「30数えるまでつかろうか」と声をかける。数を30数えて温まった経験を持ち、「50まで行こうか」と言ったら、「50では長すぎて暑くなるからいやだ」と暑さの感覚で数の量がわかります。「ドーナツ、いくつ食べる?3個は多いよね、2個にしとく?」というのでも、数量の多い少ないを理解することができます。

「数処理」でいうと、ウサギと象、体の形も大きさも違うけれど、たとえば「3匹」であることには変わりありません。この感覚がわからない子もいるのです。「3」という抽象化した記号でとらえたら、数の分類でいけば同じだと、理解してもらわなければなりません。

小学校1年生の教科書では、これが理解できるような学習があるんです。いろんな動物の絵が描かれていて、その上にタイルをのせていくんです。「ウサギの上にタイルをのせてみましょう」って、タイルを5個並べて5匹のウサギの上にタイルをのせる。それを回収して、「今度は象の絵の上にタイルをのせましょう」って5個のタイルをのせると、ウサギ5匹も象5匹も同じ「5」だとわかるのです。

――なるほど。でも、すぐにうまく理解できない子もいそうですよね……。

山本先生 そうなんです。小学校ではこうした数処理や数概念を学ぶ時間が本当に短い。そして、「さあ、もうわかったよね」と進んでしまった場合だと、置いて行かれる子もいるんです。オーストラリアでは、1年生の前の準備学年というのがあって、数について丁寧にやるんです。そして「数処理」と「数概念」がしっかり理解できてから、1年生で計算を扱うのです。日本は算数についてはスパルタだなあと思います。

――算数に自信のない子は、どのような学習コンテンツを使ったらいいでしょうか。

山本先生 たとえば、筑波大学人間系名誉教授・熊谷君子先生と共に開発したトレーニングアプリ『マスルド』は、数処理や数概念、20以下の+-や九九の範囲の×÷の計算を、遊びながら学べるものです。キャラクターが動くような、ゲーム感覚で、勉強しているという感覚があまりなく自学できます。

ゲーム感覚で答える中で、算数の基礎的な力のスクリーニングもでき、どういうところでつまずいているのか、どこから学習をスタートさせればいいのかがわかります。小学1年生から6年生を対象に作成されていますが、就学前のお子さんにも使えますし、中学生でも使っている子がいます。

現在、ベータ版のお試し運用をしている最中で、2027年3月までは無料でお使いいただけます。アプリをインストールしなくても、WEBで使えます。

また、認知能力に凸凹があっても学びやすい九九の教材「くくモン!」を2026年11月に発売します。そういったコンテンツを活用いただくのもひとつの方法です。

――算数障害がある子が大人になったときは、どうなるのか、それも心配です。

山本先生 今は計算機やExcelで仕事をするのが当たり前です。AIも活用できますしね。それらが使いこなせるなら、仕事は十分できます。算数障害がありながら、会社で財務の仕事をされている人もいますよ。日常的に時間の計算や、お買い物するときに、お金の計算で困ることはありますが、逆に大きな計算はツールを活用するのであまり問題がない、という場合もあります。読み書き障害があってもパソコンがあれば書類が作れるしメールも打てる、というのと同じことです。

でも、学齢期にしっかりと支援を受けて、簡単な暗算ができれば、時間管理や買い物のときにスムーズですし、QOLも高まります。やはり早く気づいて適切な支援をしてあげてほしいですね。

――わが子が算数障害だとわかったら、保護者もショックを受けるでしょう。でも、本当に大変なのは子どもです。その子に合った支援を受け、「できた」という体験を増やして、学ぶことの楽しさをその子の目線に合わせて授けてあげたいですね。

お話を聞いたのは

山本ゆう 先生 算数障害 研究者

松本大学教育学部学校教育学科専任講師。筑波大学大学院人間総合科学研究科障害科学専攻博士後期課程在籍。修士(特別支援教育学)(筑波大学)修士(学校教育学)(兵庫教育大学)。公認心理師。特別支援教育士スーパーバイザー。小学校教員経験、医療機関や教育委員会での心理士としての職歴を経て、現在に至る。発達障害のある子どもの臨床に携わりながら研究をすすめている。

熊谷恵子筑波大学人間系名誉教授と共著で『通常学級で役立つ算数障害の理解と指導法』『算数障害スクリーニング検査』(ともにGakken)がある

この記事を書いたのは

三輪泉 ライター

インタビューを中心に教育、子育て、医療、介護、食などのテーマで WEB・雑誌・書籍などの記事を執筆。お話を伺う方にたくさんの学びをいただいています。社会福祉士、法定成年後見人、中学校・高等学校教諭一種免許状、生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)

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