生活の中に数字はあふれている
――実生活に結びつけた教え方をしたいと思っても、家庭で実践するのは難しいと感じる保護者が多いようです。日常で気軽にできる「算数トーク」のヒントはありますか?
横山先生:無理に教えようとせず、生活の中にあふれている「数字」そのものを会話の話題にすることです。例えば、ニュースで降水量を見て「この雨の量ってすごいよね」と話したり、栄養ドリンクの『タウリン1000mg』を見て「1000ってすごそうだけど、グラムに直すと1gだから意外と少ないね」と捉えてみたり。
――なるほど。日常に出てくる数字を、もう一歩深掘りして一緒に楽しむわけですね。
横山先生: そうです。ドライブ中に「あと10kmだから時速60kmで進んでいるからあと10分で着くよ」と話したり、日付を見て「9月30日は月も日も3の倍数だね」なんて話でもいい。料理で無理に割合を計算させようとする必要はありません。もっと手前の「数字」を題材にして、気軽に雑談することから始めてみてください。
――買い物で「200円の3割引はいくら?」と聞くような、つい「勉強モード」を出してしまう声かけは逆効果でしょうか?
横山先生:正直に言うと、言っている親御さん自身がその計算や値段に興味を持っていないと、子どもには全く響きません(笑)。「ほら、勉強になるでしょ?」という下心があると、子どもは「あ、問題が出された」と身構えてしまいます。「買い物に行ったらまた計算させられる……」と敬遠される原因にもなってしまいますよね。
――では、子どもの好奇心を刺激して「やってみたい!」と思わせる声かけや関わり方のコツはありますか?
横山先生: 親自身が「心の底から面白がっている姿勢」を見せること、そして「本当に困って子どもを頼る」ことです。例えば「この商品とあの商品、どっちがお得か本気で比べたいんだけど、計算がややこしくて困っちゃった! 助けて!」と本気で子どもを巻き込む。
親が出題者、子どもが解答者という「採点する関係」になるのではなく、親が本気で興味を持ったり困ったりしている姿を見せることで、子どもも「よし、一肌脱いでやるか」「問題がきた!」とワクワクして乗ってきてくれるようになりますよ。

親も教科書を覗いてみよう!
――大人が自分が習った頃の記憶やさくらんぼ計算などの解き方と違って戸惑うこともあります。
横山先生:時間があるときに、ぜひ一度お子さんの教科書を覗いてみてください。20年前、30年前よりも細かい工夫が増えていて大人が読んでも本当に面白いんです。ちなみにみんな勘違いしがちな「x」や「y」が出てくるタイミングは中学生じゃなくて小学6年生なんです。「あれ、この話題ってこの学年で出てくるんだ!」なんて、ママ・パパ友会や家族の話題にするだけでも世界が広がりますよね。
――たしかに大人が読んでも発見がありそうですね。ただ、教え方が変わっていると「親が変に教えると子どもが混乱するのでは?」と関わり方に迷う声も多いです。
横山先生:そうなんですよね。だからこそ、大前提として「学校の算数がすべてではない」というスタンスを持つことが大切なんです。学校の先生方はクラスの多くの子どもたちに意味がある指導法をやっていますが、全員に完璧に合う方法ばかりではありません。
親が「教える側」「正解を判定する管理側」というポジションに固定されてしまうと、子どもは評価される圧迫感を感じて嫌になってしまいます。

――教えこもうとすると親子ゲンカにもなりがちですが、どのようなスタンスで関わるのが理想的ですか?
横山先生:ビジネスのマネジメントと同じように、親も「上司」になったり「同じパートナー」になったり、立場を変えられることが円滑な関係を作るカギになります。教えるのは学校や塾に任せて、親は「一緒に楽しむ伴走者」でいいんです。
子どもが好きな歴史やお城の話があるなら「お母さんはよくわからないから教えて」とちゃんと話を聞いてあげたり、全国のお城巡りに付き合ってあげたりする。完全な自己犠牲ではなく、親自身も一緒にハマって楽しんでいるご家庭の子どもは、親の話もよく聞きますし、いきいきと学んでいます。子どもがわからない問題があったら「この問題、難しいよね。お父さんも考えるから、一緒に悩もうか」と寄り添う。親が「味方でいてくれる」「見捨てないでいてくれる」という信頼感こそが、子どもの学びを支える土台になりますよ。
低学年からの「図形遊び」は算数嫌いを防ぐカギ
――小学生が特につまずきやすい単元や、低学年のうちにやっておいたほうがよいことはありますか?
横山先生:割合や小数・分数などの「目に見えない数」と「図形」「文章題」です。特に伝えたいのは、小学1・2年生のうちから「図形」に触れておいてほしいということです。
――学校のカリキュラムだと、図形は学年が上がってから本格化しますよね。
横山先生:そうなんです。学校のカリキュラム上、かけ算を習うまでは面積などの単元を扱えませんが、視覚的には低学年でも十分に図形を楽しめます。マス目上に斜めに線を引いた直角三角形のパネルを組み合わせて正方形を作るようなパズルは、1・2年生でも直感的に理解できるはず。
学校で扱わない2年間、何もせずに放置してしまうと、低学年から図形に親しんできた子と大きな差がついてしまい、3年生以降で図形が出てきたときに苦手になってしまう可能性が高くなってしまいます。
――具体的にはどのような教材や遊びで触れるのがおすすめですか?
横山先生:プリント学習である必要はありません。折り紙やブロック、タングラムなどで遊んでおくだけで、頭の中で立体や図形を動かすイメージ力が自然と養われます。タングラムは、1つの正方形を7つのピースに切り分け、それらを組み合わせて指定されたさまざまな形を作るパズルゲームです。年中から小学6年生、さらには大人までいくらでも問いかけを作って遊べますよ。
僕自身も幼少期にロボット作りやパズルで散々遊んでいたからこそ、平面だけでなく立体で物を動かす感覚が自然と身につきました。低学年のうちに「遊びの体験」として図形に親しんでおくことが、将来の算数への苦手意識を防ぐことにつながります。
「なんで算数を勉強するの?」の裏にある子どものサイン
――子どもから「なんで算数なんて勉強しなきゃいけないの?」と聞かれたら、どう答えるのがよいでしょうか?
横山先生:この質問が出るときは、本当に理由を知りたいというよりも、勉強に疲れていたり、成績が下がって自信を失っていたりする「ヘルプサイン」であることが多いです。まずは「疲れているんだな、頑張っているんだな」と気持ちを受け止めてあげてください。
――弱音を受け止めたうえで、横山先生ならどんなアドバイスをされますか?
横山先生:伝えるなら、「算数や数学を学ぶと、世の中の仕組みを理解したり、自分の作りたい世界やゲームを作れる側に回れるよ」ということです。
世の中のルールやゲームを与えられてただ時間を消費する側で生きるのも一つの人生ですが、数学を知っていると「どういう仕組みで動いているのか」がわかり、さらには自分で新しいゲームやルールを作り出す側に回ることができます。
実際、僕たちmath channelが運営している「算数探究STEAMゼミ」というクラスでも、3年生から6年生までが同じ空間で学び、時には複雑なテーマや難解な疑問に講師と子どもたちが本気で向き合っています。数学を通して「知的な空間で深める楽しさ」を知った子どもたちは、「なんで勉強するの?」とは聞いてきません。社会の構造を知り、自分の世界を広げるためのツールの一つが数学なんだよ、と伝えてあげるといいのではないでしょうか。
「苦手」を無理に「好き」にしなくてもいい
――子どもから「私、算数苦手だから……」と言われたとき、どう声をかけて克服させればよいでしょうか?
横山先生: 実は、「苦手」という表面的な意識そのものを完全にひっくり返すのはなかなか難しいですし、無理に変える必要もありません。ですが、「苦手なままでも向き合う体力」は絶対に伸びます。

――苦手なままでも伸びる、とはどういうことでしょうか?
横山先生:僕が以前教えていた子でも「算数は苦手」と言いながら、1年後には自習室で90分間も黙々と数学に向き合えるようになる子がたくさんいます。「去年『苦手』って言っていたけれど、いま自習室で90分もやってるじゃん」と声をかけると、「いや、算数が苦手なのは変わらないんです」と返ってくる(笑)。本人の中で過去の挫折体験などがあるから「苦手」という意識は変わらないのですが、向き合い方や勉強法がわかり、成績は伸びていくんです。
「苦手かどうか」という意識にこだわるのではなく、「前より自習時間が伸びたね」「解ける問題が増えたね」と、取り組む姿勢やプロセスを正しく評価してあげることが大切だと思います。
――最後に、算数に悩む親子へメッセージをお願いします。
横山先生:子どもが勉強でつまずいているときは、いちばん本人がしんどい思いをしています。授業がわからず、成績も上がらない状況で親から「なんでできないの?」と叱られたら、子どもは最後の味方まで失ってしまいます。
もし親御さん自身が算数に苦手意識があるなら、自分が嫌いになった原因を一度振り返ってみてください。授業がつまらなかったのか、頑張っても成績が伸びなかったのか。「高校の数Ⅱ・Bはダメだったけど、中学の連立方程式は得意だったな」というように細かく分解してみると、共感できるポイントが見つかるはずです。親自身が自分の「好き・苦手」を素直に認め、一人の人間として子どもと一緒に「これって面白いね」「難しいね」と学びを楽しむ姿勢を見せること。それこそが、子どもの本当の好奇心とやる気を引き出す一番の近道になります。
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お話を聞いたのは
株式会社math channel代表。 茨城県出身。茗溪学園中学校・高等学校、早稲田大学理工学部数理科学科卒業。早稲田大学大学院基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。老若男女問わず幅広く数学・算数の楽しさを伝える「数学のお兄さん」として活動。公益財団法人日本数学検定協会認定幼児さんすうシニアインストラクター、日本お笑い数学協会副会長、才教学園小学校・中学校STEAM教育アドバイザーも務める。2017年科学技術振興機構主催のサイエンスアゴラ賞を受賞。『文系もハマる数学』(青春出版社)、『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』(くもん出版)など著書多数。
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記事を書いたのは
愛媛県出身。大学時代まで自然豊かな愛媛で過ごし、都内の学習塾に勤務した後、2011年よりフリーライターへ。教育分野を中心に、医療やライフスタイルなどのテーマで執筆しています。息子たちが小学生の時に大学院を受験し、2019年、お茶の水女子大学大学院修士課程修了(社会科学修士)。子育てもひと段落。最近、俳句を始めました。
