「しつけ」とは、親に従えるようにすることでしょうか?保育者歴46年の柴田愛子先生の思い

「何歳からしつけをすればいいの?」「きちんと挨拶ができる子、ルールが守れる子に育ってほしい」など、親が子どもに対して願うことはたくさんあります。でも、子どもに言うことを聞かせることは本当に正しいのでしょうか?正しい「しつけ」とは何なのでしょう?今回は、保育者として46年も子どもの姿に寄り添い、子どもたちの集まる場「りんごの木」を主宰する柴田愛子先生の著書『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』より、先生なりの「しつけ」への思いを語っていただきました。

「しつけ」で悩んだ経験のある親は約8割

まず、Hugkumでおこなった『しつけ』に関するアンケートについて紹介します。ママ・パパ約100人に「子どものしつけに悩んだことはありますか?」と質問したところ、約8割の方が「ある」と回答しました。

Q:子どものしつけで悩んだことはありますか?

続いてどんなことに悩むか聞いたところ、「言うことを聞かない(30代・千葉県・子ども2人)」という回答が多く、「いうことを聞かない時にどのように対応したらよいか(40代・東京都・子ども3人)」と対応の仕方について悩むという意見もありました。

また、「どこまで強く怒っていいのか(40代・神奈川県・子ども1人)」、「怒りすぎてしまう(30代・埼玉県・子ども2人)」などと怒り方について悩み「つい手が出てしまう(20代・大阪府・子ども2人)」のように感情的になってしまうことでも悩んでいるようでした。

そのほか「言葉遣いや、マナーについて」や「勉強しない」などマナーや学習面、生活習慣などで悩む声が目立ちました。

「褒めて育てるつもりが、怒ってばっかり。(40代・大阪府・子ども2人)」、「思い通りにいかない(40代・大阪府・子ども2人)」などと、心とは裏腹に自分の思うように育てられないことに悩みを感じているようです。

わが家なりの「しつけ」の意識を持って

柴田愛子先生に、先生なりの「しつけ」への思いを語っていただきました。

「しつけ」という言葉におびやかされていませんか?

乳幼児の親から「しつけ」について意見を求められることが、よくあります。小学校高学年になると、このことについては、ほとんど聞かれませんから、「しつけ」は小さいうちが肝心と思っているということでしょうか。「しつけ」という漠然とした言葉におびやかされている親は少なくありません。

「しつけ」とは親として願っている子どもの姿

「しつけもしなくちゃいけないし、のびのび育ってもほしいし……」と言う言葉もよく耳にします。「しつけ」と「のびのび」は反対にあることなのでしょうか。

お母さんたちに聞いた「しつけ」とは?

「しつけという言葉から何を思い浮かべますか?」と、おかあさん方に質問したことがあります。
いちばん多かったのが、挨拶でした。「おはよう」「ありがとう」などです。

<ママ・パパの回答>

あいさつは大事だと思うから(30代・茨城県・子ども1人)
基本なので(30代・埼玉県・子ども2人)
最低限のコミュニケーションなので(30代・埼玉県・子ども2人)
人として当たり前と思うから(40代・和歌山県・子ども2人)

次は、生活習慣。朝起きたら着替える、歯を磨く、自分のことは自分で、といったことです。

<ママ・パパの回答>

生活習慣がきっちりしていると情緒も安定すると思うので。(40代・東京都・子ども1人)
習慣を身につけるため(30代・大阪府・子ども2人)
普段の生活からしっかりしたしつけは外に出ても恥ずかしくないようにするため。(40代・静岡県・子ども1人)

3番目によく聞かれたのは、人間関係のルール。「かして」「ごめんなさい」などです。

<ママ・パパの回答>

どこに出ても大切なことだから。(50代・東京都・子ども2人)
他の子と喧嘩をしないように(40代・愛知県・子ども3人)
社会生活で必要なことだから(40代・東京都・子ども3人)
人間関係を円滑にする上で大切なことだから。(20代・千葉県・子ども1人)
人の接し方が大事(40代・熊本県・子ども3人)

「しつけ」とひとことで言っても、思い浮かべるイメージはいろいろです。
「公園の水道で水遊びをしている子を見たら、どう思いますか?」という質問に対して、「みんなのものだから、子どもも使ってもいい」「わんぱくでうらやましいわ」と言う人がいるかたわら、「公共のものだからいけない」「しつけができていない」という人がいます。

口やかましく言ったって、できることはほんのわずか。それより…

「しつけ」は、よく聞いてみると、それぞれに内容が違います。それは「親として願っている子どもの姿」と言い換えることができるのではないでしょうか。
ところが、親は願いが多い! 洋服の着方、食べ方、挨拶の仕方、なんでもかんでも口やかましく言います。「一生懸命言い続けると、できるようになる」ことは、ほんのわずかです。言い続けてもできないことなら、とりあえず、今はできない(幼い子には、体が未発達でできない場合もよくあります)と、あきらめることのほうが肝要かと、私は思っています。だって、すごいエネルギーを使うことですもの。

親の言うことを聞いて育った子どもは、幸せになれるのかしら?

さて、親の願いを必死に受け止めて育つと、立派な人になるのでしょうか。
あるとき、10人くらいのおかあさんの集まりに伺ったときです。たまたまでしょうか、その方々は、ご自分はしつけの厳しい親に育てられたとおっしゃいました。「かして」と言っても「だめ」と言われたらあきらめる、という育てられ方をしてきたそうです。
子どもの気持ちのいろいろな例を話しても、どうもみなさんに浸透していきません。しかたなく、おかあさん自身の話をしてもらいました。すると……。
「私、今まで、自分の気持ちを親に見せたことなんて、ない」
「私は、親がけんかはよくないというからしなかったのに、うちの子は兄弟げんかをよくして、親の私がやめなさいと言ってもやめないから、腹が立って、叩いてしまう」
「親の言うとおりの学校に行き、就職をし、結婚もしました。今、どんなときに子どもを叱っていいのかわからないんです。同居している親が叱れというとそうかと思って叱ります。私の心が動かなくなってしまったのです」と、それぞれ涙ながらに話してくれました。その場の、しつけが厳しい家庭で育ったおかあさんたちは、自分自身の気持ちをストレートに出せなくなってしまったように思えました。

しつけが厳しい環境で育った親は、ありのままの自分を出せない?

この人たちの子育てはつらいだろうな、と思いました。自分と同じようにいい子であってほしいという思いと、ありのままに自分を出せなかったつらさの中にあるのですから。
しつけとは、親の言うとおりに従えるようにすることでしょうか。自分をなくすことでしょうか。
同じように、「私の家は、とてもしつけが厳しかったんですよ」と、言っていた知人を思い出しました。とても魅力的な人で、生きることや命の話をしみじみとなさるのです。その方はこんな話をしました。

「しつけ」とは「親の背中を見て育つ」というようなことかもしれませんね

子どものころ、ご飯を食べるときに両手をあわせて「いただきます」をするのですが、おじいさんは、ひじがあがっていると、ひじを強くたたき怒った。〝いただきます〟ということは、命を〝いただきます〟と言うことだ。植物や動物、魚の命をいただいて、私たちの命がある。命をいただくのに、その〝いただきます〟はなんだ!と、叩かれたそうです。
この話に感心しました。おじいさんは自分が生きていくうえで、大事に思っていることを、日常の中で伝えているということです。
頭で考えたあるべき姿を願って口うるさく言うのが「しつけ」ではないし、いい人らしいふるまいを自動的にできるようにすることでもない。それより大切なことは、自分が育ってくるなかで身についた礼儀作法を、わが子に伝えていくことではないでしょうか。「親の背中を見て育つ」というようなことかもしれません。

子どもが小さいときは、親のしつけは絶対です。できるかできないかは別問題として、それが正しいと思っています。ですから、あえて、どうしてもしつけたいことは、数少なく、意識的に、していったらどうでしょう。
あなたが育った家のように、そのうちきっと、わが家なりの礼儀作法ができていくのではないでしょうか。

大切なのは、自分が育ってきたなかで
身についた礼儀作法を
わが子に伝えていくこと

教えてくれたのは

柴田愛子|保育者・自主幼稚園りんごの木代表

保育者。自主幼稚園「りんごの木」代表。子供の気持ち、保護者の気持ちによりそう保育をつづけて36年。小学生ママ向けの講演も人気を博している。ロングセラー絵本『けんかのきもち』(ポプラ社)、『こどものみかた』(福音館書店)、『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)など、多数。

もっと柴田愛子先生のことばを読みたい人はこちら

子育てに悩んでいるあなたへ あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます
著/柴田愛子(小学館)
本体1,200円+税

こうなって欲しい、こうあるべき、に縛られている苦しい子育てをしていませんか?
「どう育ってほしいか」の前に「目の前の子どもがどう育っているか」を見てほしい。子どもはちゃんと自分で育つ力を持っていることを確信できるはず。それは、お母さんが本来の自分を取り戻すことにつながっていくから。
保育者として、46年以上子どもたちと関わってきた柴田愛子さんが語る「子どもの心に寄り添うと、子どもの気持ちが見えてくる」を信条にした子育て論は、きっとお母さんの心を元気にします。

写真/繁延あづさ 再構成/HugKum編集部

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