児童精神科医として半世紀以上、子どもの育ちを見続け、お母さんたちの悩みに寄り添ってきた佐々木正美先生。今も、先生の残された子育てのについての著作や言葉は私たちの支えとなっています。佐々木先生が残してくれた子育てにまつわる珠玉のメッセージをご紹介します。
ひとりっ子は、親子で向き合える時間をたっぷり持てます。これは、育児をするうえではとてもすばらしい環境なんです。
ひとりっ子だとわがままに育つって本当?
最近はひとりっ子の家庭が多いようで、ひとりっ子だとわがままに育たないか心配だという相談をされるお母さんが多いですが、決してそんなことはありません。
以前、兄弟の子育てについてお話ししたときに、「兄弟が何人いても、それぞれにひとりっ子のように接する時間をお母さんが持ってほしい」とお願いしたぐらい、親子で向き合える時間をたっぷり持てるひとりっ子は、育児をするうえではとてもすばらしい環境なんです。
お母さんとふたりだけで、お茶を飲んでおしゃべりをしたり、買い物に行ったりする時間は、子どもにとってとても幸せな時間。子どもはとても心地よく感じ、そうした時間を持てる自分に対して大きな自信を持ちます。
そして、自信がある子どもというのは、他者を信頼し、思いやる心を持つことができるのです。ですから、他者が嫌がるわがままな言動はしないのです。
親子の親密な時間をたっぷり持てるこのメリットを、ぜひ上手に活用していただきたいですね。
自分が愛されていると実感した子どもこそが、しっかりと自立していくことができる
また、「ひとりっ子だからこそ、甘えさせずに早くひとり立ちさせなければ」と、思うのも間違いです。
子どもはたっぷり甘えさせてあげてからでなければ、しっかりとした自立心を持つことができません。なぜなら、愛されているという実感が持てない子どもというのは自信が持てないので、安心してひとり立ちをしていくことができないからです。
お母さんやお父さんとしっかり向き合って、自分が愛されていると実感した子どもこそが、しっかりと自立していくことができるんですね。
このことをぜひお母さんは忘れないでいただきたいですね。これは兄弟がいる子育てでもまったく同じです。
子どもを縛る過干渉な親になってはいけません。家庭以外の人間関係を豊かにしてあげることが、ひとりっ子の子育てには必要不可欠です。
ただし、ひとりっ子の場合は、過干渉にならないように配慮することは必要です。
家庭の中だけで育てすぎたり、親が子どもをロボットのようにコントロールしてしまうと、子どもは家庭の外に出たときに、家族以外の人と付き合うのが下手になってしまいます。
人と接する機会を意識的に持って
また、人と接する機会を意識的に持つことも大事です。
近所の友だちのところへ連れて行ったり、いとこの家に遊びに行ったりするのもいいですし、その反対に、そうした子どもたちを家へ呼んであげるのもいいと思います。
そうすることで、お子さんは楽しく遊ぶだけでなく、場合によってはケンカをすることもあるでしょうが、人とつきあうときのルールやマナー、気配りなどを学んでいくことができます。
人間関係を学ぶということでは、習い事をするのもいいと思います。 サッカーやスイミングクラブ、あるいは絵画や書道でも、お子さんの興味のわくものでしたらなんでも構いません。
現代は、子どもがひとりで遊べる環境が家庭の中に整い過ぎているといっても過言ではありません。
兄弟がいてもせいぜい1人か2人ですから、人間関係が決まったパターンになりがちです。しかも、テレビやゲーム、ビデオなどが充実していて、ひとりでも十分に遊べます。また、野外には子どもが自由に遊べる場がほとんどなく、友だちと関わる時間も、自然と制限されているのが現実です。
そのうえ、親自身も家庭内に他者を入れない傾向があります。週末を家族だけで過ごす家庭も少なくないのではないでしょうか。
けれども、人間が健全に育っていくうえで、子ども時代に「友だちと遊んで楽しかった」という経験は、絶対に必要なことです。なぜなら、そうすることで、子どもはそのときどきの年齢に相応しい社会性を身につけることができるからです。
こうした子どもを取り巻く環境というのを配慮して、意識的に他者とふれあいながら子どもを育てることは、いまはひとりっ子の子育てでなくてもとても大切なことです。
その意味で、幼稚園や保育園での集団生活というのは、子どもが育つ場として欠かせないものだと思います。園では、友だちとそうした時間を否が応でも過ごすことになるからです。
ただし、園生活というのは家庭の延長ではありません。だから、家庭でも「他者と触れ合い、育ち合う」場面を持つよう心がけてほしいと思うんですね。
たとえば、2,3家庭で誘い合って、動物園や遊園地へ遊びに行くというのはどうでしょう。いっしょに行くのは、あなたの友人家族だけでなく、親戚の家族でも構いません。
どちらかというとひとり遊びが多い子どもでも、いつだってひとりの方がいいと思うはずはないんです。なぜなら、人は必ず誰か人といっしょにいたい生き物なのですから。
教えてくれたのは
1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。
写真/山本彩乃 構成/山津京子