【作業療法士監修】発達障害の子供に偏食が多いのはなぜ?対処法は?

発達障害がある子は、特定のものしか食べられなかったり、食べ物の好き嫌いが多いなど「偏食」になる子が多いと言われます。「偏食」は子供のわがままにふりまわされている親のしつけの問題と言われがちで、保護者も困ってしまいます。

なぜ偏食になるのでしょうか?対処法はあるのか、作業療法士の木村順先生に伺いました。

発達障害の子供の「偏食」にはどんな傾向がある?

極端に苦手なものが多く、食べられない物が多い

発達障害のある子の「偏食」は極端な例も多く、白いごはんしか食べられないとか、野菜はいっさい食べないなど、食べられるものが少なくて心配です。また、苦手なものを口にすると、吐き気がするほど気持ち悪くなるという子もいます。調理する保護者にとっては、「好きなものしか食べず、栄養バランスが悪いけど大丈夫?」と不安になると同時に、「いろいろ工夫して作っても食べてくれないから、料理の作りがいがないわ」と、子育てについての自信を失うきっかけにもなります。

発達障害が原因の「偏食」、どう対応したらいい?

無理強いすると、食事の時間が嫌いに

「偏食」や「食べず嫌い」は、子どもがわがままを言っていると思って、「なんでも食べなさい」「食べないと、大きくなれないよ」と、食べることを促すことが多くなります。子どもにとっては、吐き気がするほど気持ち悪いものを食べろと言われるのは苦痛です。「食事のたびにママやパパが怖い顔をするから、食事の時間は嫌いだ」と感じる子もいます。また、食べず嫌いの子には「とにかく1口食べてみなさい」と言いたくなりますが、子どもにとってはじめて目にする食べ物は、どんな食感かわからないからこそ、口にしたくないと頑なになってしまうのです。

なぜ、食べられないのかを理解してあげることも大切

感覚の使い方のバランスが悪いため、味の好き嫌いの前に、口の中の感覚が過敏なことも多い

「偏食」は、その味が苦手で食べられないのだろうと思いがちですが、発達障害のある子の場合、味の苦手だけとは言い切れません。感覚の使い方のバランスが悪いため、口の中の触覚が過剰に反応することがあります。つまり、舌触りや歯触りなどの触覚の使い方の崩れが原因のことも多いのです。

例えば、ねっとりが苦手な子は、コロッケの衣だけを食べ、チクチクが苦手な子は、衣を剥がして中身しか食べません。刺身が苦手な子が、魚がダメなのかと思ったら、火を通したら大丈夫で、実は刺身のぐにゃっとした食感が苦手だということもあります。「ぬるっとしたもの」「シャキシャキしたもの」「パリパリしたもの」など、どんな歯触り、舌触りが苦手なのかは、子どもによって違います。


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発達障害の子供の「偏食」が起こる原因は?

「触覚」の過敏さ、鈍感さが生み出す「触覚防衛反応」

「偏食」が強くて、触覚の使い方に崩れがある子には、他にも保護者が困ってしまう状態がいくつかあります。それは保護者が困る前に、子ども自身が困っているという状態であるということです。

こんなことを過度に嫌がったら…

子どもが小さいころによく見られるのは、「散髪、耳そうじ、爪切り、歯みがきを嫌がる」という状態です。これは衛生や健康の保つために必要なことなので、できるようにしつけたいのですが、激しく嫌がられるとお世話をする保護者は疲れてしまいます。また、身支度に必要な「帽子、お面、マスク、手袋などを嫌がる」ために、出かけるのに手間取るということもあります。「のりや粘土を使うと、そのつど手を洗う」ために、工作ができないということもあります。これらはすべて、触覚の過敏さや鈍感さが生み出すもので「触覚防衛反応」といいます。

発達障害の子供の「偏食」を改善する3つのポイントとは

「触覚」の使い方の崩れを改善して「偏食」を減らそう

「偏食」の改善には、3つのポイントがあります。

①食べるのが楽しい雰囲気を作ること。

②共感しあえる大人や、友だちとの人間関係から、食べることに挑戦すること。

③脳の配線回路が混乱している子に多く見られる「触覚防衛」を改善すること。

触覚防衛が強い子は、スキンシップも苦手なので、②の、人との関係づくり(共感性)も難しいもの。一般的に子どもを育てるときには「スキンシップを大切に」と言われます。しかし、子どもの側から触られることを拒否されると、親子の愛着関係を結ぶことも難しくなることもあります。もちろん友達や保育者なども同様で、「他者と共感的に関わる」ことが難しくなります。

それを放っておくと、社会への適応能力が低下することになります。まずは触覚防衛を改善していく遊びにチャレンジしてみましょう。

スキンシップが苦手な子の「触覚防衛」を改善するには?

遊びの中で「触られても大丈夫」な場所を広げてあげる

「触覚」の使い方に崩れがある子には、意識的に「触覚」を使う遊びをしてあげましょう。触られている身体の部位に注意を持続的に向けることで、「触られても大丈夫」な場所を少しずつ広げていくことがコツです。

スポンジやタワシでタッチ

スポンジやタワシなどを子どもの肌に直接押し付けて、子どもが触られている部位に関心を向けていることを確かめます。道具を嫌がったら素手で触るのでもいいです。腕やすねなど、子どもが嫌がらないところからはじめ、ようすを見ながら、首筋や口元など、子どもの苦手な部分にもタッチします。

あてっこ遊び「どーこだ?」

また、ふだんあまり意識しないところをタッチして「どーこだ?」とあてさせるのもいいですね。ひじ→二の腕→肩→背中へと、少しずつ目で見えない部分へと移動します。嫌がったら、1つ前に戻り、それでも嫌がるときは無理強いしないようにしましょう。

「触覚」を改善する遊びは、「聴覚」や「嗅覚」などの感覚過敏の改善にもつながる

「触覚」の使い方に崩れがある子の中には、自分の目で見える部分しか、体のイメージをつかんでいない子もいます。見えない部分もタッチをして、その触れた感覚を感じて、その部位を意識することで、見えない部分も自分の体であることを意識させましょう。

触れることを嫌がるのは、よくわからない感覚に恐怖を感じるから。中が見えない箱に手を入れて中のものを触ってあてるゲームをすると、ぬるぬるしたものやチクチクしたものに手が触れた時にに恐怖を感じる人が多いですね。それと同じような感覚です。

防衛反応が出やすい「触覚」について、「注意を向けて使えば怖くない」という経験を積み重ねていくことで、感覚の使い方を学びましょう。これらの遊びの積み重ねが「聴覚過敏」や「嗅覚過敏」など、ほかの感覚過敏の改善にもつながります。

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お話を伺ったのは…

木村 順先生

作業療法士(OT)。1957年生まれ。日本福祉大学卒業後、金沢大学色湯技術短期大学部(現在、金沢大学保健学科)作業療法学科にて資格取得。東京都足立区の「うめだ・あけぼの学園」で臨床経験を積み、2002年3月に退職。2005「療育塾ドリームタイム」を立ち上げ、発達につまずきのある子どもの保護者の相談や療育アドバイスを行う。保育・教育者向けの講演会も多い。著書に『育てにくい子にはわけがある』(大月書店)『小学校で困ることを減らす親子遊び10』(小学館)など。二女一男の父でもある。

『発達障害の子を理解して上手に育てる本 幼児期編』
ためし読みはこちら

 

文/江頭恵子 イラスト/高野真由美

 

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