町田市・しぜんの国保育園に教わる、絵本と楽しむ「ものがたりおやつ」

東京・町田市にある「しぜんの国保育園」。その名の通り、自然いっぱいの環境のなかでのびのびと育つ子供たちへの保育は、口コミで人気を呼び、いまではわざわざ近くに引っ越し、入所を熱望する親御さんもいらっしゃるそう。

そんなしぜんの国保育園のこだわりのひとつは「食」。縁で提供するおやつも、ただ「おいしい」だけではありません。メニューにちなんだ絵本を読み聞かせる工夫で、食をめぐる物語は子どもの中でゆっくりと育ちます。

園を訪ね、おやつの作り方を教わりました。

 

物語があるだけで、子どもにとっては、特別なおやつになります-「しぜんの国保育園」理事長 齋藤紘良さん

おやつは、長い時間を園で過ごす、園児たちのための大切な献立です。当園では、食事と食事の間をつなぐ補食として、栄養面ではもちろんのこと、「おいしく食べる」以上の経験につながる工夫をしたいと考えています。たとえば、毎日の食材やメニューが出てくる絵本の読み聞かせをすること。するとそれだけで、おやつに対する子どもの関心が高くなります。

育てる・収穫する・調理する、といったプロセスを体験することも、工夫のひとつです。自分たちが関わることで、子どもはさらに、食に対して前向きになります。園の畑で育てたじゃがいものパンケーキは、人気の定番のおやつ。また、自分たちで収穫した梅、夏みかんのジャムやジュースが献立に出てくる日も、心待ちにしています。

子どもがメニューに参加している実感を持つと、よりおいしく感じる

子どもは自分がそのメニューに参加している実感を得ると、口の中の唾液がふくらみ、食べる物をおいしく感じます。それぞれの味や体験をふくらんだ唾液で消化・吸収していくことで、自らの思いや物語が育ちます。

田んぼで見つけたイナゴを子どもたちが捕まえ、すぐに、職員のお母さまに佃煮にしてもらったことも。形状が少々特徴的ですから(笑)、「食べれるかな」と心配していましたが、多数の子どもたちが興味津々に口にしていました。もちろん「気持ちわるい」といって食べられない子もいましたが、そういった経験が丸ごと子どもたちの物語になる、それが私たちのテーマでもあります。

月に1回、各クラスの担任と給食室の職員が集まって、給食会議を開き、献立を相談します。子どもたちの普段の様子、会話の内容を語り合うことで、新たなメニューのアイデアが出てきます。今回とり上げたおやつも、その中から誕生しました。どれも子どもたちの思い出になる、物語のある大切なおやつです。

 

4つの おやつの物語 お話を聞いた人 栄養士・柴田伸子先生

 

給食やおやつのメニューには旬の食材を選び、季節感を大切にしています。とくに、四季折々の果物はぴったりの食材。子どもたちが楽しみにしているお誕生会のケーキには、旬の果物が主役となって登場します。フランスの伝統菓子、タルトタタン風のりんごのケーキの出番は秋。保育時間には、りんごにまつわる絵本の読み聞かせをして、気分を盛り上げます。『りんごのき』のような、りんごの木が赤い実を付けるまでの1年を描いたストーリーは、子どもたちの心をグッとつかみます。

「りんごのケーキ タルトタタン風」にちなんだ絵本

『りんごのき』

エドアルド・ペチシカ/文 

ヘレナ・ズマトリーコバー/絵 

うちだりさこ/訳

福音館書店 840円

 

材料(パウンドケーキ16㎝型1本分)

りんご甘煮

りんご…1個(酸味の強い紅玉がおすすめ)

バター…大さじ1/2

グラニュー糖…大さじ1/2

生地

ホットケーキミックス…75g

バター…30g

グラニュー糖…40g

卵…1個

牛乳…大さじ1/2

 

*家庭用レシピとしてホットケーキミックスを使用していますが、園では小麦粉とベーキングパウダー、砂糖を使っています。

 

作り方

①りんごはよく洗い、皮つきのまま8等分のくし形に切る。

②フライパンにバターを塗り、グラニュー糖をふりかける。

③②にりんごを並べ、中火にかける。バターが溶けてきて、プツプツという音を立てはじめたらふたをする。

④りんごから水分が出てきたら、ふたをはずして汁けがなくなるまで煮詰め、火を止める。

⑤④のりんごを皮のほうを底に向け、型に隙間なく並べる。生地の材料をよく混ぜ合わせてりんごの上に流し込む。

⑥170℃に予熱したオーブンで30分間焼く。竹串がスッと通ったらできあがり。

 

 

園児たちは自分が収穫した食材にはとても高い関心を寄せます。園内にある、くるみの木から実を集めた子どもたちとの会話から、このカップケーキのレシピが生まれました。くるみは絵本によく出てくる食材のひとつ。「どうやって中身をとり出すの?」「どんな料理ができるの?」と、興味津々で尋ねてきます。『きのみのケーキ』『ぐりとぐらシリーズ』『14ひきのシリーズ』など、くるみ入りのお菓子が登場する絵本は、子どもたちの食欲をそそるようです。

「くるみのカップケーキ」にちなんだ絵本

『きのみのケーキ』

たるいし まこ/作・絵 

福音館書店 670円

 

材料(カップ5個分)

バター…50g

薄力粉…50g

砂糖…40g

卵…1個

ベーキングパウダー…1g弱

くるみ…40g

プロセスチーズ…40g

 

作り方

①バターを室温に戻し、小麦粉とベーキングパウダーは合わせて一緒にふるっておく。くるみとチーズは細かく刻む。オーブンは170℃に予熱しておく。

②ボウルにバターを入れて泡立て器でクリーム状になるまで練り、砂糖を加え、さらに白っぽくなるまで混ぜ合わせる。

③②に卵も入れて混ぜたあと、①の粉、くるみ、チーズを加えて木ベラでさっくりと混ぜ合わせる。

④カップに生地を入れて、オーブンで20~25分焼く。

 

 

近年ブームになり、よく知られるようになった肉巻きおにぎりですが、本園ではそれより以前から人気のおやつでした。とある園児のお母さんから、「こんなおにぎりがあるんですよ」と、提案していただいたことが始まりでした。このおにぎりのように、新しいメニューをデビューさせるときは、子どもたちの食欲をそそるネーミングも大切。おにぎりは絵本の中では、よく“ごろごろ”ところがって、主人公から逃げ出してしまうことが多いので、そこから「たわらがごろごろ」となりました。お母さんのアイデアから生まれた物語おやつのひとつです。

 「たわらがごろごろおにぎり」にちなんだ絵本

『おむすびまてまて』

おざわとしお・まつむらまさこ/再話 

せきやとしたか/絵 

くもん出版 450円

 

材料(おにぎり3個分)

ごはん…180g

豚肩ロース薄切り肉…3枚

しょうが・にんにく…各適量

白いりごま…少々

市販の焼き肉のたれ…適量

ごま油…小さじ1/4

 

作り方

①しょうがとにんにくはすりおろす。

②焼き肉のたれに①とごまを加え、豚肉を漬けておく。

③ごはんを3等分して俵形おにぎりを3個作り、②の肉をおにぎりに巻きつける。

④フライパンを温めてごま油をひき、弱めの中火にする。③を肉の巻き終わりを下にして並べ、ふたをする。

⑤1分ほどたったらふたを開け、肉の色が変わったら強めの中火にし、転がしながら焼き目をつける。

 

子ども達に「東北」のことを話したい-保育者の「思い」を託した福島の郷土料理もおやつに登場します

 

おやつには、保育者としての思いを託すこともあります。東日本大震災のあと、子どもたちに東北のことを語るきっかけになればと、東北の郷土料理を調べていたとき、福島県・会津地方に伝わる「こづゆ」と出会いました。本来はおもてなし料理なので、ホタテの貝柱をもどして味つけするぜいたくな汁椀なのですが、園では水煮の缶詰を使用しています。子どもたちはおだしの味が大好き。何回もおかわりにくる子も少なくありません。「何種類の食べ物が入っているかな?」など、クイズをしながらいただくのも楽しいメニューです。

山間部の会津地方の山の食材と、海産物のホタテの干し貝柱がひとつになった、おもてなし料理。お正月や冠婚葬祭の定番として供されるごちそうです。豆麩という小粒の麩を入れるのがお約束ですが、手に入りにくい場合は玉麩を使用してもいいでしょう。

 

材料(作りやすい分量)

ホタテ貝柱水煮缶…1缶(70~80g)

鶏もも肉…160g

さといも…中3個

にんじん…中1/2本

大根…中4cm

ごぼう…中1/2本

しらたき…80g

豆麩(玉麩)…10g

黒きくらげ…4g

うす口しょうゆ…大さじ1

塩…適量

昆布…10cm

 

作り方

①鶏もも肉、しらたき、水でもどした黒きくらげはひと口大に切る。大根はいちょう切り、にんじんは半月切り、ごぼうはささがきにする。さといもはひと口大に切り、下ゆでをしておく。豆麩(玉麩)は水でもどしておく。

②鍋に水1ℓ(分量外)と昆布を入れて弱火にかける。沸騰直前に昆布を引きあげる。

③②のだし汁に鶏肉、ごぼう、にんじん、大根を入れて中火で煮る。煮立ったらしらたきを加え、さらに煮立ったらアクをとる。

④③に下ゆでしたさといも、ホタテ貝柱水煮を缶汁ごと入れ、うす口しょうゆ、塩を加えて味を調える。

⑤最後に豆麩(玉麩)を入れてできあがり。

 

しぜんの国保育園

1979年に開園した東京・町田市の里山に囲まれた保育園。アートと自然を基盤にした子どもの創造性を育む保育を実践。2014年4月に『しぜんの国保育園small village』、2018年10月に「渋谷東しぜんの国こども園small alley」をオープン。食育にも力をいれており、絵本と食事を結びつけたレシピ集『ものがたりレシピ』(幻冬舎)のレシピ提案・料理・監修も担当。

http://toukoukai.org/wordpress/sizen/

 

料理…柴田伸子(しぜんの国保育園) 写真…嶋本麻利沙 スタイリング…岩崎牧子 取材・文…杉村道子 

 

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