「発達障害のある女の子」は性被害に遭いやすい!? 知っておきたい対処法とは

あまり考えたくないことですが、発達障害のある女児は性被害に遭ったり、将来的に望まぬ妊娠をしたりするケースが多いそうです。そこに問題意識を持ち、女児を専門にした放課後等デイサービス「ルーチェ」を運営し、独自プログラムで指導をしている藤原美保さんに、実態と対処法などを伺いました。

女の子の発達障害は気付かれにくい!

問題行動が外在化する男の子に比べ、女の子は内在化するので気づかれにくい

発達障害は男の子に多いと言われますが、「落ち着きがない」「じっとできない」「暴力的である」などの問題行動が目立つのが男の子に多いだけで、女の子の発達障害は周囲に気づかれにくく、発見が遅れる原因になっています。女の子の場合、行動よりおしゃべりが止まらない、不器用など自分が困ることが多いからです。

さらに、女の子は自分を責める傾向にあり、何かミスをしたときも、周囲から「気をつければなんとかなる」と思われ、本人も「自分が頑張らなきゃ」と自分を責めることが多くなります。このように表面化しにくく、発達障害であるがゆえの特性だと気づかれないまま、ひとりで困っていることが多いのです。

多動や暴力などの困ったようすは男の子にあわられることが多いため、女の子の発達障害は見過ごさられることが多くなります

気安く人にベタベタ…幼稚な行動が相手に誤解を与えてしまう

発達障害のある子はイメージ力の弱さから見通しがつけられないため、コミュニケーションの問題を抱えることも少なくありません。発達の偏りから人との距離の取り方や、人との接触の感覚が意識しづらい可能性があります。そのため、小学校高学年になっても、幼児のように人にまとわりついたり、接触したりする子がいます。保護者は我が子にベタベタされても違和感はないし、問題だと感じないことが多いのですが、相手の男性がそれを「好意」と捉えられると、性犯罪を誘発してしまう心配があります。

無防備な姿を見せて誤解され、被害を受けることも

私は以前、スポーツクラブのインストラクターをしていて、発達障害のある子のレッスンを依頼されたことをきっかけに、その子たちを支援しました。そこは、いわゆる「ボーダーな子」が多く、中高生の女の子を中心に、成人している女性もいました。中には成人してからはじめて発達障害と診断された女性もいました。

発達障害のある子は姿勢の保持が難しいのですが、スカートなのに足を広げて座ったり、平気で人前でスカートをまくし上げてシャツを引っ張る子などがいて驚きました。気になって調べてみると、知的障害や発達障害のある女の子は、性被害に遭いやすいことがわかりました。大人になっても騙されて風俗店で働かされたり、望まぬ妊娠をしたりするケースも多いのです。被害にあっても、外見では障害がわかりにくく、男性が「同意の上だ」と言い張ると、被害を受けたとわかってもらえないのです。

 

自分を客観的に理解する力=「メタ認知力」の弱さも原因

先にあげた幼い子のような行動に加え、人との距離が必要以上に近い、衝動性が強く抑えられない、自分の行動の先が見通せない、自分の思考や行動を客観的に把握し認識する「メタ認知」が育っていないなどの障害特性も、発達障害の女の子が誤解をまねきやすい原因です。

人から自分がどう見られているかイメージができないという特性は、いい意味ではマイペースなのですが、最近では着衣の乱れから下着などを盗撮されたり、SNSに挙げられるケースも多く、まさに性犯罪者のターゲットになりやすいのです。

信頼できるホームドクターとしての産婦人科医を見つけましょう

発達障害のある女の子たちは、友達関係などから情報を得ることが難しく、放っておいたら科学的な性の知識が得られないままになりがちです。間違った情報を得てしまう前に、「正しい性教育」をしていくことが大切です。

「性感染症の予防」や「避妊」について学ぶことはもちろん大切ですが、その手前で「大人との約束を守ること」や「信頼できる大人への相談」を習慣づけることも大切です。衝動性が強い、認知能力が低いなど、判断を誤りやすい特性があるので、例えば、男性にデートに誘われたというときでも、行って大丈夫なのか自分ひとりだけで決めず、相談することを習慣づけることが大切なのです。

女性の産婦人科医の中には、望まぬ妊娠で中絶を繰り返す女性の中に、発達障害のある女性が少なからずいることを指摘する人がいます。身近に信頼できる産婦人科医を見つけて、早い段階で子どもの「かかりつけ産婦人科医」になってもらい、いつでも相談できる関係を作っておくのもおすすめです。

子供の頃から相談できる産婦人科医がいると、親にはしにくい相談もできるかもしれません。

子供の頃から自分の体と心を大切にする教育を

放課後デイサービス「ルーチェ」では女の子たちに、小さい頃から自分の体と心を大切にすることを教え、年齢や発達段階に応じたプログラムを実施しています。下記はその一例です

  • 「安全なタッチ」と「安全でないタッチ」を学ぶ
  • 場面や関係性において適切な距離を学ぶ

  • 「プライベートゾーン」を理解する(他人に見せても触られてもいけない場所)
  • 感情を切り替えるためのルールを身につける
  • だらしなく見えない衣服を選ぶ(正中線からずれないデザイン)
  • 生理や排便など自分の体調を手帳に記録する習慣をつける

など。

いつも「あなたを気にかけているよ」という支援を

知的能力の程度や認知特性の表れ方の違いなどにより、一概には言えませんが、発達障害がある女性の判断力の弱さは改善されないので、騙されやすいという面があります。また「寂しさ」から間違いを犯すこともあります。

女の子は「一人でいられない子」がいじめのターゲットになります。発達障害のある子は「仲間に入りたくても入れてもらえない。だけど、一人でいるのは寂しい」と、他の女児について回ろうとします。すると、友達からからかわれたり、いいように利用されたりして、さらに自尊心が低くなります。そんな「寂しさ」が異性に向くようになると危険で、今度は異性に利用されるようになります。「誰かに気にかけてほしい」という思いが、性被害に結びつくことがあるのです。

だからこそ、「いつも誰かがみているよ」「気にかけているよ」という支援が必要です。寂しい思いをさせないことを大切にしてください。

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お話を伺ったのは

藤原美保|健康運動指導士、介護福祉士、保育士 株式会社スプレンドーレ代表

発達障害のお子さんの運動指導の担当をきっかけに、彼らの身体使いの不器用さを目の当たりにし、何か手助けができないかと、感覚統合やコーディネーショントレーニングを学ぶ。その後、親の会から姿勢矯正指導を依頼され、定期的にクラスを開催。周囲の助けを受け、放課後等デイサービス施設「ルーチェ」を愛知県名古屋市に立ち上げ現在に至る。著書に『発達障害の女の子のお母さんが、早めにしっておきたい47のルール』(健康ジャーナル社)『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること』(PHP研究所)がある。

 

『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること』

構成/江頭恵子 イラスト/たかおかゆみこ

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