【発達障害を支える人に聞く】専門知識を得て、地域の子どもたちを支える 「学校サポーター」として活動

子どもが成長し少し手が離れてくると、地域の子どもたちのために何かしたいと考えることもあります。そんな思いが高じて、サポーターとして学校に入り、特別支援が必要な子どもたちはもちろん、先生たちのことも支えている人たちがいます。一般社団法人「星と虹色なこどもたち」が行う「サポーター育星講座」(初級から上級)を受講し、特別支援士となり学校サポーターとして働く、遠藤里穂さんにお話を伺いました。

幼稚園でわが子の悩みを母親同士で共有できたことが「発達」の勉強につながりました

 

長男が通っていた八王子市内の幼稚園では、定期的に保護者が集まる懇談会がありました。そこでは先生から見た子ども達の様子が共有されたり、お母さん同士でも子育ての悩みを相談できる場でもありました。

私の中では特に、どろんこ遊びを嫌がり、皆と遊ばない長男のことが気になっていました。また、他にも子どもが部屋を飛び出したり暴力が出たりして悩んでいる保護者もおり、悩みは様々でしたが、懇談会を通して我が子だけではなく、他の子の行動や言動においても理解を深める貴重な場となりました。

 

そこで、幼稚園によくいらしていた明星大学教育学部教授の星山麻木先生が主宰されている「サポーター育星講座」のことを知り、同じような悩みを持つ保護者たちと一緒に受講しました。学生時代に児童福祉を専攻していたこともあり、自分が結婚、出産を経て、また勉強したいと思っていたタイミングでもありました。

地域の小学校で「学校サポーター」に。「困ったときに、聞けばいい」という存在になりたい

 

 

現在、地域の小学校2校に「学校サポーター」として勤務しています。

うち1校は通常級で、集団でなかなか指示が通らない子や教室にいられない子などが、安心して過ごせるようにサポートしています。サポートの仕方は担任からの要望によりますが、クラス全体を見ることもありますし、特定の子につくこともあります。ずっと特定の子のところだけにいると、他の子どもたちの目が気になることもあるので、特性のあるなしに関わらず、みんなが気軽にヘルプを出せる環境が大事と考えて教室内を歩き回るようにしています。

 サポーターとして学校に入るようになって8年になりますが、当初は、高学年の子などに「なに、この人?」という反応をされ、自分のところに来られると支援が必要な子だと思われるから「来ないで」と言われることもありました。

でも、現在は、低学年の頃からずっと見ている子どもたちなので、「困ったときは聞けばいい」という空気ができていて、教室に入りやすいし、子どもたちもヘルプが出しやすくなっています。

もう1校は特別支援学級のサポートを担当しています。特別支援学級では先生たちが個別に子どもたちに関わっているので、私もマンツーマンでの対応が多く、学習面だけでなく生活面でのサポートも含めて、より丁寧な関わりを心がけています。

子どもが成長する姿に触れるたびにやりがいを感じています

 

サポーターとして働いていると、私たちが子どもにしてあげる以上に、子どもから教えられていることが多いと感じます。

例えば、できなかったことを頑張ろうとしている子どもの姿を見るだけでもグッとくるし、周りの友達の力を借りながら「できた!」という達成感を得られた様子などを見ると、「サポーターをやっていてよかった!」と思います。子どもたちの成長の場面の1つ1つを見ることができるのが、日々の活力になります。

 サポーターとして活動するには、先生との信頼関係が大切ですが、ときには先生との関係性作りに苦労することがあります。そんなときには、まず先生の気持ちを受容し共感するように努めます。そして、日々のやりとりの中で子どものことについて、先生と相談できる関係になることで、子どもにとってよりよい支援が提供されると考えています。

「学校サポーター」は、子どもとの信頼関係、先生との信頼関係を築いてこその仕事です。そして、子どもと子ども、先生と子ども、先生と先生をつなぐ善意の通訳者であり、黒子であると思います。あくまでも主役は子どもと先生です。

 

 我が子の子育てにも役だった「発達」の知識

発達に関する知識を得ることは、わが子の子育てにも役立ちました。

例えば、「うちの子は感覚過敏があるから、どろんこが苦手なんだな」などと理解してあげられたこと、また、学校で困り感のある他のお子さんを見ながら、我が子もこんなところでつまずいていたのかな?と気づかされることもありました。そして、何より、子どもの事を理解できると自分も楽になったのです。

心がけているのは、クラスの子みんなが育つように関わるという視点

 

 ある年、学校ではすぐに暴力、暴言が飛び出してしまう子が入学してきました。

家庭に問題を抱えており、コミュニケーションを穏やかにとることが難しく、常に周りの友人や大人にも暴言を吐く状況でした。そこで、担任はじめ、その子に関わる大人達が連携して、彼の言動の裏にあるものを読み取り、理解していこうと努めました。

学校全体でその子と信頼関係を築こうと働きかけ続けた結果、彼は、徐々に自分がどんな態度を取っても受け入れてもらえるとわかり、自己肯定感が上がってきました。

すると、はじめは「あの子とは、同じ班になりたくない」と言っていたクラスの子どもたちが、「先生、もう大丈夫。この子のことは僕らに任せて」と、言ってくれたのです。高学年になるについてその子の問題行動は減り、本人も周りも育ち、先生にも恵まれて、無事に中学へ進学しました。

 子ども同士の気持ちの橋渡しをすることも

私たちは、子どもたちの進学先にはついていけないのですから、同級生である周りの友達をどうするかも大切にしています。

支援に入る時は、周りの子にも「○○さんはこんな暴言を言ったけど、こういう気持ちだったんじゃない」と、橋渡しをします。すると暴言を言われた子どもの方も、嫌な気持ちだけでなく「そうだったのか」と気づいてくれます。そんな橋渡しの積み重ねが、周りの子を育てることにつながります。大人が関わり続けるのより、子ども同士で解決することの方が、子どもにとってもプラスになることが多いので、周りとの関係性を良好にしていくことも大切にしています。

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学んで知識を得たこと、仲間ができたことで心の余裕ができました

星山先生の講座で一緒に学んだ幼稚園時代のママ友だちには、いまだに子どものことで何かあると「ちょっと聞いて」と相談します。子どもは別々の高校に進学しても、子育ての失敗談など、他のお母さんには話せないようなことを何でも話せます。自分のことも子どものことも、何でもわかってくれている安心感がある。そんな仲間ができたことも、講座に参加してよかったことのひとつです。

 子どもが小さい頃、特に第1子のときは、周りの子と自分の子が違うと、それだけで心配になりました。特別支援の勉強をする前は、周りと比べて「なんで、どうして」と子どもを責めてしまい、親子関係を悪くしたこともあります。そんな私が心に余裕ができたのは、学んで知識を得たことと、仲間ができたおかげだと思っています。

子どもの育ちについて悩み、どこにも相談できないお母さんは沢山いらっしゃると思います。どうか、ご自身が安心して思いを打ち明けられるような仲間との出会いがあることを願っています。そして、ご自身のことも、お子さんのことも、いいところを沢山見つけられますように。

 

教えてくれたのは

学校サポーター(特別支援士・早期発達支援士)
遠藤里穂さん

2012年〜2015年に「サポーター育星講座」を受講。東京都八王子市学校サポーター」歴は8年目。

高校1年と中学2年の二児の母。

取材・構成/江頭恵子 イラスト/本田亮

 「サポーター育星講座」を主宰している星山麻木先生が、学術集会を開催されます(主催・こども家族早期発達支援学会)

 テーマ ありのままの自分を見つめて – エンパワーメントを育む –

日時:12月26日(日)10:00~16:30

午前中は会員による口頭発表、午後はシンポジストとなります。
【シンポジスト】
汐見稔幸、中川信子、井本陽久、田中哲、星山麻木、(司会;星山麻木) 敬称略
豪華なシンポジストの先生方となります。

参加対象:当学会会員の方も、非会員の方もどなたでも受講いただける学術集会とな
ります。
詳細は、こちらをご参照ください。
https://kodomokazoku.org/meeting/assembly07/

 

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