【発達障害を支える人に聞く】子どもの気持ちを聞き取る学校サポーター。子どもの自己肯定感を上げる手助けに

星山麻木先生の「サポーター育星講座」の第一期生である金井直子さんは、学校サポーターとして約10年働いたのちに、東京都の特別支援教室専門員となり、現在は、通級指導教室や特別支援教室の指導員として働いています。前回の遠藤さんに続き「学校サポーター」として働いていた頃のエピソードや、仲間づくりの場として始めたお茶会「フィーカキャラバン」の活動について伺いました。

サポーターの役割は、子どもの気持ちを聞き取り先生に伝える橋渡し

 私が学校にサポーターとして入り始めたのは15年前くらい。サポーターを入れる試みを始めたばかりで、学校側も私たちに何を頼んだらよいかわからない。だから、来てもらってもちょっと迷惑みたいな空気がありました。先生たちにもまだ発達障害の子をどう扱ったらよいかという経験や知識がなく、サポーターたちも初心者で、試行錯誤の状態が何年間か続きました。その後に理解してくれる先生たちが増え、なんとか連携が取れて、本来のサポートができるようになってきました。

サポーターの仕事は幅広くありますが、具体的には、子どもが学習に向かうまでの気持ちを落ち着かせるためのサポートや、教室にいるのが辛くなった子どもたちの見守り、学習障害の子のサポートなどを行います。学習支援はもちろんですが、「この子はサボっているのでなく、こんな風に困っているんですよ」と、子どもの気持ちを通訳して先生に伝えることも私たちの仕事です。子どもからの聞き取りを元に、「手元にお手本があると読めます」などと、担任に伝える橋渡しの役割です。

子ども同士のトラブルを、子ども自身で解決できるサポートも

 

学校では、発達に特性のあるお子さんをサポートするだけでは、うまくいかないことも多々あります。教室の中には、その子を刺激する子どもたちがいるし、助けてくれるお友達もいます。そこの関係をうまくつないでいくと、私たちが入らなくても、友達が助けてくれたり察してくれたりするようになります。すると、クラスの雰囲気が落ち着き、本人も落ち着くということがよくあります。

友達同士で誤解が生じてトラブルになっているときも、「本当はこんなふうに思っていたんじゃない」と、少しだけ介入して、「あ、そうか」と、本人同士が気づくようにします。そうしていくうちに、「○○ちゃんは、こうやると怒るんだよねぇ」と、子どもたちが学んでうまくいき、子ども同士で支え合えるようになります。

 

私のことを「ばばぁ」と呼んでいた子から言われた「ありがとう」

 サポーターとして学校に入っていると、たくさんのうれしい場面に遭遇します。あるとき、かなり読み書きが難しく家庭環境も複雑で、ほとんど教室に入れない子がいました。家でもほめてもらえないし学校でも怒られてばかりで、「どうせ、俺はバカだから」「勉強なんてやっても無駄」「俺なんかいない方がいいんだ」と、自己肯定感は下がりきっていました。

そこで、試験の時に担任の了解を得て、問題文を読んで説明してあげました。すると、それまで0点や20点くらいだったのが80点を取れたのです。その子は「俺、できるんだ」と喜び、担任からも褒めてもらえました。そして、それまで私のことを「おまえ」や、「金井」「ばばぁ」と呼んでいたその子から、はじめて「先生、ありがとう。もう、大丈夫」と言ってもらえました。その時はうれしくて、我慢できずに廊下に出て泣きました。子どもの自信を少しだけ後押しできたという瞬間に、自分が関わることができたのがすごくうれしかったのです。

保護者の理解を得ることが難しく、支援が進まないケースも

 いっぽうで、悔しい思いをすることもあります。現在は保護者の方達もずいぶん理解が深まりましたが、当時は保護者の理解を得るのが難しいことがありました。

あるとき、聴覚過敏がある子がいて、教室では周りの音がうるさくて集中できず、理科室なら静かで捗るというので、担任が配慮して、ひとりで勉強できる場を作りました。すると、保護者が怒鳴り込んできて、「なんで教室から出しているんだ? うちの子を特別扱いしないで」と言ってきたのです。子ども本人が「静かな環境なら勉強できるし、そうしたい」と言ってもわかってもらえず、支援が進まなかった経験があります。「支援を受けた方が、子どもが楽になるよ」と、わかってもらえるといいのですが、発達障害という名前がよくないのか、支援を拒否されるケースは残念ながらたくさんあります。

 

保護者ともっと繋がりたいという思いで、特別支援教室専門員になる

 地域の保護者同士という関係でもあるため、学校サポーターは基本的に保護者には関わらないルールになっています。保護者に伝えたいことがあると、担任の先生や管理職を通すことになりますが、うまく伝えられないジレンマみたいなものもありました。そこで、もう少し学校の中に入りたい、保護者との面談にも立ち会いたいと思って、東京都の特別支援教室専門員になりました。

 いま、お子さんのことで悩んでいるお母さん方には、本やネットでいろいろ調べすぎない方がいいよと伝えたいです。情報の中にはすごくいいものもありますが、あれ?と思うものもたくさんあります。まずは地域の子育て広場などで、気の合う人を見つけて、子育てがちょっとだけ先に終わっている人などに相談できるといいですね。各自治体にある相談機関や窓口は敷居が高いと感じる人もいます。なので、その手前のお母さん同士が集まるところで、「実はこんなことで困っているの」と話せる仲間を見つけてほしいと思います。

 

子育ての困り感を話せる場「フィーカキャラバン」で広がる仲間の輪

 

私は「フィーカキャラバン」の代表もしていて、八王子市内の学校の保護者会に「フィーカキャラバン」を取り入れています。

フィーカとは北欧のお茶タイムのことで、「フィーカキャラバン」は、簡単にいうとお茶会のこと。お友達を作ることが目的で、私たちがみなさんをつなげるファシリテーションをします。すると、子育てで何かトラブルが起きた時に、相談できる仲間が見つかります。上の子がいる人がいたら、中学になるとこんなことで困るよなど、子どもの少し先の未来のことを教えてもらえます。「発達障害の講演会に行こう」より「お茶会あるから行ってみない」という方が誘いやすいし、打ち解けた会話の中で子育ての困り感を話せるように、安心して話せる場所にしたいと思っています。

 フィーカキャラバンに参加した方にアンケートを取ると「また参加したい」という方がほとんどで、「参加したくない」と答えた人が1人もいないというのが自慢です。

フィーカキャラバンで、親同士で支え合えるネットワークを広げていきたい

今の仕事はとても楽しくて、やりがいがあるので続けたいと思っています。そして、退職の日が来たら、できればママカフェを作って、思い切りフィーカをやりたいと思っています。子どもが遊べるコーナーも用意しておき、疲れた日にママがお茶を飲みに来て、その話を「いつでも、聞くよ」と受け入れる場所にしたい。話を聞いてくれる人が沢山いれば、お母さん同士が支え合えるようになります。そうやって、サポーター仲間のネットワークが全国にも広がっていくことが私の願いです。

教えてくれたのは

金井直子さん

2007〜2011年に「サポーター育星講座」を受講。東京都八王子市の「学校サポーター」を15年間務めたのちに、東京都の特別支援教室専門員となり、通級指導教室や特別支援教室の指導員に。2011年より「サポーター育星講座」の事務局と講師も務める。二児の母。

 

【発達障害を支える人に聞く】専門知識を得て、地域の子どもたちを支える 「学校サポーター」として活動
幼稚園でわが子の悩みを母親同士で共有できたことが「発達」の勉強につながりました   長男が通っていた八王子市内の幼稚園では、定期的に...

 

取材・構成/江頭恵子 イラスト/本田亮

編集部おすすめ

関連記事