「子どもの注射」の痛み、我慢させるだけでいいの?現役ママ麻酔医が教える痛み、恐怖をやわらげる方法

お子さんの誕生の喜びから束の間、生後2ヶ月からいよいよ定期予防接種が始まります。最初は4~5つのワクチンを同時接種することが一般的です。かつて日本では「一瞬の痛みなら子どもは覚えていない」と誤解されていました。ところが欧米の最新医療では別の見地が!子育て中の現役ママ医師が解説します。

知って欲しい、子どもの注射の痛みを軽減する工夫

日本では「痛みを我慢するのは美徳」という文化的な価値観もあって、注射の痛み軽減への配慮はあまりなされてきませんでした。

いま、欧米では、出生直後に医療処置を数多く受けた早産児は、成長後に痛みに強い反応を示すといった研究報告もあり、子どもの痛み緩和が重視されはじめています。私は麻酔医として子どもの痛みの緩和の研究を重ねてきました。ワクチン接種は、健康なお子さんでも避けて通れない注射です。

ちょっとした工夫と接し方で痛みは和らぎます。お子さんの痛みとの付き合い方について、知っていてほしいことをお伝えします。

注射の前に心がけて欲しいこと

なぜ、注射をするのか説明をしてあげて。4歳~は絵本も効果的

だいたい4歳くらいから、注射について簡単な言葉で説明をすることで理解できるようになると言われています。幼児期は、注射は痛いものという固定観念が植えつけられたり、痛かったことで注射がトラウマになったりする時期でもあります。ワクチンを打つ意義を説明して、本人が頑張ろうとポジティブに思ってもらうようにしましょう。

予防接種を題材とした絵本などの利用も効果的です。著者のおすすめは、「どきどきよぼうちゅうしゃ」です。健康なのにどうして注射しなければならないか、という子どもの疑問にわかりやすく答えています。また注射の痛みについて説明している「ちっくん相談室」もパパやママが理解しやすい内容となっています。

『どきどき よぼうちゅうしゃ』(あかね書房)はしかの予防接種をするりこちゃんが、憂うつな気持ちで病院に行くと。。予防注射をする意義を教えてくれる絵本

注射する部位を冷やす、タッピングする

注射する部位をあらかじめ冷やすことで、痛みを少なくすることができます。冷感スプレーや保冷剤を用い、注射の直前に看護師や医師が行います。

注射する部位をあらかじめ押さえたり、軽く手でパンパンとはじいて叩くことで針の痛みを軽減することができます。

乳児には、授乳、ショ糖液を与える

母乳やショ糖を含む砂糖水をあらかじめ与えることで、赤ちゃんの感じる痛みが軽減できているという研究結果が出ています。これも、注射の直前に看護師や医師が行います。

局所麻酔クリーム、パッチの使用

海外では長年使われてきたクリームやパッチ式の局所麻酔薬があります。30-60分前に予め注射する部位に塗布することで針の痛みを和らげることができます。
日本では医師の処方が必要です。ちなみにワクチン接種は自費診療になりますので、保険適応外です。一回の使用で200-300円ほどの窓口の支払いが必要になりますのであらかじめご確認下さい。

月齢・年齢にあった姿勢を

月齢・年齢に合った体勢がとても重要になってきます。

生後6ヶ月までの乳児は保護者の胸と赤ちゃんの胸を合わせた、いわゆる”前抱き”にしましょう。生後6ヶ月以降は赤ちゃんを背中から抱える”後ろ抱き”をします。

続けて何度も注射されると、赤ちゃんの泣き声も次第に大きくなってきますが、そんな時、お母さんやお父さんも動揺しないで赤ちゃんを励ます態度が大切です。手足をバタバタと動かそうとしますが、しっかり抱っこすることで、針がぶれたりすることなく、短時間で接種できます。痛みの少ない予防接種には、保護者の協力が不可欠です。

1才半以降〜幼児期のお子さんは、椅子に座らせて隣に保護者が付き添って抱えます。

小学生以上のお子さんには、座る、寝る、どちらの姿勢が良いか選択肢を与えると良いでしょう。自ら決めることで子どもに自信がつきます。

注射の最中には、こんな働きかけを

次に、注射をする時に行う工夫について説明します。子どもの注射への不安を軽減するために励ましや、リラクゼーション、意識そらしを行います。

声がけで励ます

赤ちゃんが泣いて頑張っている時こそ、保護者や医療者の優しい声掛けが必要です。痛くて暴れたりすることもあるので、「そーっとするよ」「1,2,3で終りだよ」「深呼吸したらいいよ」「少しチクッとするよ」と声掛けをしながら実施します。

意識そらしとリラックス法

年齢に合った意識そらしをします。代表例を紹介します。
1歳未満の赤ちゃんには音楽を聴かせたり、歌を歌ってあげたりピカピカ光るおもちゃや、音の鳴るおもちゃで気を引きます。

1歳以降のお子さんには、風車やシャボン玉を吹かせたりし、こちらは呼吸法にもなります。音楽を聴かせて時には一緒に歌ったり、タブレット端末やスマホなどで動画をみせたりします。お気に入りのぬいぐるみのおもちゃを持たせたり好きな絵本を読んで安心させることもできます。指先を使うセンサリーバッグや、お絵かきなどの遊びをさせることも効果的です。

2-3歳頃から数をかぞえられるようになるので、こちらも意識そらしに有効です。「10までに終わるよ」など親が一緒に数えてあげましょう。

小学生以上には、リラックスのための呼吸法を試したり、音楽を聴くのはもちろん、好きな動画を見せたり、ゲームをさせたりします。最近ではの痛みの意識そらしに特化したスマホのゲームアプリなども海外で開発されています。

リラックスや意識逸らしは成人になってからも効果的です。覚えておいて損は無いと思います。

実は、アフターケアがいちばん大事

最も大切なことは、終わった後の言葉がけです。

泣かずに頑張れた子には、「やればできるね、すごい!」「よく頑張りました」などと褒めてあげましょう。泣いて大暴れした子にも、「よく頑張りました」「今度、また頑張ろうね」と精いっぱいの努力を称えることが大事です。皆が自分を応援してくれていると分かると、今度は頑張るぞというポジティブな気持ちになります。

これらのさまざまな方法を複数組み合わせることで、より効果的に痛みや不安、恐怖を軽減することができます。事前に医療スタッフと打ち合わせするなど準備が重要です。

子どもの注射時のNG、これは絶対にしないで!

最後に、絶対にやってはいけないこともここで紹介します。

・嘘をつくこと
・否定すること

です。

気休めの言葉、「痛くないよ」「大丈夫だよ」などは、信頼関係が崩れることがあるので良くありません。「おりこうにしないと、病院で注射をしてもらいますよ!」というフレーズを普段の生活で何気なく使っていたらそれはすぐにやめましょう。子どもたちに「嘘をついている」ことは逆効果です。あたりまえですが、おりこうにしていても注射は必要ですし、どんな注射も痛いのです。

また、「男の子のくせに泣くな」「こんなことで泣いてどうするの?」など、子どもを否定する言葉も厳禁です。ますます次回以降の医療措置を怖がるようになり、子どもへの予防接種の実施がより困難になります。

以上、子どもの予防接種の痛みを軽減するためにやるべきこと、やってはいけないことについてご紹介しました。

まだまだ医療現場に定着していない概念でもあり、なかなか医師や看護師に協力や理解が得られない可能性もあります。事前にHPで情報を確認したり電話などであなたの希望を伝え、クリニックや病院に相談することをおすすめします。

記事を執筆したのは

桐田泰江|麻酔医
浜松医科大学医学部を経てを経てシドニー大学医学部で、Pain Management修士号修得。自身が痛みに苦しんだ経験から麻酔科を志す。麻酔科医として勤務の傍ら、アメリカ、カナダなど海外では普及している「子どもの痛みのケア」を日本でも定着させるべく活動中。『イタイのイタイの飛んでけー 子どもの痛みに寄り添う』の翻訳を手がける。2児の母。

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