【黒田耕平×安浪京子 中学受験ホンネ対談】親がサポートすべきことは?受験に向き不向きはある?

わが子の中学受験のことを思うと悶々としてしまうのが、小学生を持つパパママの共通の思いかもしれません。そんなモヤモヤを一気に晴らすような痛快ホンネの対談が、このほど花まる学習会の講演会にて開催されました(9月28日)! 
ご存じ、中学受験塾大手の希学園学園長・黒田耕平先生と、プロ算数家庭教師でコラム連載や著書も多い安浪京子先生。いずれも20年以上の長い講師経験からのお話は、パパママの胸にまっすぐに響きます。ぜび聞いてスッキリしてください!

受験は向く、向かないではなくてやり通すもの

「うちの子、ぜんぜん勉強に集中できない」「このままじゃダメかも…」「うちの子は受験に向かないのかも」と勉強が手につかないわが子の様子を見ていると、親としては不安になってくるものです。そこで先生方にストレートにお聞きしてみました。

 

中学受験に向く子、向かない子はいますか? 先生それぞれにお答えください。

黒田先生 中学受験は幼い小学生が挑むので、お子さん自身が主体性をもってのぞむにはまだまだ難しい状況からスタートします。ご両親の期待をよそに、自分の好きなことをしてしまう子もいますよね。でも、その子が受験に向いていないというわけではありません。スポーツやお稽古事も同じかもしれませんが、中学受験もその体験によっていろんな分野に視野を広げ、成長につなげていけるものではないかと思います。

安浪先生 成長速度も勉強内容の習得度も、その子によります。漢字を1回書いたら覚えてしまう子もいれば、10回書いても覚えられない子もいます。それまで低迷していたのに、急激にできるようになる子もいます。それぞれの持ち味ですから、「向く、向かない」とすぐに考えなくてもいいのです。ただ、最難関校に対しては向き不向きがあると思います。最難関校に挑む子はスポーツに例えれば、オリンピック選手を目指すようなものですから。

でもね、以前は中学受験は偏差値至上主義でしたが、今はものすごく多様化しています。AO受験もありますし、小学校の勉強についていけないから中学受験、というご家庭も増えています。黒田先生の言うように、それぞれの子らしく成長できる機会ととらえれば、どんな子にも向いているといえるのではないでしょうか。

家庭でパパママがすべきことは?

黒田先生 塾や家庭教師の講師は、言うまでもなく他人ですよね、他人にはできることとできないことがあります。だからこそ、日々一緒に暮らすご両親にこそやっていただくべきことがあると思います。子どもは日常生活の中で「なんで?」とたくさん質問してきますが、専門的でなくていいので、その質問にひとつひとつ答えてあげてください。子どもが言葉を覚えたり表現したりする土台になるからです。これは数時間しかお子さまをお預かりできない塾や家庭教師には対応不可能なことです。

 

安浪先生 受験勉強ではたくさんの問題を解かないといけませんが、そのプレッシャーに押しつぶされることもあります。親が子どもの様子を見て、「うちの子、到底こなせない」と思えば何を間引いていけばいいか、塾や家庭教師と相談していただくのがいいと思いますね。お子さんの顔から生気がなくならないよう見守って、目を配っていただきたいですね。

 

効率よく勉強しすぎたら定着しない 

親は子どもの心の支えになることが大切なんですね。親だからこその、わが子への視点の大切さはわかりました。次は実際に勉強するときの勉強法が気になります。

効率よく勉強する方法とは?

安浪先生 勉強の前に、まず子どもが元気よく勉強に向かえるための、適切な睡眠時間とか休憩時間を探りましょう30分仮眠をしてから勉強したほうがいい子もいれば、5時間ぶっ続けでできる子もいれば、30分ごとに区切った方がいい子もいます。そういう、お子さんにとって最適な勉強の時間や量、睡眠時間や休憩時間をご家庭で把握することが大事です。


黒田先生 そういう工夫のしかたは大切ですね。ただ、本質的な話で言うと、効率のいい勉強方法はないというのが結論ですね。子どもは試行錯誤することで勉強ができるようになっていくのだから、時間を短縮していけば経験値が少なくなってしまいます。ムダかもしれない時間は、実はできることを増やしている過程でもあるのです。こうすれば短時間でこう結果が出る、というセオリーみたいなものはなくて、ひとつひとつ一歩一歩みつけていくことだと思います。

 

では、親がどういう形でサポートしていくと意義のある中学受験になるでしょうか。

安浪先生 中学受験って、合否だけで考えると短絡的になってしまうんです。「意義のある中学受験」と考えるなら、受験を通して、我が家ではこの子には何を得てほしいのか、夫婦できっちり話し合って、ひとつの考えを持ってもらうことが大切かなと思いますね。子どもが成長するためのコンテンツがたまたま勉強、受験だととらえて、では子どもが30歳になったときにどういうふうに生きるんだろう。そんな話をしていくと、大事なのは学校名じゃないってわかってくるのではないでしょうか。

黒田先生 まさに安浪先生がおっしゃるとおりだと思うんですね。すごくがんばっても報われない結果になってしまうことがあるし、そんなにがんばらなくてもうまくいってしまうこともある。でも、合否で子どもたちの人生が決まってしまうわけではないんですよね。

行かせたい学校に合格できればもちろんいいけれど、それがすべてではなくて中学受験を通じてどう成長できたか。たとえば人の気持ちがわからない子だったけれど、友だちと切磋琢磨して友達や親にも感謝できる子になったら、意義のある中学受験になります。親御さんには中学受験の目的を考えていただき、子どもたちにもわからないなりにキチッと伝えて、共有するステージを広げていくことが大事だと思いますね。

 できたことをほめていく。それを繰り返せば自信になる

ここからは対談を聴いているパパママからのリアルタイムの質問に答えていただきます。

「小学校5年生ですが、学校の宿題も管理できません。もっとグリグリやって受験に入らせたほうがいいでしょうか」

安浪先生 「グリグリ」ですか()。たしかに親の伴走は必要ですが、「徹底管理」をしてもうまくいかないと思うんですね。親の理想は子どもの理想ではないですから。あまり引っ張りすぎて主体性なく勉強に向かっても次につながらないし、かといって黙っていても変わらない。難しいけれど、少しでも自分の人生を自分の足で立つような意識を持たせることだと思うのですが。私も生徒に対して毎回「トライアンドエラー」です。いろいろ試していただくしかないですね。

黒田先生 実は子どもってけっこうできるんですよ、実感として大人のほうが「できない」って決めつけていることが多い印象ですね。大人のほうで「ここまでやらなきゃ」というラインを決めてしまわないで、まずは子どもがやれたことを認めることが大事なのではないでしょうか。やらされるのではなくて、「がんばったらやれた」という実感をひとつずつ増やしていくことですね。

 

よく「5年生で伸びる子」っていいますが、どういう子が伸びるのでしょうか。

安浪先生 考えることから降りない子ですね。5年生になると「AといえばB」では終わらないんです。「AといえばB、でもその先にCがあってその先EFがあるよね」って考えることから降りない子、そのための作業をいとわない子、ですね。

 

黒田先生 公式を覚えたっていうレベルではなくて、それが使える、ということですよね。「とにかく覚えればいい」というやりかたではなくて、「なんでそうなの?」と思った上でひとつひとつを自分で考える。「ここを見たら答えがわかるよ」ではなくて、間違えながらも「なぜこうなるんだろう」と考えること。それができないと5年生以降で伸びないです。

子どもたちって「あれしなさい、これダメ」って常に言われている環境だと、考える力がぜんぜんつかないんです。もちろん制限は必要だけれど、そのなかで自分で自由に考えて失敗もしていく。そういう中で考える力が育っていくんですね。生活面でも大人が指示しすぎると育たないですよ。

 特に低学年のうちに忙しくしすぎないほうがいいですよ、暇にしてあげてください。暇な時間にチョウチョが飛んでいるのを眺めている、それだけでもいろんな疑問が出てきて学びにつながっていきます。子どもなりに考える隙間になっていくんです。最終学年は忙しいかもしれないけれど、暇を大事にして、自由に発想して考えたりのめり込んだりする時間を作ってほしいですね。

安浪先生 まったく同じことを言おうとしていました。今の子どもは忙しすぎるんですよね。プログラミングと空手とサッカーと英語…って、そんなに詰め込んでどれに集中できるのって。「いえ、土曜日の午前中のここはあいています」って暇な時間さえ決められてしまう。そんなに詰めなくても、池のなかに飛び石がある程度のスケジュールでいいんです。

受験直前には子どもをポジティブにしてあげよう 

では、最後に中学生受験直前の小学校6年生の保護者からの質問です。

「入試まで4カ月半、親が注意すべきことは?」

安浪先生 大きくいうと3点あります。

・残された期間でできる勉強量は限られています。体力にも時間にも限りがある中で、一番大事なのは「絞る」ということ。たくさんのことにまんべんなく触れて薄くなるより、絞って本当に質をあげることですね。

しっかり寝かせてあげてください。子どもが肉体的にも精神的にも元気な状態で準備を続け、モチベーションもエネルギーも保てる状態にしてあげてください。完璧には難しいけれど、睡眠まで削らないようにお願いします。

とにかくポジティブに。「走り抜けたらあなたの財産になるよ。信じてるよ、がんばろうね」っていう感じで明るく声をかけてください。

 

黒田耕平先生

 

 

 

 

中学受験塾として知られる希学園学園長。1975年兵庫県伊丹市生まれ。大阪大学在学中より塾講師業に携わり、希学園の算数科講師として、灘中をはじめとした最難関中学校へ多数の合格者を輩出。2009年より希学園学園長に就任した後も、経営トップと二足のわらじをはきつつ、低学年から灘中受験を目指す6年生まで幅広く授業を担当。自ら生徒指導の第一線に立ち続けながら、塾生に一生懸命にやりきることの大切さとその先にある合格・成長の喜びを伝え続けている。著書に『未来につなぐ中学受験』(クロスメディア・パブリッシング)。

 

安浪京子先生

 

 

 

 

株式会社アートオブエデュケーション代表取締役、算数教育家、中学受験専門カウンセラー。神戸大学発達科学部にて教育について学ぶ。関西、関東の中学受験専門大手進学塾にて算数講師を担当、生徒アンケートでは100%の支持率を誇る。プロ家庭教師歴20年以上。中学受験算数プロ家庭教師として、算数指導だけでなく、きめ細かい指導とメンタルフォローをモットーに毎年多数の合格者を輩出している。著書に『中学受験にチャレンジするきみへ~勉強とメンタルW必勝法!』(大和書房)ほか

 

取材・文/三輪泉

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