小3頃で悩む中学受験「する?」「しない?」プロに聞く親のスタンスは?「する」なら受験コンセプトノート作りを

「中学受験をする・しない」はどう考えたらよいのでしょう。子どもの気持ち? それとも親の願望? まわりの空気? なんとなく流れで始めてしまうと、壁にぶつかったときに「なんでうちは受験することにしたんだっけ」と自分が見えなくなってしまうことにもなりかねません。学力がつく半面、遊ぶ時間が減るなどメリット・デメリットが混在する中学受験。いったいどのように心を定めておくとよいのか、「親子が疲弊しない中学受験」の指導で定評のある個別学習塾の塾長・亀山卓郎先生にお話しを伺いました。

まわりが中学受験で「ざわざわしはじめる」小学3年生

「中学受験をするかしないかはどうやって決めるの?」どんな心構えで進んでいけばいいのか、考えてみよう。

子どもが3年生になったあたりから、ママ友とのおしゃべりのなかに中学受験に関するワード、例えば「私立の〇〇中学」とか「偏差値」、「塾」といった言葉が多くなってきていませんか?

いうまでもなく首都圏では中学受験をする子どもがとても多く、それゆえに「我が子の進学先」について不安や悩みを抱えている家庭は少なくありません。

「いつから塾に入れたらいいの?」「塾の勉強はハードみたいだけど、うちの子は耐えられるかしら?」「難関校レベルではなく、うちの子にあった中学はあるの?」など、親子の数だけ、いやそれ以上に悩みはつきないもの。今回は、受験する、しないを考えるときに、まず最初に親がしっかり考えておくべき「軸」について考えてみましょう。この軸がしっかりしていれば、受験が原因で起こる大波小波も、親子で力強く乗り越えていけるはずですよ。

中学受験を「迷う」のには十分すぎる理由がある

中学受験を考えるのは小学3年生あたりから

現実として首都圏では、子どもが小学4年生ごろから、塾通いする子が急に増え始めます。多くの塾では3年生の2月からを「新四年生」と呼び、ここから中学受験のためのプログラムを組むのが一般的です。

受験をするかしないかを考えるだけでモヤモヤした気持ちに

つまり、入試本番の6年生の2月まで、子どもたちは丸3年間も受験勉強をするわけで、親はまず「そんなに長期間も必要?」、そして「いつから塾に行けばいいの?」という疑問を持つでしょう。塾の説明会に行けば、「このくらいの期間がないと、難関校レベルの力をつけることは難しい」と言われ、「それが現状なのか」と不安になり、塾に行かせなかったら、それはそれで「うちの子は塾に行っていないけど、大丈夫なの?」と不安になります。また、受験以前の問題として、「公立中じゃダメなの?」と「私立中学が本当に子どものためになるの?」と悶々とするケースもあります。

ひと昔の「一部の頭の良い子が行くのが私立中学」ではなく、今では首都圏、とくに東京はさまざまな層、さまざまなタイプの子どもを受け入れる私立中学校がたくさんあります。

だからこそ、もう中学受験は「迷う理由だらけ」です。

亀山卓郎先生に聞く「どうして中学受験を考えたのか」の基本軸をつくろう

今回は個別学習塾の塾長として、多くの親子を目にしてきた亀山卓郎先生に、中学受験をする、しないを決める際のポイントを伺いました。

亀山先生は「今は受験の情報があまりにも多すぎて、気がつかないうちに‶少しでも偏差値の高い中学校に入れば、その先の大学進学や就職を考えたときに、子どもの選択肢が増える=幸せになる〟という価値観を植え付けられてしまった親御さんが多いように感じます」と指摘します。

そして「なかなか難しいのは承知ですが、それでも大手塾の情報や謎のママ友情報に踊らされず、親子で納得し、最終的にどこの学校に決まっても笑顔で進学できる子どもを育てることこそが大事」であると続けます。

受験スタート時に「どんな私立中学に行きたいか」を言える子どもはほとんどいない。でも、子ども自身が受験に対して前向きな気持ちがあるかどうかは中学受験をする・しないの目安になる。

どうして中学受験をするかを夫婦で共有

そのために中学受験を考える最初の段階でやってほしいこと、それは「我が家はどうして子どもに中学受験をさせようと思ったのか」をはっきりさせて、それを夫婦で共有しておくことだと亀山先生は強調します。

例えば、

・高校受験のない6年間で、のびのびと過ごさせたい

・同じような学力、バックグラウンド、価値観を持つ子が集まる私立中で、居心地の良い学校生活を送ってほしい

・公立中にはない学習環境や部活動など、私立中ならではの学校生活を楽しんでほしい

・特徴あるプログラムで学習習慣を身に着け、希望する大学に進学できる学力をつけてほしい

など、さまざまな理由があるでしょう。

どれも親の子どもへの愛情と期待の表れとして、自然で本音の願いです。

受験期間は長いので「なぜ受験をするのか」のメモが大事

「当たり前かと思うかもしれませんが、このような、‶そもそもの親の受験に対する思い〟を基本軸、指針にしてほしいのです。というのも、私はこれまでに、当初は‶子どもにのびのびと6年間を過ごさせたい〟と言っていた親御さんが、いつのまにか‶偏差値75を目指すには、どんな勉強させたらいいですか?〟とお尻を叩いて子どもに勉強させることに躍起になり、結局うまくいかなくなったケースをたくさん見てきたからです。
あふれる受験情報によって、親の基本軸がブレてしまいそうになることは多々あります。でも‶うちはなんのために受験をさせるんだっけ?〟という原点を夫婦でコンセンサスを取ってしっかり固めておくこと、そして事ある毎に振り返ることが何よりも大事だと痛感しています」

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「夫婦で受験コンセプトノート作り」が、ハッピー受験の第一歩

亀山先生がすすめるのは、まず「うちの子に受験させる理由」をはっきりと書き留めた「受験コンセプトノート」をつくること。

普通の大学ノートで構いません。特別なフォーマットもありません。最初にこの「受験コンセプト」を夫婦で話し合って書くだけ。文章も短くていいのです。そしてその後は、そのノートには親が子どもの言動や表情、学力の変化、心身の成長などを見て考えたことや、さまざまから得た受験情報をもとに考えたこと、悩んだり不安に思ったことなどを、忌憚なく書き加えていきましょう。

「中学受験コンセプトノート」。「なぜ中学受験をするのか」「地元の公立中に入ったらどんな感じ?」「どんな中学に通ってみたい?」など、夫婦、親子で話し合ったことをメモしておこう。

のちに変化してもOK。今の気持ちをメモしておこう。

「記録をつけておくことが大事なのです。その時私たち夫婦はこういうことを考えていた、という記録です。文章化するほうが内容がクリアになるので、夫婦間の考え方のズレや誤解がより少なくなります」と亀山先生。

長い受験勉強期間には、親も子どももさまざま不安や悩みが出てくるでしょう。子どもの学力が予想より上がった(または下がった)から志望校を変えようとか、もしかしたら中学受験はやめたほうがいいのかも、と悩むかもしれません。

そのようなとき、夫婦でもう一度最初のページを見て、「そもそも、我が家の受験の理由って何だっけ?」と振り返れば、これまでと違う子どもへのサポートの手段を考えられるかもしれません。もしかしたら親の思いがヒートアップしていることに気が付くかもしれません。いずれにせよ、冷静になって今後の方向を決めていくことができるはずです。冒頭の悩みや不安も、「我が家の受験コンセプト」の軸がしっかりしていれば、周囲の雑音に惑わされず解決できることが多いのです。

長い受験期間だからこそ、心を整えることが大事

大事なことなのに、このように文章化している親御さんは「1割もいない」と亀山先生は感じると言います。大手塾などは「まず受験ありき」の前提でスタートすることが多いので、いきなり「受験レース」に放り込まれてしまい、「こんなはずではなかった」と悔やむケースもあるようです。

「我が家の軸」がないまま中学受験をスタートさせて親子で迷走しないためにも、まずは「受験コンセプトノート」を夫婦で作ることから始めてみてはいかがでしょう?

共働き夫婦でも問題なし! 大事なのは子どもとの距離感

毎日の積み重ねが大事な受験勉強。学力が身につく一方で遊ぶ時間が減るデメリットも。時間の使い方をうまく考えられるかどうかも「受験をする・しない」を考える要素になる。

夫婦の考えを合わせることはとても大事

中学受験までは「親の受験」と言う人もいますが、確かに中学受験は「子どもは親からの影響をかなり受ける」と亀山先生は言います。

一番避けたいのは「夫婦間で考えが違う」こと。子どもはどちらの言うことを聞いたらいいのか混乱するので精神的に不安定になりやすく、受験勉強への意欲にも影響します。そうなると子どもの学力は伸びませんし、親子ともども疲弊するといった悪循環になる場合も多いのです。

共働きは受験生活のハンデにはならない

今は共働きの家庭が多いので、なおさら夫婦がともに忙しくて、中学受験の話し合いをする時間を取りにくいかもしれません。

「しかし子どもの受験サポートは、親が共働きか否かは関係ありません。共働きでもうまくやっているところもあれば、お母さんが働いていなくてもうまくいかない親子もいます。肝心なのは夫婦にしっかりした受験コンセプトがあるうえでの、子どもとの距離感。親の仕事に関係なく、子どもをよく観察して、変化を上手に察知できれば、受験勉強や成績のことで不安になりがちな子どもを見守り、応援できるベストな距離感を保てます」

夫婦で役割分担を上手にこなして乗り切る家庭が多い

とくにお母さんにとっては、男の子の言動・行動が「理解不能」と感じることがあります。受験期に反抗期が始まる子もいますから、そんなときはお父さんに第一サポーターになってもらって、お母さんはあまり口出ししないようにするといった工夫が必要かもしれません。

一般的には、中学受験では子どもと二人三脚を組むのはお母さんで、お父さんは二人を精神面、経済面で支える「縁の下の力持ち」というケースが多いようです。

「でも、できれば日ごろからお父さんを上手に巻き込んでほしいですね。家族みんなで受験を乗り切るほうがストレスも軽減されますし、納得できてハッピーな受験につながる確率が高くなるでしょう」

お話を伺ったのは

亀山卓郎|進学個別桜学舎 塾長
学生時代から塾講師を務め、卒業後に大手塾、個人塾などで教務経験を積んだあと、2007年、東京の台東区で進学個別桜学舎の経営をスタート。首都圏の模試偏差値60を切る中学校、高校への受験対策を専門に、「親子で疲弊しないノビノビ受験」を提唱。どこへ進学しようが「ナイスファイトでハッピーエンド」の笑顔になる指導が注目されている。塾には大手塾をやめた子も多く来るという。著書に『ゆる中学受験』(現代書林)など。塾長ブログ「さくらのまなびや」

構成・文/船木麻里

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