『映画ドラえもん のび太と空の理想郷（ユートピア）』が公開！多様性の大切さを冒険譚に織り込んだ秀逸な感動作

大河ドラマ「どうする家康」の脚本家・古沢良太が『映画ドラえもん』に初参戦

タイトルが『映画ドラえもん のび太と空の理想郷（ユートピア）』ということで、ドラえもんたちが空の上で冒険を繰り広げるという設定からしてワクワクします。脚本を手掛けたのは「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「コンフィデンスマンJP」シリーズ、大河ドラマ「どうする家康」』などで知られる人気脚本家の古沢良太。

古沢さんが様々な作品にオマージュを捧げたであろう本作ですが、緩急がきいていて、観る者を飽きさせません。ひとひねりもふたひねりも加えた巧みなストーリーテリングは「さすが！」のひと言でした。

ゲスト声優には、パラダピアで暮らすパーフェクトネコ型ロボット・ソーニャ役の永瀬廉（King & Prince）に、未来デパートの配達員役の山里亮太（南海キャンディーズ）、パラダピアの学校の先生役の藤本美貴などを迎え、人気ガールズグループNiziUが主題歌を担当したことでも話題を呼んでいます。

声優初挑戦の永瀬廉演じるパーフェクトネコ型ロボットが大活躍

ある日のび太は、謎の三日月型の島を目にして「あれこそが僕が探していたユートピアだ！」と大騒ぎします。のび太にせがまれたドラえもんが出したひみつ道具は、飛行船「タイムツェッペリン」。のび太たちはみんなでその飛行船に乗り込み、その島を探しに出かけることにしました。そして、いろいろな時代、場所を探してようやく、誰もがパーフェクトになれるという夢のような楽園「パラダピア」へたどり着きます！

そこでドラえもんたちは、何もかも完璧なパーフェクトネコ型ロボット・ソーニャと出会い、意気投合します。ところが、この楽園には大きな秘密が隠されていたようで。果たして、のび太たちは、その楽園の謎を解明することができるのでしょうか？

ソーニャ役の永瀬さんは、声優初挑戦ながらも重要キャラクターの心の機微を繊細に体現。また、ドラえもん自身も未来から来たネコ型ロボットですが、本作ではロボットそのもののアイデンティティや存在価値に斬り込んでいく点もかなり新鮮でした。

現在、少子化問題を抱え、高齢化社会を迎えている今、ロボットたちはすでに私たちの社会生活をいろんなところでサポートし始めていますから、そのやりとりは絵空事とは思えませんでした。きっとママパパたちは現実社会に置き換えて、いろんなことを考えてしまいそうです。

また、ネタバレは避けますが、ソーニャのクライマックスでの活躍は、本作のハイライトだと思います。

自分の頭で考えることの大切さにハッとさせられる映画

もちろん本作の入口はSF冒険ファンタジーですが、決してありふれた予定調和の物語には収まっておりません。「映画ドラえもん」シリーズに初参加となった古沢さんの脚本は、「良い社会作り」を建前にした、個性を認めないという体制に疑問を呈していきます。これがまた、決して説教くさくなく、あくまでも冒険譚に織り込んでいる点がすばらしい。

心をなくすことで、自分の本当の気持ちを出さないことで、パーフェクトになれたとしても、そこに意味はあるのだろうか？という問いには、思わずハッとさせられます。また、何事においても言えることですが、自分の頭でちゃんと考えて答えを出すことの大切さを再確認させられそう。

『映画ドラえもん』シリーズでは毎回のび太たちの成長が描かれてきましたが、本作でもしかり。いろんな個性を持つ人がいるからこそ世界はおもしろいということを、のび太たちがしみじみと実感するくだりには、きっと大人たちも大いにうなずくはず。

空が舞台のSFということで、近未来的なバトルシーンも用意されているし、伏線も巧みで、心と涙腺を揺さぶる展開となっている本作。観終わったあと、改めて映画のクオリティーの高さに感心しつつ、こういう映画こそ親子でぜひ観ていただきたいなと、心から思いました。ぜひ劇場でご覧ください。

文/山崎伸子

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