【不登校の兆候】「学校、行きたくない」と言われたら? “初期対応”を不登校の保護者支援団体に聞いた

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新学期シーズンがスタートします。希望いっぱいの新生活にはストレスもつきもの。新しい環境になじめない子どもの不登校の兆しがこの時期に芽生えることも。不登校の初期の兆候と、それに向き合う心構えについて、ご長男の不登校をきっかけに支援活動を始められた金子あかねさん&純一さんに伺いました。

文部科学省が昨秋公表した2021年度の不登校児童・生徒は、小学生が8万人超で約100人にひとり、中学生が16万人超で約20人にひとりと、過去最多となりました。不登校はもはや、決して珍しいことではありません。

ではもし、自分の子どもが「学校、行きたくない」と言いだしたら、どうしたらよいでしょう?

そんな不安を抱く親御さんに「大丈夫だよ!」と、伝え続けているご夫妻がいます。不登校インタビュー事例集『雲の向こうはいつも青空』をvol.8まで発行、不登校を経験した子どもたちの多彩な“その後”を発信し続けている「びーんずネット」金子あかねさん&純一さんです。ご長男の不登校をきっかけに支援活動を始めたおふたりに、お話を伺いました。

「今日、お休みしたい」には、あらかじめ“答え”を用意!

金子純一さん(以下、純一):まずお伝えしたいのは「不登校=人生の終わり、ではない」ということ。そしてもし、お子さんがある日「今日、お休みしたい」と言ってきたら…
「じゃあ、今日は休もうか」と答えて、「理由を聞かず、まず休ませる」と、あらかじめ決めておけたらいいかもしれません。

「理由を聞かず、まず休ませる」のはナゼ?

金子あかねさん(以下、あかね):親にとっては「このまま長期化したら?」「仕事のスケジュール調整は?」等々、非常に苦しい決断といえます。でも不登校は、お子さんの命に係わります。夏休み明けの9月1日に子どもの自殺者が最多になるのは、ニュースなどでご存じの方も多いと思います。
心は、どんなに傷ついていても目に見えないので、大人は「大丈夫、行けるよ!」と送り出してしまいがち。
でも例えば物理的にケガをして血がドクドク流れていたら、すぐ救急車を呼んで仕事も調整して、じっくり治るまで休ませると思うのです。不登校も、身体のケガと同じなのではないでしょうか。

「理由」を探す親と、伝えられない子どもの気持ち

純一:「理由」については、僕もそうだったのですが、それを取り除けば、すぐにでも登校を再開できそうな気がするんですよね。
もちろんお子さんが「かくかくしかじかの理由があって学校に行けないから解決してほしい」というのであれば、そのように対応すればいい。

あかね:でも子ども自身にも大抵の場合、学校に行けない理由は「分からない」もの。あるいは自分のプライドが傷つくから「言いたくない」ケースもあります。低学年のお子さんは、そもそも「言語化できない」ということもある。

純一:「分からない」ことを「大人たちが何度も繰り返し聞いてくるのがイヤだった」というのは、不登校経験者の多くがおっしゃいます。「大人はすぐ解決しようとするけれど、自分のことを分かろうとしてくれる人はいなかった」と吐露された方もいました。
子どもの複雑な気持ちは、ご自身も不登校だった漫画家・棚園正一さんの『学校へ行けない僕と9人の先生』(双葉社)にも描かれています。僕も、息子のことで悩んでいる時に読みたかったですね(笑)。

身体に現れるサインと「ポリヴェーガル理論」

あかね:「分からない」し「言葉にもできない」から、身体に不調が現れます。頭痛や腹痛、難聴や視力低下、うちの子は頻尿になりました。ほかにも眠れない、起きられない、食欲がなくなる、笑顔がなくなるなどのサインが出る。
そういうサインをできるだけ見逃さず、子どもの心の傷を認めて、受け止めてあげてください。

純一:親からすれば「勉強はどうするの?」という不安もありますが、結論から言うと小学5年生が1年かけて学ぶ内容でも、中学2年生の年齢の子ならその気になれば3カ月くらいで取り戻せた、という話を聞いたこともあります。学習の遅れを気にして、無駄に子どもの心を傷つける必要はありません。
神経生理学の「ポリヴェーガル理論」によれば、人は限界を感じると「自律神経のブレーカーが落ちる」のだそうです。自律神経は意識的にコントロールできるものではないので、当の本人にも「どうしてそうなったのか」なんて分かりません。そして一度ブレーカーが落ちてしまったら、回復には数カ月、年単位の時間がかかることもある。これはもう、頑張ってどうにかなるものではないのです。

不登校を経て大人になった人、実は社会にたくさんいます

純一:僕ら夫婦もいまでこそ笑顔で「不登校は人生の終わりじゃないよ!」と皆さんにお伝えしていますが、うちの子が不登校になった9年前、小学3年生の時には不安で仕方ありませんでした。
どうしてかといえば「学校に行かずに大人になった人」が、周りに誰もいなかったから。当時は、演出家の宮本亞門さんが不登校だったらしい、というくらいしか情報がなくて。いわゆる“市井の人”の不登校の“その後”がどうなるか、まったく分からなかったのです。
でもいま不登校を経て大人になった人たちは、大学で学んだり会社で働いたり、NPOを主宰したり起業したり、僕らの事例集にもある通り本当に大勢います。我が家の息子もこの春、通信制高校を卒業します。
繰り返しになりますが「不登校=人生の終わり、ではない」のです。

あかね:そしてもし、お子さんが不登校になったとしても、お子さんも、ご家族も、ひとりではありません。たくさんの先輩たちがいますから、孤独に悩むことはないのです。SOSを出せば、助けてくれる仲間が必ずいます。地域に「不登校の親の会」などもあり、保護者同士で語り合ったり、LINE等で情報交換をしたりして、常に支え合っています。そのことを、心のどこかにぜひ置いておいてください。

不登校には「情報」を!知らないから不安になるなら、知っておけばいい

純一:公教育の制度は、いわば栄養満点の定食です。
『もう不登校で悩まない!おはなしワクチン』(びーんずネット)の著者・蓑田雅之先生は、不登校は「食物アレルギーのお子さんが、命に係わるから除去食を食べるようなもの」と例えられています。

純一:いまは公立や私立のフリースクールなど、学校以外のメニューもどんどん増えていますから、お子さんに不登校の兆しが見えたら「人生おしまい」なんて決めつけず、心をオープンにして「情報」を取りに行ってください。アンテナを立てたら、助けになる情報は必ず入ってきます。
2017年から新たに「教育機会確保法」も施行されて「辛い時は休んでもいい」「学校以外の学びの場を確保することが大切」「学校に戻ることを目指さなくてもいい」と、法律にも明記されました。そんな情報も、親御さんにはあらかじめ持っておいてもらえたら、と思います。
本音を言えば、入学式で校長先生に「不登校は、問題行動ではありません」「君たちにはここに来る権利もあるが、来ない権利もある」「義務教育は、嫌がる子どもを無理に来させる義務じゃないですよ」と説明してほしい。だって現実に必ず「来られない子」は出て「行かなきゃ」と苦しむんですから。いつかそんな祝辞が聞けたらいいなぁ(笑)。

あかね:そしてご入学を前に期待に胸を膨らませているお子さんの「楽しい!」と思える「いま」を大切にしてください。
どんなことがあっても、どうかお子さんの「自己肯定感」を傷つけないよう、そのままを受け止めてあげてください。
つまるところ、それが子育てで、きっと一番大切なことですから。

*  *  *

――続編の記事では、お子さんが学校に行かなくなった後、実際にどんな問題が起きやすく、それをどんな風にクリアされていったのか、赤裸々にお話しいただきます。書籍や心理療法、支援団体が無償提供している「学校への『依頼文フォーマット』」等々、実体験に基づくご紹介がいっぱいです。併せてご覧ください!

▼続編はこちら

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取材協力

びーんずネット
代表:金子あかね 事務局:金子純一
我が子が不登校になった経験から「孤立しがちな親御さんたちが『自分はひとりではない』と思えるような場をつくりたい」と、2018年に夫婦で立ち上げた支援ユニット。不登校をテーマにしたセミナーを企画・運営するほか、親子のコミュニケーション講座等を開催している。不登校インタビュー事例集『雲の向こうはいつも青空』は2023年6月にvol.9を発行予定。関連書籍も続々出版しており、3月には『7年間の不登校から15歳で飛び込んだ社会は、思っていたよりあたたかかった』(風芽美空著)が発売されたばかり。
取材・文/ちかぞう

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