【現在、不登校の真っ最中】どう乗り越える? 「アイスクリーム療法」も試した不登校支援ご夫妻に訊く“3つの壁”の乗り越え方

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捉えどころのない行き渋りから遅刻・欠席が増え、そして不登校へと、あっという間の非常事態にとまどうパパママも多いようです。我が子が不登校になったら、まず親に何ができるのか、そして渦中にいると見失いがちだけれども、大切なものは何なのか。たくさんの事例を見守り寄り添ってきた不登校の保護者支援団体に取材しました。

文部科学省が昨秋公表した2021年度の不登校児童・生徒は、小学生が8万人超で約100人にひとり、中学生が16万人超で約20人にひとりと、過去最多となりました。不登校はもはや、決して珍しいことではありません。

ではもし、子どもが不登校になったら? どんなことが起こる? 親はどうしたらいい?

そんな不安を抱く親御さんにの支援活動を続けてこられた金子あかねさん&純一さんご夫妻に、不登校のときの親のスタンスについて伺いました。ご夫婦が活動を始められたきっかけも、ご長男の不登校がきっかけです。

不登校の子の親、また支援者として、声を大にして言いたい「きっと大丈夫!」

金子あかねさん(以下、あかね):うちの息子が小学3年生、いまから9年前「学校に行きたくない」と言い出した時、もともとセンシティブな子だったので、私は「とうとう来たか」と思ったんです。でも、夫にとっては青天の霹靂だったようで。

金子純一さん(以下、純一):僕は当時「学校は行くもの」であって、いわば社会の縮図で、軋轢は大人になってもあるものだから「頑張って克服すべき」と信じていました。

あかね:夫とは価値観が合わず、味方をしてほしかった実母にも理解してもらえず孤独でした。学校との連絡も、手探りで疲れてしまって。典型的な「不登校あるある」かもしれません。

純一:まさに海図のない航海みたいなもので、だからこそ僕らはいま「不登校でも、大丈夫!」と伝える活動をしています。
前回のインタビューでもお話ししましたが、不登校を経て大人になった人たち、僕らの事例集にもある通り本当に大勢いるんですよ。大学で学んだり会社で働いたり、NPOを主宰したり起業したり。ちなみに我が家の息子もこの春、通信制高校を卒業します。
「苦しんでいた、あの頃の自分に届けたい」、そんな思いで発信をしていると言ったら、カッコ良過ぎるかな(笑)。

3大「不登校の壁」 ①夫婦 ②祖父母 ③学校 について悩んだら?

不登校の壁① 夫婦:喧嘩後「アイスクリーム療法」が転機に

純一:お子さんに最初に「学校、行きたくない」と言われた時の対応や、親と子の話については、前回のインタビューをご覧いただくとして。

あかねうちは夫婦で大喧嘩も、あったよね(笑)。

純一:あの日は息子が「歯が痛い」と言い出して、でも外へ出かけてクラスメートに会ったら「なんで学校来ないんだよ?」と言われるかもしれない。それが怖くて、ほとんど引き籠っていた時期で。
妻も仕事、僕も仕事の会議で歯医者まで付き添ってあげることもできない……。どうしようもない状況に僕もイライラして「ひとりで行ってこい!」と怒ってしまって、妻に「でも行けないのよ!」と反論されて大喧嘩に。そばにいた息子を「僕のせいで」と、泣かせてしまいました。
その翌日、出勤前の玄関で、妻から『子どもを信じること』(田中茂樹著/さいはて社)を手渡されたんです。

純一:仕事の昼休みに読みました。育児書なんて1冊も、手に取ったことすらなかった僕が(笑)。
そうしたら「子どもを信じる」というのは「信じていれば転ばない」のではなく、子どもは転んでしまうかもしれないけれど「自分で立ち上がる力を持っていると信じる」ことだと…。なんというか、心が苦しくなるようなことが書かれていて。
そして本の中で紹介されていたのが「アイスクリーム療法」でした。

アイスクリーム療法

1.冷凍庫をアイスクリームで満杯にする
2.いつでもいくらでもアイス食べ放題!と子どもに宣言する
3.一切、小言を言わない
4.条件をつけない
5.片付けも親が全部やる

純一:会社帰りに袋いっぱい、アイスクリームを買って帰りました。
でもコレって実際にやってみると「そんなにご飯の前に食べたらダメだ」とか「片付けないならもうやらない」とか、ものすごい数の小言を言いたくなるんですよ(笑)。そのたびに、自分がいかに息子をコントロールしようとしてきたのか、気づかされました。
僕は子どもの首に縄を付けて学校へ連れていくようなタイプの親ではなかった。でも息子とお風呂に入るたび「明日は頑張って学校に行こうな」と、語りかけていた。理解がある風で自分の価値観を押し付けて、マイルドにコントロールしようとしていたんです。
息子を変えるんじゃなくて、自分が変わろう。「アイスクリーム療法」は、親のための「認知行動療法」なのですが、この経験で価値観が、コペルニクス的に転換しました。

あかね:そこから「子どもを信じる」ことについてようやく、価値観を共有できるようになったよね。

不登校の壁② 祖父母:言葉の刃の後、根気強く伝え続けて

あかね:遠く離れて暮らす実母から、電話で「私が代わりに学校に連れて行ってあげたいわよ」と言われたのも、ものすごいショックでした。心配なあまりの発言だったのでしょうが「何もしていないダメな親」と烙印を押されたようで……。
私だって悩みながら一生懸命やっていると、言葉を尽くしていれば違ったのかもしれません。でもいろんなことで疲弊して、自分の親にまで丁寧に説明するだけの余力はなかった。「口出ししないでほしい」という気負いもあって、自分で壁をつくってしまいました。

純一:僕はそれから、双方の実家に息子の近況を知らせるメールを送るようになりました。とにかく不登校の我が家の現状を知ってほしい一心でした。

あかね:いまでは私たちの活動も理解してくれて、応援してくれています。
この記事を読んでくださっている、祖父母の方もいらっしゃるかもしれません。もし同じシチュエーションになったら「あなたも頑張っているわね」って、労いの言葉をかけてあげてほしいです。

純一:祖父母世代は、親世代以上に「不登校になんてなったら、どうなるの?」と、想像するのが難しいかもしれません。僕らの事例集『雲の向こうはいつも青空』を読んで「いろんな生き方があるということを知って、安心しました」と、感想を寄せてくださる方もいらっしゃるんですよ。

不登校の壁③ 学校:親の会やツール活用!新たな法律も

あかね:学校とのやり取りに、疲れてしまうこともありました。
「ほかにも不登校の子がいたら、保護者同士で話してみたいな」と思っても、個人情報ですから、学校も教えるわけにはいかなかったりします。そうなると横のつながりは難しいように思えますが、でも例えば私たちのいる川崎市なら7つの「親の会」があって、地域で情報を共有することはできるのですね。
また学校とのやり取りは、文章ひとつ取っても「どう書いたらいいのか」と悩むものですが、最近では学校への「依頼文フォーマット」を無償で提供している団体もあります。「多様な学びプロジェクト」の依頼文フォーマットは保護者630名以上が協力した「学校とのやりとりに関する困りごとアンケート」をもとに作成されていて、とっても参考になりますよ。

純一:2017年から新たに「教育機会確保法」も施行されて「辛い時は休んでもいい」「学校以外の学びの場を確保することが大切」「学校に戻ることを目指さなくてもいい」と、法律にも明記されました。義務教育の“義務”は「嫌がる子どもを無理やり学校に行かせる義務、ではない」のです。
「教育機会確保法」について知っているのといないのとでは、学校や先生方との関わり方も変わってきます。ぜひ一度、目を通してみてください。

遠慮なく「助けて」と言おう。そして「親が幸せになる」のを忘れないで

純一:前回もお話しましたが、やっぱり「情報」があるのとないのとでは、不安も、悩みも、安心感も、全然違ってきます。困ったことがあったらどんどんSOSを出して、まず「情報」を取りに行ってください。

あかね:そして不登校の子どもの親として、もしかしたら一番大切なのは「ひとりで抱え込まないこと」かもしれません。
親御さんがいっぱいいっぱいになってしまうと、心配や動揺や怒りが、すべて子どもに向かってしまいます。学校にも行けず、家まで安心・安全でなくなったら、子どもに居場所がなくなってしまう。
真面目な方ほど「他人様に迷惑はかけられない」と頑張りがちですが、困った時には「お互い様」。自分が少しでも元気になれる「ひとりじゃない」と感じられるような場所へ、ぜひ足を運んでください。辛さや愚痴を吐き出せたら、帰宅してから笑顔の時間も増えるはずです。
子どものためにも自分を責めず、まず、親が幸せになる。それを、どうぞ忘れないでくださいね。

▼この記事の前編はこちら

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取材協力

びーんずネット
代表:金子あかね 事務局:金子純一
我が子が不登校になった経験から「孤立しがちな親御さんたちが『自分はひとりではない』と思えるような場をつくりたい」と、2018年に夫婦で立ち上げた支援ユニット。不登校をテーマにしたセミナーを企画・運営するほか、親子のコミュニケーション講座等を開催している。不登校インタビュー事例集『雲の向こうはいつも青空』は2023年6月にvol.9を発行予定。関連書籍も続々出版しており、3月には『7年間の不登校から15歳で飛び込んだ社会は、思っていたよりあたたかかった』(風芽美空著)が発売されたばかり。
取材・文/ちかぞう

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