東京大学の実験サークル「CAST」に聞いた、小学生の自由研究におすすめのテーマは?家にあるもので手軽にできる学年別実験のやり方

夏休みの自由研究。今年のテーマは決まりましたか? どうせやるなら、「えっ」という驚きがあって、楽しくて、しかも簡単にできる実験がいいですね。今回は、日ごろ楽しいサイエンスショーや実験教室で「科学の面白さ」を伝える活動をしている「東京大学サイエンスコミュニケーションサークルCAST」に、学年別おすすめな自由研究向けの実験テーマを伺いました。

身近な材料や道具で簡単に取り組めるテーマを選ぼう

親はつい、「自由研究なのだから、それなりに時間をかけて見栄えのいいものを……」などと期待したくもなりますが、それよりも、身近な材料や道具で簡単にできるテーマのほうが親子ともに気軽に取り組めるでしょう。簡単にできるからこそ、そこから少し「工夫してみよう」「応用してみよう」という気持ちも生まれ、自分主導で自由研究をしている実感を得られるのではないでしょうか。親子で実験の不思議な現象に触れながら、あれこれ考えたことを話す時間を持つのも夏休みの楽しい思い出になりますね。

今回お話を伺ったのは、東大CASTから中尾 創さん(理科Ⅰ類・2年)、島倉和樹さん(理科Ⅰ類・2年)、眞柄美咲さん(理科Ⅱ類・2年)のお三方。どれも30分もあればできるし、やり始めると「これならどうなるかな?」「これもやってみよう!」と発展させたくなるものばかり。ぜひチャレンジしてください。

子どもが「楽しい!」と思える実験を選んで

 「自由研究は、子どもがまず〝おもしろい!〟と思えることがとても大事で、そこに親がちょっと発展の方向性を示してあげることで、実験が単なる不思議な現象の発見にとどまらず、自分なりに考えるというところまで体験できると思います」と東大CASTの中尾創さんは話します。

テーマが見つからなければ、検索ワード「自由研究」「身近な物でできる」「100均グッズ」などで調べると、さまざま自由研究テーマが紹介されています。

以下のおすすめの実験の「応用編・こんなことも試してみよう」は、実験をさらに発展させるヒントです。まずは最初の実験を十分楽しんで、さらに子どもが興味をもったら「これもやってみない?」とさりげなく誘ってみるといいのでは? 「解説」も親があらかじめ読んでおくと、安心して実験をすすめられるでしょう。

低学年向き実験 「カラーペンの本当の色は?」

<用意するもの>

●ろ紙を直径10㎝くらいに丸く切ったもの数枚(または白いコーヒーフィルター、天ぷら紙でもOK

●水性カラーペン 黒と、もう一色(青や緑、茶など濃い色が良い)

●スポイト

●水 適量

 <やりかた>

①ろ紙を8等分に折る。

ろ紙はコーヒーのペーパーフィルターを丸く切って使ってもOK。白いフィルターの方が色の分解がクリアにわかるのでおすすめです。

②中心付近から少し離れたところに水性カラーペンで模様をつける。

まずは好きにインクを乗せてみよう。今回は黒とブルーを交互に書いてみました。インクが広がるので、少し離して描くのがコツ。

③スポイトで紙の中心に水を少しずつ垂らし、水が広がってカラーペンの模様が変わっていく様子を観察しよう。

スポイトでろ紙の真ん中に水をたらしてみました。どんなふうに水をたらすと色の分解がきれいに見えるか、色々試してみてね。

<ここに注目!>

紙に描いたカラーペンの模様は水で薄まると広がって、元の色とは違った色も現れます。何色のペンがどんな色に分解されたのか、水の進み具合と色の関係も観察してみよう。

③のインクがろ紙の端まで広がったところ。黒いインクからは黄色が、ブルーのインクからはピンクも見えてきました。中心に書いたはインクのあともうっすら残っています。

<応用編>こんなことも試してみよう!

■いろんな色の水性カラーペンでやってみよう。

■同じ色でも違うメーカーのカラーペンだと、色の変化も違うのかな?

■油性のペンでも同じ実験ができるかな?

<中尾さんよりワンポイントアドバイス>

「黒」や「青」といっても、水性カラーペンのインクは一つの色素で作られているのではなく、いくつかの色素を混ぜ合わせて「黒」「青」という色を作っていることがわかる実験です。それぞれの色素は水への溶けやすさや紙へのくっつきにくさが違うので、水が広がるにつれてこのように色素が分解され、何種類かの色に分かれるのです。

このように物質をその性質の差によって分解する方法は「クロマトグラフィー」といわれ、実際に科学の世界では混合物から特定の成分を分離させる手法としても使われています。

花火のようなきれいなクロマトグラフィー。何色のカラーペンでどう書いたらこんな模様になるのかな? きれいな模様を作ると気分も上がります!

中学年向き実験 「消えるボール(消えボー)」

 <用意するもの>

●トイレの消臭剤の透明ビーズ 適量(直径1㎝くらいのものが実験しやすい)

●ボウルまたは大きめの透明コップ

●水 適量

 <やりかた>

①ボウルに消臭剤ビーズを入れる

②周りから静かに水を入れる

③しばらくすると消臭剤ビーズが消える!? 溶けてしまったのかな?

消臭ビーズをボウルに入れたところ。水を吸って膨張するので、ビーズがあふれてしまうことも。容器に対して半分~7割くらいのビーズを入れるのがコツ。
  • <ここに注目!>

手を入れてみると、ビーズの手ごたえはしっかりある。水から救い出すと、再びビーズが現れる! また水の中に戻すとビーズは消えた!

 <応用編>こんなことも試してみよう!

■色のついたビーズだと水のなかでどうなるかな?

■ビーズではなく、ビー玉を入れたらどうなるかな?   

■水以外の液体(食塩水、油、アルコールなど)の中に入れたらどうなるかな?

<島倉さんよりワンポイントアドバイス>

私たちが物を見るとき、その物に反射する光が私たちの目に届いています。トイレの消臭剤の透明ビーズは「吸水性ポリマー(高分子吸収体)」といって、非常にたくさんの水を吸収することができる性質を持っています。そのため水の中に入れると大きく膨らみ、中身がほとんど水になり、まるで「水のなかに水を入れた」という状態になっています。だから光の進み方(屈折率)も水とほぼ一緒になり、ビーズと水の境目でも光が屈折も反射も吸収もされずに進むので、私たちの目には見えなくなるのです。

手品のような消えるボールの実験風景。下の部分の水にもボールが入っていて、容器をひっくり返すとビーズが消えるように見える、魔法のような実験です。

高学年向き実験 「紫キャベツ液でカラーチェンジマジック」

<用意するもの>

●紫キャベツ 約1/4個分

●ビニール袋

●透明のコップ 4個

●重曹(ベーキングパウダーでもよい)

●レモン汁

●酢

●スプーン

<やりかた>

①実験をする前の日に紫キャベツの葉をはがして小さくちぎり、ビニール袋に入れて冷凍庫に入れておく(冷凍すると紫キャベツの細胞が壊れて、次の②で色が水の中に出やすくなる)。

②紫キャベツを鍋に入れ、カップ1~2杯の水を入れて茹でる。沸騰して湯が紫になったら火を止め、ザルでこして「紫キャベツ水」を取り出す。これが試験液になる(※ゆでた紫キャベツは食べられるので、あとで食材として使っても)。

③②を透明コップそれぞれに少量入れる。

④それぞれに重曹、レモン汁、酢を少しずつ入れてスプーンでかき回す。試験液だけを入れたコップの色と比べてみよう。

実験で色の変化を見ている様子。どんなふうに色が変化するのか、なぜそうなるのか、子ども自身に疑問がわいてきたら大成功。

<ここに注目!>

かき混ぜると紫色の試験液の色が一瞬で変わるので、目を離さないでよく見ていよう。試験液に入れるものによって、色は「赤っぽく変化する場合」と「青→緑→黄色っぽく変化する場合」があるのが不思議。どうしてかな?

 <応用編>こんなことも試してみよう!

■炭酸水、しょうゆ、サラダ油、紅茶など、身の回りの水溶液で試したらどうだろう?

■コンニャクの袋に入っている水も試験液に反応して色が変わるよ。何色になるだろう?

 <眞柄さんよりワンポイントアドバイス>

紫キャベツの紫色のもとは「アントシアニン」という色素です。アントシアニンは酸性の物質には赤色に、アルカリ性の物質には青から緑、黄色へと色が変わるという性質があり、これはその特性を利用した実験です。学校ではリトマス試験紙やBTB溶液を使って、液体の「酸性・中性・アルカリ性」を学習しますが、そのような薬品を使わなくても身近な食べ物で同じような実験ができるというのはおもしろいですね。
しかもアントシアニンは、酸性、アルカリ性が強いほど色の変化がはっきり見えるようになります。いろいろな液体を試して、変化した色のグラデーションを作ると、とてもきれいで楽しいですよ。

※洗剤や漂白剤などでも実験できますが、酸素系漂白剤と塩素系漂白剤を混ぜ合わせると、有毒ガスが発生して非常に危険です。漂白剤のパッケージ等にある「混ぜるな危険」の記載をよく確認して使うようにしてください。食材以外の液剤を使うときは保護者といっしょに実験するようにしましょう。

実験で注意すること

火の扱いやハサミ、カッターナイフなどの刃物類の扱いについて、子どもに実験をする前に注意を促すようにしましょう。冷凍庫内や氷も素手で触るとケガをすることがあるので注意。

「特に薬品(洗剤や漂白剤、除光液など)については、親も事前に安全な使い方を確認しておいてください。ただ、危険だから触らせない、のではなく‶こういう危険があるから気を付けて使おうね〟と伝え、大人が見守るなかで使わせて、危険を学ぶことも大事だと思います」(眞柄美咲さん)

実験結果をまとめるときは

子どもは実験を楽しんで盛り上がり、どんどん詳しくなっていますが、自由研究としてまとめるときは「その実験をまるで知らない人に伝える」という視点が大事です。

「その実験の何がおもしろいのか、どこが不思議なのかをしっかり言語化することが大事です。子どもの常識と大人の常識は違うので、大人が‶普通はこう思うけど、こうなるのは意外だよね〟ということに子どもが気づかない場合は、親は子どもが納得できるように説明してあげることも必要だと思います」(島倉和樹さん)

今回の実験を行ったら、子どもなりの視点を活かし、ノートや模造紙など好きなまとめ方でまとめてみましょう。

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記事監修

東京大学サイエンスコミュニケーションサークルCAST
「東京大学サイエンスコミュニケーションサークルCAST」は2009年、東京大学教養学部前期課程の全学自由研究ゼミナール「心を動かす表現法:科学メディア、理科実験の実践力を磨く」の歴代受講生が中心となって結成されたサークル。学園祭でのサイエンスショーや全国各地での科学イベントの開催、出張理科実験教室の企画運営、メールマガジンの配信、実験動画の投稿など、科学の面白さを多くの人に伝える「サイエンスコミュニケーション」活動を行っている。『現役東大生による頭がよくなる実験・工作』(エネルギーフォーラム)など科学読み物の出版も多数。東京大学サイエンスコミュニケーションサークルCAST https://ut-cast.net/
取材・構成/船木麻里 

夏休み☆自由研究ハック

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