ダブルリミテッドとは
「ダブルリミテッド」とは、母語とそれ以外の言語を使える環境であるにもかかわらず、どちらの言語の習得も年齢相応ではない状態のことです。例えば高校生なのに、言語の習得レベルは小学生程度といったケースもあります。
単にダブルリミテッドと呼ぶ他に、ダブルリミテッドバイリンガル、セミリンガル、限定的バイリンガルなどとも呼ばれます。ただし、これらの言葉は国際社会では差別用語とされることもありますので慎重な使用が求められます。
ダブルリミテッドの具体例
例えば日本で生まれ、幼少期にアメリカへ渡ったケースを考えてみましょう。家庭では日本語でコミュニケーションを取っていますが、幼稚園では英語でコミュニケーションをとる、といったケースです。
母語の習得が進む幼少期に、母語と異なる言語でコミュニケーションをとる環境に置かれることで、小学校入学後の言語習得が難しくなる可能性があります。
また小学生の子どもがいるスペイン語話者の一家が日本へ移住したケースでも考えてみましょう。家庭ではスペイン語、小学校では日本語を用います。
最初の数年間はスペイン語の方がコミュニケーションをとりやすいと感じるかもしれませんが、スペイン語でのコミュニケーションは家庭に限定されるため、徐々に年齢に見合った言語能力を習得しにくくなっていき不自由さを感じるようになります。
一方、日本語も自由自在というわけではないため、考えていることをうまく言葉にできない、学習が難しい、といったことが起こり始めるでしょう。
ダブルリミテッドの原因

母語もそれ以外の言語の習得も年齢相応に進んでいないダブルリミテッドは、なぜ起こるのでしょうか?
ここではダブルリミテッドの原因として、母語が十分身に付いていないこと、学習言語が身に付いていないことを解説します。
母語が十分身に付いていない
母語が十分身に付いていない幼少期に、母語と異なる言語を使う国や地域へ移住すると、ダブルリミテッドになりやすいといわれています。母語を理解しないまま、他の言語に触れることで、どちらの習得も中途半端になる可能性があるためです。
移住していない場合でも、日中の大半の時間を母語以外の言語でコミュニケーションを取る環境で過ごしていると、ダブルリミテッドになる可能性があります。例えば英語でコミュニケーションを取る幼稚園や保育園へ入園する場合には、注意が必要です。
学習言語が身に付いていない
学校の授業や学習場面で使われている言語を学習言語といいます。同じ日本語でも、日常会話で使う言葉と学習言語は異なります。友達同士のコミュニケーションに課題がない場合でも、学習言語の習得が不十分といったケースもあるでしょう。
年齢相応の学習言語が身に付いていなければ、授業の内容を理解できず、学習が難しくなっていきます。
ダブルリミテッドで生じる問題

ダブルリミテッドにより、その年齢に必要な言語能力を習得できていない場合には、学習の遅れや思考の発達の遅れなどが表れる恐れがあります。それぞれの問題の詳細をチェックしましょう。
学習の遅れ
学校で授業を受けるときには、学習言語の習得が必要です。例えば作り上げることを意味する「作成」は学習言語の一つですが、日常会話では「作る」で事足ります。
もしも「作成」という言葉を知らなければ「答えが3になる足し算の計算式を作成してください」と出題されても、何をすればよいか分からないでしょう。
このような学習に必要な言語は他にもたくさんあります。適切な時期に身に付けられないままでいると、学習内容が理解できず学習に遅れが出始めるでしょう。
思考の発達の遅れ
私たちは思考するときに言語を使っています。母語もその他の言語も習得が不十分な場合、言葉のストックがないために、思考をまとめたり深めたりすることがうまくできないかもしれません。
形に表せない抽象的なことを考えて、自分の意見にまとめるといったことも、難しく感じるでしょう。
国内におけるダブルリミテッドの課題
2024年6月末時点の在留外国人数は358万8,956人と、過去最高を更新しています。国外から日本への移住者の増加により、年齢相応の日本語が身に付いていない日本語指導の必要な児童生徒が増加中です。
日本語指導が必要な生徒は、全体平均よりも進学率が低く、進学しても中退する確率が高いことが分かっています。不登校につながるケースも少なくありません。
グローバル化により発生しているダブルリミテッドをそのままにしておけば、将来の社会不安につながる可能性もあります。
出典:令和6年6月末現在における在留外国人数について|出入国在留管理庁
:「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」|文部科学省
ダブルリミテッドを防ぐ支援策

ダブルリミテッドを防ぐには、母語の習得がポイントです。ここでは有効な支援策として、家庭では母語で話しかけることと、学習言語を習得するための支援を受けることについて解説します。
家庭では母語で話しかける
母語以外の言語を使う国や地域へ移住すると、早く移住先の言語に慣れるために、家庭でも移住先の言語を使ったほうがよいのではないか?と考えることもあるかもしれません。
ダブルリミテッドを防ぐためには、家庭では母語で話しかけるとよいでしょう。家庭でのコミュニケーションを母語で行っていると、幼稚園・保育園・学校などでのコミュニケーションが母語以外の言語であっても、母語の習得が促されます。
母語での話しかけが不十分で、母語の習得が停滞していると、母語だけでなく母語以外の言語の習得も進みにくくなることが分かっています。母語を年齢に合わせて習得していれば、母語以外の言語の習得も進みやすくなるため、家庭では母語でコミュニケーションを取るとよいでしょう。
中学年以降は学習言語の習得に必要な支援を受ける
中学年以降は学習に必要な学習言語が増えますし、難易度も上がります。母語が日本語以外の場合、日本語が母語の子どもと比べて、家庭で学習言語に触れる機会が少ないでしょう。それだけ学習言語の習得がスムーズに進みにくいといえます。
うまく理解できないため、教科自体に苦手意識を持ち、きらいになってしまうこともあるため、早いタイミングで学習言語習得のための支援を受けましょう。
学習言語を習得するときには、母語を介して学ぶ仕組みがあると理解しやすくなります。今子どもが身に付けている言語を使うのがポイントです。
[まとめ]グローバル化による言語問題を要チェック
ダブルリミテッドとは、母語と母語以外の言語を両方使える環境で、どちらも年齢に見合わない言語能力しか身に付いていない状態のことです。
母語の習得が十分進んでいない段階で、母語以外を使う国や地域に移住するとダブルリミテッドになりやすいといわれています。学習の遅れや、思考能力の発達の遅れにつながりやすく、問題となっています。
ダブルリミテッドを予防するには、母語の習得を促すよう、家庭では母語で話しかけるとよいでしょう。併せて、中学年以降には、学習に必要な学習言語を習得できるようサポートを受けることも重要です。
言語能力が原因で、希望に反して進学できない、進学したけれど退学してしまった、学校に通えなくなってしまった、といったことを防ぐためにも、早い段階でのサポートが求められている分野といえるでしょう。
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構成・文/HugKum編集部