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家族や仲のいい友人の間ではお金は発生しない
――1回目のインタビューでは、「お金は紙切れでしかない」「働くことでお金が得られる、だから働く人が問題を解決してくれるのだ」ということを知りました。でも、やっぱりお金がなかったら心配、お金は必要ですよね? 現実問題として、家賃も食費も学費も払えないのは困ります……。
田内:もちろん衣食住を支えるのに一定のお金は必要ですし、お子さんがいたら学費も必要ですよね。お金がゼロでは現代社会では生きられません。では、ちょっと視点を変えてみましょう。お金は商品を買ったりサービスを受けたりしたときに払います。でも、人から何か「してもらう」ときに必ずお金を払うでしょうか。
たとえば、家族だったら親が子どもに昼ごはんを作ったから「子どもに100円払わせる」ってないですよね。家族が熱を出して看病しても、「介護費用」をとることはないでしょう。家族の中で誰かを助けたり支えたりするときには金銭はほとんど発生しません。仲のいい友達も、相談に乗ってくれたり、何か差し入れをしてくれたときには、お金を払うより、「ありがとう」と感謝を表すほうが大事だったりします。
誰かが自分のために働いてくれたときに、仲のいい人たちの間ではお金ではなくて「ありがとう」を交換するわけです。お金が必要になるのは、知らない誰かが自分のために働いてくれたとき。お金を増やしておくのも大事ですが、仲間を増やしておくことはそれ以上に大事だと思うんです。
「年収の高い仕事に就きたい」だと、仲間は増えない
――今、日本はかつてのように景気がよくありません。だからこそ、「年収の高い仕事に就きたい」と思う人は多いですよね。
田内:学生時代の僕も、そういう会社を中心に応募していて、ゴールドマン・サックスのトレーダーになりました。そういう仕事に就こうとすると、就職活動での競争は激しいですし、会社に入ってからも競争が激しいです。そしてリーマンショックで仕事を追われる人もたくさんいました。
「年収の高い仕事に就きたい」という目標設定はしんどいんです。なぜかというと応援してくれる仲間がいないから。就職活動で「あなたが年収の高い仕事に就けるように応援するよ」と言ってくれるのは親くらいです。会社の中でも他の人よりたくさん稼ごうと思うと周りは敵だらけになってしまう。
社会学者の宮台真司さんが仰っていたのですが、一番大事な能力は「仲間をつくる力だよ」と。僕もそう実感します。
ゴールドマン・サックス時代の営業マンで、すごくのんびりしている後輩がいたんです。営業なのに金融のことをお客さんに説明するのもあまり上手ではなく、トレーダーの僕がいつもヒヤヒヤ。でもすごくいいヤツで、熱心で、同僚はもちろんお客さんからもすごく好かれるから、結果的に仕事ができる。
「誰かの役に立ちたい」という気持ちが強いんでしょう。周りにいるみんなが、彼を応援したいと思っちゃうんですよ。今はアフリカにアパレルで支援をしようと頑張っています。(※田内さんの小説『きみのお金はだれのため』に登場する堂本さんは、この方がモデルに)
田内:僕がトレーダーになれたのは数学が得意だったからです。逆に国語はものすごい苦手だった。でも、ちゃんと本が書けたし、それが多くの人に届いているのは、協力してくれる人がたくさん出てきてくれたからなんです。
「このままだと日本の将来がまずいから、本を出したい」という僕の思いに共感してくれる人が文章の書き方を教えてくれた。本を出した後も、僕の考えに賛同してくれた読者が周りにすすめてくれました。
これが、「たくさん印税が欲しいから(年収の高い仕事をしたいから)、本を出したい」という理由だったら周りの人は協力してくれず、孤独な戦いを強いられるわけです。みんなのためを考えたほうが、つまり周囲の人たちのことを他人ごとと思わずに自分ごととして考えて、どうやったら喜んでくれるかを考えて実行していたら、周囲の人は親身になって力を注いでくれる。
「年収の高い仕事をしたい」という目標設定にくらべると、味方が多いからよほど上手くいくんです。そして、結果的にみんなが暮らしやすい社会になると思います。
子ども向けの金融教育の内容に危機感
――なるほど。自分たちの家族や仲間に対して「喜んでもらいたいからやる」という行為を、もう少し広げて社会の中でやっていければいいし、そういう関係性のある社会だといいですよね。
田内:はい。例えば「投資」も、それ自体はいいと思うんです。でも、今は「さぁ、みんなNISAをやりましょう」みたいな流れで、年配の人も若い人もみんなNISAを使って投資をするように向かっているじゃないですか。
高校でも、金融教育が始まりましたが、銀行や証券会社から外部の講師を呼ぶことも多いそうです。そうなると、彼らは自社の顧客になることを想定しているので、学生にも投資をすることばかり教えます。
これは非常によろしくありません。そもそも金融とはお金を融通することです。お金に余裕がある人(もしくは会社)が、お金が足りないけどやりたいことがある人のところにお金を融通する仕組みです。それなのに、お金のない学生に対しても、「お金を出す側」に回ることだけを教えていては、何のための金融教育かわかりません。
投資などの金融は「お金を増やすため」に存在しているのではなく、「やりたいことを叶えるため」に存在しています。大学に行きたいなら奨学金などでお金を借りることもできるし、夢を実現したいならクラウドファンディングでお金を集めることもできるし、世の中の役にたつ商品やサービスを作りたいなら、投資してもらう側になることもできます。
日本では、投資してもらう側に回る若者がアメリカに比べると極端に少なく、新しい会社があまり育っていません。それこそが日本が成長していない原因だとも言われています。
早く投資を始めたいという大学生が、資金を作るために授業を受けずにバイトに精を出しているという話もよく聞きます。お金に主役を奪われているようで残念に感じます。
「金融リテラシーを高めること=投資の勉強をすること」だと思っている人が多いようですが、その認識こそが日本の金融リテラシーの低さを表していると思います。若い人たちを、「お金を出す側」に回すのではなく、彼らにお金を出してあげて未来を託せる社会にした方がいいのではないでしょうか。
まずは保護者が人を助けるためにお金を使おう
――田内さんの話を聞いて、だんだんわかってきました。HugKumの読者の保護者も、社会のためになるお金の使い方を目指すとよいですよね。それには、まず何から始めればいいでしょうか。
田内:僕が書いた本(『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』)の中でも、優斗のお母さんは、同じものを買うなら、遠くのお店ではなく、優斗の家と同じ商店街にあるお店から買うようにすすめています。
優斗の家はとんかつ屋さんで、お店に食べに来てくれる人のお店で買おう、ということですね。能登半島地震で被災した地域の人たちが大変だから、その地域のものを買って少しでももとの生活を取り戻してもらおうというのも社会のためになるお金の使い方だと思います。
保護者の方のこういうアクションは、子どもたちにいい影響を与えます。まずは親が行動変容をして、社会の役に立つことは何か、よく考えて実行してみると、むしろ年収の高さばかり気にしているときより、幸せになれるんじゃないかなと僕は思います。
あと、身近な社会で役立つことの大切さを子どもに実感してもらうのもいいと思います。一番身近な社会は家庭です。僕の本の中で紹介している家庭内紙幣「佐久間ドル」を導入して、子どもたちが進んで家の手伝いをするようになったという話も聞きます。
遠すぎる社会だと、「社会のため=他人のため」と感じてしまうので、身近な社会から徐々に広げていけると、自分ごととして捉えられるようになると思います。
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撮影/五十嵐美弥 取材・文/三輪 泉