1.受験者数は減少も、受験率は過去最高
文部科学省が2023年12月20日に発表した「令和5年度学校基本統計」によると、小学生の数は、605万人で、前年度より10万2千人減少し、過去最少となりました。首都圏の東京、神奈川、千葉、埼玉も同様で、2023年度の卒業生見込みは289,201人と、前年度比98.2%で過去最少です。
小学生の人数は過去最少となりました。受験者数の変動はありましたか?
小学生全体の人数もそうですが、6年生の数も東京、神奈川、千葉、埼玉を合わせて289.201人で前年比98.2%と過去最少です。しかし、2024年度の中学受験者数は先の1都3県を合わせて52,400人、受験率18.12%と過去最高となりました。受験者数を前年と比較すると、東京都95.0%、神奈川県96.3%、千葉県98.8%とこの3県は下がっていますが、埼玉県120.6%、茨城県116.2%と2県は上昇しています。一人平均出願校数も7.19校と過去最高です。
*数値はいずれも首都圏模試センター 2024年2月19日資料より抜粋
6年生の数は減っても中学受験者数は増えているのですね。
共学化へリニューアルしたり、カリキュラムを充実させたり、魅力のある私学が増えたことが理由にあるのでしょう。新設校も続々と開設されています。また、子どもたちへの新型コロナウイルスの影響が大きいのではないでしょうか。今年の6年生は、3年生の時にコロナ禍が始まった、まさにドンピシャの学年です。学校が休校になることが多かったり、対面授業の時間が減少したりしたため、学習の遅れを心配した保護者も多かった。今まで塾に行かなかったような子も塾に通うようになり、そこで中学受験を薦められたのでしょう。
2.学校選びの最新傾向
学校選びの傾向を教えてください。
大きく3つあります。
① 首都圏模試で偏差値50前後(四谷大塚の偏差値40前後)の層が顕著に増えている
これは、今年だけではなく、ここ6年間ぐらいですね。約1.5倍増えています。
② 共学校への出願が増えている
これは、女子校が共学化されるのに伴って受験生が増加しているということです。共学化は注目を集めるので、多くの方が学校説明会に足を運びますよね。そこで、学校も改めて自校の魅力をアピールできた結果なのではないでしょうか。
③ 東京都中央区月島・勝どき、江東区豊洲・東雲・有明、港区台場などの「湾岸エリア」と「国道16号線沿い」に新設される学校に注目が集まっている
これについては、例えば2024年4月に開校予定の開智所沢小学校・中等教育学校(仮称。埼玉・所沢市)や開智望小学校・中等教育学校(茨城県・つくばみらい市)は国道16号線沿いに、開智日本橋学園中学・高等学校(東京・中央区)は湾岸エリアに新設されています。「湾岸エリア」はタワーマンションが数多く存在する人気居住地のひとつ。
国道16号線は、東京都心から約30kmの郊外を囲む全長330kmにもおよぶ環状道路で、総務省が発表した「住民基本台帳人口移動報告 2022年(令和4年)結果」で、子育て世帯の転入超過数ランキングのトップ30に入る都市が並ぶなど、人気居住地。その近くに新設した学校は、そこに住んでいる子どもたちの受験校となるのです。
3.人気校の特徴と教育内容の変化
人気校のキーワードは「国際」「共学」「付属校」「理系教育」「伝統校」
人気の高かった学校にはどのような特徴がありますか?
国際化を重視する学校や、女子校から共学になった学校、付属校も人気を集めました。理系教育を強化している学校も注目されています。ただ、女子校の中でも学習院女子や三輪田学園、東洋英和女学院などの伝統校はじわじわと受験生が増加しています。
国際化はやはり人気のキーワードなのですね。
近年、人気のある学校が取り入れている国際化とは、グローバルな視点を重視する教育のこと。国内では賃金が上がりにくい状況が続いていますが、海外で働く人々は高い給料を得ることができるため、国際的なキャリアを追求してほしいと考えた保護者が、国際化教育に力を入れ、グローバルな経済環境で成功するためのスキルや視点を提供してくれる学校を選ぶのです。
理系教育の重要性を教えてください。
企業は理系人材を積極的に求めています。理系の知識や技術は、自分のキャリアを築く上で非常に重要な要素に。過去には文系出身者が多かった企業も、現在では理系出身者が9割を占めるところもあります。この変化を保護者は敏感に察知しているので、理系教育に力を入れている学校への入学を奨励するのです。今までは女性の多くが文系でしたが、もう、女性は結婚して家庭に入る時代ではありません。働いている母親も多いので、社会の動きをしっかりと見ており、「娘にも手に職をつけてほしい」と考えるのでしょう。女子の工学系への大学進学も増えています。
付属校や伝統女子校の人気も高いのですね。
付属校の人気は昨年いったん沈静化したのですが、今年、青山学院を除いて再びMARCHの付属校が注目されました。伝統のある女子校は、母親が卒業生というパターンが多いです。ちなみに男子校も同じような増え方をしていることからも、みなさん、親近感のある母校を支持する傾向にあるようです。
4.入試方法の多様化と教育の質
6年後の大学受験へのアプローチも視野に
入試方法はどのように多様化していますか?
たしかに入試方法は多様化していますが、多くの学校の入試は4科目受験が主流です。適性検査の実施校は減少しており、特徴のある入試もやる学校は割と限られています。
多様だと言われていますが、入試というのは実は割とシンプルなんですね。ただ、英語の資格審査入試のように、英検など、特定の科目が評価されることもあります。特に英語のオーラル(口頭)スキルを重視する学校が増えています。
中学入試で入学した子たちも6年後には大学受験があります。共通テストは中学校の勉強に影響を与えていますか。
中高一貫校は大学が出口なので、もちろんそこを一番重視しています。大学受験に対するアプローチの違いは、学校ごとの勉強法にも反映されているので、学校説明会などでよく確認しておくことが大切です。
共通テストは、当初、多様な記述式の回答やオープンエンド(答えが複数存在する)形式が考えられていましたが、採点作業が複雑で時間がかかるため、実際には完全には採用されていません。代わりに、記述式ではなく、正解が複数存在しうる選択式の問題形式という、新課程で実施される形が決まりました。各学校とも、その形式を意識したカリキュラムになるのではないかと思います。
総合型選抜も注目されています。
そうですね。総合型選抜は今後さらに増えていくでしょう。体験することの面白さがあり、将来の方向性が明確な人にはぴったりなのではないでしょうか。ただ、美術や音楽などの好きな道というのは文化的な要素が大きいので、総合型選抜にはどうしても家庭の文化的要素の差が強く出てしまう。現実的には、ある程度富裕層の家庭のお子さんの選択肢となってしまう面もあります。
5.親と子の関係性と教育へのアプローチ
親の成熟度が試される中学受験
最後に、来年度の受験生の保護者にメッセージをお願いします。
何のために中学受験をするかというと、私は人格形成だと思います。そのために、なるべく本人が望む学校に行けるよう、サポートするというのが望ましいのではないでしょうか。時には子どもを上手におだててその気にさせることも必要です。子どもに振り回されたり、親が振り回されたりすることがないように。親の成熟度が試されていると思って頑張ってください。
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記事監修
中学受験指南の第一人者として、1988年に森上教育研究所を設立。学校情報にも詳しく、中学受験塾や中高一貫校のコンサルティングも行っている。保護者や受験生向けのセミナーも開催。
>> わが子が伸びる親の「技(スキル)」研究会
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取材・文/黒澤真紀