発達障害児の夏休みの過ごし方のコツ「漢字の読み書きを克服したい」「新学期に行き渋らないためには?」【精神科医さわ先生がアドバイス】

夏休みがスタートしました。発達に特性のあるお子さんを持つ親御さんたちは「生活に関する困り事」を抱えがち。
そこで今回は、名古屋市にある「塩釜口こころクリニック」院長で、さまざまな発達特性に関する情報を発信するYouTubeチャンネル『精神科医さわの幸せの処方箋』が人気の児童精神科医のさわ先生に、対処法を伺います。医師としての見解だけでなく、ご自身も発達特性のある娘さんを育てる母としての経験も踏まえ、リアルなお悩みにお答えいただきました。

「食へのこだわり」から「夏休み終盤の過ごし方」まで…親が気を付けるポイントとは?

ルーティンが崩れたり、見通しが立たないことに対して不安を感じやすい発達障害児。夏休み期間中も、できるだけストレスを減らして、親子ともども楽しく過ごすためにはどうしたらよいのでしょう? 

そこで今回も、家庭内でできる工夫や環境設定に関するお話しを、ご自身も発達特性のある娘さんを育てる児童精神科医のさわ先生に伺っていきます。

質問1:小学4年生の我が子は、漢字の読み書きが極端に苦手。夏休み中に遅れている分を復習させたいのですが、本人がやる気になるような適切な声かけはありますか?

ここがPOINT! 一学年前のドリルを難なく解かせて、自己肯定感を高めてあげましょう。ご褒美作戦で親子の夏の思い出作りもできれば一石二鳥です。

さわ先生:発達に特性のあるお子さんは、「みんなと同じように」「すべての教科を平均的に」ということが不得意なことが多いので、まず大前提として、同学年のお子さんと同じことができていなくても、今は必要以上に焦らなくて大丈夫だということを伝えさせてください。その上で、「それでも自分は、これだったらできる」という成功体験を重ねることが、小学生頃の時期には、何よりも大切なことだと私は考えています。

そのためには、夏休みの学習は、「遅れている分を、他の子に追いつくために復習する」よりは、「できたという成功体験をたっぷり積ませる」ために行うことがおすすめ。その際のコツとしては、本人が「このレベルの問題であれば難なく解くことができる」というところまで難易度を下げてスタートすることです。

無理をして現在の学年の内容に合わせる必要はなく、むしろ一学年や二学年前のドリルから始めてみることで、本人が自主的に取り組もうとするかもしれません。そうして頑張ったお子さんには、必ず「すごいね」「できるじゃん」と、ポジティブな声かけをしてあげてくださいね。夏休みは「我が子に成功体験を積ませ、自己肯定感を高めてあげる絶好のチャンス」だと据えてみて欲しいのです。

また、夏休みの特別感を出すために「ご褒美シール」などを用意して、本人のやる気を引き出してあげるのもよいでしょう。せっかくの夏休みなので「これが終わったらかき氷を食べよう」「好きなところに遊びに行こうか」なんてご褒美を提案することで、親子の夏の思い出もできれば、一石二鳥ですよね。

質問2:暑さが苦手で毎日、冷たい麺類ばかりをリクエストされます。親としてはいろいろな物を食べて欲しいのですが……。よい解決策はないでしょうか?

ここがPOINT! 好きなメニューを自作できるよう練習させてみては? 普段はできないことにチャレンジするのも夏休みの醍醐味です。

さわ先生:「そんなに好きなら、自分で作ってみない?」と声をかけ、お子さん自身にその料理を作れるようになってもらう作戦はどうでしょう? 時間に余裕があるので、普段はできないことにチャレンジさせられるのも夏休みの醍醐味ですよね。

それに、親御さんの本音としては「せっかく忙しい合間に栄養価を考えていろいろ作っているのに、ワガママを言って……」という、「これだけやってあげているのに」というイライラもあるんじゃないかな、とも思うのです。子どもが料理をおぼえ、夏休み中のお昼を自分で作るようになれば、親御さんだってもっと寛容になれると思いませんか?

それに子どもだって毎日、同じものを作って食べていれば、そのうち飽きてアレンジをしてみたり、具を変えてみたりするんじゃないですかね。味の実験をしたり、具材の栄養価を調べたりして、自由研究に発展させられたらなおよいですね!

質問3:9月からの新学期をスムーズにスタートさせられるよう、夏休み終盤にやるべきことやおすすめの過ごし方があったら教えてください。

 

ここがPOINT! 不安や憂鬱を払拭する文具や友達との約束を用意するのもひとつの手。また「学校に行きたくない」の気持ちを肯定してあげることも大切な備えです。

さわ先生:睡眠リズムが乱れていたら、夏休みの中盤以降は、新学期に向けて早寝早起きを心掛けることが重要です。ただ、それ以上に私が親御さんにお伝えしたいことは、もしもお子さんが「新学期が始まっても、学校に行きたくない」と言い出した際には、絶対に否定せず、まずはその気持ちに寄り添ってあげてほしいということです。

大人だって1ヶ月以上もお休みをしたら、次の出社日には憂鬱になりますよね。集団生活にストレスを感じやすく、変化が苦手な発達特性を持つお子さんたちの場合はなおさらだと思いませんか? 

それに、一般的に新学期が始まる9月1日は、私たち児童精神科医がもっとも緊張を強いられる日。1年のなかで18歳以下の若者の自殺者が最も多い日なんです。「行きたくないよね、分かるよ」と、まずはお子さんの気持ちに寄り添い、思いに耳を傾けてあげることが、親御さんにできる新学期に向けた最も大切な備えかもしれません。

「行きたくない」とまでは言わなくても、久しぶりの学校に憂鬱な気分になる子は少なくないでしょう。そんなときは、新学期から使うためのお気に入りの文房具を新調しておいたり、9月の週末に仲の良いお友達と遊ぶ予定を決めておいてあげるなど、学校生活の再開に楽しみを見出せるような仕掛けがあるとよいかもしれません。

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プロフィール

精神科医さわ
児童精神科医/精神保健指定医/精神科専門医/公認心理師。1984年三重県生まれ。医学部卒業後、精神科の勤務医としてアルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。シングルマザーとして2人の娘を育てるなかで、長女が不登校になり発達障害と診断されたことで「自分と同じような親御さんや子どもたちの支えになりたい」と名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。同様の思いから始めたYouTubeチャンネル『精神科医さわの幸せの処方箋』も人気となっている。著書に『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)。 

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精神科医としてこれまで延べ3万人以上をみてきた著者が、子育て中のお母さんに伝えたいメッセージとともに「子育てで大切なこと」をまとめた一冊。「親子の関係が変わる」子どもの心の声とは?

取材・文/小嶋 美樹

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