研究のきっかけは「食器洗いで服が濡れたこと」
城内哲さんは小学4年生のときに「水の飛びちり方を考えてみた!!」で旺文社主催 全国学芸サイエンスコンクール(※)において、文部科学大臣賞と理科自由研究部門 金賞を受賞しました。
実験から導いた理論で、服が濡れない食器の洗い方を提案
食器洗いの際に服が濡れてしまう経験をきっかけに始めたという哲くんの研究。食器の形状や食器にあたる水の角度を変えながら、水がどこに飛び散るかを緻密に調べました。実験手法や実験装置もとてもユニークなうえ、考察も秀逸で、水の飛び散り方に関する4つの理論を構築。最後には、食器の形状に応じた、服が濡れない食器の提案まで考え抜きました。
今回は、親御さんと哲くんに、この自由研究について詳しくお話を聞きました。
※全国学芸サイエンスコンクール……児童生徒のみなさんがそれぞれの得意分野で制作した作品をご応募いただける旺文社主催の総合コンクール。
哲くんの研究のココがすごい!
① 実験装置のアイディアは、学校のプールから
ー実験装置がユニークでよく思いついたなと驚きました! 何を参考にしたのですか?
哲くん:学校でプールに入る前に浴びるシャワーを参考にしました。真上から水をあてるため、水圧を上げても角度が変わらないよう、シャワーヘッドがピッタリはまる大きさの円をくりぬくように工夫しました。
食器を置く角度を変える装置を粘土で作ったのですが、正確に15度、30度、45度になるよう、2枚の型紙を使いました。食器が装置から落ちないよう、金具のストッパーを埋め込んだのも工夫したところです。
②実験方法は、予備実験を何回も繰り返して決定
ー食器の形状・角度・飛び散る水の位置、この3つを組み合わせて比較する実験方法はどうやって決めたのですか?
哲くん:今回の研究には書いていないのですが、予備実験を何回もした中で、水が飛び散りやすい食器とそうでない食器があること、水の当て方で、水の飛び散り方が変わることに気付きました。たくさんの水の飛び散り方を見て、どうやったら説得力のあるデータをとれるかな、と考え、形の違ういろいろな食器について、水の当たる角度ごとに、飛び散った水の量を記録するという方法を思いつきました。
③まとめ方は、説得力のある見せ方にこだわる
ー表やグラフがわかりやすくて、説得力がありました。このまとめ方にした理由を教えてください。
哲くん:データを数値化することで、読む人への説得力が増すと考えました。絵を描いたり、表やグラフを作ったりしたのは、その方が、読んだ人に分かりやすくなると思ったからです。グラフを作る際は、どうやったら大量のデータをわかりやすくまとめられるかな、と考え、いろいろ図を書いて試行錯誤しました。
④既存の理論で説明できないなら、自分で理論を導く
ー哲さんは、水の飛び散り方を決める理論を自分で編み出していました!なかなかできないことだと思います。
哲くん:実は、3年生の冬休みの自由研究で、 「階段を落ちるボールに規則性はあるのか」という研究をしました。その時は、入射角=反射角理論で説明できたので、今回も同じように説明できると思っていました。
でも、実験結果を見ると、それだけでは説明できないことがたくさん出てきて、それをどうやったら説明できるのか、いろいろ考えた結果、こうなりました。
ー今回の研究で、哲くんが一番見てほしい!と思うところはどこですか?
哲くん:濡れずに食器洗いをする方法を見てもらいたいです。また、どういう風に考えて理論を生み出したのかなど、考察の部分も見てもらいたいです。
ーこの研究を終えてまもなく1年です。哲くんは今どんなことに興味を持っていますか?
今は、難しい算数の問題を解くのにはまっています。まだまだ実力不足で解けない問題ばかりですが、解けない悔しさや苦しみを味わった後に解けた時は、最高に気持ちいいです。水の飛び散り方についても、この研究で分からなかったことがたくさんあるので、考えていきたいと思っています。
親御さんがサポートで意識した3つの声かけポイント
さらに、哲くんの親御さんにもお話を伺うと、研究中、大事なポイントで声かけをされていました。
①「夏休み中に仕上げたいね」と励ますが、急かし過ぎない
ー今回の哲くんの自由研究は、とても時間がかかったと思います。親御さんはどのようなサポートをされましたか?
哲くんの親御さん:夏休み中に出来上がるよう、スケジュール的なことは声かけしました。ただ、考察部分については、どうしても進む時と止まる時があるので、タイムリミットを気にしつつ、急かし過ぎないように気を付けました。
夏休み中、哲と研究の話をよくしましたが、内容面については、極力口をはさまないようにしていました。ただ、実験では、蛇口を開け閉めし、水量を測り、記録をとる等、何人もの手が必要なので、そこは家族で協力しました。家族の日程もあり、実験できる日は限られていましたので、この実験で、必要なデータが本当に得られるのか、事前によく考えて、きちんと計画を立てよう、ということは伝えました。また、提出前には、誤字脱字がないかのチェックもしました。
②「分からなかったこともレポートにそのまま書いてOK」
ー研究中、哲さんが悩んだとき、どのような声かけをしましたか?
哲くんの親御さん:最後の最後、どうしても分からないところ、自分の理論では説明できないところが残ってしまうと分かり、「やめる」と言い出したことがありました。分からないことが分かったことや、何が分からないのかを、そのまま書けばいいんだよ、と声掛けしました。
③「とにかくやってみよう」子どもの疑問や好奇心を後押し
ー哲くんが自由研究を取り組むにあたり、親御さんが気を付けていることや心がけていることはなんでしょうか?
哲くんの親御さん:本人が不思議に思い、やってみたいと思ったことは、とにかくやってみよう、と勧めるスタンスです。
自由研究は子どもの創造力を育むチャンス
お話を聞いていると、哲くんが自由研究を通じて、学びを深めている姿が想像できますね。また、哲くんの親御さんの「分からないことが分かったことや、何が分からないのかをそのまま書けばいい」という言葉がとても印象的でした。
わからないことが残ったまま研究を終えてはいけない、と思いがちですが、分かったこと、分からないことを整理することで、また新しい興味につながっていくのかもしれません。
筆者も、哲くんに教えてもらった食器の洗い方をしたところ、服が濡れなくなりました。哲くん、ありがとう!
第68回全国学芸サイエンスコンクール作品募集中!
全国学芸サイエンスコンクールは、現在、第68回の作品募集も開始しました。公式サイトにてご確認ください。応募締め切りは2024年9月24日です。
今年度はサイエンスジャンル(理科系・社会科系の各研究分野)と学芸ジャンル(アート・文芸Ⅰ・文芸Ⅱ・環境の各分野)の2つのジャンルに加え、特別企画としてスタートアップ部門が新設されました。それぞれの得意分野で制作した作品を応募できる総合コンクールとなっています。
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取材・文/峯あきら