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中学受験熱は、今後もここ数年は高まる傾向にある!
――中学受験熱の高まりが多くのメディアで報道されていますが、実際のところ、どうなのでしょうか?
日能研:首都圏内の中学受験者数は、大学の入試改革やコロナ禍などの不安が影響して、2023年には受験者数66,500名※1と過去最高を記録。2024年はそれより少し減りましたが、都内でも文京区などは約49%※2の受験率で「2人に1人」は受験をしています。小学校卒業生数が、2023年と比較して2024年は約5,000人減っていることを考慮すると、2024年の受験率は、22.7%※3と上昇。こうした傾向は、ここ数年は続くと思われます。
このように中学受験をする家庭が増えた背景には、コロナ禍を機に、私立中高一貫校の多くが自身の学校情報をWebメデイアなどで発信するようになって、これまで中学受験に関心がない保護者の方たちが、各学校の校風や教育内容を目にする機会が増えたことが大きかったことが考えられます。また、東京都在住のご家庭の場合は、私立校通学への助成金制度が充実したことも影響しているかもしれません。
※1 ※3「都県別 受験者数&受験率 2001~2014年」(日能研推定)
※2 令和5年度 公立学校統計調査報告書【公立学校卒業者(令和4年度)の進路状況調査編】小学校 第1表 状況別卒業者数より
人気を集めているのは時代に応じて変化し、学校のトピックスを広く外部へ伝えている私立中高一貫校
――最近、注目されている私立中高一貫校の傾向はありますか?
日能研:学校のトピックスをしっかり外部に打ち出している学校は、勢いがある気がします。
女子校では「山脇学園中学校・高等学校」「三輪田学園中学校・高等学校」などが人気
日能研:例えば、女子校では、「山脇学園」は2010年に‶山脇ルネッサンス〟と題して学校改革を行い、校舎を建て替えたとともに、グローバル教育とサイエンス教育を打ち出しました。「山脇学園」は伝統のある学校で、長い間お嬢さん学校というイメージが強く、そうしたイメージを抱いて新築校舎を見学にきた保護者が、そのとき「山脇学園」の教育改革のことを知って、「これからの教育に期待がもてる」とわかり、以来、人気を集めています。
日能研:同じく女子校の「三輪田学園」も、それまでのイメージを覆す教育内容やプログラムを打ち出して、人気を集めている学校のひとつです。同学園は、2015年から法政大学と高大連携協定を締結し、最大30名の協定校推薦制度を設置したことが話題になりましたが、受験者のための学校説明会の評判も、とてもいいんですよね。校長先生のお話が魅力的なのと、生徒主催の説明会というのがとても人気を集めています。受験者の学校見学などを、生徒さんたち自身が担当するというのは最近のトレンドで、人気がありますね。
日能研:「三輪田学園」は、説明会に行った人のうち、どのくらいの人が実際に受験したのかを学校に伺ったところ、非常に高い受験率だったということです。
男子校では「巣鴨中学校・高等学校」「海城中学高等学校」などがイメージチェンジをして評判に
日能研:また、男子校では「巣鴨中学校・高等学校」と「海城中学高等学校」もイメージチェンジをして、人気を集めています。
日能研:「巣鴨」は‶硬教育〟というのを打ち出して、ふんどしでの水泳や寒稽古を行うといった、伝統行事が以前から知られていますが、‶英才早教育〟のもと、学力・人間力・国際力を備えた人材育成を目指しています。例えば、イギリスのイートン校とつながりを持って、希望者には留学はもちろんのこと、夏休みに国内で合宿をしてイギリス人講師に学ぶサマースクールを開催しています。
日能研:また、「海城」は、元海軍予備校でしたので、厳しい校風イメージがありましたが、2021年7月に完成し、9月から運用がはじまった物理・化学・生物・地学すべての実験室を備えた「サイエンスセンター(新理科館)」を創設して、さらに注目を集めました。センター内には、充実した実験機材が設置されているほか、生物のはく製などの資料も多く保管されていて、オープンスクールに来た男の子は、「サイエンスセンター」に一度入ったら出て来ないと、いわれています(笑)。
人気校には、このように社会の動きにあわせて変化を続け、それを上手に情報発信している学校が多いですね。
学校の魅力を積極的に発信する学校が増えてきた
――以前とは、異なるスタンスの私立校が増えたということでしょうか?
日能研:時代の変化を見据えた改革をしている学校は多いですが、これまでの伝統ある学校の理念や校風を外へ発信する私立校が多くなったということも、私立校の人気に拍車をかけていると思います。
私立中高一貫校というのは、どの学校も創立以来、独自の理念を持ち、生徒の育成をしてきた学校で、高校受験のない6年間だからこそ余裕をもってできる、多様な体験を提供しています。
しかし、これまでは、そうしたことをあまり外部に発信していませんでした。それが、コロナ禍の影響で、Webメディアなどで積極的に発信したことで、多くの保護者が「こんな魅力のある学校がたくさんあったんだ」と気づいたわけです。
私立中高一貫校の魅力に多くの保護者が気づき始めた!?
――ところで公立中高一貫校が設置されたばかりのころは、公立校にとても人気がありましたが、現在はいかがでしょうか?
日能研:公立中高一貫校ができたばかりのころは、こうした学校ができたこと自体が注目されていましたので、定員の10倍を超える応募があった学校もありましたが、最近は少し落ち着いてきています。2024年の入試では、公立校を目指す生徒は前年より減少しています。私立と公立を併願する生徒も結構いるのですが、両方合格しても、私立校へ行く生徒もいます。
それは、保護者の皆さんが私学の魅力を認知したからです。
私立校の受験対策ができていれば公立校の合格も難しくない
――公立校の受験対策は私立校とは異なるというイメージがありますが、公立と私立を併願するのは難しくはないのでしょうか?
日能研:公立校の適性検査は思考力重視の記述問題があって、特別な対策が必要と考えられがちですが、実は私立校ではもともと思考力重視の記述問題を出す学校が多く、近年はさらにその傾向が高まっているんですよね。
そのため、私立校の受験対策がしっかりできていれば、公立校も合格する確率が高いのです。「日能研」でも希望するご家庭には、小学6年生の夏休みを過ぎてから公立中高一貫校の受験サポートをしますが、それまでに身につけた学力がしっかりとあれば、公立校を志望した多くの子どもが公立校に合格しています。
保護者が求めているのは学力だけじゃなく、これからの社会を生きる力
――以前から「中学受験はゴールではない」といわれていて、親たちにとっては学力を高めて、偏差値の高い大学へ進学させてくれる、いわゆるコスパのいい学校を求める傾向がある気がしますが、その点はいかがでしょうか?
日能研:もちろん、いまも大学合格実績は、受験校選びで注目されるポイントのひとつです。しかし、学力重視で知識をインプットするだけの教育では、いまの世界で通用する人間になれないことも、いまの保護者のみなさんはわかっているんですよね。
「これからの世界で生きていくためには、指示されたことだけをやっている人間ではダメで、自分でやりたいことを見つけて、自ら取り組む人間でなければいけない」と思っていて、わが子にはそうした人間になってほしいと願っているわけです。
そのためには、私学だからこそできる独自の教育や多様な体験を通して、子ども自身が本当に興味を持つことを見つけてほしいと願っている保護者が多いのです。
――「受験をするなら御三家」という考えは、もう古いのでしょうか?
日能研:中学受験の世界で「御三家」といわれている「麻布・開成・武蔵」、「桜蔭・女子学院・雙葉」も、もちろん魅力のある学校で、人気があります。同時に、これらの学校に並ぶことができるほど、魅力ある私学が増えています。入試難易度を超えて学校それぞれの魅力で私学を選択するご家庭が増えているんです。こうしたことも中学受験者数が増加した大きな要因だと思います。
――魅力的な学校がどんどん増えているという私立校。後編ではその中からどのように受験校を選べばよいか、「学校選び」についてじっくり伺います!
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お話を聞いたのは
取材・文/山津京子