【桐朋中学校・高等学校】M-1グランプリ覇者やパリ五輪の陸上選手など多様な人材を輩出するその教育方針とは?中学受験のいまがわかる学校探訪

東京都国立市の広大な敷地に佇む『桐朋中学校・桐朋高等学校』。
学問の世界や医師、政治家などを輩出する一方で、近年はM1グランプリ覇者や2024パリ五輪の陸上選手など、多種多彩なOBが続出する私立中高一貫男子校です。
今回は、2024年に創立83周年を迎えた桐朋に取材を敢行。中学教務主任・英語科教諭の加藤純一先生にお話を伺いました。

好きなことに没頭しながら、「どんな自分になりたいか」を問う6年間

――今春、話題になった78期高校卒業生の答辞は、印象深いものでした。洞察力と自立心だけでなく、文章内に卒業生と担任の先生方全員の名前を入れ込むという創意もあって驚きました。桐朋というと、「自由でのびのび」「文武両道」というイメージがありますが、どんな校風なのか教えてください。

加藤先生(以下、加藤):創設から今日まで、桐朋では「自主」「敬愛」「勤労」という3つの言葉のもと、何事においても「自主的態度を養う」ことを大切にしています。

具体的には、互いの個性を尊重して協力し合いながら、自ら考え、行動できる生徒の育成に取り組んでいます。要するに「どんな自分になりたいか」を問う6年間だと思っていただけたらと思います。

↑お話を伺った中学教務主任・加藤純一先生。教科は英語科を担当。
お話を伺った中学教務主任・加藤純一先生。教科は英語科を担当。

加藤:「自由でのびのび」というイメージは、「自主」の精神によるものかと思います。また、国立市の落ち着いた街並みや、広々とした自然の多い校舎のおかげもあると思います。

登校の様子
中学生は黒の詰襟の制服。高校生は制服にあたるものはなく自由。制服での登校も可能です。

加藤:最近では、目立った活躍をする卒業生のことを話題にしていただくことが多くなりました。

桐朋の生徒は、様々なものに純粋に興味を持ち、勉強もクラブ活動も好きなことをやり、のめり込むタイプが多いです。そうした経験が大学や社会に出てから活かされ、枠にとらわれない発想力とチャレンジ精神に結びついてるのかと思います。

男子校ですから、変に格好をつけなくてもいいのも気楽で良いのでしょうね。

ディスカッションを採り入れた授業で「自ら考え、行動する力」を育む

――それは、具体的にはどういったことでしょうか?

加藤授業で使う教材の多くは、80年という歴史の中で培った「自主教材」で、すべて教師陣によって作成されたものなので、教科書の内容を超えた発展的なことも学べるように考えられています。

中学までで基礎を固め、高校からは自主性を重視

しかし、小学生から中学生になって、いきなり「ひとりで頑張れ」とは言わず、中学校の間は、締める部分は締めて学習習慣を身につけ、基礎学力の定着に力を入れています。そうすることでやがて必要となる応用力につながると考えています。

その上で、高校教育では必須科目をバランスよく配慮しつつ、英語や数学などは「段階別授業」を取り入れて、大学受験を視野に入れた、より高度な知識を得るようなカリキュラムを組んでいます。

――「段階別授業」とはどのようなものですか?

加藤「習熟度別授業」のように能力別にクラスを振り分けるのではなく、生徒自身が受ける授業の段階を決定して受講する形の授業です。そのような形にしているのは、わが校では生徒の「自主・自立」を尊重しているからです。もちろん、生徒が悩んだり、あまりにも難しい選択を希望しているときには私たち教師が相談にのり、サポートしています。

「段階別授業」が象徴しているように、桐朋では「生徒自身が自分で考え、行動する力」を身につけるためのしかけがいくつも用意されています。

クラスの仲間の前で堂々と意見を発表。その意見に対して他生徒からも多くの声が上がるそう。
クラスの仲間の前で堂々と意見を発表。その意見に対して他生徒からも多くの声が上がるそう。

加藤:例えば、国語の授業では、それぞれの時期に適したテーマの作品を選んで授業を行っているのですが、授業は教師が一方的に教えるだけではなく、生徒たちにその作品に対する考えや意見を述べさせ、それに対して教師や他の生徒の意見交換をするディスカッション形式を中心に行われています

こうした授業スタイルは、他の授業でも行われていて、英語の授業では和訳の解説をしてもらい、なぜこの日本語に訳したのかを発表させたり、数学の授業では単に答え合わせをするではなく、その答えに行き着くまでにどのように考え、どのような方法によって答えを導き出したのかを発表させたりしています

このような経験を積み重ねることで、人の意見に耳を傾けつつ、考える力を身につけ、自身の考えを他者に伝える力が伸びていくと考えています。

「ジェンダー教育」にも配慮。文理別クラス編成を行わないことで多様性を学ぶ

――他にも特色のある授業はありますか?

加藤:20年以上に渡り、高校2年生の家庭科授業において、ジェンダー教育の一環として姉妹校の桐朋女子校との討論会を行っています。

前もってアンケート形式で討論のテーマを抽出し、それに対しての意見交換をするというスタイルです。

高校2年生の家庭科の授業。
高校2年生の家庭科の授業での一コマ。

加藤例えば「女性専用車両をどう思うか?」「ボウリング場での女性割引をどう思うか?」といった問いを投げ掛け合うのです。そうした問いを投げかけられて当初は互いに対立しあっていても、対話を重ねるうちに互いの立場や思いがわかり合っていく姿には、自己のアイデンティティーを確認すると同時に、他者や異性への思いやりが育まれていくのを実感します。

あえて文理別のクラス編成はしない

加藤また、6年間、一貫して文理別のクラス編成をしないのもわが校の特徴です。さまざまな特性をもった仲間とふれあいながら、多様性を学んでほしいと願っているからです。

これまで述べたのは、自立&自律性を育むしかけのほんの一部ですが、我々教師は、発達段階に応じてさまざまな刺激を与えて、自分自身とは何者か、どんな道を進んだらいいのかを考えさせる方法を常に模索しています。

6年間ずっと同じ担任陣で、一学年の生徒たちを見守る体制

――では、授業以外で特徴的なことを教えてください。

加藤:まず、中高6年間、各学年の担任陣は持ち上がりで生徒たち全員を長く見守っている点が挙げられます。教師も生徒も人間ですので相性があって、時にうまく噛み合わないこともあるものですが、6年間付き合っていくうちに、互いに信頼関係が生まれて、人間同士のつきあいができあがっていきます。

加藤先生
6年間同じ担任陣なので、強い絆ができると語ります。

加藤:こうした長いつきあいで生徒と教師が信頼関係を築くからでしょうか、毎年たくさんのOBが桐朋に遊びにきてくれるんですよね。

同窓会も、大小様々かなりの頻度で行われているようですよ。

そう言えばつい先日、コロナの影響で実施できなかった2020年度の修学旅行を、リベンジで実施したクラスがあったんです。当時のクラスの担任の先生もしっかりと「引率」して、二泊三日で本当に京都に行ってきたそうです。

当時のクラスの約2/3もの卒業生が集まったようですよ。卒業してもう3年になるのに。これぞ桐朋!だと思います。

――なんだかとても楽しそうですね。学校案内の生徒さんが作ったページには「休み時間ヒマしているなら、教員室へ行こう!!」という記述があって、笑ってしまいました。

加藤入学した当初は緊張して「〇年〇組の〇〇です、入ります」などとことわってから職員室へ入って来る生徒が多いのですが、すぐに馴染んで、まるで自宅のリビングに入ってくるように普通に入ってきて、私たちに質問や相談をしてくるんですよね(笑)。

「行事で人をつくる」のが伝統。全て生徒が企画

――ほかにも桐朋ならではの特色があれば教えてください。

加藤:「学校行事を生徒が主体となって運営する」ことも特色です。

例えば中学の「クラスの日」や高校の修学旅行では、クラスごとにどこへ行くかを生徒たちに企画させていて、毎年、帰りの新幹線の中では修学旅行委員がみんなに感謝されて涙するのも恒例となっています。

毎年、春と秋に開催される「スポーツ大会」の様子。学年ごとのクラス対抗戦で優勝を目指します。
毎年、春と秋に開催される「スポーツ大会」の様子。学年ごとのクラス対抗戦で優勝を目指します。

加藤こうした経験は、遠足や、桐朋祭、スポーツ大会でも観られる光景です。「行事で人をつくる」のも、桐朋の伝統です。

桐朋最大の行事「桐朋祭」。生徒自身が自分たちの意思で、思い思いに有志による参加団体を結成。一般公開行事で、来場者数は約1万人にのぼります。
桐朋最大の行事「桐朋祭」。生徒自身が自分たちの意思で、思い思いに有志による参加団体を結成。一般公開行事で、来場者数は約1万人にのぼります。

桐朋の教育の根底「自主・自立の精神」を保護者の方と一緒に育みたい

――生徒たちは在学中に本当にいろいろな体験ができるのですね。話は尽きませんが、最後にこれから受験を検討する親御さんに向けてメッセージをお願いします。

加藤:中学・高校の6年間にご子息は思春期を迎え、親御さんにとっては大変に思う時期もあると思います。桐朋では男子校だからこそ、この時期の男子がどのような成長をしていくかが、長年の経験でわかっています。その経験を活かして、私たち教師は親御さんたちと協力しながら、嵐のようなその時期を乗り越えていけたらと考えています。

加藤先生
本人が「ここに行きたい」と思える学校選びを。

加藤時代の流れに即して、少しずつ変化している部分もありますが、桐朋の教育の根底に流れているのは、変わらず「自主・自立の精神」です。

私たち教員は、皆、一方的に生徒を抑え込むのではなく、覚悟を持って付かず離れず見守りながら、生きる力を育んでほしいと願っています

学校説明会で、保護者の皆さんから「どんな施設があるか」「補修や追試制度はあるのか」「大学進学率はどのくらいか」など、まるでパソコンのスペックを確認するかのように学校の特徴を確認されていく方をお見かけしますが、そうした発想は、学校選びに関しては適さないと思います。

どんなに多くの機能をもつパソコンでも、日常的に使う機能は少数に限られているように、学校選びでは、絶対に譲れない2、3の”機能”が備わっていれば、あとは実際に学校に足を運び、そこで空気、におい、実際の生徒達の様子から、本人が「ここに行きたい」と思える学校を選んでいただければ良いのではないでしょうか。

人生の中で本当に大切なものもそう多くありません。彼にとってその大切なものが何なのか、迷い、悩みながらも、私たち教員と一緒に探し、育んでいくお気持ちで桐朋を選んでいただけたら幸いです。

『桐朋中学校・桐朋高等学校』

東京都国立市の広大な敷地に佇む私立の中高一貫男子校。

敷地内には広大な2つのグラウンド、第1~第4体育館・柔道場・プール・トレーニングルームを備えた総合体育館も。
敷地内には広大な2つのグラウンド、第1~第4体育館・柔道場・プール・トレーニングルームを備えた総合体育館も。

前身は陸海軍人の子弟の養成学校。敗戦後、東京文理理科大学・東京高等師範学校(後の東京教育大学・現筑波大学)の指導と協力校を得て、1947年に桐朋第一中学校として再出発。「自主的態度を養う」「他人を敬愛する」「勤労を愛好する」という教育目標に掲げて、生徒の育成を実施。

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