洗濯物をたたむお手伝いは認知力や模倣力、両手の協調運動が学べる! 専門家が家庭できる療育をレクチャー【お手伝い療育のすすめ】

この連載では、発達障害のある子どもの療育に長年携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、家事のお手伝いを通じて行う療育をご紹介します。子どもの自尊心を育てながら、家族も喜ぶ「お手伝い療育」。今回のテーマは「洗濯物をたたむ」です。

お手伝いは「させる」のではなく「したがる」ときに始めよう

私は第1回の連載で、子どもたちが成功して幸せになるには「愛情」と「勤労意欲」が大切であること、そしてそれらを育てるには、「お手伝い」が最適であることをお話ししました。

ところで「お手伝い」はいつから始めたらいいのでしょうか。それは、「子どもが興味を示した時点で、できるだけ早く」です。
この連載では各お手伝いに一応対象年齢を示していますが、それは目安であり、対象年齢になるまではしないほうがいい、という意味ではありません。
後述するように、お手伝いの経験には、実に大きな意義があるので、お手伝いの経験はできるだけ早くから積ませたいのです。
ただ注意したいのは、あくまでも「子どもが興味を示す」なら、という点です。子どもの能動的な「やってみたい」「おもしろそう!」という心の動きがない中でのお手伝いの取り組みは「厳禁」です。それは子どもにとって、苦痛でしかありません。
そのことは十分にご理解いただきたいと思います。
お手伝いは「させる」のではなく、「したがる」ときにしてもらいましょう

お手伝いから得られることとは?

幼児にお手伝いをしてもらうと、特に最初のころは教える手間・時間がかかる、やり直す手間がかかり、かえって大変なことが多いです。
お手伝いを見守っている最中も、「そんなやり方ではダメ…!」と喉まで出かかることばをぐっとこらえるなど、忍耐を要します。

それでも大人は頑張って、子どもにお手伝いをしてもらってほしいのです。それは、最初にお話ししたように、お手伝いの中で、愛情と勤労意欲が育つからです。

見守るのは大変でも、お手伝いにはそれ以上の価値があります。

「自分はできる!」という感覚が自尊心の基礎になる

お手伝いをしてもらうと必ず親子のやり取りが生じ、そのやり取りの中で「愛情」が育まれます。お手伝いをやりとげると子どもの中に「自分はできる!」という感覚が生まれます。それは子どもの成長にとって非常に大切な自尊心の基礎になります。

働いて人を喜ばせるうれしさが、人生を支える

また、「人に喜んでもらってうれしい」という感情も生まれます。働いたら家族が喜んだ。その時の胸が膨らむような誇らしい思い。それは勤労意欲の基礎になります。「働いて、人に喜んでもらうことがうれしい」と思えることは、子どもの人生を強く支えます。やり遂げることで責任感も生まれます。

「生活すること」を実感できる

お手伝いをすることで、「生活すること」を実感するという意義もあります。何もしなくても家が片づき、自然にご飯が出てくるのではなく、誰かが手を動かし、労力を使ってくれているから整頓された家でご飯が食べられるのだということは、自分が家事のお手伝いをすることで初めて深く実感できるのではないでしょうか。
その「生活をする」という感覚もまた、生きていく上で必要なものだと思います。お手伝いをしてもらうことは大人にとって労力と忍耐がいることですが、ぜひ、根気強く取り組んでほしいと思います。

第4回 洗濯物をたたむ

今回のテーマは親が子どもに手伝ってもらう家事として人気の高い「洗濯物をたたむ」です。

対象年齢

4歳~

期待できる効果

・洗濯ものを仕分けすることで、種類や所有者別に見分ける認知力が育つ
・親のやり方を見て、たたみ方を真似し、できるようになる模倣力が育つ
・表、裏、前、後ろ、右、左などのことばの意味を理解する
・両手の協調運動を経験できる
・洗濯物を仕分けるところから、しまうところまで、終わりをめざしてゴールする達成感を経験できる。
・洗濯の山を仕分けする→畳んだ洗濯物を畳む→収納するの、一連の作業を一貫してやり遂げる経験ができる
・家族の役に立つ経験ができる

準備するもの

・洗濯物

1. 仕分けをする

子どもの理解度と興味にあった問いかけをして、仕分けをしてもらいます。

所有者ごと:「これは誰のかな?」
種類ごと :「靴下どれかな?」
ペアなど :「この靴下のお友だちどれかな?」など。

慣れてきたら、仕分けの量や種類を増やします。

(例)「靴下とパンツを分けて」「○○ちゃんの服や靴下を集めて」など

次に、分けたものをカゴなどに入れます。
「タオル類」、家族別の「下着」「洋服」ごとにカゴに入れると、次のたたむ、収納するがスムーズにいきます。

2.たたむ

まず親がゆっくりとやり方を見せます。「ピーン」「よいしょ」などオノマトペを使ってわかりやすく伝えましょう。

失敗してもすぐやってあげないことがポイントです。
失敗したらもう一回、オノマトペを使いながら、やり方を見せた後、もう一度、子どもに挑戦させてあげてください。
根気強く、忍耐力をもって関わります。できてもできなくても、子どもの頑張りをほめましょう。

ハンカチのたたみ方

たたむお手伝いの一番簡単なものがハンカチです。ここからチャレンジしましょう!

① ハンカチを広げます
② 左から右に折る
③ 下から上に折る

パンツのたたみ方

ハンカチとだいたい同様の手順でできます。

① パンツを広げ広げます
② 左側を右に折る
③ 右側を左に折る
④ 下から上に折る

靴下のたたみ方

色んなたたみ方がありますが、これが一番簡単な方法です。

① 最初に足の部分を折る
② 次に2つに折る
③ 大きいときはもう一度たたむ

ズボンのたたみ方

少し難しくなってきます。慣れてきたらチャレンジしましょう。

①  履き口を左にして、横に広げる ズボンが上と下に分かれる
②  下部を上部に半分に折る。重ねる
③ 半分に折る

シャツのたたみ方

こちらも慣れてきたらチャレンジしてみましょう!

① 襟口を下に裾を上にして広げます
② 左側左側を右に折ります
③  右側を左に折ります。
④  襟部を上に折ります

「シャツ高速たたみ機」を使う場合

開発者は不明ですが、様々なところで紹介されているシャツ高速たたみ機をご紹介します。これなら、不器用な子どもでも楽しんで取り組むことができます。

【作り方】

たたんだシャツと同じサイズに段ボールを切り、同サイズの段ボールを6枚用意します。下のイラストのようにテープを貼ります。

①裏側から見たところ ②表側から見たところ

【使い方】

段ボールの上にシャツを置き、③~⑨の順番で段ボールを折ってもどします。

 

3.収納する

収納方法は、タンスや衣装ケースに収納する、かごにしまう、たたまないで吊るしておくというご家庭もあり、千差万別です。どのやり方でもよいですが、たたんだ衣類を床などに置きっぱなしにすることは避けます。「たたんだら収納する」ことを習慣化しましょう。

カゴ収納のススメ

たたんだけれど収納が面倒になってしまうことはありますね。そのときに便利なのがかご収納です。人ごとに、かごを決めてたたんだらそこに入れていき、あとは、かごごと自分の部屋におけば完了です。

洗濯物をたたむ時間を、家族を思う時間に 

親が服をたたんでいる姿は、家族を大切に思っていることを感じさせる、幸せで温かな光景です。服を丁寧にたたんでいると自然とその服を身に着ける家族のことに思いが及びます。子どもと一緒に洗濯物をたたみ、ゆったりと家族を想う時間を過ごしてみてください。

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この記事を書いたのは…

原 哲也|言語聴覚士・社会福祉士
一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

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