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パパが子どもの障害を理解してくれない
「パパが子どもの障害を理解してくれない」
発達障害児パパの当事者団体「メインマン・プロジェクト」のリーダーである橋謙太さんは、講演会などで、ママたちからよくこんな相談を受けるそうです。
親と言っても1人の人間ですから、夫婦間で子どもの障害に対する受け止め方が違っても、致し方ないことかもしれません。
しかし、「子どもの障害を理解しない」という反応は、必ずしも性差や性格によるものなのでしょうか?
橋さんの著書『子どもが発達障害だとわかったときパパがやること全部』では、発達障害についての基礎知識を学びながら、「子どもが発達障害」という現実に直面した時、パパとママがそれぞれどのような気持ちになっていくのかを、わかりやすく説明してくれています。
子どもの発達障害に関する本は数多くあれど、橋さんの本ほど「パパの役割」にこだわり、コラムなどを通じてパパの心境を深堀している本はあまりないのではないでしょうか。
とはいえ、パパとママは、男性と女性であり、性別も性格も違うのだから役割が違う、というわけでは決してありません。
発達障害児の子育てに大切なのは、夫婦の悩みの温度差を埋めていくこと
著書の中で橋さんは
”夫婦の受け止め方の違いは、性格の違いだけでなく、子どもとの関わり方の違いによるところが大きい”
と述べています。
ママは、子どもが生まれる前から24時間一緒にいて、出産を経て、多くの場合は育児休業などを取得して子育ての大部分を担っていることが多いです。
そのため、子どもへの関心や関わりが大きくなるのは必然的なことかもしれません。
しかし、パパだって子育てにおいてできることはたくさんあるのです。
「子どものことはママの方がわかって当然」という思い込みは捨てて
「ママの方がわかって当然」と思うのではなく、性別に関係なく、自ら関心を持って子どもと深く関わっていくことで、もっと子どものことを理解していけるはずです。
さらに、橋さんはこうも書いています。
”子育ての関心度合いに差があると、当然、ママの悩みとパパの気持ちにも温度差が生まれてきます、温度差がある状態でパパがママに向けて「気にしすぎ、大丈夫」と行っても、ママは「何もわかっていない」としか受け取ってくれません。こういった夫婦の気持ちの温度差を埋めていくことは、ママのメンタルにとっても、これから夫婦で子どもを育てていく上でも、とても大切になってきます。”
パパとママの気持ちの温度差は、夫婦関係において深刻な問題です。
発達障害がある子どもを育てる家庭では、健常児を育てる家庭よりも離婚率が高いと言われていますから、放置していると深刻な事態を引き起こしかねません。
また、発達障害児の母親は、うつ病羅患率も高いと言われています。
私も障害がある息子を育てていますが、私のママ友でも、精神科にかかったことがある人は多く、その数は健常児の娘関係のママ友の比ではありません。
しかし、ママの精神的な不調は周囲のサポートで予防や改善ができると、橋さんは伝えています。
私も息子のことで悩んだことはたくさんありましたが、パートナーである夫のおかげで、何度も救われてきました。
ある時、私は夫に「障害児がいる家庭では離婚率が高いらしい」という話をしたことがあります。
すると、夫はきょとんとした顔で、「なんで?1人になったら余計に大変になっちゃうじゃん!」と言いました。
まさに夫が言う通り、障害児がいる家庭は「1人になったら余計に大変」なのです。
夫のように障害児育児の大変さを理解し、一緒に育てていこうという気持ちがあるパートナーがいると、ママはとても救われます。
パパが、育児における自分の立場の重さを自覚して活躍することで、夫婦はもっと良い関係性を作っていけるのではないでしょうか。
どうやって父親から「親」になる?
著書の中で橋さんは、次のようにも述べています。
”ママが「母親なのに上手に子育て(家事)ができない」と自責の念を感じることが減るように、パパが家事育児に主体的に関わることが欠かせません。ママが、バーンアウトする前にパパは「ママは”母親”である前に”ふたりいる親のひとり”である」ということを認識することが大切です。そしてパパが、もうひとりの親として一緒に子育てするという意識を持ち、家事育児の一翼を担うことが重要になります。”
橋さんは約20年前、長女が生まれてからパパとして子育てをしてきたそうですが、子育ての場にパパの姿がほとんど見えないことを疑問に感じていたそうです。
それから月日が経ち、今はそのころと比べたらパパの参加も増えてきたとは思いますが、まだまだパパは少数派。
たとえ育児に参加していても、主体的とは言い難い、受け身な立場でいる場合が多いのではないかと思います。
主体的な「親」になるためにパパにしてほしいこと
では、受け身な「父親」から、家事育児の一翼を担う主体的な「親」になるために、パパはどうしたらいいのでしょうか?
橋さんは著書の中で3つのアイデアを提案しています。
夫婦で世帯収入を稼ぐようなワークライフバランスを考える
1つは、夫婦のワークライフバランスを考えることです。
共働き家庭でも、結局は仕事はパパ中心に考えてしまいがちですが、その固定観念も取り外してみましょう。
もしもママが一生今の会社に勤めたいと思っていて、パパがいずれ転職したいと考えているのなら、まずはママのキャリア中心で考えてもいいのです。
ママ中心で考えることで、自然とパパの家事育児のボリュームを増やすことができます。パパもママも性別的な役割にとらわれず、個人収入ではなく世帯収入で考え、夫婦で世帯収入を稼ぐことができるようにしていってはいかがでしょうか。
家事育児の役割分担を明確に
2つ目は、家事育児の役割分担を明確にすることです。
著書の中で橋さんは、
”子育てで大切なのは、スペシャリストではなくジェネラリスト(いろいろな分野の知識やスキルをもつ人)になることです。”
と述べています。
子育て中は、幼稚園や保育園、学校、利用している施設などからの急な呼び出しやアクシデントがありますし、それらは発達障害児であればなおさら多いでしょう。
そんな時に、夫婦どちらも家事や育児のスキルを持っていて分担ができれば、より効率的に時間を使えます。
ただスキルを持っているだけではなく、それぞれが「主体性」を持って家事をやることも重要です。
例えば、何曜日の料理と洗濯の担当はパパ、何曜日はママ、という様に、役割を明確にするのです。
そうすることで、「時間があったら…」と思ってしまいがちなパパの家事への意識も主体化されるのではないでしょうか。
ママの悩みに「共感」する姿勢を
そして3つめのアイデアは、夫婦間でコミュニケーションをしっかりとることです。
毎日仕事に家事に育児にと、心の余裕がなくなってしまいがちかもしれませんが、そんな中でも夫婦間で良く会話をすることは大事です。
特に、パパがママと会話する時に重要なポイントは「共感」です。
ただ解決への道筋を提案するのではなく、ママの悩みをひたすら聞いて、共感すること。
提案はそれからです。
しっかり話を聞いて、共感してくれた相手の出す提案なら、ママも受け入れやすいのではないでしょうか。
いますぐできる、パパの子育てとは
夫婦2人で子育てをしていく、とは言っても、実際の育児の現場では、まだまだママが主体になっていることは多いです。
では、パパは具体的にどのようなことをしていったらいいのでしょうか。
著書の中で橋さんは、
•保育園、幼稚園、学校に行く習慣をつける
•保育参加、授業参観で子どもの特性を知る
•園や学校からの情報をキャッチする
•子どもととことん遊んで信頼関係を高める
•祖父母、地域の人との橋渡しをする
という5つのことを、「パパができる子育て」として提案しています。
これらのことは、仕事が忙しいパパにとっては難しく感じることもあるかもしれません。
世代によっては、男の自分が出ていくことが「恥ずかしい」と思う人もいるかもしれません。
しかし、パパのやる気次第では、決して不可能なことではないはずです。
パパが通園・通学の送迎を担うことで、育児の話のきっかけが増えた我が家
私の夫も、毎日深夜帰宅になるほどの激務ですが、橋さんが提案している5つの「パパができる子育て」、かなりやってくれています。
まず、わが家では、障害がある息子の毎朝の送迎は、パパの担当です。
子どもが息子と娘の2人いるので、私1人で障害がある息子と未就学児の娘とを連れて送迎しようとすると、歩くのだけで一苦労です。
そんな様子を察した夫が、出勤のために駅に行く途中で、息子をスクールバスのバス停まで送っていくことにしてくれました。
また、夏休みなどの長期休暇期間や休みの日などは、娘の保育園の送迎を買って出てくれます。
そのため、息子の学校関係の人にも、娘の保育園の先生にも、夫はよく顔を覚えられています。
息子と娘、それぞれの友人や上級生の顔も夫婦で知っていることが多いので、会話の種にもなりますし、自然と育児の話が共有できるのは嬉しいことです。
学校や園の行事にも、夫は積極的に参加してくれます。
先日も、夫は娘の保育参観に行ってきましたが、たくさんの娘のお友だちと遊んで楽しかったようで、帰ってきてから私に、「保育参観楽しかった!行かせてくれてありがとう!」と言っていました。
子どもの行事に参加することは義務ではなく、権利であり、楽しいことなのです。
お互いに「行きたい」という気持ちで参加することが、子どもたちにとっても良いことなのではないでしょうか。
そして、わが家の場合、娘もパパのことが大好きですが、息子が特にパパのことが大好きなのです。
自閉症と重度知的障害があり、発語もなくトイレの自立もできていない息子の育児は難易度が高いですし、健常児に比べたら、接し方に戸惑うことも多いはずです。
しかし、夫は同性の自分の方がトイレの介助は向いているはずだし、体力的にも自分の方が息子の問題行動を制御しやすいからと言い、おでかけの時には率先して息子のそばにぴったりとついてくれます。
こういう時間を何年も積み重ねた結果、息子にとって夫は、最も心を許せる存在になりました。
このような夫と息子の姿を見ていると、私は、子育てにおいて「ママじゃなきゃダメ」なことなんてほとんどないのではないかと思うようになったのです。
夫婦でチームになって子育ての壁を乗り越えていくために
子どもに発達障害があるとわかると、将来が限られてしまったような気がして、大きな不安にかられる人は多いでしょう。
しかし、実際は学齢期においても普通級、通級、支援級、支援学校といくつもの選択肢がありますし、卒業後も、進級、就労、就労訓練など、さまざまな選択肢があるのです。
子どもに障害があっても、そんなに悲観することはありません。
良い結果にはならなかったけれど、パパの行動に救われた私
大事なのは、夫婦でチームになって一緒に子育てし、壁を乗り越えていくことです。
私の息子に発達の遅れが見られ始めた頃、私は不安でいっぱいで、毎夜検索を繰り返し、泣き暮らしていました。
当時、住んでいた地域は福祉にあまり手厚くなく、息子のことを相談してもいくつもの施設をたらいまわしにされており、どこにも居場所がないように感じた私は途方に暮れていました。
しかし、ある時夫が、自分で地域の発達支援施設を調べ、「ここに行ってみよう」と私に提案し、自ら面談の予約をしてくれたのです。
その施設に行ってみると、当たり障りのないことを言われただけで、結局たいした情報は得られませんでしたが、帰り道で夫は肩を落として私に言ったのです。
「ここなら良い案が得られるかと思って来てみたけど、結局ママが調べた以上の情報は出てこなかったね、役に立たなくてごめん。」
でも、決してそんなことはなかったのです。
私は、情報が得られなくても療育につながることができなくても、夫が自ら動いて、探して、自分事として息子のことを解決しようとしてくれたことが嬉しかった。
結果ではなく、その行動に大きな価値があったのです。
この時、私は夫となら障害がある息子も育てていけると思いましたし、夫は素晴らしいパパであると確信しました。
すべての子育てに通じる「主体的な子育てのすすめ」
ここまで、発達障害がある子どもの子育てにおけるパパの役割について書いてきましたが、子育てにおいてパパの役割が大事であることは、障害の有無に関わらず、すべての子どもにとって変わりありません。
橋さんの著書は、「発達障害」という言葉が入っていることから障害児育児のための本かと思われがちですが、障害がない子どもを育てるパパたちにも、ぜひ読んでもらいたい一冊です。
そして、本を読んだパパたちには、是非、「二人いる親のひとり」として主体的に子育てをして、パートナーと子どもからの信頼を勝ち得ていってほしいと思います。
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