「教員不足」の実情とは。もっとも不足しているのは○○県。原因やデメリット、その改善策について解説

公立学校では、教員不足が進んでいるといわれています。なぜ教員不足が起こっているのでしょうか? その原因や、教員が不足することによるデメリットを解説します。生徒や保護者に不利益がないよう、改善策も行われているため、主な取り組み内容も確認しましょう。

教員不足の状況

最近、教員が不足しているというニュースを見たことがある人もいるかもしれません。公立学校の教員不足は、現在どのような状況なのでしょうか?  データから状況を見ていきましょう。

小学校から高等学校まで教員が不足

文部科学省の「『教師不足』に関する実態調査」(2021年調査)によると、公立の小学校・中学校・高等学校いずれも、教員が不足しています。

不足している割合は、高等学校が0.1%、小学校は0.26%、中学校は0.33%です。高等学校の不足率は低く抑えられていますが、それ以外は高い割合が続いています。

小学校の例では、979人の教員が足りず、794校に不足が出ている状態です。

文部科学省の定義による教員不足は、学校に配置されている教員の数が定められた人数より少なく、臨時講師の確保ができずに欠員が出ている状態を指します。

解消の取り組み後も悪化が続く自治体も

文部科学省は2021年から2023年にかけて、教員不足の状態について前年との比較を各自治体に確認しています。

解消に向けての取り組みをしているものの、2023年時点でも「悪化」と回答している自治体があり、完全に解決はしていません。

2021年には、自治体ごとの不足率も公表されています。例として、小学校の教員不足が目立つ自治体を見てみましょう。

島根県の不足率は1.46%です。そのほか、熊本県0.88%、福島県0.85%、鳥取県0.81%などが挙げられます。教員が足りている自治体もあり、教員不足の程度は自治体によって違いがあるといえそうです。

出典:教師不足に関する実態調査|文部科学省

なぜ教員不足が起きているのか

教員不足は、なぜ起きているのでしょうか?  学校に通う児童生徒や、教員として働く学校の先生にも大きな影響があります。原因と考えられる理由を確認しましょう。

退職者の増加と志望者の減少

1970年代に第2次ベビーブームが到来し、学校に通う子どもが増えることを見越して教員が大量に採用されました。

しかし、ベビーブーム以降に採用された教員は定年で退職を迎え、急激に教員の数が減っています。

さらに、教員を志望する若い世代の数が減少し、採用辞退者も増えているために教員不足に拍車がかかっているのが現状です。

人材を確保しようと、教員採用試験の日程を前倒しにするなどの対策が取られていますが、受験者数はさらに減少しています。

休暇取得による人員不足

産休・育休・病気休暇など、休暇取得が増加していることも、教員不足の原因です。

産休・育休の増加は、ベビーブーム頃に採用された教員と入れ替わりに就職した若い世代が、子どもを育てる年齢に差し掛かったことも要因といえます。

また、最近では男性育休の取得も増えており、以前に比べると育休に関する人員不足増加が進行している傾向です。

そのほか、身体的な病気・けが以外に、精神的な病気によって休暇を取る教員も増加しています。

臨時講師の数が減っている

志望者の減少や休暇取得者の増加に加えて、臨時講師の数が減っている点も、教員不足に影響を与えています。

欠員や長期休暇時の補充として、臨時講師は重要な役割を果たしていますが、なぜ臨時講師の数が減っているのでしょうか?

教員の志望者が多い場合、教員採用試験に不合格となった候補者が、講師として登録されます。講師として登録されている人は、欠員が出たときに学校側から打診があり、臨時的任用教職員または非常勤講師として働くことが可能です。しかし、志望者が減少しているため、講師の数自体が減っています。

また、教員採用試験に不合格となったとしても、臨時講師から正規の教員を目指す道を選ばず、別のキャリアに進む人もいます。講師として登録している人に打診をしても、辞退するケースも増えているのです。

出典:【資料2-1】教師不足の解消に向けた各教育委員会における取組事例|文部科学省

教員志望の若者が減少している要因

教員を志望する若者の減少には、いくつかの理由があるといわれています。なぜ、若者が教員を目指さなくなったのか、原因を探ってみましょう。

長時間労働になりやすい環境

教員には、授業以外にもさまざまな仕事があります。特に、課外活動の指導を担う教員は、早朝や放課後に対応が必要です。

生徒が長期休暇中であっても、部活などの課外活動は通常通り行われるケースもあります。部活の内容によっては休みが取りづらくなるでしょう。

また、勤務時間外に保護者や生徒の対応をしなければならないケースもあります。さまざまな人とコミュニケーションを取らなければならないため、長時間労働につながりやすい環境です。

出典:1日あたりの勤務時間数は減少するも、平均在校時間は依然として10時間以上(教員の勤務実態:ビジネス・レーバー・トレンド 2023年8・9月号)|労働政策研究・研修機構(JILPT)

残業代が発生しない

公立学校の教員は「教員給与特別措置法」に基づいて、残業代の支払いが発生しないこととなっています。残業代の代わりに、一定額の教職調整額は支払われますが、残業の有無にかかわらず支払われるため、長時間労働のモチベーションにはつながりにくい状況です。

民間の仕事に就いていれば、残業代の支払いは法律で定められています。長時間労働による対価を求める人は、民間で働こうと考えるかもしれません。

今後、教職調整額を廃止し、公立学校の教員に残業代を支払おうという案も出ています。しかし、長時間労働が続けば、残業代が出たとしても気持ちを維持できなくなってしまうリスクは残るでしょう。

出典:公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法第3条| e-Gov 法令検索

人間関係が複雑になりやすい

学校の教員には、コミュニケーションを取らなければならない相手がたくさんいます。

同僚・上司が多い点も特徴です。担任になった場合、違うクラスの担任と連携を取ることもあるでしょう。

また、教科ごとに専門の教員がいる場合は、生徒・保護者の情報について共有する必要も出てきます。同僚だけでなく、上司とのやりとりもあり、人間関係は複雑です。

さらに、生徒の人数も多く、生徒の保護者とも人間関係を構築することになります。多くの人とコミュニケーションを取ることが苦手な人は、志望自体を諦めてしまうこともあるかもしれません。

出典:教職員のためのコミュニケーションガイドブック|東京都教育委員会ホームページ

教員不足が続く場合に起きるデメリット

教員不足が続くと、現場に問題が出てきます。配属されている教員や生徒には、どのような影響が現れるのでしょうか?  主なデメリットと、なぜその問題が起きるのか、解説します。

配属されている教員の負担が増える

教員不足が続くと、まず配属されている教員の負担が増えます。たとえ教員の数が足りないとしても、学校では毎日授業が行われ、生徒も登校してくるためです。

足りない部分は、今いる人員で補わなければなりません。急な休みや、離職による欠員がある場合、他の教員に仕事が割り振られます。

一時的な休暇であれば、休み明けにできる仕事もありますが、当日に必ず終わらせなければならない仕事もあるでしょう。数日程度の休暇ではなく、長期休暇や離職の場合、他の教員の負担が増え、さらなる離職につながってしまう可能性もあります。

教員と生徒のコミュニケーションが減る

教員の欠員によって、それぞれの仕事が増えると、生徒とのコミュニケーションが減る可能性があります。担任や教科担当の教員が多忙で、質問・相談を受け付けている時間が取れなくなるかもしれません。

教員自体に「質問や相談を受け付けよう」という意識があっても、生徒が多忙なことに気付いて遠慮してしまうと、自然とコミュニケーションは減っていきます。

コミュニケーションが減ることで、生徒に起きている問題に気付きにくくなるリスクや、生活指導の機会を逃す恐れも考えられるでしょう。

担任不在のクラスが発生する

教員不足が深刻になると、担任不在のクラスが発生する可能性があります。担任が長期休暇や離職でいなくなってしまい、代わりに担任として着任できる教員もいないケースです。

完全に担任が不在ということは問題があるため、他のクラスの担任が兼務することや、教頭・校長が臨時で対応することは考えられます。

しかし、そのクラスのことを深く知っている担任がいない状況は、生徒に不利益を与えることにつながるでしょう。代理や兼任で担任の代わりとなる教員がいても、多忙で生徒や保護者と連携が取りにくくなります。

教員不足改善のための取り組み

教員不足を解消するため、国や自治体はさまざまな取り組みを行っています。今後、取り組みによって教員不足が改善してくる自治体も増えてくる可能性もあります。主な取り組みの内容を確認しましょう。

労働環境の改善を進める

長時間労働や労働環境の問題によって教員にストレスがかからないよう、学校教員の働き方改革が進んでいます。システム化によって、校務の負担を減らそうとするDX推進も改革の一部です。

負担を減らすため、スクールカウンセラーや部活動指導員の数を増やすなど、人員の増加によるサポート体制も整えられています。

そのほか、地域住民や、保護者との連携で、教員の業務負担を少なくしようとする動きもあります。

出典:教師を取り巻く環境整備総合推進パッケージ|文部科学省

大学や人材バンクとの連携

新卒で教員を目指す人材や、臨時職員を確保するため、大学や人材バンクとの連携も行われています。

大学との連携では、「地域教員希望枠」を生かした取り組みが中心です。地域教員希望枠の導入により、プログラムを修了した学生は、特別選考で受験が可能になります。

採用倍率とは関係ない特別選考の場合、自分が働きたい地域での勤務がしやすくなり、学生にとってもメリットの大きい取り組みです。

そのほか、「学校・子供応援サポーター人材バンク」の活用で、臨時職員の確保をしやすくなるシステムを取り入れている自治体もあります。

出典:【資料2-1】教師不足の解消に向けた各教育委員会における取組事例|文部科学省
教師不足に関する実態調査|文部科学省

自治体による独自の取り組みも

自治体によって、独自の取り組みを行っているところもあります。

例えば、大阪府や神戸市では、学校で勤務する前にスタートプログラムを実施しています。働く前に知識や技能を学べれば、働き始めてからの戸惑いも少なくなるでしょう。

千葉県では、民間企業にプロモーションを業務委託し、教員志望者を増やそうとする試みも行われています。北海道や長崎県では、人材をスムーズに確保するため、マッチングシステムの活用も進んでおり、今後も独自の取り組みは増えていきそうです。

出典:【資料2-1】教師不足の解消に向けた各教育委員会における取組事例|文部科学省

教員不足改善の取り組みも進んでいる

公立学校の教員不足は、話題になることが多い社会問題です。教員を志望する若手も減少しており、今後はさらに人材確保が難しくなる可能性もあります。

生徒や保護者にとっては、教員不足によって学校で問題が起こるのではないかと、気になるところでしょう。

しかし、教員不足を改善するための取り組みも行われており、今後は労働環境の改善や人材の確保など、さまざまな改善策が検討されています。教師不足が改善するかどうかは、今後も注目が必要です。

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構成・文/HugKum編集部

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