「ラーケーション」とはどんな制度? 学びと休暇を両立させる目的やルール、導入した自治体を紹介【最新教育事情を知る】

全国の一部の自治体では、学びと休暇を融合させた「ラーケーション」が始まっているのをご存じでしょうか? 事前に申請すれば、児童・生徒は保護者の休暇に合わせて学校を休めます。実際の導入事例を挙げ、ラーケーションのメリットやルールを解説します。

全国で注目が集まるラーケーションとは?

近年、全国で「ラーケーション」が注目されています。一部の自治体が導入する自主学習活動の一種で、平日に学校を休んでも欠席扱いにならないのが特徴です。ラーケーションが生まれた背景や目的を見ていきましょう。

家庭での体験活動を支援する制度

ラーケーションは、「learning(学ぶ)」と「vacation(休暇)」を掛け合わせた言葉です。家庭での体験活動を支援する制度で、一部の学校で導入が始まっています。

具体的には、児童・生徒が平日に学校を休み、保護者などと一緒に体験活動で学びを深めます。通常、学校を休めば欠席扱いですが、事前に申請すれば、欠席扱いと見なされません。

以下は、ラーケーションを導入している、または導入予定の自治体の一例です(2024年5月時点)。なお、自治体が導入を決定していても、自治体内全ての学校で一律に実施されているわけではありません。

●愛知県
●大分県別府市
●茨城県
●沖縄県座間味村
●栃木県日光市
●山口県

ラーケーションが導入された理由

ラーケーションが導入された理由の一つに、子どもと保護者の交流を増やすことが挙げられます。保護者が土日に働いている家庭では、家族が一緒に過ごす時間が少ないのが現実です。

平日休みが欠席扱いにならないラーケーションを導入すれば、子どもが保護者の休みに合わせて学校を休めるため、家族一緒にさまざまな活動ができます。

ラーケーションを最初に始めたのは愛知県で、県が主導する「休み方改革」の一環として導入されました。休み方改革とは、休暇分散化や有給休暇の取得促進などを通じ、家族で一緒に過ごせる時間を増やすプロジェクトです。

自治体ごとのルールをチェック

ラーケーションは国の制度ではなく、自治体が独自に制定するものです。そのため、制度の名称や目的、ルールは各自治体によって異なります。

一例として、ラーケーションを既に導入している「愛知県」「大分県別府市」「茨城県」のルールを取り上げます。

愛知県の場合

愛知県は、2023年9月に「ラーケーションの日」を導入しました。保護者との校外活動を通じ、子どもが自ら考え・学び・実行することができる日と定義されています。

基本的に「学びの要素」があれば、行き先や過ごし方は問われません。以下は、校外活動の一例です。

●地域の史跡巡り
●庭や公園での自然観察
●畑での収穫体験

ラーケーションが取れるのは「年に3日以内」で、保護者などと一緒に行動することが条件です。欠席扱いにはなりませんが、事前に学校へ届け出る必要があります。

出典:愛知発の新しい学び方「ラーケーションの日」ポータルサイト – 愛知県

大分県別府市の場合

大分県別府市では、2023年9月に「たびスタ」休暇をスタートしました。たびスタとは、「旅」と「学習(study)」を組み合わせたものです。

愛知県が実施するラーケーションは、校外での活動全般が対象ですが、「たびスタ」休暇は、旅を通じて学びや経験を得る「旅育(たびいく)」に重きが置かれています。また、平日の家族旅行を推進し、観光需要を平日や閑散期にシフトする狙いもあります。

取得できる日数は「年度内に4日以内」で、保護者などと旅行する場合が対象です。欠席扱いにならないためには、活動の目的を記載した休暇申請書を事前に学校へ提出する必要があります。

出典:「たびスタ」休暇|別府市

茨城県の場合

茨城県では、2024年4月よりラーケーションを実施しています。導入している自治体は、県の9割に上っており、県立は全ての学校が導入対象です。

生徒・児童は、活動内容の計画を立て、活動後には振り返りをする必要があります。取得できる日数は「年5日以内」で、保護者などが1週間前までに学校に申請するのが原則です。

愛知県の場合は、保護者などの休日に合わせてラーケーションを取得する必要がありますが、茨城県では「県立学校」に限り、必ずしも保護者と一緒に活動しなくてもよいルールを設けています。

出典:ラーケーションの実施について

ラーケーションの気になる疑問

全国でラーケーションを導入している学校は少ないため、導入後のイメージがあまりわかない人も多いでしょう。「本当にメリットばかりなの?」と疑問に思う人もいるはずです。ラーケーションの気になる疑問をまとめました。

ラーケーションにデメリットはないの?

事前に申請すれば欠席扱いにはなりませんが、休んだ分だけ学習が遅れる可能性があります。他の生徒に追いつくためには、家庭での自習が必要です。

また、家庭の事情によってラーケーションを取得できる子とできない子がおり、全ての児童・生徒がラーケーションのメリットを享受できるわけではありません。

ラーケーションの導入に伴い、教職員の業務量が増えることも予想されます。学校側は、事務作業を補助する人員を新たに配置するなどして、教職員のサポート体制を強化する必要があります。

学校行事に児童・生徒がそろわないのでは?

運動会や文化祭などの学校行事は、仲間との思い出づくりの場です。ラーケーションの導入後、学校行事の日に児童・生徒がそろわなくなることを心配する人も多いでしょう。

例えば、「たびスタ」休暇を導入した大分県別府市では、式典・行事・宿泊学習・定期試験・職場体験学習の日には、休みを取得できないとしています。

学校ごとに「ラーケーションを取得できない日」を設けるため、学校行事に児童・生徒がそろわないケースは少ないと考えられます。

ラーケーションの試みは始まったばかり

全国の学校でラーケーションが導入されれば、これまでよりも親子で過ごす時間を増やしやすくなります。普段とは違う校外での体験学習を通じ、子どもはたくさんの学びを得られるでしょう。

平日や閑散期にも観光需要が発生するため、地域の観光業にとってもプラスになります。ラーケーションの試みはまだ始まったばかりで、導入している自治体・学校はごく一部です。メリットや効果が実証されていけば、取り組みは全国に広がる可能性があります。

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構成・文/HugKum編集部

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