子どもの偏食は「単なる好き嫌い」や「育ち」が原因ではない。発達障害との関係は?4つの偏食タイプと支援方法を専門家が解説

管理栄養士の藤井葉子先生は、子どもの偏食に悩む親御さんたちに寄り添いながら、食事対応などの相談に日々応えていらっしゃいます。20年以上の間、偏食がある子どもを支援する藤井先生によると、偏食にはその子どもならではの理由があるのだとか。
今回は藤井先生に、偏食が起きる理由やその改善方法について、くわしくうかがいました。
「うちの子も偏食かも」と悩む親御さんに、ぜひ読んでほしいお話です。

偏食とは?

偏食は、食べ物の好き嫌いと混同して考えられていることもありますが、普通の好き嫌いとは一線を画するものです。

特定の食品しか食べないなど、食べられるものがごく少ない状態のお子さんもいますし、その結果、心身に悪影響を及ぼしてしまうこともあります。

また、自然に改善されていくことも難しく、その子の状態や偏食の原因に沿った、適切な対応が必要です。

偏食になる理由はどんなものがある?

では、どうして偏食になってしまうのでしょうか。

偏食になってしまう理由は、大きく分けて4つあります。

口腔機能の問題

一つは、口腔機能が未発達であるために、上手に食べることが難しいという理由です。

食べ物を噛む咀嚼の動きや、舌を使った食べ物の送り込みや嚥下など、いずれかに課題があると、うまく食べられず、離乳食あたりから食への拒否感が出てしまうことがあります。

最近はベビーフードが豊富に出回っていますから、乳幼児期にベビーフードで同じようなものばかりを食べていて、その結果、口腔機能の発達が育たない場合もあります。

また、マグなどの便利な育児グッズによって、口周りの運動機能が未発達になってしまうこともあり、昔に比べてこのような原因で食べられるものが限られてしまうお子さんが増えている印象です。

うまく食べられない経験を重ねてしまうと、食事に嫌なイメージがついてしまい、より偏食が強くなってしまうこともあります。

感覚の問題

特に発達障害があるお子さんに多いですが、特定の感覚に強いこだわりがあったり、過敏や鈍麻があったりと、何かしらの感覚における特性があるお子さんがいます。

一言で感覚といっても、濡れたものが苦手、カリカリしたものしか食べないといった触覚や固有感覚の特性があるお子さん。

または、見た目のわかりにくさで拒否してしまうといった視覚的な特性があるお子さんなど、さまざまなケースがあります。

発達のバラつきによるもの

幼い子どもは発達状態にバラつきがありますから、運動機能の発達のほか、言葉の指示が通じるか、集中して座っていられるかなど、発達状態のバラつきによって、食事が進まないこともあります

認知機能の発達がゆっくりだと、同じ食材でも見た目が違うと別物として認識してしまって食べないこともありますし、発達状態に応じた支援が必要になります。

栄養状態によるもの

栄養の必要量には個人差がありますから、そもそも小食であり、そんなにたくさんのエネルギー量を必要としていないからあまり食べないというお子さんもいます

親御さんたちの相談にのっていると、摂取エネルギー量は低いんだけれど、栄養計算をするときちんと食べている、体格には問題のないお子さんもいるのです。

そういうお子さんの場合は、必要エネルギー量が少ないにも関わらず、おやつなどの間食でおなかいっぱいになってしまい、その結果、食事が進まないということもあります。

特に知的発達の遅れがある方、筋肉がつきづらい体質の方は、必要なエネルギー量が少ないことがあるので注意が必要です。

発達障害の場合

発達障害があるお子さんは、先述した偏食の理由の多くにあてはまりやすいです。

運動発達の遅れから口腔機能の発達に遅れが見られることもありますし、感覚の問題も生じやすいです。

また、発達のバラつきによる遅れも生じやすく、栄養の必要量が少ないことから栄養状態による理由にもつながりやすくなります。

しかし、だからといって偏食=発達障害というわけではありません

発達障害ではなくても、あまりいろいろな食材を食べたことがないという経験不足から偏食になる健常のお子さんもいますし、偏食だからといって発達障害があると決めつける必要はありません。

最近は私のところにも、保育園などに通っている健常のお子さんでもあまり噛めなくて、現場で困っているという研修依頼が増えています。

発達障害があるお子さんもそうではないお子さんも、偏食の理由はそれぞれですから、「原因に沿って対応する」という意味で直し方は同じです。

ただ、発達障害があるお子さんですと、言葉の意味など認知力の差や、こだわりがあることがあるので、健常のお子さんよりは丁寧に対応していく必要があります。

自閉症などの発達障害があるお子さんの偏食では、なかなか文字や言葉での理解が難しいこともありますから、口腔感覚や食べ方の特性にあわせた食事を用意することもあります。

このような、口腔感覚や食べ方の特性にあわせた食事を「口腔感覚対応食」といいますが、口腔感覚対応食は発達障害があるお子さんに限らず、偏食に悩むすべてのお子さんに効果的な食事です。

ほかにも、多く食べすぎるときを作らず、食事時間にはお腹がすくような生活にしたり、苦手なものを食べたらおやつ以外の好きなおかずをおかわりであげてごほうびにしたりと、さまざまな工夫をして対応していきます。

どのように支援したら良いか~偏食対応4つの柱~

子どもの偏食への対応方法には、大きく4つの柱があります。食べられるものを増やすための偏食対応4つの柱について、知っておいていただきたいと思います。

情報収集

偏食対応においては、まずは情報収集し、子どもの状態をしっかりと把握することが大切です。

家庭での食事や生活、また園などでの食事や生活の双方の状況を把握しましょう意外と家庭と外でギャップがあることもありますし、食事をとらない原因となる行動が見つかるかもしれません。

親御さんは食事面だけに注目してしまいがちですが、食事面に限らず、生活全般で原因をチェックすることが大事です。

また、子どもの「好き」を知り、最大限活用することも偏食対応においては大切です。

偏食がある子にも何かしら「好き」な食べ物がありますから、その「好き」は味なのか見た目なのか食べやすさなのか、理由を探っていってください。

その結果、食べられるもののパターンがわかり、偏食対応を進めるうえでのヒントになるかもしれません。

栄養管理

実際の偏食対応では、食事量のコントロールを行うこともあるため、食べ過ぎや食べなさすぎを防ぎ、子どもの健康状態を保つためにも栄養管理は必要です。

お子さんによっては、好きなものを食べ過ぎて他の食材を食べなくなっていることもあります。

その場合は現在食べているものの量を減らして余白を作り、食べるものの種類を増やしていくと偏食の改善に向かっていくかもしれません。

また、「偏食であまり食べない」というお子さんの場合、体に必要な栄養やエネルギー量は足りているのか不安になる親御さんもいると思います。

しかし、必要な栄養やエネルギー量には個人差があります。平均や他のお子さんと比べるのではなく、本人の身長と体重の成長曲線を基準に、栄養をとりすぎていたりとらなすぎていたりしないか考えるようにしてください

そしてあまり食べないお子さんでも、好きな食材だけでもいいからとにかくたくさん食べさせるというよりは、いかにバランスよく栄養をとっているかを重視した方がいいでしょう。

食事の支援

子どもは、噛む練習をしていかなければ、いつのまにか勝手に噛めるようにはなりません。

口腔機能の発達に遅れが見られる場合は、食材をガーゼで包んで噛みやすくしたガーゼ食や、食材を揚げて作るカリカリ食などを用意して、咀嚼の練習をしていくといいと思います。

親御さんが一人で悩んでいても解決が難しいこともありますから、ぜひ早めに摂食専門の歯科医や言語聴覚士などの専門家に相談してください。

お子さんが小さいうちに咀嚼の練習などに動いていくことで、窒息などの危険も減らせます。

「危ないから食べさせない」のではなく、いろいろな食材を噛む経験をさせて、噛むことができるようにさせていきましょう。

家庭との連携

幼稚園や保育園、学校などと家庭との連携は、偏食対応において欠かせません。

家と外で何を食べているかなど、普段から情報交換を密にして困ったときに相談できるような関係づくりをしていってください。

家庭では同じものばかり食べてしまいがちですが、そのままでは食事に偏りが出てしまいます。

家庭で多く与えすぎている食べものは減らしていくなどして協力し、園や学校でも食事が進むようにすると良いと思います。

園や学校によっては、偏食対応に前向きに取り組んでもらえないこともあるかもしれません。

そういう時は、医師の診断を受けてその文書を示したり、特性のために援助が必要だとかけあって、家庭と外とで連携して子どもの偏食に取り組めるようにすると良いと思います。

印象的だった事例…ごはんにきなこをかけて食べるお子さん

さまざまな偏食があるお子さんを見てきた中で、私にとってとても印象的だった事例があります。

そのお子さんは、ごはんを食べるときに、きなこをかけて食べていました。

どうしてきなこをかけないとごはんを食べられないのか不思議でしたが、ご家庭での生活の様子を聞くと、理由が見えてきたのです。

そのお子さんは、家で甘いパンをたくさん食べていました。甘いパンなら食べられたように、ごはんも甘くすることで、食べられていたのです。

それからは、家で甘いパンを食べる量を減らしていってもらいました。

すると、そのお子さんは徐々に別の食べものを食べるようになっていったのです。

この経験は、食べすぎていた食材を減らすと、食べなかった食材に入れ替わっていくということを私に教えてくれました。

そして、偏食の対応において、家庭での食事を修正することの大切さを実感させる、良い経験にもなりました。

園や学校だけでも、家庭だけでもだめなのです。子どもの偏食は、家庭と外とが連携しあって協力しながら進めていかなければなりません

単なる「好き嫌い」ではない、偏食がある子を育てる親御さんへ

お子さんの偏食で悩む親御さんの中には、「偏食は育て方が原因」などと言われて傷ついた経験がある方もいるかもしれません。

しかし、私は必ずしもそうとは思いません。もちろん、環境を整えることは大事ですが、偏食は育ちというよりは、持って生まれた特性が大いに関係していると思うのです。

とはいえ、持って生まれたものだからといって何もできないわけではありません。食べるものの幅が狭いと、こだわりがひどくなりがちです。そのままこだわりにあわせていると、むら食いがひどくなり、偏食がもっとひどくなってしまうこともあります。

しかし逆に食事が整うと、生活リズムが整い、精神的にも安定していきます。ですから、お子さんの生活面や精神的な発達のためにも、食べられるものを広げていった方が後々いいのです。

ただ、もしお子さんの偏食に悩んでも、親御さんだけで抱えて悩まないでください。

偏食は、単なる「好き嫌い」とは違いますから、偏食で悩む保護者の団体もありますし、専門家もいます。同じ悩みを抱える人や、専門の人にどんどん相談して、子どもの偏食に向き合っていってください。

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記事監修

管理栄養士:藤井葉子
管理栄養士 藤井葉子

小児、発達障害児者、高齢者の栄養・摂食相談、調理方法などのアドバイスを行っている。障がいのある子どもたちの偏食、拒食、肥満の食事対応や相談の実績が多数。著書に「発達障害児偏食改善マニュアル」(中央法規出版)、「偏食の教科書」(青春出版)の監修も実施。

藤井先生への偏食相談は>>こちらから

取材・文/佐藤麻貴

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