バスケットボール・佐藤卓磨選手が絵本『ぼくはキリン』を出版! コンプレックスを強みに変える一歩を踏み出して

名古屋ダイヤモンドドルフィンズで活躍する佐藤卓磨選手は、コロナ禍のとき、『ぼくはキリン』という絵本を制作しました。自己肯定感の低いキリンが、バスケットボールに出会って自分の強みを見出していくお話は、子ども時代の自分と通じるものがあるといいます。
でも本当の強みは、バスケットの上達ということだけでなく、仲間の成功を喜び、仲間との潤滑油になれることという佐藤選手。プロ選手をしながら、社会貢献活動を続ける中で、絵本を通してどんなことを伝えたかったのでしょうか。

自己肯定感の低いキリンくん。幼少期の自分と重なる部分も

――絵本を制作しようと思ったきっかけは何ですか?

千葉ジェッツというチームに在籍していたときコロナが流行して、社会貢献のプロジェクト「シュガプロ」を立ち上げたのがきっかけです。対面で人と交流することが制限されていた時期なので、間接的にでも何かできることがはないか考えたとき、絵本が浮かんだんです。

僕自身、子どもの頃から本の世界に浸るのが好きでした。勉強はしなかったけれど、授業中、教科書の裏にずっと本を隠して読んでいたタイプです。本を読むことでいろいろな体験ができるのは、人間だからこそと思うんですよ。特に絵本は、誰にとっても小さい頃から身近なものです親がいてもいなくても、どこかの児童施設に行けば必ず絵本がありますよね。多くの子どもたちに、本と出会うきっかけをつくりたいと思いました。

――佐藤選手が今回作った絵本は、自己肯定感の低いキリンが、好きなものを見つけて成長していく物語ですね。ご自身の経験から作られたのですか?

そうですね、主人公のキリンは若干、幼少期の僕と重なるものがあります。子どもの頃から平均より10センチぐらい背が高くて、なんで自分だけこんなでかいんだろうって漠然と思ってましたし、嫌だなとは感じていました。でも何か得意なフィールドがあるんじゃないかと、サッカー、野球、バレーボールと、手あたり次第いろんなスポーツをやりました。僕、何かで1番になりたかったんです。でも何をやっても、確実に自分よりうまい子がいるんですよね。これもダメ、これも無理と感じる中で、バスケットが自分を救ってくれました

『ぼくはキリン』(303BOOKS)より

子どもに対して、 悪いところばっかり見るんじゃなくて、その子どもなりの強みを探してほしいと思っています。僕はバスケットと出会って、得意なことを極めていくことが、何より楽しかったです。自分のダメなところも、俯瞰してみたら強みにできるかもしれないっていうのを、この絵本で伝えられたらと思います。

友達の活躍、人の成功や幸せを喜べるように

 ――絵本の中で、一番好きな所はどこですか?

 やっぱり最後のシーンですね。キリンがバスケットをしていく中で、自分の活躍だけじゃなくて、友達の活躍を喜びはじめたところです。チンパンジーくんがダンクシュート決めたときすごく喜んでいて、人の幸せを喜べるフェーズまでいけたんだなって思いました。自己肯定感ってそういうところに表れると僕は思ってるので、ここで自分の良さや強みを見つけられたんだなって感じてもらえたら嬉しいです。

『ぼくはキリン』(303BOOKS)より

僕も中学校のとき、先生に「お前は確かにバスケットがうまいかもしれないけど、人の成功を喜べなかったり、失敗に対して頭を下げられない奴は、将来絶対苦労するぞ」って言われて、めちゃくちゃ泣いたんです。そのときから、僕にとってバスケットは共同作業のイメージがあって、人がシュートを決めたとき、自分が決めるときよりガッツポーズしちゃうようにもなりました。

僕は英語がある程度わかるので、外国籍の選手もいるチームの中で潤滑油になる傾向があり、そういうのは自分の強みでもあると思っています。味方がプレーしやすいようにアシストしたり、シュートを決められるようチームプレーをする、僕は今でもそこにプライドを持ってやっているつもりです。

クラウドファンディングで絵本を作成。子どもたちは「生きてるだけでえらい」

――絵本はどんなふうに作っていったのですか?

当時在籍していた千葉ジェッツが全面的に応援してくれていて、担当したスタッフが出版社の303BOOKSを探してきてくれました。出版社の常松社長に自分の思いを伝えたら、絵本作家のカワダクニコさんを紹介してくれて、思いを形にしてくれました。費用はクラウドファンディングでやろうということになり、地域の皆さんだけでなく、全国からたくさんの協力を申し出ていただきました。皆さんの力がなかったら、絵本はできなかったなと思います。だから「絵本作家・佐藤」みたいに言われると、居心地が悪いんですよ。みんなの力で作ったという思いが強いです

僕は本当にただバスケットが好きで、チームを応援してくださっている方から日々力をもらっています。現役のうちにそういった方々に恩返ししたい、次の世代の子どもたちに生きる力を届けたいと思いました。できあがった絵本は、幼稚園・保育所・児童養護施設など、千葉ジェッツの地域のほぼ全ての児童施設に無料配布しました。

名古屋ダイヤモンドドルフィンズに移籍後は、名古屋市さんや協賛企業様にご協力いただき、名古屋市内の幼稚園や保育所、児童養護施設など約1,000冊をお届けしました。もともとドルフィンズはすごく社会貢献活動に力を入れているクラブなんです。ジェッツ時代に作った本を 移籍後のチームでもバックアップしてくれて、今回市販までされたことは嬉しかったです。Bリーグのチームはどこも地域をとても大切にしていて、社員の人たちもこの活動を自発的に応援してくれました。地域の子どもたちに読んでもらうことは、むしろ自分に喜びとして返ってくることが多い活動だったと思います。

児童施設で読み聞かせをする佐藤選手

この絵本は、自己肯定感を上げることがテーマになっていて、子どもたちが将来の選択肢を広げるきっかけになったらと思っています。ただ究極には「生まれてきて生きてるだけでえらい」と思ってるんです。チーム本拠地の名古屋で前市長の河村たかしさんのお話を聞く機会があって、いま中高生の自殺率が高いのだと聞きました。受験で疲弊したり、親の期待に応えられなかったときに死を選ばないよう、少しでも選択肢を多く持ってほしい。「シュガプロ」で、これからもどうにかして形にして伝えていきたいことのひとつです。だいぶ構想でかいんですけどね、徐々に種まきをしている状況です。

中学受験の勉強中、本の楽しさに目覚める

――今回の「シュガプロ」では本の制作をされましたが、本はどんなところが魅力だと思いますか?

中学受験のとき、文章題が得意になるためという名目で本をいっぱい読むように言われたのですが、勉強よりも本のほうが楽しいじゃんって気づいてしまって、勉強そっちのけで本を読んでいました。小説はよく読んでいましたし、いまは自己啓発系を読むことが多いです。いろいろな人生経験をしている人の本は好きですね。辛い時の乗り越え方など、参考にしています。

試合の前後って、アドレナリンがすごく出て、試合が終わっても試合のこと考えたりして、こう、頭がいっぱいいっぱいになっちゃうんです。でも本を読むとすっと考えが抜けてくれるので、いいストレス解消というか、切り替えにもなっています。いろんな本を読むと、言葉の表現力が高くなったり、人と違う感性が芽生えたりして、自分の引き出しが多くなる感じがあります

トップ選手でも、けっこう本読んでる人多いですよ。外国人もよく読んでますし、移動のときに本を読んでいる選手はかなり多いと思います。僕が知っている選手で特に読書家なのは、広島ドラゴンフライズの寺嶋良選手、ドルフィンズからシーホース三河に移籍した須田侑太郎選手。あとは同じチームの今村佳太選手もいつも本読んでますね。

いろんな表現が本から学べるので、人に伝える力も強くなりますし、聞く力にも繋がると思うので、僕は悩んだら本を読んだほうがいいと思っています。

 絵本も、作家さんが人生をかけて作った1冊を、1,000円とか2,000円で買えるなんて何よりの価値だと思っています。今は子育て中なので、夜寝る前に子どもに本を読んでいるんですが、昔母親に読んでもらっておもしろかった本は、全部買いましたね。特に『ぐりとぐら』がすごい好きだったんですよ。小学館の絵本月刊誌『おひさま』もずっと愛読してました。幼少期に読んだ絵本は、自分の深層心理に何か残っている感じがします。本を通して、一人でも多くの子どもたちに笑顔を届けられたらいいなと思っています。

【佐藤卓磨選手の絵本】 『ぼくはキリン』
佐藤卓磨/作 カワダクニコ/絵
303BOOKS
運動が苦手で、友だちの輪に入れないキリン。そんなキリンがバスケットボールと出会い、変わっていきます。少しずつ自分のことを愛せるようになっていくキリン。「誰にでも自分の強みはある」。そんな佐藤卓磨選手のメッセージが込められた一冊です。

 

 

お話を伺ったのは

佐藤卓磨(さとう たくま)

1995年、北海道生まれ。B.LEAGUE名古屋ダイヤモンドドルフィンズ所属のプロバスケットボール選手。10歳でバスケットボールを始める。東海大第四(現:東海大札幌)高校、東海大学卒業。18歳より世代別日本代表にも選出。2月に行われた2023ワールドカップアジア予選でもA代表として活躍。プライベートでは、読書が趣味で、遠征移動中は読書やオーディオブックを聴いて過ごしており、月に約5冊の本を読んでいる。

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文・構成/日下淳子

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