大豆は歯や歯ぐきを健康に保つ栄養素を豊富に含む
節分に豆まきをするのは、諸説はありますが、鬼に象徴される邪気を追い払うためだと言われています。精霊が宿るとされる大豆などが、豆まきには古くから使用されてきました。
では、大豆が歯や歯ぐきの健康に効果的である理由を、いくつか挙げてみましょう。
1. 歯や歯ぐきの構成成分を含む
大豆は「畑の肉」とも呼ばれるほど多くのタンパク質を含みます。タンパク質は皮膚や筋肉、内臓などの構造を丈夫にするコラーゲンの原料になるだけでなく、歯を支える歯周組織にも豊富に含まれます。
また、大豆にはカルシウム、マグネシウムなどのミネラル類も多く含まれ、カルシウムはご存じのように歯や骨の材料となり、マグネシウムはカルシウムの吸収をサポートする効果があります。
2. 大豆イソフラボンを含む
大豆はポリフェノールの一種であるイソフラボンを含み、様々な健康効果があります。
大豆イソフラボンは女性ホルモンであるエストロゲンと似たような構造を持ち、年齢とともに減少する女性ホルモンの機能を補うのに大切な役割を果たします。
女性ホルモンが減少すると骨密度が低下して骨粗鬆症になりやすくなりますが(関連記事はこちら≪)、この悪影響は歯を支える顎骨にも影響が及び、歯周病を悪化させる可能性があります。ですから、大豆イソフラボンを摂取することは歯の健康にとっても重要なのです。
3. 食物繊維が豊富
大豆には多くの食物繊維が含まれ、節分豆のように噛み応えがしっかりしたものは、咀嚼する回数が自然と増えます。
その結果、唾液の分泌が促進されて虫歯や歯周病の原因菌を洗い流す自浄作用や、唾液に含まれる抗菌物質による抗菌作用が増進します。また、食べ物の消化・吸収がよくなる、食べ過ぎを防止するといった効果も期待できます。
4. いろいろな食べ方ができる
大豆がさまざまな形で手軽に摂取できるのも、大きなメリットです。
大豆は節分豆や納豆のように豆の形をしたものだけでなく、豆腐や油揚げ、厚揚げなどの加工食品、さらに味噌や醤油といった調味料や豆乳のようなドリンクとしても摂取でき、いずれもスーパーなどですぐに購入できますからとても便利です。
また、同じ食品だと飽きてしまう可能性もありますが、大豆は多彩な形態の食品・調味料がありますから、継続的に摂取することが可能です。
納豆は虫歯や歯周病にも効果的
大豆の発酵食品である納豆は、虫歯や歯周病に対する優れた効果があることも報告されています。
1. 良好な口内環境の形成をサポートする
納豆には、納豆菌(枯草菌)や乳酸菌といった複数の種類の細菌が含まれています。
これらの多くは善玉菌として口内の細菌環境(口内フローラ)を整えるため、悪玉菌である虫歯菌や歯周病菌の増殖を抑制する効果があります。
2. 歯垢(プラーク)が付着しにくくなる
納豆はデキストラナーゼという酵素を含み、歯に歯垢を付着させる粘着性の高い成分であるデキストランを分解します。
3. 歯を溶かす酸から歯を守る
納豆に含まれるネバネバした成分であるポリグルタミン酸は、アミノ酸の一つであるグルタミン酸が長くつながったものですが、酸から歯を守って虫歯を防ぐほか、歯を丈夫にするカルシウムなどのミネラル成分の吸収を促進する効果などが認められています。
では、納豆の歯に対する効果について、さらに詳しく2つの研究報告を紹介しましょう。
納豆の酵素が虫歯や歯周病を防ぐ
2014年に日本大学のグループが報告した研究では、納豆に含まれる酵素であるナットウキナーゼが、虫歯菌であるミュータンス菌に対してどのような作用を示すのかについて調べました。
その結果、ナットウキナーゼの濃度が1mg/mlでミュータンス菌が歯の表面に作るバイオフィルム(虫歯のもとになる粘着物質)を約80%阻害し、粘着物質の主成分である非水溶性グルカンは、ナットウキナーゼの濃度が高くなるほど減少することが明らかになりました(図1)。

一方、2009年に日本歯科大学のグループが報告した研究では、納豆が歯周病に対してどのような効果があるかを調べるため、54名の慢性歯周炎患者を対象として実験を実施しました。
この実験では、納豆菌が分泌する成分を含むDM0507洗口液を使用するAグループと、市販の消毒用含嗽(うがい)薬を使用するBグループに分けて、朝晩の食事後30分以内に各20秒ずつ、1か月間毎日うがいを続けてもらいました。
その結果、歯周病菌の酵素活性を示すBANAスコアーがAグループにおいて統計学的に有意に減少し、歯周病の改善に納豆が有効である可能性が示唆されました(図2)。

節分豆はしっかり噛んで食べましょう。しかし、5歳以下の子どもは要注意!
大豆製品の中では豆腐や厚揚げなどが食べやすいですが、歯応えが不十分で軟らか過ぎるという欠点があります。
しかし節分は、火で炒った硬い炒り大豆を食べる数少ない貴重な機会です。しっかり噛んで食べることは顎を鍛え、脳を活性化するなどの多くのメリットもありますから(関連記事はこちら≪)、節分豆はじっくりと時間をかけて十分に咀嚼して食べるように心掛けましょう。
ただ、炒り豆は水分が少なく、パサついて食べにくいので、「食べるのが苦手」という人も少なくないと思います。
特に歯や顎の発達が未熟な小さい子どもにとっては苦手意識が強いかもしれませんが、実際のところ、消費者庁は節分で使う硬い豆やナッツ類を5歳以下の子どもには食べさせないよう、注意喚起を行っています。(関連記事はこちら≪)
炒り豆やアーモンド、ピーナッツ等の豆類やナッツ類は飲み込みが不十分な場合や急に息を吸った時に、不意に気管やのどに詰まることがあります。特に豆の場合は、気管や気管支の中で水分を吸って膨らむと、窒息を引き起こすリスクが上昇します。
平成22年12月から令和2年12月末までに医療機関から寄せられた情報によると、食品によって14歳以下の子どもが窒息または誤嚥した事故の情報が164件報告され、そのうち5歳以下が86%を占めました。
注目すべきは、豆・ナッツ類が菓子に次いで高割合となったことで、節分豆も非常に危険な食品であることが分かりました(図3)。

節分で使われる豆として大豆が多くの地域で用いられますが、北海道や東北地方などの一部の地域では落花生が用いられます。落花生も同様に豆類に分類されるため、子どもの摂取は要注意です。
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以上より、安全面も配慮しながら、この節分の機会に口や体の健康のために大豆を摂り入れる習慣をつけるのもいいかもしれませんね。
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記事執筆

島谷浩幸
参考資料:
・Narisawa N et al: Interference effects of proteolytic nattokinase on biofilm formation of cariogenic Streptococci. Food Preservation Science 40(6); 273-277, 2014.
・Tsubura S et al: The effect of Bacillus subtilis mouth rinsing in patients with periodontitis. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 28(11); 1353-1356, 2009.
・消費者庁:食品による子どもの窒息・誤嚥事故に注意!(令和3年1月20日).