東京都カスハラ防止条例とは何か?
カスハラとは「カスタマー・ハラスメント」の略で、顧客から従業員に対する「ひどい迷惑行為」を意味します。このカスハラ対策に作られた東京都カスハラ防止条例とは何か紹介します。
東京都カスハラ防止条例の概要
東京都カスハラ防止条例の正式名称は「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」で、東京都において2025年4月1日に施行されます。
この条例はカスハラを禁止し、東京都や事業者などに対して「カスタマー・ハラスメント(カスハラ)」への防止対策を定めたものです。
また、条例を実行するための手引きとして「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」も発表されました。
東京都カスハラ防止条例の内容を分かりやすくまとめ、カスハラや、東京都・事業者などが行うべきカスハラ防止対策の内容を説明したものです。
出典:東京都カスタマー・ハラスメント防止条例|東京都例規集
:カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針 (ガイドライン)|東京都
条例が定められた背景
東京都カスハラ防止条例が定められた背景には、近年のカスハラ増加があります。厚生労働省の「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査」では、2020年10月にハラスメントに関する企業調査と労働者等調査を行いました。
企業調査では、過去3年間で相談があったハラスメントのうち、カスハラの相談があったと答えた企業が92.7%と最も多くなりました。また、労働者調査でも、カスハラを経験したと答えた人の割合は15.0%で、パワハラの31.3%の次に多い結果です。
カスハラ対策が進んだ一因は、サービス業における人材不足と離職対策の必要性が高まっているためです。
カスハラが増えた原因はさまざまでますが、日本のサービス業における「顧客第一主義」の姿勢が、過剰な要求をしてもよいという消費者の認識を生んだといわれています。
出典:職場のハラスメントに関する実態調査について|厚生労働省
カスハラってどういうもの?
カスハラ防止条例や、「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」において、カスハラはどのように説明されているでしょうか。カスハラとは何か、具体例と併せて見ていきます。
カスハラは顧客から従業員に対するハラスメント
東京都のカスハラ防止条例における第2条第5号において、カスタマー・ハラスメントは「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう。」と定められます。
「著しい迷惑行為」とは、いわゆる暴行・脅迫・傷害・強要・名誉毀損(めいよきそん)・侮辱などの犯罪的行為が当てはまります。従業員に「お帰りください」と言われてもお店に居続けることや、大声で怒鳴り散らすなど威圧的に脅すこともカスハラです。
「著しい迷惑行為」がどのようなものかといった内容説明は、「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」のほうに書かれています。
カスハラの具体例はどんなもの?
カスハラの具体的な例も「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」に挙げられています。例えば、以下のような行動や言葉です。
・提供した商品に問題がないのに新品と交換するように求める
・企業が提供していないサービスを要求する
・従業員を殴る・蹴る、唾を吐くなどの身体的暴力を行う
・従業員やその家族に危害を加えると脅す
・大声で怒鳴り続ける
・性的な言動や、性別・人種、職業などによる差別をする
このように、要求内容が正当でなかったり要求方法が不適当だったりするものをカスタマー・ハラスメントといいます。
条例がカスハラ防止のために定めた取り組み
東京都カスハラ防止条例は、東京都や事業者、顧客などに対して、それぞれ取り組まなければならない内容を示しています。東京都が行うべき施策をはじめ、事業者と顧客に定められた努力義務について確認します。
東京都が行うべき施策
東京都カスハラ防止条例の第6条、第10条、第12条には、東京都がカスハラ防止に行うべき施策や進め方が書かれています。内容を大まかに紹介すると次の通りです。
【カスハラ防止条例に定められた東京都の施策】
・カスハラ防止に関わる情報の提供、啓発や教育、職場や消費生活における相談や助言などを行う
・情報提供や啓発活動を行う際には、東京都の特別区や市町村と提携する
・カスハラ防止の施策を行うために必要な費用に対して適切な措置をとる
また第13条には、従業員に対するカスハラ被害の相談窓口やメンタルケアだけでなく、カスハラに関する事業者の悩みや、顧客の抱えるトラブルについても相談やサポートを行うことも定められています。
事業者が行うべき努力義務
東京都カスハラ防止条例の第9条と第14条には事業者の責務が書かれています。「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」に説明された、事業者の努力義務を見ていきましょう。
【事業者が行うべき措置として挙げられている内容】
・カスタマー・ハラスメント対策の基本方針・基本姿勢の明確化と周知
・カスタマー・ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知
・相談窓口の設置
・適切な相談対応の実施
・相談者のプライバシー保護に必要な措置を講じて就業者に周知
・相談を理由とした不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め周知
・現場での初期対応の方法や手順の作成
・内部手続き(報告・相談、指示・助言)の方法や手順の作成
・事実関係の正確な確認と事案への対応
・就業者の安全の確保
・就業者への教育・研修
・カスタマー・ハラスメントの再発防止に向けた取り組み
条例において、事業者は自ら積極的にカスハラ防止対策を実行し、カスハラが起こった場合にはそれを止めて従業員の安全を図ることが求められています。
顧客が行うべき努力義務
東京都カスハラ防止条例では、全ての人にカスハラを禁止した上で、第7条第1項、第2項に顧客に対しての努力義務を定めています。カスハラ防止に協力するには、以下の3点を常に心掛ける必要があります。
・カスハラ問題に対して関心と理解を深めること
・お店の人などに要望を伝えるときは冷静に常識的マナーを守ること
・カスハラ防止施策に協力すること
お店で提供された商品やサービスに問題を発見した場合は、落ち着いて適切な手続きを踏みましょう。
罰則はあるのか?
東京都カスハラ防止条例は、カスハラに対する罰則を設けていません。これは、東京都がカスハラ加害者の処罰よりも、防止のための情報提供や意識改革に重点を置いているためです。
また、罰則によって具体的なカスハラ行動を取り締まると、「それ以外の行動は許される」という間違った考え方が広まる恐れがあるので、あえて罰則は設けていないそうです。
条例に罰則はありませんが、カスハラの内容によっては暴行罪や脅迫罪などが適用され取り締まりを受けます。
クレームもカスハラになるの?
東京都カスハラ防止条例が施行された後は「普通のクレームもカスハラ扱いされてしまうのでは」と不安に思う人もいます。消費者として不満があったときはどうすればよいのでしょうか。正当なクレームと不当なクレームの見分け方も見ていきます。
顧客の正当なクレームは認められている
お店の商品やサービスに問題があったとき、文句を言ったり賠償請求をしたりするのはカスハラに当たるのかという疑問もあります。参考になるのは「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」です。
指針には「顧客等への配慮」として、顧客の正当なクレームを制限しないことや、障害者や認知症の人への配慮が求められています。
消費者の権利は、消費者基本法第2条によって守られています。カスハラ防止条例はあくまでも、顧客と就業者が対等であることを前提に、顧客が適切な内容・方法で要望を伝えるように定めるものです。
正当なクレームと不当なクレームの違いは?
要求のない暴力や脅しなどの嫌がらせは、分かりやすいカスハラです。広義のカスハラには不当なクレームも含まれますが、クレームが正当かどうかはどこで判断するのでしょうか。
不当なクレームとは、要求の内容または手段のどちらか、あるいは両方が不適切なものをいいます。
2022年2月に発表された厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によれば、不適切な範囲として以下の例が挙げられています。
【不適切な内容例】
・企業が提供するサービスに問題がないにもかかわらず、謝罪や返金を要求する
・企業が提供するサービスと要求内容に関係がない
【不適切な手段例】
・体に危害を加える暴行・傷害
・威圧的な態度
・脅迫や土下座を求めるなどの精神的な攻撃
・性的・差別的発言
・長時間にわたる、しつこい要求 など
顧客が正当な要求を通すためにも、正当なクレームと不当なクレームの線引きを知っておくことが大切です。
[まとめ]カスハラ防止条例は働く人の安全を守るもの
カスハラは、近年増えている顧客から従業員に対するひどい迷惑行為のことです。中には無自覚にカスハラをしている人もおり、カスハラに関する情報共有や対策が緊急の課題です。
東京都カスハラ防止条例は、「顧客のやることなら仕方ない」と見過ごされがちだったカスハラを禁止し、東京都や事業者に対してカスハラ防止対策を実行するように定めています。
カスハラ被害者として弱い立場にあった従業員の権利が守られ、職場の労働環境が改善されるためには、顧客側もカスハラに対する意識を高めてクレームの正しいふるまいを学ぶ必要があります。
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構成・文/HugKum編集部