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室内での近見作業が増えたことで子どもの近視が増加!
窪田 良先生は以前より、「近視は遺伝よりも環境が原因」「近視は病気である」と積極的に発信し、1日合計2時間の屋外活動が近視抑制に効果的だと提言されています。実際に、小学生の屋外活動を義務化した台湾などでは、近視の子どもが減っているというデータも。
目はとても大切なパーツでありながら、このような情報はなかなかアップデートしにくい状況にあります。そこで今回は、子どもの目に関する気になることを、いろいろと教えていただきました。
――近視の子どもが増えているそうですが、先生が提言しているように室内で過ごす時間が多いからですか?
窪田先生 そうですね。以前に比べて子どもが外にいる時間が半分以下になり、目に見えて屋外活動が減っていると言われています。中国あるいはシンガポールや台湾では、小さい子に1日合計2時間の屋外活動を義務化してから近視は減り始めているので、屋外にいることは近視抑制には重要だろうと言われています。
――ゲームをやるにしても外でやったほうがいいとも聞きました。
窪田先生 家の中にいるよりは外にいたほうがいいだろう、ということですね。屋外の環境のどんなことがいちばん重要かまではまだわかってないんですが、あらゆる波長の光を含む太陽光を浴びたり、ちょっと目を離したときに近くに何もない景色が広がっていたりすることがプラスになると考えられています。屋外であれば日陰でもいいと言えます。

新情報! 近視はスマホが原因じゃない! しかも活字のほうが目に悪い!?
――現在の子育ては、ゲーム、そしてスマホやタブレットに頼りがちです。目のためには見せる際の場所、画面の明るさや大きさなど、気を付けることはありますか?
窪田先生 まず、世界的に見ても、スマホがこの10年、20年で普及したことによって、急に近視が増えたという結果はありません。よくないのは手を伸ばした範囲内で対象物を見るという近見作業の連続で、しないに越したことはないと言われています。
近視になることを防いだり、進行を遅らせたりするには、ずっと画面を見続けるのではなくて20分に1回は目を離し、遠くを見ること、また屋外で過ごすことが大事です。
まだコンセンサスは得られてはいませんが、最近の研究ではスマホを見るのと字を書いたり活字を読んだりするのでは、後者のほうが目に悪いとも言われています。
確実ではないですが、根拠としては「コントラスト」があります。活字の白×黒のはっきりとしたコントラストはいちばん目に悪い刺激で、これは自然界にはない色合いなんですね。
ほかにも複数の要素が絡んでいるとされていますが、近見作業がよくないといわれていて、スマホが必ずしも悪いというわけではないということが、いろいろな形で明らかになってきています。
ブルーライトカット眼鏡やサプリは意味がない!
――スマホよりも活字のほうが目に悪いとは意外です。では、スマホを見る際の「ブルーライトカット眼鏡」は子どもに必要ですか?
窪田先生 基本的に子どもにはつけないほうがいいと言われています。
子どもの近視抑制には、濃い波長の光があるほうがよいとされ、さまざまな波長の光が目に入ることが非常に重要です。よって、ある特定の種類の光だけを遮るという人工的な環境には置かないほうがいいんです。
さらに、どちらかというとブルーライトをカットしていない光のほうが、近視抑制に効果があるとも言われています。
でも、夜、眠る前にブルーライトを浴びると眠くなりにくくなるという事実はあるので、そういった側面では、つけていいと思います。
――ブルーライトが視力に悪影響なのだと思い込んでいました。では、視力がよくなるとうたっているサプリメントも多数ありますが、これらはどうでしょうか。
窪田先生 僕は特に必要がないと思っています。特定の条件でのある種のデータがあるから、根拠が全くないわけではないんですが、子どもに関しては、そういうものを飲んで視力が悪くならないとか、よくなったというデータは全くありません。
普段からバランスよく食事していれば、それで十分。僕の場合は、自分の子どもにサプリを飲ませようっていうことはありえないですね。
「眼鏡で目が悪くなる」は間違い! 度が合った眼鏡をかけることが近視抑制に効果あり!
――それでも近視になってしまった場合、「眼鏡をかけると近視が進行する。だから眼鏡はかけないほうがいい」と、子どもに眼鏡をかけさせることに消極的な声も耳にします。それは本当なのでしょうか。
窪田先生 事実ではありません。確かに昔は、軽い度数の眼鏡をかけるとか、眼鏡をかけないほうが近視が進まないといった話が信じられていました。実際に眼科医ですらそう言っていた時代があったんです。
ただ、大規模な臨床試験や調査など、世界中で調べられた結果、度数がきちっと合っている眼鏡をかけたほうがいちばん近視の進行が進まないというのが、今のところのコンセンサスになっています。
お母さんのなかには「眼鏡をかけたら急に悪くなりだした」と感じた方もいるかもしれません。近視はある段階でどんどん加速していくので、それが眼鏡をかけたタイミングとたまたま一緒で、そう錯覚したのだろうと考えられます。かけていなかったら、もっと悪くなっていたと思いますよ。
――度が合った眼鏡をかけることが大切なのですね。では、実際に眼鏡を選ぶ際にはどんなことに気を付けるといいですか?
窪田先生 十分に視野が広く取れて見られるものであれば、何の問題もないです。普通に売られている眼鏡はそういうことも考慮されたデザインなので、特に気を付けなければいけないということはありません。
眼鏡は度数が合っていることが大切なので、正しい眼鏡の度数を測ってもらえるところで購入するのがいちばん重要です。
――子どもの目には眼鏡とコンタクトでは眼鏡のほうがいいですか?
窪田先生 何を基準にしたらいいかということですけど、目へのリスクが低いのは眼鏡。コンタクトは、目に入れることで目に傷がついたり、ばい菌が入ったりすることがありますが、それは眼鏡では起こりません。
でも、スポーツをやっているとしたら、眼鏡だとぶつかって割れることもありますが、ソフトコンタクトレンズならそういったことはありません。だから、どういう状況で使うかによっていいか悪いかは変わってきます。
コンタクトレンズは眼鏡のようなフレームがないため、際限なく全周囲が見え、そういう意味でも優れています。しかし、汚い手で触ったことによって目に害が生じることとのバランスをどうとるかということなので、一般的には小さいお子さんにはコンタクトレンズはまだ難しいというケースが多いです。
日本でも近視の進行を抑制する、『アトロピン点眼液』が登場
――眼鏡やコンタクトレンズをつける以外、現在子どもの近視を抑制する方法はありますか?

窪田先生 日本の薬機法上で唯一、『アトロピン点眼液』が近視の進行を抑制するものとして、昨年末に販売が開始されました。長期間使用し続けることで、近視の進行を遅らせることができます。
グローバルに見ると、ハードコンタクトレンズを夜間に装着する『オルソケラトロジー』や香港大学が開発した『軸外収差メガネ』、中国発の『レッドライト療法』、我々が開発した『クボタグラス』が現在使われています。
これらの技術は日本でも使われています。しかし、近視を抑制するという薬機法上の認定を得ているものではないので、正式な販売や使用はされていません。
ただ、諸外国では臨床試験で効果が十分に証明されているものが多いですので、日本でも医師の判断で使われていることもあります。
――そういった治療はどの眼科でも受けられますか?
窪田先生 専門性が高い分野ですので、少なくとも今話したようなキーワードを全部わかっている眼科に行けば、いろいろなオプションを話してもらえると思います。ただ、近視専門の眼科は少ないので、見つけるのは容易ではないかもしれません。
――薬機法上でも認められている『アトロピン点眼液』も受けられるところは限られていますか?
窪田先生 限られた施設になると思います。まず電話で問い合わせてから行かれるのがいいですね。
家庭では子どもの目がちゃんと見えているかの確認を
――さまざまな抑制方法や治療方法の選択肢が増えてきているんですね。では、子どもの目を守るために定期的に眼科で検診を受ける必要はありますか?
窪田先生 子どもの近視が治療可能な時代になってきたので、そういう意味では検査が重要で意義のある時代になってきました。
ただ、先ほども話したように近視抑制の分野を知ってる眼科は限られてるので、そういうところにかかる必要があります。眼科を探す際は、子どもの近視を扱っていて、近視抑制という言葉を理解している眼科にかかることが大切です。
また、費用はかかりますが治療のオプションがあること、屋外にある程度長い時間いれば近視抑制に効果があるという知識も、ご両親が知る必要があります。
――家庭で親が子どもの目に関してやれることはありますか?
窪田先生 「ちゃんと見えてるかどうか」を気にしてあげることだと思いますね。人間は生まれたときは視力0.1で、そこから徐々に視力が良くなってくるので、「どこまで見えるようになるのが正常か」って、実は子どもにはわからないんですよね。
同じ距離で遠くを見てる子どものなかで、うちの子はちょっと目を細めて見るなとか、見えていない感じだなと気付いてあげられたらベストだと思います。
近視は失明につながることも。まずは子どもたちと外遊びがおすすめ

先生の回答ひとつひとつに「えーーー!」と驚きの声をあげてしまうほど、知らなかったこと、意外な事実ばかりで、興味深いお話でした。今までは子どもに「スマホばっかり見ていると目に悪いよ、読書にしよう」と声かけしていましたが、それも大きな間違いだったとわかり、びっくり!
近視は、見えにくいだけでなく、放っておくと白内障や緑内障に罹患しやすく、失明のリスクもあります。また、目が悪くなったら手術をすればいいと考える方もいるかもしれませんが、目にメスを入れるのもリスクが伴うことです。子どもの目を守るために、まずは近見作業をさせすぎず、親子で外遊びをしてみるのがいいかもしれません。

2023年秋、「視力1・0未満の子どもの割合が過去最高に」と報じられ、WHOは2050年には世界人口の約半分が近視になると予測し、警鐘を鳴らしています。そして今、「近視は治療が必要な『病気』である」という認識が、世界的に高まってきています。本書では、眼科医であり研究者である著者が、目について「役立つ」「世界基準の」情報をお伝えします。
お話を聞いたのは

慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学大学院に進み眼科学研究において博士号を取得。その研究過程で緑内障原因遺伝子であるミオシリンを発見、「須田賞」を受賞。眼科専門医として慶應病院や虎の門病院などの勤務を経て、米国ワシントン大学に眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。慶應義塾大学医学部客員教授、米国NASA HRP研究代表者、米シンクタンクNBR理事などを歴任。2024年5月に東洋経済新報社より『近視は病気です』を出版。近視をゼロに、世界中から失明を無くすことを目標に活動している。
構成・文/長南真理恵