夏休みは「7タイプの攻めの休養」を! うちの子どもに合った休養はどれ? 2学期を笑顔で迎えるための正しい休み方とは【休養学の第一人者・医学博士 片野秀樹先生に聞いた】

朝はなんとなくダラダラ、日中もぼーっとしたまま。せっかくの夏休みなのに、子どもがなかなかエンジンがかからない……そんな様子に、心配になっている保護者の方も多いのではないでしょうか。でも実はその“元気のなさ”、ただの「やる気の問題」ではなく、「休養のとり方」が関係しているかもしれません。
「休養は、疲れてからとるのではなく、次に力を出すための“攻めの休養”が大切です」と話すのは、医学博士で『寝てもとれない疲れが消える マンガでわかる休養学』(KADOKAWA)の著者・片野秀樹先生。片野先生が提唱する「7タイプの休養モデル」をもとに、夏休みだからこそできる“子どもに合った休み方”を考えてみませんか。
充電期間としての夏を過ごすことで、2学期を軽やかにスタートできるヒントが見えてきます。

7タイプの休養モデルで「攻めの休養」

ダラダラ休まずエネルギーチャージするために「自分に合った休み方」を知る

―「攻めの休養」と聞くとストイックなイメージがありますが、子どもにも取り入れられるような身近なものとして、どんなふうに捉えたらよいのでしょうか?

「攻めの休養」とは、ダラダラと休むのではなく、次に向けてエネルギーを積極的にチャージするための休養法です。私は、休養を次の「7タイプの休養モデル」に分類しています。

生理的休養

①休息タイプ

脳や体をリセットできる睡眠や昼寝をとる「休息タイプ」の休養。

睡眠や昼寝、こまめな休憩といった、いわゆる「休み」です。シンプルですが、これらは脳や体をリセットし、集中力を高めるうえで非常に効果的です。

②運動タイプ

家の中でストレッチや軽い運動を行う「運動タイプ」の休養。

運動と聞くと「疲れる」と思いがちですが、むしろ軽い運動は疲労回復のために有効です。ずっと座ったままでは血流が滞り、脳や体に老廃物がたまってしまいます。ストレッチやつま先立ち、部屋の中を歩くだけでも血流が良くなり、酸素と栄養が脳に届き、体がクリーンな状態に整います。

③栄養タイプ

腹八分目を心がけて糖質やカロリーを取りすぎない「栄養タイプ」の休養。

食べ過ぎや糖質の取りすぎは、かえって体に負担をかけます。腹八分目を意識し、胃腸を休ませることが重要です。甘いものを食べて元気になったように感じるのは、一時的な“マスキング効果”にすぎません。糖質やカロリーを控え、内側から体を整えましょう。

心理的休養

④親交タイプ

人や自然と触れ合う「親交タイプ」の休養。

親子でハグする、ペットと触れ合う、自然の中で遊ぶ。こうした行動は愛情ホルモン「オキシトシン」を分泌し、心を落ち着かせます。人や自然との触れ合いはストレスを和らげる大切な時間です。

⑤娯楽タイプ

映画やゲーム、音楽などに没頭する「娯楽タイプ」の休養。

映画やゲーム、音楽など好きなことに没頭すると気分がリフレッシュされます。ただし、やりすぎには注意してください。夜更かしして逆に疲れるのは本末転倒。休養のための“適度な楽しみ”を心がけてください。

⑥造形・想像タイプ

絵を描いたり工作したり「造形・想像タイプ」の休養。

絵を描く、工作をする、あるいは好きな景色を頭の中に描く。何かをつくり出したり、想像する時間も立派な休養です。

⓸~⑥のポイントは、今抱えているストレスから意識を切り離すこと。「デタッチメント」と呼ばれ、心理的回復に非常に有効です。

社会的休養

⑦転換タイプ

小さな環境変化で気分が変わる「転換タイプ」の休養。

環境を変えることで気分が切り替わります。旅行や温泉はもちろん効果的ですが、身近な模様替えや掃除、服を着替えるだけでもOK。小さな環境変化でも、心と体は驚くほど軽くなります。

7つの休養タイプを組み合わせて“自分だけの休養スタイル”をつくろう

まずは7つの休養タイプの中から、ひとつ「自分に合っていそう」と思うものを試してみるのがおすすめです。さらに、絵を描くのが好きなら自然の中に行ってスケッチしてみる(造形・想像タイプ×親交タイプ)など、他の休養タイプと組み合わせるのもいいですね。さまざまなタイプの休養をミックスすれば、より効果的な“自分だけの休養スタイル”が生まれます。

「活動→疲労→休養→活力→活動」のサイクルをつくる

―そもそも、なぜ“攻める”ように休む必要があるのでしょうか?

従来は「活動→疲労→休養→活動」という3ステップが当たり前でした。でも私は、「活動→疲労→休養→活力→活動」という4ステップのサイクルを提案しています。ただ休んだ“つもり”で戻るのではなく、エネルギーが十分に満ちた状態=“活力”まで回復してから再スタートすることが、次の行動の質を大きく左右します。

スマートフォンも、10%しか充電されていなければすぐに止まってしまいますよね。人間も同じ。表面上は動けていても、実は“充電不足”のまま無理をしていることが多いんです。だからこそ、意識的に前もってエネルギーを満たす休養が必要なんです。

「オフファースト」を意識して

―とは言え、せっかくの長期休み。親としては「たまっている復習をさせたい」「2学期の予習もしないと」と、つい “あれもこれも”と張り切ってしまいがちです……。

そのお気持ちはとてもよくわかります。でも、疲れたから仕方なく休養をとるのではなく、次に力を出すために、あらかじめ休養すると考えてみませんか。私はこれを「オフファースト」と呼んでいます。

夏休みは、「充電」=休養にしっかり向き合う絶好のチャンス。2学期を元気にスタートさせるためにも、“攻めの休養”を意識して取り入れていくことがとても大切なんです。

効果があった方法から「休養リスト」をつくろう

効果があった方法をメモした「休養リスト」をつくろう

―家庭でも実践できるような休養の工夫や声かけのアイデアがあれば教えてください。とくに、子どもの様子を見てどんなふうに関わるとよいか、ヒントがあればうれしいです。

お子さんの様子をよく観察し、「何をしているときに元気が戻っているか」を一緒に話し合うのが大切です。たとえば、「散歩したら集中力が戻った」「音楽を聴くと落ち着いた」などの行動を書き出して、休養リストを作りましょう。効果があった方法に◎や色ペンで印をつけると、あとで見返すときに役立ちます。

―「これは効く」と感じた休み方は、繰り返しやってみると良いのでしょうか?

はい。繰り返すことで「自分に合った休養法」が見えてきます。それをルーティン化するのが理想です。スポーツ選手が試合前に決まった行動をするように、子どもたちも「この休み方をすれば次がはかどる」という感覚を持てると、日常のパフォーマンスが向上します。

子どもは元気なふりをしがち。疲労=「体からのサイン」を見逃さないで

いい子ほど、疲れを我慢してしまう

いい子ほど「期待に応えたい」と思い、実は疲れているかも?

―「疲れた」と口にするのを我慢してしまう子、親の前ではつい元気なふりをしてしまう子も多い気がします。そうした子どもの“サイン”に、大人はどう気づいてあげればいいのでしょうか。

それが今、大きな問題です。人間は、脳が発達しているせいで、疲れを“マスキング”してしまうんです。責任感や「頑張らなきゃ」という気持ちで、体の声を無視してしまう。それが慢性的な疲労を引き起こし、集中力の低下や体調不良につながります。私の調査では、高校生の約7割、大人の8割が慢性的に疲れていると感じています。

とくに子どもは「いい子でいたい」「期待に応えたい」という気持ちから、疲れていても元気なふりをしてしまう。活動能力が落ちていることに気づかず無理を続けることで、かえって心身に大きな負担をかけてしまうんです。日常の中でマスキングしたまま無理を続けてしまうと、事故やケガにつながることもあります。

発熱、痛みを無視しない

―子どもが我慢をしているサインにどのようにして気づけばよいでしょうか。

発熱や痛み、疲労感は「このまま続けるとまずいですよ」という体からの危険信号です。「根性がない」「さぼっている」と誤解せずに、しっかり休養を取らせてあげてください。体の声を受け止めて休めば、また活力が湧いてきます。

―最後に、保護者のみなさんや子どもたちに向けて、「夏休みのすごし方」についてメッセージをお願いします。

夏休みは、親子で“攻めの休養”を実践するチャンスです。2学期を元気に迎えるために、今のうちに心と体をしっかり整えてください。きっと新しい気づきや変化が得られるはずです。

子どもも大人も参考になる! パフォーマンスを上げる休み方をマンガで読もう

お話を伺った片野秀樹先生による、最高のパフォーマンスを生む休み方が学べる本がこちら。「寝ても疲れがとれない」というママパパのお悩みも、エネルギーチャージできる休み方に変えることでスッキリ解消! マンガで読めるので、お子さんと一緒に夏休みに読みたい一冊です。

片野 秀樹 KADOKAWA 1,870円(税込)

「朝からなんだか疲れている」「寝ても疲れがとれない」「休日はダラダラ過ごして、逆にだるさが増す」――そんな現代人の“疲れの正体”に迫り、回復の鍵をマンガでわかりやすく解説しています。
「寝れば回復する」「寝だめすればOK」「栄養ドリンクで乗り切れる」…そんな思い込みをくつがえし、スピードとタイパが求められる“余白のない社会”に必要な、まったく新しい休養の考え方=「攻めの休養」を提案。仕事や勉強のパフォーマンスを高めたいすべての人に役立つ一冊です。

あなたにはこちらもおすすめ

子どもの不安な気持ちを支えてくれる学習周りの癒しグッズまとめ|子どもの疲れ・不安もお気に入りと一緒なら安心!
新入学や転校、クラス替えなど、春は変化がいっぱい 新しい環境に気持ちが不安定になってしまうとき、支えになってくれるのは「かわいらしい...
子どもの運動が足りない!幼児・小学生は毎日合計60分以上運動が理想。継続的に運動すると脳が発達し、学習能力もアップ!【専門家監修】
10歳のころの祖父母、ママ・パパ世代と比較してわかった、現代の子どもたちの運動能力 鈴木宏哉先生(以下、鈴木先生):スポーツ庁が、20...

お話を聞いたのは

片野 秀樹 博士(医学)

一般社団法人日本リカバリー協会代表理事。株式会社ベネクス執行役員。東海大学大学院医学研究科、東海大学健康科学部・医学部研究員、日本体育大学体育学部研究員、特定国立研究開発法人理化学研究所客員研究員を経て、現在は一般財団法人博慈会老人病研究所客員研究員、一般社団法人日本未病総合研究所未病公認講師で休養学を指導。日本リカバリー協会では休養士の教育や養成など、休養に関する問題や理解度を高める講義を行い、リテラシー向上を目指して啓発活動に取り組んでいる。著書に『休養学』(東洋経済新報社)などがある。

取材・文/黒澤真紀

編集部おすすめ

関連記事