人の手もかりる? 足でも弾く? パイプオルガンの秘密に驚き!『こどもオルガン研究所』【サントリーホール|イベントレポート】

(画像:@Koji Iida / SUNTORY HALL)

2025年8月7日(木)サントリーホールで開催された『こどもオルガン研究所』に参加してきました! 「こどもオルガン研究所」は、「こどもたちにオルガンをもっと知って楽しんでほしい」という想いから始まり、夏休みに家族で楽しめる小学校低学年向けの公演(4歳以上入場可)です。国内外で活躍するオルガニストの石丸由佳さんが実際に演奏しながら、楽器の仕組みや音色の秘密、オルガンを楽しむヒントを解説してくれました。

また、コンサート終演後には、小学校1~3年生を対象とした特別ツアーを開催。普段は見られないオルガンの中をのぞいたり、演奏台を間近で見たり、ステージの上でオルガンの響きを体感したり。オルガンの魅力をたっぷりと味わえるイベントの内容をレポートします。

オルガンの不思議

パイプは何本?

サントリーホールのオルガンは、全部で何本あると思いますか? 表面に見えているだけだと200本くらいなのかな? と思いますが、なんとその数、5898本! 世界最大規模の大きさを誇り、まさにサントリーホールの「顔」なんです。

正面から見えるパイプの他にも、奥にたくさんのパイプが3階建てのマンションのように並べられているのだそう。子どもがすっぽり入ってしまうような7mもの太くて長いパイプもあれば、手の小指の爪くらいの短くて細いパイプまで、さまざまな太さ・長さのパイプが使われています。

世界最大規模のサントリーホールのオルガン(筆者撮影)。

どうやって音が出るの?

オルガンの音はもちろんパイプから出てくるのですが、今は電気で送風機を動かして、風を送って音を出します。

オルガンが開発された頃は、まだ電気がなかったので、オルガンの後ろで巨大なふいご(アコーディオンのような風を送るもの)を動かす専門の人がいて、パイプに風を送り続けることで演奏ができました。そういう人がいなければ音が出ない楽器だったんですね。

オルガンの音の出し方を、壇上で説明するオルガニストの石丸さん。@Koji Iida / SUNTORY HALL

木製のパイプだと柔らかい音に

オルガンのパイプは金属製のものだけではなく木製のものも使われています。金属よりも柔らかい音が出るのだそう。また、オルガンにはたくさんのレバーが付いており、選ぶレバーによってさまざまな音が合成される仕組み。まるでシンセサイザーのような楽器です。

足にも鍵盤がある!

足鍵盤の動きを実演! @Koji Iida / SUNTORY HALL

オルガンには、足にも大きな鍵盤があります。サントリーホールのオルガンには、手で弾く鍵盤が4列、足に1列あるので、全部で5列の鍵盤を使って演奏をしていきます。

足で弾く鍵盤はとても難しい! 足だけに集中すれば何とか弾けそうですが、両手を動かして、さらに足も動かすのは至難の業。「かえるの歌」の足鍵盤の動きにみんなで挑戦しました。

一人じゃ弾けない!?

オルガン演奏中は両手両足全てを使うので、アシスタントさんが隣にいて、「ストップ」という音色を変えるボタンを操作します。オルガンの演奏は一人だけではできないこともあるんですね。

横にいるアシスタントさんが音色を変えるお手伝いをします。@Koji Iida / SUNTORY HALL

オルガンは唯一無二の楽器!

オルガンは設置する場所によってオーダーメイドで作られる楽器です。そのため、1台1台大きさや使うパイプの本数も異なり、完全に同じオルガンというものは存在しません。

オルガニストは、そのホールごとのオルガンがどんな楽器なのかを理解し、どう演奏したら美しい音色が作れるのかを考えながら演奏しなければならないそう。リハーサルは、どの楽器よりも大変そうですね!

「リハーサルは大変だけど、それぞれのオルガンの得意なことを探っていくのも楽しいですよ」と石丸さん。@Koji Iida / SUNTORY HALL

音色の組み合わせを楽しんでみよう

サントリーホールのオルガンは音色を使い分ける機構=ストップの数が74! イベントに参加した子どもたちからのリクエストで、いろいろな音を組み合わせ、音色の聴き比べをしました。

※サントリーホールのオルガンについての詳細はこちら

普段は入ることのできない内部へ。オルガン特別ツアー開催!

コンサート終演後には、小学校1~3年生を対象とした特別ツアーが開かれました。普段は入ることができないサントリーホールのオルガンの内部や、舞台袖から舞台の上までを見学しました。

オルガンに使われている部品って?

オルガンに使われているパイプやトラッカーという部品です。手前から順に、3本連続で金属のパイプ、木製のパイプ、トラッカー。@Koji Iida / SUNTORY HALL

トラッカーは、オルガンの鍵盤と風箱の弁を機械的に連結する部品です。鍵盤を押すことで、トラッカーが弁を押し開き、パイプに風が送られて音が鳴る仕組みです。1本の木からできているもので、長いものだと数メートルのものもあります。針金や糸よりも正確に動きを伝えてくれるというメリットがある一方で、折れやすく壊れやすいという面もあるそうです。

パイプはどれくらいの重さなのかも、実際に持ってみて感じることができました。

鉛と錫(スズ)の合金ということで、直接触れないように布が巻かれていました(筆者撮影)。

オルガン修理の職人さんだけが通れる通路に潜入

特別ツアーでは、オルガン修理の職人さんだけが入ることができる通路にも案内していただきました。人が通るのがやっとの細い通路をそ〜っと歩きます。ものすごい数のパイプが羅列されており、圧巻でした!

ホールの正面にあるオルガンに大接近!

そして、いよいよオルガンの前へ! こんなに近くで見ることができるのは、特別ツアーならでは。

ものすごい迫力です(筆者撮影)!

石丸さんが舞台の上で演奏する際に使っていたものは、実はオルガンを遠隔操作することができるリモコンなんです。本体のオルガンの鍵盤と構造は一緒です。

オルガンには背後の指揮者が見えるよう、鏡やモニターが付いています。@Koji Iida / SUNTORY HALL

また、パイプから出る音は、隣同士であっても右と左と交互に音が出るように工夫されており、片方ばかりから音が聞こえるようにならない工夫もされています。

さらに、オルガンの部屋から出る音を閉じ込めたり、逆に外へ出したりするための、細い長い扉を開閉することができるペダルも付いていました。ホール全体に音がきれいに響くよう、さまざまな工夫がされているのですね。

今後のスペシャルイベントをお楽しみに!

今回は実際にオルガンの演奏を聴きながら、楽器の仕組みや音色の秘密、そしてオルガンを楽しむヒントを教えていただきました。

イベント後の特別ツアーに参加した子どもたちは、「普段は見られないオルガンの裏の仕組みを見せてもらうことができたのがうれしかった!」「ステージに上がったことがなかったので、演奏している人の気分になれた」など、大興奮でした。

参加した子どもたちは、石丸さんにたくさんの質問をしていました! @Koji Iida / SUNTORY HALL

コンサートホールは「小さい子ども連れには難しい…」と思いがちですが、サントリーホールではさまざまな子ども向けのイベントが開催されています。これから芸術の秋がやってきます! ぜひ今後のスペシャルイベントをお見逃しなく。

出演者

石丸由佳 オルガニスト

シャルトル国際オルガンコンクールで優勝、併せてJ.アラン賞受賞。パリのノートルダム大聖堂をはじめとするヨーロッパ10 カ国以上の各地、および日本全国でリサイタルを行っている。東京藝術大学卒業、同大学院修了。デンマーク政府給費奨学生としてデンマーク王立音楽院を、文化庁在外研修派遣員としてドイツ国立シュトゥットガルト音楽大学を修了。両国家演奏家資格取得。国内の主要オーケストラはもとより、リヨン国立管弦楽団やシュトゥットガルト州立管弦楽団他と共演。テレビやラジオへの出演も多く、出身地のTeNYテレビ新潟やNHKラジオ、TV朝日「題名のない音楽会」、NHK「うたコン」、NHK「紅白歌合戦」に出演するなど幅広く活躍。これまでにない企画演出やプログラミングは各所で高い評価を受けており、オルガンの普及、教育プログラムにも尽力している。キングレコードより4枚のCDアルバムをリリース、最新アルバムは2024年3月発売「瑠璃色の地球~風のうた」。2020年4月~2024年3月、新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあ専属オルガニスト。2024年4月より所沢市民文化センターミューズ第5代ホールオルガニスト。ココペリオルガンスタジオ主宰。 @Koji Iida / SUNTORY HALL

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取材・文/鬼石有紀

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