「集中できない」「話を聞けない」「氷をよく食べる」は栄養不足のサインかも? 子どもを叱る前にまずは試してみたい食事のこと

栄養学を分かりやすく解説した動画が人気のあこさん。2020年8月からはじめYouTubeの登録者数は5年目にして延べ30万人ほど。今回、3冊目の著書本である「子どものしあわせ栄養学(主婦の友社刊)」が発売となり、さらに注目を集めています。特に成長期のお子さまを持つ親御さんにとって毎日の献立づくりは悩ましい問題です。さまざまな栄養についてのお悩みを直接、あこさんに解決していただきました。

子どもの成長に不可欠な栄養素とは

  • ーー成長期のお子さんは、体の成長と共に心のケアも必要な時期です。この年代に欠かせない栄養素には、どのようなものがあるのでしょうか? また不足することで生じる具体的な例を教えてください。

あこさん 特に炭水化物とタンパク質が不足すると「勉強に集中できない」「長い時間、座っていられない」「人の話を聞くことができない」という症状が出やすくなります。

さらに鉄の不足が加わると気持ちが不安定になり、悲観的な考え方や無気力になることもあります。鉄は、幸せホルモンのセロトニンや、やる気ホルモンのドーパミンを作るために重要なのです。また、亜鉛も思春期の不足に注意が必要な栄養素です。亜鉛にはホルモンバランスを整える働きがあるため、不足することでイライラやヒステリック、物に当たるという行動を起こすことも。これは、体内で亜鉛が不足したことによって、ノルアドレナリンという“攻撃ホルモン”が過剰に生成されることが要因です。女子は鉄不足が生じやすく、男子は亜鉛不足になりやすい傾向があるため注意が必要です。

ほかに体の成長に必要なのは、ビタミンDです。骨の成長に影響し、不足すると免疫力の低下や風邪の長期化などにも関係しますので意識的に摂取させるといいですね。

ーー最近、「子どもが氷をよく食べる」という話を聞きます。暑い日だけでなく、日常的に氷を食べたがる原因は何でしょうか。

あこさん それは鉄不足のサインです。「異食症」という症状で硬いものがほしくなります。氷をはじめ、あめを最後までなめていられずに途中で噛んでしまう。グミや硬いおせんべいを好むなども鉄不足の現れだと言われています。ひどくなると、土を口に入れてしまうこともあるほど。

これは、神経のアンバランスが生じていることによってミネラルを摂りたい欲求からくる症状の一例です。鉄分を効率よく摂取するためには、豚もも肉や豚肩ロースなどの赤身肉がおすすめです。貝類では、あさりの水煮缶は鉄分が豊富なので汁ごとスープやパスタに入れると余さずいただけます。

ーー成長期のお悩みの中では、子どもの身長を伸ばしたいという親御さんが多いです。身長を伸ばすために最も必要な栄養素を教えてください。

あこさん 小学校高学年から中学生のころは、身長が急激に伸びる「成長スパート」と呼ばれる時期。男の子の場合は、16~17歳くらいでも身長が伸びる可能性があります。運動を激しくされているお子さんは、エネルギー不足から身長が伸びにくいということがあるため不足を回避することがポイント。必要な栄養素としては、「炭水化物」が重要です。

例えば、14歳の男子なら、1日にご飯茶碗山盛り3杯(1食220~260ℊ×3杯)のご飯が目安です。ご飯をしっかり食べないと筋肉からエネルギーを作り出すため筋肉量が落ちてしまいます。加えて骨からも栄養素を奪うため、骨が弱くなる危険性が伴いますので炭水化物はしっかりと食べるようにしてください。

ーー朝食欠食のお子さんが増えています。「朝食の重要性」については、どのようにお考えでしょうか?

あこさん 朝食は欠かさず食べてほしいですね。朝食を抜くことで、子どもは「だるい、疲れた、力が出ない」という症状に悩まされます。また、朝食を欠食し続けると自律神経の乱れから睡眠障害や生活リズムの逆転、起立性調節障害(自律神経の乱れから立ちくらみ、動悸、頭痛などの症状を引き起こしてしまう病気)のような症状が出やすくなることも。

朝食は1日3食の中でも栄養素を補える大切な食事です。小腸からの鉄吸収が高まる時間帯でもありますので、お子さんには朝食を食べる習慣を身に付けさせることが大切です。

ーー朝食を食べたくない子や食事量にムラがある場合はどうしたらよいでしょうか?

あこさん 朝ごはんには、味がしっかりしているものの方が食べやすいです。著書の中でご紹介していますが、朝食には「肉みそディップ」がおすすめです。ご飯の上にのせるだけで、食が進む味わいなので常備しておくと便利です。

栄養チャージおかず 『蒸し野菜と豆腐の肉みそディップ』

あこさん お子さんの食事量のムラについてですが、食欲不振のお子さんには亜鉛不足の可能性もあるのです。特に男の子は亜鉛が不足しやすいため、赤身肉や魚介類から摂るといいでしょう。一気に赤身肉や魚介類を増やすのは難しいので、10~20g程度から少しずつ増やしていくといいですね。

栄養バランスは60点で合格です

ーーご著書「子どものしあわせ栄養学」を出版されてから「献立づくりがラクになった」という読者の声が多かったと伺いました。そのポイントを一部、教えていただけますでしょうか。

あこさん はい、ありがとうございます。本の中では、献立づくりは5ステップでご紹介しています。ステップ1~3までクリアすれば80点で、余力のある方はステップ4~5まで100点をめざせる加点方式です。

具体的には、献立に「ごはんとタンパク質、野菜がある」だけで60点です。「タンパク質が子どもの片手のひら1~2杯分ある」なら70点。「野菜・海藻・果物がタンパク質の2倍ある」で80点など、本の中では視覚的に分かりやすくしているのも特徴です。

3食を完全に整えるのは難しいですし、できる範囲で栄養素をそろえるアドバイスをしています。例えば、子どもが好きな料理で「焼きそば」がありますが、肉も野菜も入っているからバランスがよいと考えがち。ですが、目玉焼きを上にのせるだけで一品分の栄養価を上げることができるので手軽です。

ーー子どもの苦手食材は克服させた方がよいのでしょうか。

あこさん 無理に食べさせるのではなく違う食材で栄養素を補うことを勧めています。くせの強い野菜やきのこ類などは苦手なお子さんが多いですが、海藻類で代替すると無理なく食べることができます。例えば、わかめは、にんじんや小松菜などの緑黄色野菜と同等のβ―カロテンを持ち、ブロッコリーの20倍以上のマグネシウムを含みます。また、きのこ類と同等の食物繊維を含む優秀食材です。わかめごはんにしてもいいですし、みそ汁やスープにさり気なく入れることができて便利です。市販の乾燥わかめで構いませんので日常的にとり入れましょう。

ーー簡単おやつと、ストック食材についても教えていただけますでしょうか。

あこさん 子どもにとっておやつは補食です。わが家のおやつは、おにぎりを食べさせることが多いですね。50g大のおにぎりを冷凍保存しておき、食べたいときに電子レンジで加熱するだけです。これをスナック菓子や甘いスイーツを食べる前に食べさせています。量を子どもに把握させるために50gのおにぎりを一緒に作るところから始めるのもいいですね。食育にもつながりますし、親子で楽しめる時間になると思います。

それから、常備しておいてほしい食材ですが、ナンバー1は「ちりめんじゃこ」です。大さじ1~2程度で鉄分が補給できますし、亜鉛もビタミンDも摂れます。わが家では、それこそおにぎりの具はもちろん、鶏肉の肉団子の中に忍ばせたりしていますよ。冷凍保存ができるのでストックも便利です。

あとは、卵とツナ缶を常備しておくといいですね。卵は先ほども目玉焼きを例にして話をしましたが、食物繊維とビタミンC以外はすべての栄養素を含む万能食材なので、どんどん活用してほしいですね。ツナ缶は、缶詰なので長期保存ができますし、タンパク質とビタミンDを豊富に含むので重宝します。

すぐマネできる理想的な献立例

ご著書の中から、成長期のお子さんにおすすめで作りやすいレシピを2つ厳選していただきました。栄養バランスがよくて簡単なので、ぜひこの機会に作ってみては。

ひと皿で栄養満点ごはん① 『ポークビーンズ』

ひと皿で栄養満点ごはん② 『サーモンポキ丼』

子どもとの時間を大切に

病院での職務経験を通して、マクロビオティックと分子栄養学を取り入れたオリジナルの「適食アドバイザー」をめざしたのは、ご自身の経験や産後の不調などがあったから、とあこさん。子どもの栄養は大切ですが、それだけではなく親御さんの「完璧を求めすぎない生き方も大切ですね」と、最後に献立づくりのアドバイスをしてくださいました。

あこさん 成長期は食事だけでは追いつかないほど栄養が必要になることがあります。その場合は、三大栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)を摂取したうえで、サプリメントに頼る時期があっても構いません。「料理はすべて手作りをしなければいけない」と思わずに、便利な冷凍食品を使っても全然問題ないです。不足しやすい栄養素が何かを知って、それを簡単に補える方法を学ぶことが重要です。「栄養補給は難しい」という固定概念を捨てて、ラクに料理ができる方法をこの本で身につけていただけたらうれしいです。

お話を伺ったのは…

あこ 管理栄養士/適食アドバイザー

管理栄養士。適食アドバイザーⓇ。総合病院で管理栄養士として勤務し、栄養指導やがん治療・研究に携わる。その後、マクロビオティックに出合い、メニュー開発、料理教室での指導、料理番組制作、企業講演などを行う。産後の不調がきっかけで分子栄養学を学び、「分子栄養学×マクロビオティック×基礎栄養学×臨床栄養学」という独自の食事法を編み出し、適食アドバイザーとして活動している。2児の母。著書に『これを食べれば勝手にキレイになる 「甘いもの欲」が消えて身体の中から輝く食事術』(KADOKAWA)、『おいしく食べて、体ととのう まいにちの栄養学』(ナツメ社)。
YouTube チャンネル「あこの栄養学」は登録者数25.9万人、「あこの栄養学kids」は3.9 万人を突破(2025年5月現在)

あこ 主婦の友社 1,760円(税込)

「偏食が気になる」「身長を伸ばしてあげたい」「栄養バランスってこれでいいの?」「必要な量を食べているのかな」……、わが子には健康な体と心を手に入れて、自分の好きな運動や勉強を思いっきりやってほしい……。親の願いはそこに尽きます。子どもに幸せな人生を歩んでほしいからこそ、子どもの食事や栄養のことで悩んだり不安になったりするものですよね。ただ、普段の食事で子どもに良かれと思ってやっていることが、実は栄養不足の原因になっていることも!さらに、「朝、起きられない」「癇癪がひどい」などの原因に、実は栄養不足が隠れていることもあります。自身も二児の母、管理栄養士で適食アドバイザーのあこさんが、親御さんたちの不安や悩みをまるっと引き受け、最新の栄養学のエビデンスに基づいて、食事や栄養についてアドバイスします。

取材・文/川越光笑

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