妊婦さんなら知っておきたい食中毒「リステリア症」。早産・流産の原因になることも【医師監修】

リステリア症とは、リステリア・モノサイトゲネス(以下、リステリア菌)と呼ばれる細菌による感染症です。リステリア菌は、動物の腸管内など環境中に広く存在しており、食品を介して感染する食中毒菌です。通常、健康な大人の場合、多くのリステリア菌を摂取しなければ発症しませんが、妊娠中は、免疫力が低下するため注意が必要です。妊婦さんがリステリア症になると、早産、流産、死産を引き起こすこともあります。

東京女子医科大学 産婦人科学講座 菅野俊幸先生に、妊娠期にリステリア症を防ぐポイントや受診の目安について教えてもらいました。

妊娠中はナチュラルチーズ、肉や魚のパテ、生ハム、スモークサーモンは避けて

リステリア症の発症率は、海外のほうが高くアメリカでは100万人中3.1人、フランスでは4.1人、日本では0.65人とされています。

この数字を見て「日本人は少ない」と安心した人もいるでしょうが、妊婦中は免疫力が低下するため、妊娠していない健康な人よりも妊婦さんは20倍発症率が高いと言われています。

そのため厚生労働省では、妊娠中は特にナチュラルチーズ(加熱殺菌していないもの)、肉や魚のパテ、生ハム、スモークサーモンは避けたほうがよいと注意を呼びかけています。

アメリカでは、リステリア菌が混入したアイスを食べて3人が死亡

ただし注意が必要な食品は、「ナチュラルチーズ(加熱殺菌していないもの)、肉や魚のパテ、生ハム、スモークサーモン」だけではありません。

2015年アメリカでは、アイスを食べた人がリステリア菌による食中毒で3人が死亡、8人が入院となりました。アイスの製造工程でリステリア菌が混入したとみられています。

リステリア菌は、冷蔵庫内でも増殖する

リステリア菌は、加熱には弱いのですが、4 ℃以下の低温や 塩漬けでも菌が増殖するのが特徴です。

一般的に、食品は冷蔵庫で保存したり、塩漬けしたりしていると食中毒菌が増えないと思いがちです。しかし、リステリア菌は増殖するので注意が必要です。

チルド室を活用し、野菜や果物はよく水洗いする

そのため予防には、次の点を心がけましょう。

  • 加熱して食べる食材は、十分に加熱する
  • ●冷蔵庫よりも温度が低い、チルド室を活用する
  • 冷蔵庫で保存するときは密封容器などを使用して、食品同士がくっつかないようにする
  • 鮮度に気を配る。食品は期限内に食べ切るようにして、開封後は早めに食べ切る
  • 生野菜や果物は、よく水で洗ってから食べる
  • まな板や包丁は、熱湯消毒やキッチン用漂白剤で消毒して清潔を保つ

リステリア症は軽症だと、風邪や胃腸炎と診断されてしまうことも

リステリア症の初期の症状は、次の通りです。

・発熱(38℃以上)
・倦怠感
筋肉痛
頭痛
・下痢 
・嘔吐 など

これらの症状があるときは、かかりつけの産婦人科もしくは内科を受診しましょう。

リステリア症は日本ではまれなため、軽症だと風邪や胃腸炎と診断されやすいのですが、もし風邪や胃腸炎と診断されて、処方薬を2日間服用しても症状が改善しないときは、かかりつけの産婦人科を受診してください。そのときに「リステリア症ではないでしょうか?」と医師に伝えると、診断の助けになります。

妊婦さんがリステリア症になると、早産の割合は約70%

妊婦さんがリステリア症になると、妊婦さん自身が重症化することはまれですが、おなかの赤ちゃんへの影響が心配されます。

おなかの赤ちゃんにリステリア菌が感染した場合の致死率は約20~30%。妊娠継続が困難となり、早産になる割合は約70%と言われています。

リステリア症と診断された2つの事例

妊婦さんと赤ちゃんがリステリア症と診断された事例を紹介します。この2人の妊婦さんは、当院がかかりつけでしたが、発熱や不正出血などで受診しています。

【事例1 妊娠27週で39℃の発熱。緊急帝王切開で早産】

妊娠27週の妊婦さんが39℃の発熱と不正出血で受診。すぐに抗菌薬の投与を開始する。妊娠28週2日に子宮収縮に伴う、胎児の心拍数の低下が頻回にみられたため緊急帝王切開となる。赤ちゃんの出生体重は1292g。妊婦さんは血液検査から、リステリア症と判明。赤ちゃんにリステリア菌の感染兆候は認められないものの脳の一部に空どうがあり、手に麻痺もみられた。

【事例2 子宮内感染が疑われて妊娠31週で帝王切開。赤ちゃんは誕生後まもなく亡くなる】

妊娠31週の妊婦さんが38℃の発熱と胎動が弱くなり受診。母体発熱や炎症反応上昇などから子宮内感染があると推察されたため緊急帝王切開となるが、赤ちゃんは重篤な状態で、生後4時間で亡くなってしまう。妊婦さんに血液検査や尿検査などを行うが、結果はすべて陰性。しかし赤ちゃんの咽頭、皮膚、便からはリステリア菌が検出されて、リステリア症と診断された。

手作りスムージーからリステリア菌に感染した疑いが

上記の事例で紹介した妊婦さんに話を聞くと、「肉の加熱には注意していた」と言います。しかし1人の妊婦さんは「健康のために毎日、野菜とフルーツでスムージーを作って飲んでいた」とのこと。感染経路をたどることはできないのですが、もしかしたら野菜や果物をよく洗っていなかったことが原因かもしれません。

妊娠中は、免疫力が低下するため、食材の取り扱いには十分注意してください。トキソプラズマ症については知っている妊婦さんは多いと思うのですが、併せてリステリア症についても覚えておきましょう。

記事監修
東京女子医科大学 産婦人科学講座 菅野俊幸先生
医学博士。助教、医局長。臨床研修指導医、日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本周産期・新生児医学会専門医・指導医(母体・胎児)、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医、日本産科婦人科内視鏡学会認定腹腔鏡・ロボット技術認定医ほか。

取材・構成/麻生珠恵

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