文章型パズルで“整理して読む力”を育てる
――国語も算数も「論理的思考力」が必要なのですよね。両方の力を育むにはどうしたらいいでしょうか?
宮本先生:そうなんです。なんとかして、国語が苦手な子にも算数と同じ顔で問題を解かせたいと思ってつくったのが、この文章型パズルです。上級になるにつれて、だんだん文章が長くなる。国語が苦手な子は途中で読むのをやめたくなってしまうんですが、このパズルなら“整理しながら読み進める”練習になるんです。

宮本先生:国語の問題も、算数と同じように論理的に考えれば正解にたどり着けます。必要になる根本の力は同じ。だから、算数ができる子は、いずれ国語もできるようになるんですよ。
いい問題集の選び方と使い方
始めどき「小学校入学前」、一日にやる量は「やりたいだけ」
――国語と算数を同時に伸ばせるなんて、すごいですね。そして何より、楽しそう。先生の問題集は、何歳くらいから始めるのがよいのでしょう? 一日どのくらいやるのが理想ですか?
宮本先生:おすすめは、小学校入学前の“準備期”くらいに始めてみることです。「算数と国語を同時に伸ばすパズル」(小学館)もそうですが、「賢くなるパズル」(Gakken)など私が作っているパズル問題集は、すべて同じ考え方でつくっています。
やりたければ、やりたいだけやればいい。やりたくない日は、やらなくてもいい。最初のうちは簡単なので、どんどん進められます。途中で「級位認定証」がもらえる仕組みになっているので、達成感も味わえる。だから、子どもはうれしくて自分から進んでやるんです。

――無理にやらせなくても、自然と続けられる仕掛けがあるんですね。
宮本先生:ただ、だんだん難しくなってくると、解けなくなって一度やめてしまう子もいます。でもね、そのうちまたやり出すんですよ。わからないときに手を止めても、脳の中ではちゃんと考え続けている。だから、無理に声をかけず、そっとしておいてくださいね。
問題集を選ぶときに見るポイントは、余白があるか、解説が詳しいか
――パズル以外の問題集については、どんなものを選ぶとよいでしょうか?
宮本先生:まず一番ダメなのは、1ページに問題がぎっしり詰まっているタイプ。別のノートに書いてやらなきゃいけない仕様ですが、子どもは結局、問題集の小さい余白に無理やり小さい字で書き込み、もう何がなんだかわからなくなる(笑)。しかも、そういう問題集は、解説も文字が小さく、あまり詳しく書かれていない場合が多いんです。

――確かに。子どもはびっしり字が詰まったページを開くだけでやる気をなくしそうですね。
宮本先生:そう。だから、余白がたっぷりある問題集がおすすめです。私がつくった「賢くなる算数」(Gakken)では、見開きに1問だけを載せています。そして、解説には必ず2つの解き方を入れているんです。

宮本先生:ひとつは、数を当てはめて地道に考える「時間はかかるけれど確実な方法」。
もうひとつは、理路整然とした「公式などを使ったスマートな方法」。
後者のほうが効率的なんですが、それだけを暗記されるのは嫌なんです。前者も立派なやり方で、多くの子どもはまずこのやり方を思いつく。だから、どちらも載せています。
賢い復習方法と、ケアレスミスを本気で減らす方法
「正答率50%超だけ復習」でムダを削る
――問題集で間違えたところは、どんなふうに復習すればいいでしょうか?
宮本先生:私自身、学生のころは通信教育をやっていたんですが、添削問題をためないように、とにかく出すのに必死で…。戻ってきて間違えた問題を解き直したことなんて、一度もありません(笑)。
でも、最近読んだ本にあった「正答率が50%を超える問題だけを復習する」という方法は、すごくいいなと思いました。みんなができているのに自分だけ間違えた問題って、単純なミスか、知っているはずなのに抜けていた部分のどちらかなんです。つまり、そこを塞ぐだけでいい。大変じゃないのに、成績がぐっと上がります。今はこの方法をおすすめしています。

――なるほど、みんなができているのに自分だけ落としたところを見直すんですね。
宮本先生:あと、子どもは同じ問題を繰り返すのを嫌がりますよね。でも、復習させたい問題を別の紙に書き写してあげると、同じ問題でも初めて見る問題に見えるんです。そうすると不思議と取り組んでくれる。復習させたいときは、ひと手間かけて“新鮮さ”を出してあげるといいですよ。
「ごっそり減点」の仕組みで見直し力を鍛える
――ケアレスミスで点を落とすこともあります。減らすコツはありますか?
宮本先生:ケアレスミスの直し方は、実はとても簡単なんです。「ミスをしたら、ひどい目にあう」と子どもが感じるような仕組みをつくればいい。
たとえば、うちの教室ではテストの点数に合わせてポイントがもらえる“ポイント制”を導入しています。でも、ケアレスミスをするとポイントをごっそり引くんです。6年生なら、計算ミス1問で-5ポイント、2問で-25ポイント、3問で-125ポイント。子どもたちにとっては衝撃的な引かれ方ですよ(笑)。だから、「絶対引かれたくない!」と集中して見直すようになるんです。
――ちょっとしたルールで、子どもの意識が変わるんですね。
宮本先生:計算だけではなく漢字も同じ。入試前なんかは、「トメ・ハネ・ハライ」までしっかり書けるように、画数まで答案用紙に書かせることもあります。そうすると、間違えなくなるだけではなく、自然と字もきれいになります。
成績を上げたいなら、とにかく寝かせる!
――たとえば、考えてもわからない問題があったとき、いつまでも考えるのではなく、答えを見て学ぶというのはどうでしょうか?
宮本先生:すぐに答えを見るのは厳禁です。答えを見て「あ、そうか」で終わってしまうので、まったく力になりません。
人間の脳には「意識の領域」と「無意識の領域」があります。昔は、無意識の領域は眠っていると思われていましたが、実は違う。働いていない部分なんて、ひとつもないんです。むしろ起きている間に使える領域はほんの一部。寝ている間こそ、無意識がフル回転して、考えを整理してくれているんです。
――つまり、寝ている時間も勉強の一部、ということですね。
宮本先生:そうです。テスト前日に「寝たら忘れちゃう」といって徹夜する人、いましたよね? あれ、逆なんです。寝ている間にこそ、脳はしっかり情報を整理して、記憶を定着させてくれる。だから、何か課題を抱えたまま寝るのが一番いい。寝る間を惜しんで勉強するんじゃなくて、悩む間を惜しんで寝るんです。
そのほうが、ずっと効率がいいし、子どもにとっても健全です。コロナ禍でオンライン授業をしていたとき、こんな話をしたことがあります。

宮本先生:「今から、とっておきの勉強法を教えます。どうしても解けない問題は、寝る前に頭に入れて、そしてそのプリントは枕の下に敷いて寝てください。すると、寝ている間に“小人さん”が出てきて、かわりに解いてくれます」って。
最初は半信半疑だった子どもたちが、翌朝「本当だったー!」と目を輝かせて報告してくれました。もちろん小人なんていません。でも、寝ている間に脳がちゃんと働いていた証拠なんです。
寝る時間を削るより、いい眠りの中で“考える力”を育てていく。それこそが、子どもたちにとって一番の学び方だと思います。
前編では「算数嫌い」になる親のNG行動、算数力の伸ばし方などを伺いました
お話をうかがったのは…
1959年生まれ。早稲田大学第一文学部演劇学科卒業。学生時代に塾業界に携わり、大手進学塾の講師を経て、1993年に「宮本算数教室」を横浜に設立。
入塾は“無試験・先着順”ながら、卒業生の約8割が首都圏の最難関中学校へ進学するなど、その実績と独自の指導法で知られる。現在は東京都千代田区で、小学1年生から6年生を対象に授業を行っている。
著書に「算数と国語を同時に伸ばすパズル」(小学館)、「賢くなるパズル」(Gakken)、「強育論」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。「情熱大陸」(MBS)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ)ほか、多くのメディアにも出演している。
取材・文/篠原亜由美