年長児でほとんどのひらがなを読めるように
文字を習得する前段階の準備のことを、「プレ・リテラシースキル」と呼んでいます。就学前にはドリルよりも、暮らしの中で“文字が身近に感じられる瞬間”をちょっと足して、まずは文字に興味を持ってもらうことが大切です。文字は生活を助け、便利にする道具です。まずはそのことに気づけると、その先の文字への習得の足掛かりになります。
年長児の調査では、教育熱心な園や家庭などの特別な訓練がなくとも、多くの子がひらがなの直音(小さい<ゃゅょっ>が付かない音)を読めるようになることが分かっています。
3歳ごろは自分の名前や生活のなかで見かける看板や絵本の題名を指さしをしたりしだします。4歳ごろから身近な単語の中の文字に気づき出し、5歳ごろには1文字ごとに音と文字を対応させて読める字が増えていきます。年長児になると短い語や簡単な文を声に出して読むことへと広がっていく子もいます。
ひらがなの読みの発達の目安
3歳頃……自分の名前に使われているひらがなをいくつか読めることがある。興味のある言葉(例:「マクドナルド」「アンパンマン」など)を覚える子も。
4歳頃……よく見る単語や、自分の周りの言葉に含まれるひらがなを少しずつ読めるようになる。五十音の一部を認識しはじめる。
5歳頃……多くのひらがなを単独で読めるようになる。五十音を順番に言える子もいるが、習得には個人差がある。
6歳頃(年長児)……ほとんどのひらがなを読めるようになる。短い単語や簡単な文を読む力がつく。音韻認識(音と文字の対応)がしっかりしてくる。
小学校1年生……教育課程で正式にひらがなの読み書きを学び、すべてのひらがなの読みが確実になることが期待される。
文字を身近にする小さな工夫あれこれ

お店の看板やロゴを一緒に見る
看板やロゴ、パッケージなどは文字への気づきのチャンスです。おかたづけをするときにパッケージのラベルを一緒に読む、買い物で看板やマークを指さして「これは何のマークかな?」と話します。
音あそびで音韻意識の土台を育てる
文字を読むことの土台になるのは、ことばを構成する音に気が付き、音を頭の中で操作する力です。
手拍子でことばのリズムを刻む、しりとりで「ばななの“ば”」のように最初の音や最後の音を取り出す、などの活動です。こうした音あそびは、文字と音をつなぐ橋渡しになります。
少し苦手な子はマグネットを音の数だけ置くなど、目で見たり触ったりして動かせる手がかりが助けになります。が、長い時間をかけるのは禁物。5分程度で切り上げて「今日はここまで」と、短く、軽く、が長続きするコツです。
形の違いに気づかせる

視線の移動が安定すると文字列が追いやすくなります。まちがい探しのような左右を見比べる活動、形探しや積み木の形合わせもおすすめです。よく見て“形の違いに気づく目”は文字の見分けやすさにつながります。
生活のなかで使われている“文字への気づき”を促す

お手紙ごっこで書くマネをする、文字マグネットを並べて読む、メニューを指さして「ご注文はどちらにしますか?」とお店屋さんごっこ、ホワイトボードに文字を書くマネをして先生ごっこ――このように、遊びのなかで、文字の役割を読むマネ・書くマネができるようになるのもプレ・リテラシースキルのひとつです。
毎日の会話で語いを増やす
読み書きの土台は、知っている語いの数です。
散歩で見つけた物の名前や特徴を言い合う、台所で材料や道具のなまえをやりとりする、絵本の絵から「これはなが~いね、こっちは?」と話を広げる。文字練習と同じくらい、こうした語いを広げて増やす毎日の会話が、読み書きの習得にも役立っていきます。
うちの子は読み書きが苦手かも? と思ったら。専門機関への相談の目安

発達上の特性として、読み書きが苦手なお子さんもいます。もし、次にあげるような様子がいくつも続くなら、これまで説明したような取り組みを続けながら、相談先を探してみてください。
・5歳代になっても音を入れ替えるなどの言いまちがいや言えない音が多い
・5歳代になってもしりとりがなかなかできるようにならない
・6歳代で、練習しても翌日には文字と音の結びつきが薄れやすい、読める文字がほとんど無い
などです。読み書きの習得に詳しいお医者さんや言語聴覚士などが力になります。
覚えはじめの文字は、教え込むのではなく、暮らしの中に“気づきの種”を取り入れていきましょう。無理なく、楽しく、生活とつながる形でプレ・リテラシースキルを少しずつ育てていきましょう。
教えてくれたのは
慶應義塾大学文学部卒。養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、耳鼻科クリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務ののち独立し「ことばの相談室ことり」を設立。現在、東京都台東区と熊本市中央区に店舗を構える。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。専門は、子どものことばの発達全般、吃音、発音指導、学習面のサポート、大人の発音矯正。著書に、『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)、『発達障害&グレーゾーン幼児のことばを引き出す遊び53』(誠文堂新光社)がある。
*参考文献:島村直己・三神廣子(1994).幼児のひらがなの習得.教育心理学研究,42(1),70-76.
太田静佳・宇野彰・猪俣朋恵(2018).幼稚園年長児におけるひらがな読み書きの習得度.音声言語医学,59,9-15.
