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バウンサーが「絶壁」の原因になることも!?
――髪がしっかり生えてくる前の新生児から6か月くらいの間は、赤ちゃんの頭のゆがみがあると目立ち、気になります。なぜ赤ちゃんの頭のゆがみが生じるのでしょうか。
林先生 生まれたばかりの赤ちゃんの頭の骨はとても柔らかく、成長とともに形が作られていきます。しかし、同じ姿勢で寝ることが多く「向き癖」が強い場合、頭のかたちが斜めになったり、絶壁のようになる「位置的頭蓋変形症」が起こることがあります。
また、生まれてくるときの子宮内や産道の圧迫、生まれつきの頭のかたちでゆがむこともあります。


それと、「絶壁」と言われる短頭症の場合、長時間バウンサーを使っていることが要因になることもあります。
――えっ!? バウンサーですか?
林先生 バウンサーは赤ちゃんの身体の動きで揺れます。バウンサーが沈むときの反動で後頭部を押されてしまうので、あおむけにただ寝ているよりいっそう悪化しやすいです。使用は短時間にしたほうがいいでしょう。移動のときもベビーカーで寝かせるより、縦抱きの抱っこのほうが、後頭部が押されることが少なく、理想です。
そうはいっても、いつも抱っこというわけにはいかないでしょうから、程度の問題ではあります。少し意識して時間を短くするといいでしょうね。
病気で頭のかたちが変形することも。脳の発達に影響はある?
林先生 また、多くの場合は機能面では問題がありませんが、頭のゆがみの原因として、まれに病気が原因のことがあります。問題がないかどうか一度確かめておきたいです
――どんな病気ですか?
林先生 頭蓋縫合早期癒合症(ずがいほうごうそうきゆごうしょう)という病気の場合があるんです。赤ちゃんの頭蓋骨を構成する複数の骨を結ぶ頭蓋縫合が、通常よりも早く癒合する(くっついてしまう)病気です。
通常、赤ちゃんの頭の大きさは生後1年で2倍に成長します。それが可能になるのは、頭蓋に最初から隙間があるからです。小さい頃は大泉門や小泉門が開いている、とよく言いますね。あれも頭蓋の隙間です。頭の大きさがほぼ成長してきたら頭蓋の隙間が癒合していきます。でも最初から一部が閉じているとその部分では脳の拡大がおこらず、頭蓋骨の形がいびつになります。また脳が成長できず窮屈さを感じると、脳の発達に影響を与える可能性があります。
この病気は、頭蓋骨の正常な成長を妨げ、頭の形状や脳の発育に影響を与えることがあるのです。

――この病気であれば、頭蓋の一部が最初からくっついていて脳が均等に大きくならないからゆがむということなんですね……。
林先生 海外での報告によると、頭蓋縫合早期癒合症は出生1万人あたり4~10人と言われています。原因はまだ不明ですが、胎児のときの状態に起因する場合や、遺伝的な異常で起きる場合もあります。
当院は脳神経外科専門医が「赤ちゃんの頭のかたち外来」でゆがみの診断を担当します。まず診察時に頭蓋縫合に異常がないか確認します。診察時の所見や、触診からこの病気が疑われる場合は、レントゲンを撮影し診断を行います。
頭蓋縫合早期癒合症と診断された場合でも、軽い場合は経過観察でいいですし、早期に適切な治療を行えれば多くの場合で正常な発達が期待できます。重症例や合併症を伴う場合には手術が必要になる場合もありますし、長期的なフォローアップも必要となります。
心配しすぎる必要はありませんが、頭のゆがみがあるときに「寝かせ方を変えれば大丈夫」とか、後編で紹介する「ヘルメット治療で治せばいい」と思いすぎてしまうと、この頭蓋縫合早期癒合症の治療のタイミングを逃してしまうことがあります。まずは診断を受けることが大切ですね。
3Dカメラで頭のかたちを測定してゆがみの程度を知る
――頭蓋縫合早期癒合症でなかった場合、どのように受け止めればよいでしょうか。
林先生 頭のゆがみの程度は、軽度、中等度、重度と様々です。まずはゆがみの度合いを測定します。当院の「赤ちゃんの頭のかたち外来」では、受診された初回に、3Dカメラを使って計測し、ゆがみを数値化します。従来は、見た目上の形から重症度を判断する「Argenta分類」という方法が用いられていました。国際的に広く知られている分類ではありますが、ある程度主観による分類であることがデメリットではあります。
3Dカメラによる診断では、まず、赤ちゃんには保護者の膝の上か椅子の上で座っていてもらい、スタッフが頭全体を360度撮影(5~10分)します。撮影したデータを他社で解析してもらいます。平日であれば約30分で解析が完了します。短時間で被ばくもなく、安全に正確なデータが得られるのが大きな特徴です。

軽度の場合はうつぶせ寝遊びの時間を増やし、移動は縦抱っこ中心で
林先生 これによって、軽度と診断されたのであれば、理学療法分野の簡単なケアで自然に改善することが期待できます。
――どんな方法でしょうか。
林先生 向きを変えて寝かせたり、うつぶせ遊び(タミータイム)を増やすなどの簡単なケアが中心です。方法は、本院でもお伝えできます。
――月齢の低い赤ちゃんだとうつぶせ遊びは難しいですよね?
林先生 保護者の方が仰向けになり、胸の上に赤ちゃんをのせて支えて遊ばせてあげるのもひとつの方法です。首がすわる頃になれば、うつぶせ遊びは首の筋力の強化になり、それが向き癖改善の一助にもなります。1日数回でもいいので、実行されるといいですね。
そのほかは、前述したようにバウンサーを使う時間やベビーカーでの移動時間を少なくしながら、改善を期待します。
ゆがみが中等度~重度なら「ヘルメット治療」も
林先生 頭のゆがみが中等度~重度の場合は自然経過では十分に改善しないというデータがあります。脳の機能としては問題がないので心配は要らないといわれていますが、美的な観点から改善を期待されたい場合で、保護者様のご希望がある場合はヘルメット治療を提案しています。
――ヘルメット治療とは? 記事の後編はこちら
お話を聞いたのは
脳神経外科専門医。1999年灘高校卒、2005年東京大学医学部医学科卒。カンボジアのSunrise Japan Hospital Phnom Penhで院長、脳神経外科部長、総合診療部長。帰国して北原国際病院院長となるも、自らの理念の体現として2024年けやき脳神経リハビリクリニックを開院、院長に。脳の病気の予防や罹患後の適切な理学療法、作業療法、言語療法による機能回復に尽力する。同時にたとえ障がいがあってもその人らしさを大切に、幸せな人生を歩んでいく支援に注力。コミック『宇宙兄弟』の医療監修も行った。同院「赤ちゃんの頭のかたち外来」では開院後140名を診療。子育て経験豊富なスタッフが診療をサポート。https://keyaki-nrc.com/
取材・文/三輪 泉
