イヤイヤと泣き暴れる娘をかかえ、横断歩道を逆走したあの日。モンテッソーリ教師・杉浦あきえが綴る育児の話。《子どもと紡ぐ彩りデイズ》vol.2

子どもとの毎日は、カラフルで鮮やかな瞬間だけでなく、大変なことや葛藤も含めてさまざまな色(感情や体験)に満ちていますよね。時には、喜怒哀楽をうまく言葉にできない気持ちが、脳内をぐるぐるすることも。モンテッソーリ教師・杉浦あきえさんの連載「今日は何色?子どもと紡ぐ彩りデイズ」では、あきえさんご自身の子育て中の脳内をそのままエッセイとしてつづります。

連載2話目は「イヤイヤ期」の思い出。

・杉浦あきえ:モンテッソーリ教師
・夫:同じ年で多趣味
・長女:9歳(2016年生まれ)、何かを考えたり言葉にしたりすることが大好き
・次女:4歳(2021年生まれ)、天真爛漫でおしゃべりが止まらない

信号が青に変わった瞬間、娘の手が、すぽんと抜けた。

「っや(いや)!!!!」

その声と同時に、娘は私とつないでいた手を振り払って、片側三車線の横断歩道を交差点に向けて走り出した。前へ、じゃない。後ろへ、でもない。交差点に向かって、斜めに突進。

頭の中が一瞬、真っ白になる。あのとき私が感じたのは、「まずい!」だけだった。

当時の娘は、いわゆる「イヤイヤ期」真っ最中、2歳8か月。1月末の空気はツーっと冷たくて、私はダウンジャケットの襟を立てていた。自転車に乗るのは拒否で「歩きたい!」の日。片手に自転車、片手に娘。

「この横断歩道はお車がたくさんだから、一緒に手をつないで歩こうね」
「うん!!!」

一切こっちを見ずに元気な返事(笑)。

青になった。私はぎゅっとより力を入れて横断歩道を渡り始めた。もう少しで横断歩道の半分まで行けると思った、その瞬間。

パッと娘の手が抜けて、交差点の中心へ向かって走ろうとした。

私の体は勝手に動いて、娘の腕をつかんだ。つかんだ、というより、抱きかかえた。

「点滅し始めてるーーーーー!!!」

人は窮地に追い込まれると笑ってしまうのはなぜだろうか。このときの私ももう笑いがあふれながら、威勢の良いピチピチ跳ねる海老を抱きかかえるかのように、

「はなして(離して)ーーー!!!!」と叫ぶ娘に
「だめ、だめ! 待って! いったん渡らせて」と言った。

正確には、”言ったんだと思う”。

そのとき何を言ったのかは記憶には残っていないけれど、とにかく「だめ」と「待って」を連呼していたような記憶。

なんとか横断歩道を渡りきり、すぐに手から自転車のハンドルをパッと離して自転車を道路の看板に立てかけた。やっと空いた両腕と、全身で娘を抱きかかえる。まだピチピチと跳ねるように「だっこ、ちがーーう(抱っこしないで)」と叫ぶ娘に問いかける。

「道には行けない。車にひかれちゃう」
「〇〇ちゃんはどうしたいの?」
「どこか行きたいところがあるの?」

「ちがうちがうー」と怒り泣きをしている娘を抱きかかえながら、どれくらいだろか。その場で、落ち着くのをしばらく待った。

….。

それで落ち着いたら、「イヤイヤ期」は苦労しない。
数分では落ち着かないのが、「イヤイヤ期」だ。
むしろ、逆方向に過熱していく。

「イヤイヤ期」というより「メラメラ期」

道路に寝転がり、「◯✕□#@〜〜〜」と言葉にならない声をあげる。怒っている間に、靴まで脱げてしまった。

でも、幸いなのはなぜかヘルメットは被っているところ。頭は守られているので、私は娘を見守ることができたのかもしれない。(最初は自転車に乗るつもりでヘルメットを被っていた。でも、荒れたお天気のようにコロッと「歩く」ことに気持ちが変わってしまったのだ)

そんな落ち着かない娘を見守りながら思う。
このエネルギーさんよ、あなたは本当にすごい。

誰に言われたわけでもないのに、自我を発達させて、自立へ向かうために、こんなにも全力でエネルギーを放っている。子どもの中にある自らを成長させていく力。「自己成長力」って、やっぱりすごい。このエネルギーは強いよ。

だから、私は「イヤイヤ期」なんて言い方は子どもに失礼で、エネルギーに満ちあふれて仕方のない「メラメラ期」だと思っている。そんなメラメラ期は、もちろん大人も疲れる。

そりゃそうだ。こんな小さい身体で、自分より2倍以上も大きい大人をこんなにも混乱させて、困惑させることができるんだもの。子どもが出すエネルギーに大人はまるで大火傷。それくらい燃えている。だから、やっぱり「メラメラ期」。

娘はというと、落ち着かないけど、もう体力も限界。

空腹も重なり、悪循環。
寄り添い続けた結果、

「一度、お家に戻ろう」

そう決めて、なんとか自転車のチャイルドシートに乗せて、人生最速記録で家に帰った。そして、まだ怒って、床でバタバタしている娘に、もう一度聞いてみる。

「ママに止められたのが、嫌だったのね」
「どこに行きたかったの?」

….。

「からあげ!!」
「え????(笑)からあげ?!?!」

そう。娘は「イヤイヤ」していたわけじゃない。

歩きたかった。
自分で歩きたかった。
自分のペースで楽しみたかった。
そして、見つけてしまった。
前にお友達と行った、あの「からあげ屋さん」。
そしたらどうしても行きたくなっちゃって、ピューって走っちゃった。

ただ、それだけ!
そんな理由があったとは!

「想定通り」になんて進まない、子どもとの日々。大変かと聞かれたら、「はい、大変です」と答える。

それでも、あなたのメラメラに何度も向き合いながら、人として成長させてもらったと思わずにはいられない。

前回の話はこちら

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つわりを理解されずに苦しんだ懐かしい日 「もう……どうしてわかってくれないの……」 吐き気と一緒に、涙までこみ上げてく...

最新著書『子育ての“イラッ”“モヤッ”を手放す本』

HugKumで人気を博した連載「あきえの子育てROOM」を元に、大幅に加筆修正を加えた1冊。「泣き」「ぐずぐず」/「やってほしくないこと」/「ワガママ」「イヤイヤ」/「食」/「しつけ」「将来」/「パートナー」と大きく6つのパートにわけて、“イラッ”“モヤッ”を解決するためのメッセージを届けています。

モンテッソーリ教師あきえ 小学館 1,760円(税込)

子どもが泣きわめいていて手をつけられない…、パートナーに大変さを訴えても流される…、子育てをしていると、どうしても出てきてしまう、「イラッ」「モヤッ」な気持ち。でもそれは、自分のマインドセットと子どもへの見方を少し変えるだけで、手放すことができるんです。

子育て中のママパパから高い支持を得ている著者が、「イラッ」「モヤッ」を感じる具体的なシーンに対してどのようにしたらいいか、マンガ付きでわかりやすくお伝えします。

プロフィール

杉浦あきえ モンテッソーリ教師

国際モンテッソーリ教師(AMI)

幼稚園教諭、保育士、小学校教諭。二児の母。

 

幼い頃から夢見た保育職に期待が溢れる思いとは裏腹に、現実は「大人主導」の環境で、行事に追われる日々。そのような教育現場に「もっと一人ひとりを尊重し、『個』を大切にする教育が必要なのではないか」とショックと疑問を感じる。その後、自身の出産を機に「日本の教育は本当にこのままでよいのか」というさらなる強い疑問を感じ、退職してモンテッソーリ教育を学び、モンテッソーリ教師となる。「子育てのためにモンテッソーリ教育を学べるオンラインスクール Montessori Parents」創設、オンラインコミュニティ”Park”主宰。著書に『モンテッソーリ教育が教えてくれた「信じる」子育て』(すばる舎)、『モンテッソーリ流 声かけ変換ワークブック』(宝島社)、『子育ての「引き算」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『子育ての“イラッ”“モヤッ”を手放す本』(小学館)。

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イラスト/カラシソエル

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