つわりの辛さは夫婦でわかり合える? 【新連載 モンテッソーリ教師・杉浦あきえの子育て脳内エッセイ】

子どもとの毎日は、カラフルで鮮やかな瞬間だけでなく、大変なことや葛藤も含めてさまざまな色(感情や体験)に満ちていますよね。時には、喜怒哀楽をうまく言葉にできない気持ちが、脳内をぐるぐるすることも。モンテッソーリ教師・杉浦あきえさんの新連載「今日は何色?子どもと紡ぐ彩りデイズ」では、あきえさんご自身の子育て中の脳内をそのままエッセイとしてつづります。初回のエピソードは「つわりが理解されない辛さ」について。

つわりを理解されずに苦しんだ懐かしい日

「もう……どうしてわかってくれないの……」

吐き気と一緒に、涙までこみ上げてくる。ただ気持ちが悪い、というだけではない。理解してもらえない悲しさが、絡み合っていた。

にんにくの香りが、ぷ〜んと漂っている。いつもなら「おいしそう」と感じるはずの匂い。むしろ、にんにくを愛してやまない私にとっては、幸せの香りのはずだった。

でも今は違う。食べるなんてとても無理で匂いをかぐことさえ耐えられない。

あんなに好きだったにんにくが、無理になるなんて! 自分でも信じられなかった。

初めての妊娠で味わった未知の体験「つわり」

2016年。初めて妊娠した私は、赤ちゃんがお腹の中で成長しているのに伴って、吐き気に襲われる「つわり」という未知の体験の中にいた。

こうして当時のことを思いながら綴っている今も、なぜか吐き気をかすかに感じるくらい。それくらい強烈な記憶なんですよね。

秋が深まり、乾いた風が吹いている土曜日。妊娠がわかってまだつわりの症状も出始めたときだった。当時、幼稚園教諭として働いていた私は、午前中の仕事を終えて自宅に帰った。ちょうど、お昼どき。

「お昼ごはん、どうしようか」

夫にそう聞かれても、もう思考が追いつかない。空腹で、気持ち悪くて、とにかく何でもいいから早く何かを口に入れたい。

「……いや、もうなんでもいい。」

それが精一杯だった。本当は、「そばがいい」とか「パスタはちょっときつい」とか、言えたらよかった。でもそのときの私は、つわりがどういうものなのかも、どう備えればいいのかも、まだわかっていなかった。空腹になると吐き気が強くなる。だから、すぐ口に入れられるものを用意しておくと楽になる。

そう、そんなこともまだ自分でもわかっていなかったんです。

「じゃあ、食べに行こうか」

そう言って車に乗ったものの、空腹+吐き気+車の揺れは、想像以上に過酷だった。

一軒目、待ち時間あり。

二軒目も、待ち。

「……もう無理かもしれない」

今思えば、コンビニでおにぎりでも買えばよかったのに。でもなぜか、その選択肢は頭に浮かばなかった。

三軒目。待ちはない。けれど、うなぎ屋さん。

「……うなぎは、無理」

「え、それ最初に言ってよ」

夫の言葉に、「ごめん」と思う余裕もない。嫌だとか、いいとか、もうわからなかった。

わかる、わかるよ。三軒も回っていたら、そう言いたくなるのもわかる。(この経験があって、今では家族で外食するとき娘たちに「何が食べたい?」ではなく、「何が嫌か教えて」と聞くようになった。笑)

そして、四軒目。

にんにくの香りがぷ〜んと漂う、イタリアンレストラン。二人とも大好きなお店だった。

「ここにしようか」

そう言って入った瞬間、私はもう限界だった。

「……無理。この匂い、ムリ……」

でも、もう他に行くところもない。そのまま待つことにした。座り込む私を前に、夫もどうしていいかわからない様子だった。そして私は、自分のしんどさが理解されていないような気がして、余計に苦しくなっていた。

もし天の声が聞こえるとしたら、

「もう少し、うまくやれたらいいのにね」

きっと、そう言われる気がする。でも、初めての妊娠で、初めてのつわりで、二人とも余裕がなかった。お手洗いの個室に入ると、にんにくの匂いが少し和らいだ気がした。

便座に腰掛けて、小さくつぶやく。

「ああ……気持ち悪い」

そして、心の奥からこぼれた言葉。

「もう……どうしてわかってくれないの……」

わかってほしかった。

「これはしんどいよね。じゃあこうしようか」とわかってほしかったんだと思う。でも、私自身さえも、何をどうしてほしいのかわかっていなかった。悲しさと悔しさと気持ち悪さが混ざって、涙が静かに頬を伝った。

順番が来て、私はにんにくの入っていない和風パスタを頼んだ。お腹が満たされると、不思議と少し楽になった。けれど夕方には、また吐き気がやってくる。

それを何度も繰り返すうちに、私たちは少しずつ傾向を掴んでいった。

空腹になる前に食べること。朝起きた瞬間がいちばんきついこと。そして、「察してほしい」ではなく、言葉を使って自分のニーズを相手に伝わるように伝えること。

あの日、わかり合えなかったのは、わからなかっただけ

あれから9年。この9年でさらに2回の妊娠・出産を経験した。伝えられなかった私も、わからなかった私たちも少しずつ成長した。

2回目の妊娠中、夫は、私が空腹で吐き気をもよおすとわかっているから、できるかぎり先に起きて朝食を作る。私が食べられるそうめんを用意し、大好きなスウィーティーを箱買いして、皮をむいて、ベッドまで運んできてくれる。

私は、「お腹空いちゃうと特につらいから、先に食べるね」「こういうところは助けてほしい」と、具体的に伝えられるようになった。

あの日、わかり合えなかったのは、わからなかっただけ。初めての変化に、二人とも戸惑っていただけだった。それでも、「どうしてわかってくれないの」と思いながら流したあの涙は、なぜだか今でも鮮明に覚えている。あのにんにくの匂いと吐き気と共に。

ーちなみに、これはつわり中限定のバグみたいなもの。今はにんにくが以前のように大好きです。

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HugKumで人気を博した連載「あきえの子育てROOM」を元に、大幅に加筆修正を加えた1冊。「泣き」「ぐずぐず」/「やってほしくないこと」/「ワガママ」「イヤイヤ」/「食」/「しつけ」「将来」/「パートナー」と大きく6つのパートにわけて、“イラッ”“モヤッ”を解決するためのメッセージを届けています。

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プロフィール

杉浦あきえ モンテッソーリ教師

国際モンテッソーリ教師(AMI)

幼稚園教諭、保育士、小学校教諭。二児の母。

 

幼い頃から夢見た保育職に期待が溢れる思いとは裏腹に、現実は「大人主導」の環境で、行事に追われる日々。そのような教育現場に「もっと一人ひとりを尊重し、『個』を大切にする教育が必要なのではないか」とショックと疑問を感じる。その後、自身の出産を機に「日本の教育は本当にこのままでよいのか」というさらなる強い疑問を感じ、退職してモンテッソーリ教育を学び、モンテッソーリ教師となる。「子育てのためにモンテッソーリ教育を学べるオンラインスクール Montessori Parents」創設、オンラインコミュニティ”Park”主宰。著書に『モンテッソーリ教育が教えてくれた「信じる」子育て』(すばる舎)、『モンテッソーリ流 声かけ変換ワークブック』(宝島社)、『子育ての「引き算」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『子育ての“イラッ”“モヤッ”を手放す本』(小学館)。

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イラスト/カラシソエル

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